東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人は小町。


小町の恋華想

 

 地獄ーー

 

 地獄では今日も罪ある者の魂が判決待ちで門に並んでいる。

 そしてそんな多忙を極める中、映姫は迅速かつ的確に罪人達を裁いていく。

 

「無意味な殺生、多大なる盗み、己の欲のままの邪淫、他を巻き込む飲酒、度重なる妄語……よって、あなたは黒です! 火炎地獄の業火の中で悔い改めなさい!」

「い、いやだ! いやだぁぁぁぁっ!」

 

 判決を受けた罪人は暴れ、逃げようとするも、獄卒に取り押さえられ、引きずられるように大叫喚地獄の下に位置する火炎地獄へと連れられていく。

 

「嫌ならば、初めからあの様な所業を繰り返さなければ良いのです……」

 

 映姫はそうつぶやき、小さくため息を吐いた。

 何人もの罪人を見ている映姫だからこそ、どうして人は罪を重ねるのかと心底不思議に思う。

 

「四季様、ここいらで休憩にしましょう」

 

 すると一人の青年が映姫にそう声をかけた。

 この青年は映姫が束ねる多くの部下の内の一人で、彼も死神である。

 青年は映姫の雑務を一手に任せられている凄腕の事務係で、映姫の頼もしい部下の一人なのだ。

 

「……時間が惜しいのでは?」

「時間は確かに惜しいですが、昼食後はこれまで休みなく裁かれて居ました。今後の審議にもそろそろ支障が出るかもしれませぬ故、どうかお休みください」

 

 映姫の言葉に青年は恭しく頭を下げて返すと、映姫は「分かりました」と言って肩の力を抜いた。

 

「お疲れ様です。此度は何に致しましょう?」

「緑茶でお願いするわ」

「畏まりました」

 

 青年はまたも恭しく頭を下げて返し、手際良く茶の準備を始めた。

 

「小町がサボらずに仕事をこなすだけで、こうも数が増えると流石に堪えるわね……外の世界の比ではないけれど」

 

 映姫が愚痴をこぼすと青年は「左様ですね」と微笑んで返し、映姫の机に緑茶が入った湯呑を差し出した。

 普段は愚痴何ぞこぼさない映姫だが、長年自分に仕え、気心も知れている青年との会話では閻魔様でも例外である。

 

「ん……落ち着くわ……」

 

 緑茶を口に含み、表情をほころばせる映姫。

 そんな映姫に青年は「それは何よりでございます」と笑みを返した。

 すると映姫は湯呑を置いて口を開いた。

 

「小町とは上手くいってる?」

「はい、まだ慎みが欠けている部分はありますが、前のみたいに館内等で無闇やたらに私に擦り寄ることは無くなりました」

「……そう」

「その節は申し訳ありませんでした」

「いいわよ、ちゃんと改めて居るのなら」

 

 優しく微笑んだ映姫がそう言うと、青年は「ありがとうございます」と返した。

 

 どうして映姫が小町と青年のことを気に掛けているのかと言うと、二人は数ヶ月前から恋仲になっているからだ。

 映姫にとって二人は大切な部下であり、友人。そんな二人を映姫は常に色んな意味で気に掛けている。

 色んな意味と言うのは大きく分けて二つあり、先ず一つは友人として二人の恋路が上手くいっているのかと言うこと。

そしてもう一つは時と場所を弁えているかである。

 

 青年の方は真面目なので映姫はこれと言って不安は無いが、小町の方が映姫は不安なのだ。

 何故なら二人が付き合うことになったと自分に報告しにきた際、小町は人前だと言うのに青年の唇を奪って見せ、『あたいら付き合いま〜す♡』と小町節全開で報告したからだ。

更には館内で会えば人目をはばかることせず小町は青年に引っ付き、その都度彼の唇を奪い、船頭の仕事の合間でも彼の所に訪れて引っ付き、唇を奪うと言う行為を繰り返してきたのだ。それが例え上司である映姫の前であっても。

 一方、幸いなのは小町が仕事をサボることが無くなったことだが、映姫としては時と場所を弁えていないのも十分問題なのだ。

 

「私から注意するよりも貴方から言われた方が、今の小町には効果的……今後もよろしくお願いね。人前でなければ、私だって二人の恋路をとやかく言うつもりはないのだから」

「お心遣いありがとうございます」

 

 そんな会話をしていると、

 

「ちわ〜っす、四季様〜♪ 本日分の仕事終えたのでご報告に参りました〜♪」

 

 ドアを開けて入室した小町が元気良く声をかけた。

 

「あら、お疲れ様。小町」

「お疲れ様」

 

 二人に声をかけられた小町は二人にニコッと笑みを返すと、すぐに青年の方へ移動し、満面の笑みで彼の左隣に立った。

 

「(お疲れ、小町♪)」

「(えへへ、あんがと♡)」

 

 小声で些細な言葉を交わす二人を見た映姫は「ご馳走様」と言ってから小町の方を見た。

 

