魔法の森ーー
本日もまったりと時が過ぎる幻想郷。
博麗神社の裏にまで広がる魔法の森、その神社裏の森の中で一際大きな木に暮らす光の三妖精は、家の外に出て日向ぼっこをしていた。
「んぁ〜……今日は暇だね〜」
「たまにはこんな日もいいじゃない♪」
枝に足でぶら下がって不満をもらすサニーに、スターはにこやかに返した。
「ルナはいいよね〜。お昼から
「っ!? で、でででデートじゃにゃいし! ただ、あいつの買い物に付き合わされるだけだしししし!」
「ルナったら嘘ばっかり〜♪ 昨晩は本を読むのも止めて、デートに備えて早くに寝ちゃったじゃない♪」
「ち、遅刻するのが嫌だっただけよ!」
「お昼からなのに遅刻する訳ないじゃん。それに遅刻くらいで怒らないでしょ、あのお兄ちゃん」
「にぃちゃのことお兄ちゃんって言うな!」
サニーの言葉に耳まで真っ赤にしてムキになったルナは言葉を発してから我に返り、口を両手で押さえた。
「へぇ〜……ほほぅ〜……ルナはお兄ちゃんのこと『にぃちゃ』って呼んでるんだ〜♪」
「それに他の子にお兄ちゃん呼びされるのはイヤなんだ〜♪」
「〜〜〜!」
サニーとスターがニヤニヤと笑いながらルナへ詰め寄ると、ルナは栗みたいな口をギュッと閉じ、ワナワナと肩を震わせた。
「あれれ〜? 急に黙っちゃってどうしたの〜?」
「コーヒーの飲み過ぎで
サニーとスターはそれからも「ねぇねぇねぇねぇ♪」「ルナチャ〜?♪」とルナの周りを飛びながらからかった。
サニー達が先程から話題に出している"お兄ちゃん"とは、最近ルナに出来た恋人のことである。
ルナの恋人は人里で嗜好品店を営む人間の青年で、ルナはそこでコーヒーを買うお得意様だ。
二人の出会い、それは数ヶ月前、サニー達と一緒に青年の店へコーヒーを盗みに行ったのが、二人の出会いだった。
青年の勘が鋭いということもあり、犯行は容易く見つかった。サニー達は怒られると思って急いで逃げたが、ルナはそこで盛大に転け、一人取り残されてしまった。
青年がルナに近付くとルナはもうダメだとギュッと目を閉じた。
しかし青年は怒るどころかルナを優しく起き上がらせ、擦りむいた膝を治療した挙句、盗もうとしたコーヒーを紙袋に包んでルナへ渡した。
青年の行動にルナが困惑していると、彼はルナの頭をポンポンと優しく叩き、笑顔でこう言ったのだ。
『お前達は妖精だろう? 物を盗むのは感心出来ないが、妖精なら仕方ない。それにお前達に罰を与えるのは閻魔様の役目だ。今回はこれをあげるから、もう盗もうとしちゃダメだぞ?』
ルナはこの時は何も言わず紙袋をぶん取るようにしてその場を去ったが、それ以来、盗みをすることはなくなった。
そしてルナの頭から青年のあの笑顔が離れることはなく、ルナは度々彼の店に忍び込み、その内に堂々と来るようになり、そして恋心を自覚したルナはつい先日、思い切って彼に告白したのだ。
ルナの告白に彼は「こんなに可愛らしい娘に告白されて断るのは男の恥だ」と言って、ルナと正式に付き合うこととなった。
「んが〜! 私、もう行くから! デートじゃなくて買い物に!」
サニーとスターにからかわれ続けたルナは、顔だけでなく耳まで真っ赤にさせて逃げるようにその場を後にした。
ルナの叫びにサニーとスターはお星様を目や頭の上に浮かび上がらせ、ルナに二人揃って『い、いってらっしゃ〜い』と声をかけるのだった。
人里ーー
お昼前を迎えた人里では多くの人間、妖怪達が行き交い、活気に溢れていた。
ルナはそんな人里の中にある、青年が営む嗜好品店の前に着くと、髪を整え、服の埃を払った。
それから青年の店の中に入ると、お目当ての彼が今訪れている女性客と話をしていた。
青年は話の途中だったがルナの姿を確認すると、「お〜、来たのか!」とルナに声をかけた。
「あらあら、可愛らしいお客さんだこと♪」
女性客がそう言うとルナは「どうも」と照れつつも頭を下げた。
しかし、
「あはは、この娘はお客じゃないですよ。俺の大切な人でしてね♪」
青年は鼻高く笑いながら女性客にルナを紹介したのだ。
ルナはまさか青年がそんなに堂々と自分との関係をおおっぴらに言うとは思わず、突然のことで顔を真っ赤にして栗みたいな口をパクパクさせた。
