博麗神社ーー
清々しい朝を迎えた幻想郷。
しかしここ、博麗神社では朝から賑やかな声がこだましていた。
「ほらほら、イタズラした分キッチリ働きなさい」
霊夢はそう言いながら、お祓い棒を掌に軽くパシパシと叩いて見せ、ある者達に軽く圧力を掛けている。
それは神社裏の大木に住み着いている光の三妖精で、この三人は今日も朝っぱらから霊夢にイタズラを仕掛け、それがバレて今は霊夢から罰を受けているのである。
しかも罰は神社の掃除だけではなく、みんな霊夢と同じ巫女服(霊夢が子どもの頃に着ていた物)を着せられながらの奉仕作業だった。
「うへ〜……なんで私達が神社の掃除なんかしなきゃいけないのよ……」
サニーは箒で境内の掃き掃除をし、
「私はちゃんと反対したのよ? なのにサニーが……」
ルナは賽銭箱や廊下の拭き掃除をし、
「まぁ、バレちゃったものは仕方ないわね〜♪」
スターは境内の草むしりという名の砂遊びをしていた。
「アンタらも毎度毎度どうしてイタズラしたりする訳?」
サニー達を見て、霊夢は困ったような呆れたような、何とも言えない表情を浮かべている。
「そこに誰かが居れば!」
「イタズラするのが私達! 光の三妖精!」
「……その、成功すると楽しいから」
ノリノリで答えるサニーとスターだが、ルナはイマイチノリきれずモジモジしながら答えた。
そんな三人を見て、霊夢は盛大なため息を吐くのだった。
「まぁ人里で悪さをしないならそれでいいわ。出来れば私にもイタズラしないでほしいけど……」
「だって霊夢さんにはいつもバレちゃうんだもん! 悔しいんだもん!」
サニーが霊夢にそう言うと、霊夢はやれやれと両手を軽くあげるのだった。
「おやおや、今日は可愛らしい巫女さんも居るのですね〜♪」
すると若い青年が境内にやってきて霊夢達に声をかけた。
青年の姿を見るなり、スターはパァッと表情を明るくさせ、彼の胸に飛び込んだ。
「お兄ちゃ〜ん♡ 会いたかった〜♡」
「おはよう、スターちゃん♪」
自分の胸に顔をグリグリと擦りつけてくるスターを、青年は快く受け入れてスターの頭を優しく撫でた。
「あ、お兄さんだ♪ おはよ〜♪」
「おはようございます」
サニーとルナも青年に挨拶すると、青年は笑顔で「二人もおはよう」と返した。
「あら、誰かと思えば□リコンじゃない。おはよ」
一方の霊夢は青年に軽口を叩いて挨拶した。
「おはようございます、酷い言い様ですね〜。たまたま好きになった方が小さかっただけですよ」
「んなの知ってるわよ。寧ろその守備範囲の広さに私は感服するわ」
「スターちゃん、可愛いじゃないですか。こんなに愛らしい娘を好きにならない方がおかしいです」
「や〜ん♡ お兄ちゃんったら〜♡」
青年とスターの仲を見て、霊夢は「はいはい」と呆れたように返した。
この青年は数年前に魔法の森に住み着いた魔法使いで、スターの恋人でもあるのだ。
二人の出会いは数ヶ月前のことで、この日にも光の三妖精は誰かにイタズラをしようと魔法の森を彷徨いていた。
そこで青年にイタズラを仕掛けたのだが、いつもの如く失敗に終わり、罰として三妖精は青年が趣味としている盆栽の手入れを手伝うハメになった。
中でもスターは自分も茸の盆栽を育てていることから、その後も青年の元を度々訪れるようになった。
共通の趣味を持ち、盆栽に必要な物を一緒に買いに行ったり、時には互いの盆栽を見せ合うなどなど、二人の心の距離は段々と近付いていった。
そして数週間程前、スターからの告白で二人は恋仲となり、今では二人の仲を知る者達が呆れる程のバカップルとなっている。
「んで、うちに何の用よ?」
戯れ合う二人に霊夢は冷めた視線を浴びせながら青年に訊いた。
すると青年は「あ、すみません」と言って、スターを抱えたまま霊夢の元へ来た。
「普通の材料で新しい魔法薬を生成しようとしたら、ただの煮物になってしまいまして……そのお裾分けに」
青年がそう言ってどこに入れていたのか分からない鍋を何処からか取り出して霊夢に渡すと、霊夢は目を輝かせた。
「匂いは美味しそうだけど、食べたら何かあるとか無いわよね?」
