寺子屋ーー
「はい、本日の授業はこれまで。予習復習を忘れずに、社会の宿題も忘れるんじゃないぞ?」
『は〜い!』
今日の寺子屋は訳あってお昼過ぎには終わりました。
その理由は、
「は〜、終わったけど、鮭味噌定食とか訳分かんな〜い」
「社会科見学だよ、チルノちゃん……」
社会科見学です。私、大妖精は隣でうなだれるチルノちゃんにそう教えるとチルノちゃんは「そうそれ♪」と言ってました。
慧音先生が教室を後にするとみんなは「どうしよ〜」と言った感じに悩んでました。
そして自然とルーミアちゃん、リグルちゃん、橙ちゃん、ミスティアちゃんが私とチルノちゃんの周りに集まって来ました。
「ミスチーはいいよね〜」
「え、どうして?」
「お店やってるから簡単でしょう?」
「え……でもお店以外のことを見てくるように言われたからそうでもないよ?」
チルノちゃんとリグルちゃんに対してミスティアちゃんは苦笑いで返しました。
「橙は藍しゃまと結界の見回りに行くから大丈夫だもんね♪」
「私は美鈴のお仕事を見学に行く〜♪」
一方の橙ちゃんとルーミアちゃんはもう既に決まっているみたい。
「あ、ミスチーはもこたんの所に行けば? 今日は炭を作る日でしょ?」
「あ、確かに……お願いしてみようかな」
「じゃあ私は幽香さんの所に行こうかな。お手伝いくらいなら出来るし……」
「あたいはどうしよ〜!」
みんな目処が立ってきたからチルノちゃんはとても焦ってました。
「そう言えば大ちゃんどうするの?」
そんな時に橙ちゃんが私に聞いてきました。
「橙は馬鹿だな〜。大ちゃんはもう決まってるよ♪」
「そうそう♪ お兄さんの所に決まってるよね♪」
「…………」
チルノちゃんとミスティアちゃんの言葉に、私は顔が熱くなりました。
「あ、そっか〜♪ お兄さんの所なら一緒に居られるし、お仕事風景も見れるもんね♪」
「恋人が職人さんで良かったね〜♪」
「でも大好きな人に夢中でお仕事なんて見てられないんじゃないかな〜?♪」
「わ、私、もう行くね!」
橙ちゃん、ルーミアちゃん、リグルちゃんもニヤニヤしながら言ってくるので、私は急いでその場から逃げるように立ち去りました。
寺子屋を出る際にみんなから『お幸せに〜♪』と声をかけられましたが、恥ずかしい過ぎて何も言えませんでした。
そして私はお兄さん……恋人の住むお店へ向かいました。
私の恋人のお兄さんは木組み職人さんで、人が住むお家や子ども達のおもちゃなど、色々作っています。
私やチルノちゃん達もお兄さんのお店に良くお邪魔してました。お金が無くても売り物のおもちゃで遊ばせてくれたり、おもちゃが動く仕組みとか、簡単なおもちゃの作り方とか色んな楽しいお話を聞かせてくれます。
そして気がついたら……お兄さんのことが大好きになってました。
お兄さんのお店ーー
お兄さんのお店の側までくると、お兄さんは店先で若い女性の方とお話をしていました。
なんだか親しそうでお互いに笑ってます……。
「むぅ……」
それを見ていたら、なんか胸がモヤモヤしてきました。風邪でも引いたのかな?
そしてお兄さんがその女性と別れると、お兄さんは私のことに気がついて、笑顔で手を振ってくれました。
私はそれがとても嬉しくて思わず走ってお兄さんの側まで行きました。
すると、
「あっ」
石に躓いて私は体勢を崩してしまいました。
転けると思って目を瞑ると、ふわっと温かい感触がしました。
「あはは、大ちゃんは相変わらずおっちょこちょいだな〜♪」
お兄さんが受け止めてくれたんです。
とても優しくて、とても温かくて、大好きな人の匂いがして、大好きな人のお顔がすごく近くて、その笑顔が嬉しくて……私の心臓がピョンピョン跳ねました。
「大丈夫? 足痛めたりしてない?」
「は、はい♡」
「ん、それは良かった。次からちゃんとゆっくり歩いてくるんだよ? 僕は逃げないから」
「はい〜♡」
お兄さんはそう言って私の頭を優しく何度も撫で撫でしてくれました。優しい声と優しく大きな安心するお兄さんの手で撫でられてた私は、嬉し過ぎてきっと変な顔をしてたと思います。
「今日は随分と早いね。それに他のみんなも居ないし……何かあったかい?」
「あ、いえ……何もありませんよ?」
「本当に? 大ちゃんは良く溜め込んじゃうからね。僕らは恋人同士なんだし、ちゃんと話してほしいな」
「だ、大丈夫でしゅ! 今日は宿題で鮭味噌定食が出されただけなんれしゅ!」
私の言葉にお兄さんは一瞬だけ頭にはてなマークを浮かべましたが、すぐにクスッと笑って「いらっしゃい」と言ってくれました。とても恥ずかしかったけど、とても安心しました。