「報告ご苦労様。貴女の本日の仕事は終わりです。帰って休むなり、昼寝をするなりしていいわ」

「了解しました♪ お疲れ様で〜す♪」

「えぇ……では私達もそろそろ仕事を再開しましょう。次の罪人を呼んで」

「畏まりました」

 

 こうして映姫も小町に負けないよう仕事に戻るため、湯呑に入った緑茶を飲み干して、青年に指示を出した。

 青年も恭しく頭を下げて返し、湯呑を片付けつつ、次の罪人が待つ門へと向かった。

 

 ーー。

 

「…………小町」

「? なんだい、お前さん?♡」

「何故に付いて来る?」

 

 門へ繋がる廊下を歩く青年の横に、小町はピッタリと付いてきていた。

 

「何故ってぇ、お前さんから離れたくないからに決まってるじゃないの〜♡」

「気持ちは嬉しいが、私はまだ仕事中だ。構ってはやれん」

「あたいはこうして並んで歩いてるだけで幸せよ♡」

「…………そうか」

 

 青年は小町の言葉に思わず頬を赤く染め、それを悟られないよう少々ぶっきらぼうに返すが、対する小町は嬉しいそうにデレデレしながら「うん♡」と返すのだった。

 

「お前さん、今日のお仕事はどれくらいに終えるんだい?」

「そうだな……今日はこのあと大罪人の審議があるから、いつもより遅くなる」

「そっか〜……」

「だから素直に家へ戻って休むか、人里で気ままに甘いものでも食べてくるといい」

 

 青年がそう言って優しく微笑むと、小町は「それもいいんだけどねぇ〜」と頬を赤く染めて、照れ臭そうに自身の頬を人差し指でポリポリと掻いた。

 そんな小町に青年が小首を傾げていると、

 

「その前にお前さんからの甘い口づけがほしいな〜、なんて♡」

 

 と上目遣いをして甘えた声で小町は彼におねだりした。

 

「…………だ、ダメに決まってるだろっ!?」

 

 小町の誘惑に青年の理性は一瞬グラついたが、彼はなんとか保ち直して小町のおねだりを却下した。

 

「いいじゃないのさ〜♡ あたい、毎日このために頑張って仕事してるんだよ〜?♡」

「分かってる……でもダメだ」

「釣った魚にエサをちゃんとやらなきゃ、愛想尽かされちまうよ〜?♡」

「やらずともいつも勝手にエサを食いにくるじゃないか……」

「そう堅いこと言わずにさ〜♡ 固くするのは夜だけでいいから、ね?♡」

「小町……」

 

 小町の決して引かないおねだり攻撃に青年は頭を抱えた。

 

「ね?♡ ね?♡ 先っちょだけでいいからさぁ♡」

「どんなねだり文句なんだ、それは……」

「お前さ〜ん♡ お願〜い♡ お仕事を頑張ったあたいにご褒美をおくれよ〜♡」

「…………」

「お前さんの愛を注いでもらわないと干やがっちゃうよ〜♡」

「…………一度だけだぞ?」

 

 とうとう根負けした青年が頭を抱えてそう言うと、小町は「さっすがいい男だね〜♡」と言って、彼の手を取って誰も使っていない部屋へと彼を連れ込むのだった。

 

「……っ……こ、こまひ……んんっ」

「ちゅっ、んぁ……っ……んむぅ、ちゅ〜っ……んん〜……♡」

 

 部屋に入るなり、青年は小町に唇を奪われた。

 小町は青年の頭を両手で固定し、強引に彼の口の中へ自分の舌を入れ、上顎や下顎、歯茎など、念入りに愛撫していく。

 部屋の中には二人の唇からもれる吐息と唾液が合わさる音が響き、二人だけの甘い雰囲気に更なる甘さを加えていた。

 

「んはぁ……んふふ♡ お前さんとの口づけは本当癖になるねぇ♡」

「はぁはぁ……お、終わったなら手を離してくれ……」

「んもぉ、ムードってのがないねぇ♡」

「こっちだって我慢してるんだ……」

「何なら()()シてくかい?♡ ん?♡」

 

 小町はそう言って、たわわに実った乳房を両脇で締めてクイクイっと上げて見せた。

 

「仕事があるんだ……終わるまでいい子に待っててくれ」

「あたいの胸を大きくした張本人がよく言うねぇ〜♡」

「それは……」

「んふふ♡ 真っ赤になるお前さんも愛くるしいねぇ♡」

 

 そう言った小町はまた青年の唇をついばんだ。

 

「こ、こみゃひ……」

「あと一回♡ んっ♡ ちゅっ♡ ぁむ♡」

 

 その後も何度も青年の唇をお代わりした小町だった。

 

 勿論、仕事が遅れた青年は仕事後に映姫からお叱りを受け、そのお叱りには小町も揃って受けるのだったーー。




小野塚小町編終わりです!

サボリストのこまっちゃんも愛の前に真面目になる!
みたいな感じにしました♪

ではお粗末様でした〜☆

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