「無いですよ。僕はいつでも自分で試してから人に勧めるんですから」
「まあ、これまでアンタから貰った物で変なことは起きてないから、信用は出来るけど……」
「信用されて嬉しいです」
そんな話をしているとサニーとルナも霊夢の元へやってきた。
「霊夢さんお掃除終わったよ〜」
「後はスターが草むしりを終わらせるだけよ〜」
「あら、お疲れ様。スターが終わるまでもう少し待ってなさい」
霊夢の言葉にサニーとルナは『えぇ〜……』と明らかに落胆の色を見せた。
「スターちゃん、イタズラの罰をちゃんとしてないのかい?」
「…………」
青年に訊かれたスターだったが、スターはバツが悪そうに彼から目を逸らした。
すると青年は「ふぅ」と小さく息を吐き、抱えていたスターを下ろすと、スターと同じ目線になるように膝を突いた。
「いいかい、スターちゃん?」
「…………」
「イタズラをするなとは言わない。でも罰はちゃんと受け入れなきゃダメじゃないか。僕が好きなスターちゃんはちゃんと反省の出来るいい娘のはずだよ?」
「…………ごめんなさい」
「ん、なら僕も手伝うからしっかり草むしりをしよう♪」
青年がそう提案すると、スターは「ううん」と首を横に振った。
「これは私の罰だから私が一人でやらなきゃいけないの」
「スターちゃん……」
「でも一人は寂しいから、お兄ちゃんに側にいてほしいな?♡」
上目遣いでお願いしたスター。そのスターのお願いに対し、青年は「あぁ、勿論」と笑顔で頷くと、またスターをヒョイっと抱え上げた。
「じゃあスターちゃんがサボらないように、しっかりと監視しなきゃね♪」
「うん、私から目を離さないで♡」
二人は互いにそう言葉を交わして互いの頬を擦り合わせた。
そんな二人を見て霊夢は一層呆れた顔をし、サニーは目を輝かせ、ルナは赤面するのだった。
「まぁいいわ。じゃあスターのことは頼んだわね。サニー、ルナ。アンタ達は箒とか片して私の所に来なさい」
霊夢の言葉にサニーとルナは『は〜い』と返事をして、箒や雑巾を片した後で霊夢の元へと向かった。
「じゃあ私も草むしりやっちゃお〜♪」
「頑張ってね、スターちゃん」
「うん♡」
それからスターは青年に見守られながら、黙々と草むしりに励むのだった。合間合間で彼と見つめ合いながらだったが、ちゃんと草むしりはしているので霊夢も特にこれと言って注意はしなかった。
スターと青年が草むしりをする一方、霊夢はサニー達と朝餉の準備をしていた。
「ほんっとにアイツらは一緒に居るとトリモチでくっついたかのように居るわよね〜」
「恋すると人はそうなるものってパチュリーさんから借りた本に書いてあったわ」
「あの二人はラブラブだもんね〜♪」
「ラブラブでも何でもいいけど、せめて人前では慎んでほしいものね」
棘のある言い方をする霊夢にサニー達が小首を傾げていると、霊夢は「栗みたいな口してないで、あれを見なさいあれを」と言って顎をクイックイッとやった。
サニーとルナは霊夢が顎で示した方を見ると、スターと青年が互いの頬にキスをし合っていた。
「お〜! ちゅっちゅしてる〜!」
「あ、またした……」
「草を一つむしる度にああやってるのよね〜。罰の意味を分かってるのかしら」
「スターはご褒美があると頑張るんだよ♪」
「現金と言うかしたたかというか……」
「あわわ、また……」
ーー。
「お兄ちゃん♡ 好き〜♡ ちゅっ♡」
「僕もスターちゃんが好きだよ♪」
「また取ったら、今度はお兄ちゃんがちゅってしてね♡」
「あぁ、勿論♪ 終わらせたらちゃんとしたキスもご褒美にしてあげるからね♪」
「わ〜い♡ 私頑張る〜♡」
こうして互いにちゅっちゅしながら草むしりを終え、霊夢の用意した朝餉をみんなで食べた。
しかしスターと青年は恥じらうこともせず、互いに仲良く食べさせ合っていたため、霊夢達は朝餉が甘く感じるのだったーー。
スターサファイア編終わりです!
スターも妖精なのでセーフということでお願い致します!
今回は甘さ控え目だったかもしれませんがご了承を。
それではお粗末様でした!
次は花映塚に入ります!