「あらまあ♪ 流石は幻想郷ね〜、妖精と人間でもこうした関係になれるだなんて♪」
「ですよね〜♪ まさか自分が妖精とお付き合いするとは思いませんでしたよ♪」
青年の言葉にルナは変な引っ掛かりを感じ、ムッとしたが、
「こんなにも可愛らしい娘と付き合えるなんて、幸せ者ですわ、俺は♪」
と更に鼻高く笑い飛ばすのだった。
女性客はそんな青年の話を聞いて「ご馳走様♪」と言って、口を押さえて笑うのだった。
「……ふぅ、じゃあ、あたしはそろそろお暇しようかね。お熱い二人に水を差すのも悪いし♪」
「いやっははは、気を遣って頂いちゃってすいませんね♪」
「ぁぅぁぅぁぅ……」
それから女性客はルナ達に「お幸せに♪」と声をかけて店から去っていった。青年は「またのお越しを〜!」と言って見送ると、ずっと赤面したまま口をパクパクさせているルナをお姫様抱っこした。
「ちょ、ななな、何!?」
「何ってお姫様抱っこだが?」
「そ、そうじゃなくて!」
「お姫様扱いされるのは嫌か?」
「〜〜……にぃちゃにされるのは好き、よ?♡」
ルナはボソボソっと掠れた声で言うと、青年の首に手を回してギューッと抱きついた。
「まだ約束の時間には早いのに来てくれて嬉しいよ、ルナ♪」
「ん、もっと感謝しなさい……♡」
すると青年は「おう♪」と返事をしてルナをお姫様抱っこしたまま、その場でくるくると回った。
ルナは「きゃ〜っ♡♪」と声をあげたが、それは喜んでいるのだと誰もが分かる嬉しい悲鳴だった。
ーー。
「(うわぁ……ルナってあんな風になるんだね)」
「(ルナ可愛い♪)」
後からルナをつけてきたサニーとスターは、ルナと青年の睦み合う姿に二者二様の反応を見せていた。
サニーの能力で姿を消し、ルナが恋人とどういう風に過ごすのか見に来たのである。音を消すルナが居ないため、一応サニー達は店の外から二人を眺めている。
「(これからデートなのに、あんなにラブラブしてて疲れないのかな?)」
「(疲れないわよ〜♪ だってあんなにニコニコしてるもの♪)」
「(私も恋人が出来たらルナみたいになるのかな〜?)」
「(どうかしらね〜♪)」
ーー。
「そういやルナ、ビターチョコを入荷したが食べるか?」
「え、いいの!?」
青年の言葉にルナは目をシイタケにした。
「ルナのために仕入れたようなもんだしな。ウチじゃわざわざチョコなんて買う客はそう居ねぇからよ」
「そんなことしなくていいのに……」
「バ〜カ、彼女特権ってヤツだよ、言わせんな」
「あぅ……ごめん♡」
青年はそれからお姫様抱っこしていたルナを椅子の上に下ろすと、店の棚からビターチョコレートを一枚取ってルナに「ほら」と言って手渡した。
「あ、ありあり、ありがと……♡」
「食べさせてやろうか?」
「ひ、一人で食べれるもん♡」
「ルナにあ〜んってしたかったな〜」
「な、なら最初から言いなさいよ!♡」
「だから訊いたじゃん。食べさせてやろうかって」
「〜〜……今日のにぃちゃ、イジワルだよ?♡」
ルナはそう言うと恥ずかしそうにプイッとそっぽを向いてしまった。
「
「可愛いって……♡」
「どんなルナも好きだからな、俺は♪」
「わ、私だってどんなにぃちゃも好きだもん♡」
「ありがとよ♪ んじゃ、ルナにチョコ食わせたいからこっちに座れ♪」
そう言った青年が自分の膝をポンポンと叩くと、ルナは「今行く♡」と嬉しそうに頷いて彼の膝上に座り、彼の手からビターチョコレートを食べさせてもらうのだった。
ーー。
「(もう見てらんない……スター、もう帰ろ)」
「(えぇ〜、サニーが見たいって言い出したのに?)」
「(もうこんな甘いの耐えられないの! 帰って苦いのか辛いの食べたい!)」
サニーの言葉にスターは「仕方ないな〜」と言って、サニーとその場を去った。
そしてそれからすぐに青年とルナがビターチョコレートの口移しをしたことは、二人だけの秘密である。
その後、ルナは青年とのデートを終えて家に帰ってくると、その顔は締りなく蕩けていたそうなーー。
ルナチャイルド編終わりです!
ルナチャも妖精なのでセーフと言うことでお願いします!
それではお粗末様でした☆