東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人はメディスン。


メディスンの恋華想

 

 永遠亭ーー

 

 今日も穏やかに時が流れる幻想郷。

 しかしそんな昼下がりを迎えた永遠亭では、全く穏やかではない話で騒然としていた。

 

「ねぇ、それは確かなの?」

「そうだよ、きっと何かの間違いだよ」

「違うもん! 私ちゃんとこの目で現場見たもん!」

 

 今日も永遠亭に様々な毒を卸しにきたメディスンは、縁側に並んで座る輝夜と鈴仙に鼻息荒く訴えていた。その隣でフワフワと浮かんでいるスーさんも両手をワタワタと動かし、必死に訴えている。

 

「(あの人が浮気とか……人はやはり心変わりする生き物なのね〜)」

「(姫様、まだ浮気だとは言えませんよ……きっと何かの間違いですって)」

「(それもそうよね〜……まぁ取り敢えずは、話だけでも聞きましょう)」

 

 小声でそう言う輝夜に鈴仙は小さく頷きを返した。

 

 二人やメディスンが先程から話題にしているのはメディスンの恋人である、無名の丘寄りの魔法の森に住み着いた魔法使いの青年のことだ。

 

 青年は数年前に魔法の森に住み着き、無名の丘で研究に必要な鈴蘭を採取していた。

 そんな時にメディスンと出会い、メディスンはその時はまだコミュニケーション能力が皆無で、挨拶代わりの弾幕ごっこを仕掛けたのだ。

 青年は戸惑いつつも応戦し、メディスンを退けた後、傷ついたメディスンを自分の家で介抱した。

 

 二人の出会いはとても壮絶なものだったが、メディスンは青年の優しさに触れ、彼を気に入り、暇な時はいつも彼の所に訪れていた。

 メディスンは青年と関わり、永遠亭の人々とも関わり、次第にコミュニケーションや人とのマナーが育まれていった。

 するとメディスンはコミュニケーション能力を身に着けると同時に、青年に対する恋心も自覚していった。

 

 それから長い恋煩いを経て、数週間前にようやっとメディスンは自分の気持ちを青年に告白。青年もメディスンの気持ちに応え、二人は晴れて恋仲となり、一緒に暮らすようになるほどまで進展した。

 しかしそんな幸せいっぱいなメディスンは青年の浮気現場を目撃してしまい、毒を卸しにきたと同時に家出してきたのだ。

 

「にぃにぃがあんなに浮気性だなんて思わなかった! 私って言う恋人が居るのに他の女を連れ込むなんて!」

 

 完全にプンスカプン状態のメディスン。

 

「こんなことになるなら、にぃにぃに依存性の高い毒を毎日飲ませて、私が居ないと生きていけない身体にすれば良かった……」

 

 ハイライトさんを出張させているメディスンは、不気味な含み笑いをして「そうだわ、そうすれば」とつぶやいていた。

 

「今からでも遅くないんじゃない?」

「姫様!?」

「でも今は顔も見たくないもん! だからまだいい!」

(まだって言っちゃったよ、この娘!?)

(これが巷で言うヤンデレかしら?)

 

 プイッとそっぽを向いたメディスンは鼻を鳴らしつつ、出された饅頭にかぶりついた。

 輝夜は先程ああ言ったものの、少なからず青年がそんなことをする性格ではないと分かっているので、鈴仙と共に取り敢えず詳しい話だけでも訊くことにした。

 

「他の女を連れ込んだって言ったわよね? 相手が誰か分かる?」

 

 輝夜の問いにメディスンはコクリと静かに頷いた。

 ただまだ口の中に饅頭が入っていたので、それを飲み込むまで待ってと二人に手をかざした。

 

「……ごくん。相手は私もよく知ってる娘だった」

「それは誰だったの?」

「それは……」

『それは……?』

「…………上海よ」

 

 メディスンが出した名前に輝夜と鈴仙は揃って間の抜けた表情をしてしまった。

 それもそのはず。何故なら上海はアリスの人形だからだ。

 

「にぃにぃったら、私が鈴蘭畑に行ってる間に上海を家に連れ込んでたのよ!? しかもご丁寧に上海にリボンまでプレゼントしちゃってさ!」

 

 輝夜や鈴仙からすればそれが浮気だとは思えない。

 しかし、メディスンは元々鈴蘭畑に捨てられた人形が妖怪化した付喪神なので、メディスンからすればこれは立派な浮気行為なのだ。

 

「(どうするんですか姫様?)」

「(どうするって言ってもね〜……時が過ぎるのを待つしかないじゃない!)」

 

 すると、

 

「こんにちは、貴女達は縁側で何をしているの?」

「こんにちは」

 

 アリスとメディスンの彼氏が現れた。

 

「こんにちは。何してたってお話してたのよ」

「お二人共、こんにちは。お二人は何か御用ですか?」

「私はこの前、永琳さんに頼まれた材料を届けにきたのよ」

「俺はメディスンの帰りが遅いから迎えにきた」

 

 鈴仙の質問に二人が答えると、その答えを聞いた輝夜は首を傾げた。

 

(彼とメディスンって喧嘩してるのよね?)