お店の中に入ると、すぐにお兄さんが作ったおもちゃが陳列棚に飾られています。そしてお座敷があって、その奥に行くと作業場があって、二階にお兄さんが暮らしています。
お座敷に上がらせてもらうと、お兄さんは笑顔でお茶とお団子を持ってきてくれました。
「鮭味噌定食じゃないけど、どうぞ♪」
「あ、ありがとうございます」
「それで、鮭味噌定食って何かな?」
「うぅ〜」
お兄さんがニコニコしながら私にそう言ってきました。あのニコニコはお兄さんが楽しんでる時のニコニコなので、私は思わずお兄さんの二の腕をポカポカと軽く叩いて抗議しました。
「あはは、大ちゃんは可愛いな〜♪」
「〜〜!」
可愛いって言われるのは嬉しいけど、恥ずかしいのには変わりません。
それからもひとしきりからかうと、お兄さんはお茶をすすって私に訊いてきました。
「社会科見学ってのは分かったけど、僕のところでいいのかい? もっと他の職場とかの方が楽しいんじゃないかな?」
「例えば?」
「ん? 例えば……妖夢さんの所とか、優曇華さんとお薬売り歩くとか……それこそ慧音先生の仕事風景とか♪」
「私はお兄さんの所がいいんです……駄目ですか?」
「勿論、駄目じゃないよ。じゃあ今日は少しだけだけど、僕の奥さんとして働いてね」
「!!!?」
突然の言葉に私はボンッと顔を真っ赤にしちゃいました。だって奥さんってお嫁さんってことで、お嫁さんってことはお兄さんとけけけけ、結婚しているってことで……。
「嫌かな?」
「いいい嫌じゃないでしゅ!
私が思わず正座して頭を下げると、お兄さんは「はい」と優しくお返事をしてをくれました。えへへ。
それから私はお兄さんの仕事のお手伝いをすることになりました。
「大ちゃん、そこのヤスリを取ってくれない?」
「はい♪」
お兄さんの作業のお手伝いをしたり、
「お嬢ちゃん、この積み木はおいくらかな?」
「あ、はい……千五百円です!」
お兄さんのお店のお会計をしたり、
「なんだ大将、いつの間に嫁さんなんてもらったんだ?」
「結婚式には呼ばれてないわよ♪」
「あはは、その時はご招待しますよ」
「あぅあぅ」
お客さんにからかわれたり、
「お兄さん、お茶を淹れましたよ♡」
「ありがとう♪」
「〜♡」
お兄さんに撫で撫でしてもらったりと、沢山の経験をしました。
そして日が傾いてきた時のことです。
「今日はお疲れ様でした」
「えへへ、お兄さんもお疲れ様でした♡」
子ども達も帰り、静かになったお店のお座敷で、ご褒美にお兄さんに膝枕をしてもらいながら頭を撫で撫でしてもらいました。きゃ〜!
「私、お役に立てましたか?」
「うん、とても助かったよ。ありがとう♪」
「良かった……」
「早くこんな風に共に過ごす時が来てほしいって余計に考えてしまったよ」
「え……それって!」
「ふふ、大ちゃんが思ってる通りだよ」
プロポーズされちゃいましたぁぁぁぁ!
「わ、私も……早くお兄さんのお嫁さんになりたい……な?♡」
「待ってるよ、いつまでも」
「はい♡」
すると、
「ごめんくださ〜い」
来た時にお兄さんとお話してた女性が訪ねてきました。
「はい、いらっしゃいませ」
「あらあら、娘さんとの団欒のお邪魔だったかしら?」
「…………」
わざとらしく嫌味っぽく言ってくるので、私は少し嫌な気分になりたした。
しかし、お兄さんはすぐに首を横に振りました。
「いいえ、将来を約束した方です」
「え?」
「!?」
お兄さんの言葉に私も女性も固まりました。
「将来は僕の家内になります。以後お見知りおきを♪」
「……」
すると女性は歯を食いしばるようにお店から出て行ってしました。お兄さんが言うには最近妙に馴れ馴れしくて困っていたそうですーー
寺子屋ーー
「ーーそれから私はお兄さんと手を繋いでお家へ送ってもらいました。お家の側まで行くと、お兄さんから約束のちゅうもしてもらい、幸せな社会科見学になりました!♡」
昨日の私の社会科見学の発表が終わると、みんな『お〜!』『おめでとう!』『お幸せに!』と言って拍手をしてくれました。
慧音先生も顔を少し赤くしてましたが『良い発表だった』と褒めてくれました。
そして私はこのことを報告しに今日もお兄さん……未来の旦那さんへ会いに行きます♪
大妖精編終わりです!
無自覚に惚気る大ちゃんって感じにしました!
果たしてそこまで発表する必要はあるのか?と思われるでしょうけれど、どうかご了承を。
そして大ちゃんも妖精で長生きなのでセーフということで!