東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人はサニー。


三月精
サニーの恋華想


 

 魔法の森ーー

 

 穏やかに晴れた昼下がり。

 魔法の森にひっそりと佇むアリス邸には可愛らしい客が訪れていた。

 

「次はそう……そうよ、上手上手♪」

「本当ですか!?」

「良かったわね、サニー」

「良かったね〜♪」

 

 アリスの言葉に目を輝かせたサニーに、ルナとスターは笑顔を浮かべた。

 どうしてアリスの家にこの光の三妖精が訪れているのかというと、

 

「うん、ちょっと歪だけどマフラーだから巻いちゃえば気にならないわね。上手く出来たわ、おめでとうサニー♪」

「ありがとうございます♪」

 

 マフラーの編み方を習いに来ていたのだ。

 サニーはある人にマフラーをプレゼントしたくて、アリスに頼み込み、ここ一週間はずっとアリスの家に通いつめた。

 

「赤と白で縁起いいわね♪」

「霊夢さんカラーだけど、端っこに刺繍した太陽さんがサニーっぽいね♪」

 

 サニーの応援に来ているルナとスターもサニーが一生懸命編んだマフラーを絶賛した。

 

「えへへ……喜んでくれるかな〜?♪」

「きっと喜んでくれるわ。もし喜ばないなら私が上海や蓬莱ととっちめてあげる」

「そうそう、それにお兄さんは優しい人だから、きっと喜んでくれるわよ♪」

「うんうん♪ サニーからのプレゼントなら尚更よ♪」

 

 みんながそう言うと、サニーは「うん♪」と笑顔で頷いた。

 サニーが手編みのマフラーをプレゼントしたいのは、人里で焼き菓子屋を営む青年で、サニーの大好きな人なのだ。

 

 数ヶ月程前にサニーと青年は博麗神社で出会い、悪戯をしても笑って許し、美味しいお菓子をくれたことから、サニーは彼のことを凄く気に入った。

 最初はルナやスターを誘って青年の店へ行っていたが、その内にサニーは一人でも店に行くようになり、青年への想いはいつしか恋心へと変わった。

 そして一月程前にサニーは思い切って告白。青年も笑顔でサニーを受け入れ、二人は晴れて恋仲になった。

 

 それからサニーは普段から自分に美味しいお菓子だけでなく、笑顔や幸せをくれる青年にお返しをしようと考えた。そこで霊夢に相談をしに行ったところ、そこにアリスが居合わせていて、霊夢は「アリスが居るんだし手編みのマフラーでも習ったら?」と提案したのだ。

 アリスは最初こそは嫌がったが、真剣に頭を下げてお願いするサニーの熱意に負けてマフラーの編み方を教えることにしたのだ。

 そして今日、サニーはやっとの思いで赤と白のメリヤス編みの大柄なストライプのマフラーを完成させた。

 

「後はどう渡すかね〜」

「え? 普通に渡すだけじゃダメなの?」

「ダメよ〜。せっかくのプレゼントなんだからロマンチックに渡さなきゃ♪」

「そうそう。何事もインパクトが大切よ」

「でも私、そんなの分からないよ〜……」

 

 ルナとスターの言葉にサニーは困ってしまう。

 するとルナとスターは含み笑いをした。

 

「大丈夫よ。ね、スター?」

「うん♪ だってここには出来る女が居るんだもの♪」

 

 そう言うと二人はアリスをチラッと見た。

 

(え? 私に丸投げする気なの、この娘達は!?)

 

「都会派のアリスさんならロマンチックな渡し方くらい知ってますよね〜?」

「伊達に都会派を名乗ってる訳じゃないですよね〜?」

 

 ルナとスターがアリスにニヤニヤした笑顔をしながら言うと、アリスは「こいつら……」と握り拳を作ったが、

 

「アリスさん……」

「うぐ……」

 

 妙に潤んだ瞳で助けを求めるサニーの前に、アリスは握り拳を解くほかなかった。

 

「はぁ……分かったわ。参考になるかは分からないけど、パチュリーの所で読んだ本の中で幾つか候補をあげるわ」

 

 するとサニーは「ありがとう、アリスさん♪」とアリスに抱きついた。そんなサニーに驚きながらもアリスは優しく微笑み「お礼は成功してからね♪」と言ってサニーの頭を優しく撫でた。

 

 それからアリスは幾つかロマンチックな渡し方のシチュエーションを聞かせ、サニーはその中から一つのシチュエーションを選んだ。

 するとルナとスターは早速協力してくれそうな者達に話をしに行き、サニーはアリスからどんな風に振る舞えばいいのかを遅くまで伝授してもらうのだった。

 

 

 それから数日後ーー

 

 人里ーー

 

 よく晴れた正午、サニーは店が休みである青年をデートに誘った。

 サニーは約束の時間より三時間も前から約束の広場にスタンバイし、頭の中で何度も何度もシュミレーションをしていた。

 

「あれ? サニーちゃん?」

 

 すると約束の時間よりも一時間早く青年が現れた。

 

「あれ、もしかして俺、時間間違えてた?」

 

 先に居たサニーを見て青年がサニーにそう訊ねると、サニーはブンブンと首を横に振った。

 

「ち、違うよ! お兄ちゃんは間違えてないよ!」

「え、でも……」

「わ、私もたまたま早く着いちゃったの!」

「そっか……」

 