 

「メディスン、遅いから心配したんだぞ?」

「ごめんね、にぃにぃ♡」

「次からはもっと早く帰ってくるか、遅くなると言ってからにしてくれ」

「は〜い♡」

 

 家出しにきているはずのメディスンは青年の胸に飛び込んで顔をスリスリしている。どう見ても先程とは態度が違うのだ。

 それを見た鈴仙も輝夜と同じく首を傾げていた。

 

「二人して首を傾げてどうしたの?」

 

 そんな中、状況を把握していないアリスが二人に訊ねると、鈴仙がアリスに先ほどメディスンから聞いたことを説明した。

 するとアリスは手で口を押さえて笑い、両肩を小刻みに震わせた。

 そんなアリスの反応に輝夜達はまたも揃って首を傾げた。

 

「メディスン、ちょっとこっちにいらっしゃい」

「ん、な〜に〜?」

 

 笑い過ぎて流してしまった涙を拭きながらアリスがメディスンに手招きすると、メディスンは青年に向かい合った状態で抱っこされてアリス達の元へ運ばれてきた。

 

「メディスン、貴女は勘違いをしてるわ」

「勘違い?」

「彼が私の上海に浮気してると思ってるんでしょう?」

「あ!」

 

 アリスの言葉でやっと思い出したメディスンは青年からパッと離れ、アリス達の背中へ隠れてしまった。

 それを見た青年は露骨に悲痛な表情を浮かべた。

 そんな青年を見て、メディスンは思わずまた彼の元へ行こうとするも、浮気のことがあるのでグッと堪えた。

 

「彼はね、私が森に落としてしまった上海を見つけてくれたのよ」

 

 アリスはメディスンと同じ目線になるようにかがみ、メディスンにことの真相を伝えた。

 しかしメディスンはまだ納得出来ていないと言うような顔をし、

 

「リボンあげてた……」

 

 とアリスに訴えた。

 するとアリスは「それはね」と言って説明を始めた。

 

「見つけた時に上海のリボンが破れていたから、彼はわざわざ縫い直してくれたのよ」

 

 そう言ったアリスは「ほら」と上海を出して、上海のリボンを見せた。

 その上海のリボンには真新しい縫い跡があった。

 

「本当に本当に本当? にぃにぃは上海のことが私より好きになったとかじゃないの?」

「それはご本人に訊くといいわ」

 

 アリスはそう言うと青年に目配せした。

 その目配せに反応した青年はゆっくりとメディスンの元へ近付き、アリスと同じようにメディスンと同じ目線になるようその場に片膝を突いた。

 

「誤解させるような真似をしてすまなかった。でも俺はメディスン一筋だ。信じてほしい」

「にぃにぃ……」

「メディスンと出会って人形も大切にしようと思えた。だから傷ついた上海のリボンを修復しただけなんだ……信じてくれるか?」

 

 青年の言葉にメディスンは「うん……」と頷き、更に彼の首に手を回してギュッと抱きついた。

 そんなメディスンを青年もギュッと抱きしめた。

 

「メディスン……すまなかった……」

「ううん、私が勘違いしちゃったのが悪かったの……」

 

 メディスンはそう言いながら青年の頬に自分の頬を擦り付けた。

 

「一件落着ね」

「元凶は私なだけに、誤解が晴れて良かったわ」

「そもそもどうして森の中にお人形を落としてしまったんですか?」

「魔理沙が暇だからって弾幕ごっこ仕掛けてきたからよ……」

 

 うんざり顔で答えたアリスに鈴仙は苦笑いを浮かべ、輝夜は愉快そうに笑った。

 

「ねぇ、にぃにぃ」

「ん、どうした?」

「仲直りのちゅうしよ?」

「あぁいいとも」

 

 メディスン達の言葉に輝夜達は驚愕した。

 

「ごめんなさい、にぃにぃ……大好きだよ♡」

「俺こそごめんな。大好きだ、メディスン」

 

 そして二人は人目をはばかることなく、仲直りの口づけを交わした……何度も何度も。

 

「これ、傍から見たら犯罪現場よね?」

「付喪神と魔法使いだからセーフってことでいいんじゃないかしら?」

「は、はわわわわ」

 

 メディスン達のラブラブ具合を目の当たりにした輝夜達は、二人の邪魔をしないようにソッとその場から離れ、ジャリジャリする口の中を鎮めるのだったーー。




メディスン・メランコリー編終わりです!

メディスンは付喪神なので犯罪ではないと言うことでお願い致します!
今回は甘さ控え目ですがご了承を!

ではお粗末様でした♪

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