 すると青年はサニーの冷たくなった両手をギュッと優しく包み込んだ。

 

「こんなに手を冷たくさせて……そんなに待っててくれたんだな。ありがとう、サニー」

「はぅっ!?♡」

 

 青年の優しい言葉と笑顔にサニーは赤面し、残機を早速一つ失った。

 

「お、お兄ちゃんだって……いつもこんなに早く来てるなんて知らなかったよぅ♡」

「早く行けば早くサニーに会えるだろ?」

「うぐっ!!?♡」

「今日はサニーも早くから来てくれてたから、余計早く会えて嬉しいよ、俺」

「ぴぃ!!!?♡」

 

 青年の言葉一つ一つに確実に残機を持ってかれるサニー。サニーの残機はもうゼロに近かった。

 

 ーー。

 

「ねぇ、あれで最後まで保つの?」

「大丈夫じゃない〜?♪ だってすっごく嬉しそうだもん♪」

「私は心配だわ……」

 

 そんなサニー達を隠れて見守るルナとスター。

 

「あ、動くわ」

「プレゼント作戦開始〜♪」

 

 こうして二人もサニー達の後をこっそり尾行するのだった……と言ってもサニーは青年に夢中なので、ルナが足音を消すだけで尾行は凄く容易かった。

 

 ーー。

 

「先に何処かでお茶するか? 寒いし温かい物を飲んで落ち着こう」

「う、うん……♡」

 

 手を恋人繋ぎで繋ぎつつ、二人はまずは適当な茶屋に腰掛け、団子とお茶を楽しんだ。ただ歩いているだが、サニーはずっと嬉しそうに頬を染めて青年の横顔を見上げている。

 

「はい、サニー。あ〜ん」

「あ〜……あむ♡」

「美味しい?」

「うん……おいひぃ♡」

「はは、サニーのその可愛らしい笑顔が出るなら本当なんだろうな♪ 当たりを引いたな♪」

「っ!!!!?♡」

 

 サニーはまたも被弾するが、青年の笑顔や優しい声を聞くだけでエクステンドもグングン上がっているので何とか一回休みにならずに済んだ。

 それからもサニーは被弾とエクステンド、グレイズを繰り返し、やっと本番である霧の湖まで青年と向かうのだった。

 

 

 霧の湖ーー

 

 霧の湖でも霧が薄くお散歩コースには持ってこいの場所。それでいて湖をバックにとても雰囲気がある場所。

 サニーはここでマフラーを渡そうと決めていた。

 

「湖の側だと流石に寒いな……サニーは寒くない?」

「う、うん……平気♡」

 

 サニーはそう返すが、実際は極度の緊張で寒さなんて感じる余裕はなかった。

 

 ーー。

 

「今よ、チルノ、レティさん。よろしく〜♪」

「音は私が消すからサニー達が凍りつかない程度にお願い」

 

 茂みに隠れ、ルナとスターがレティとチルノに頼むと、二人はニッコリと頷いた。

 レティは微かに雪をサニー達の上に舞い散らせ、チルノは微かに冷気の風をサニー達に送った。

 

 ーー。

 

「うおっ!? 雪に風って……サニー、他の場所へーー」

 

 青年が「他の場所へ行こう」そう言おうとすると、サニーは「お兄ちゃん!」と遮った。

 

「どうした?」

「あの……あのぉ……♡」

「モジモジしてどうした?」

「さ、寒いなら、これ……あげる♡」

 

 サニーはそう言って青年にピンクのリボンでラッピングした紙袋を渡した。

 

「え?」

「あ、あのね……いつも優しくしてくれるお兄ちゃんに、感謝の気持ちと……これからも大好きでいてって気持ちを込めて作ったの♡」

 

 青年がラッピングを解くとサニーが編んだあのマフラーが入っていた。

 

「ありがとう、サニー。すっごく嬉しいよ♪」

「は、はぅ……い、今巻いてあげるから、しゃがんで♡」

 

 サニーの言葉に青年は「おう♪」と言ってしゃがんだ。

 そしてサニーは青年の首にマフラーを巻いたのだが、

 

「…………短い」

 

 巻けることには巻けたのだが一周巻きでもギリギリの長さだったのだ。

 サニーは「ごめんなさい」と涙ぐんでしまうと、青年はサニーの顎をクイッと上げ、そのままサニーの唇を奪った。

 

「ん……んぅ……っはぁ……お、お兄、ちゃん?♡」

 

 唇を離したサニーが青年に訊ねると、青年は微かに頬を赤く染めて、優しく微笑んでいた。

 

「心までこんなに温かくなるマフラーは初めてだよ。ありがとう、サニー……大好きだよ」

「にゃうっ!!!!!?♡」

 

 愛の言葉と爽やか笑顔がサニーの胸に直撃した。

 

「これからもずっとサニーと一緒だからな♪」

「は、はひ♡」

 

 こうしてサニーはアリスから教わったシチュエーションとは多少違えど、プレゼント作戦は大成功に終わった。

 しかし次の日からサニーは暫く顔が緩みっぱなしで、これにはルナとスターも呆れたそうなーー。




サニーミルク編終わりです♪

花映塚より書籍の三月精の方が先に登場したのでこちらを先に書きました。ご了承お願い致します。
そしてサニーは妖精なのでセーフと言うことでお願い致します!

それではお粗末様でした☆

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