萃香の恋華想
博麗神社ーー
清々しく晴れた幻想郷。
博麗神社に住む霊夢は境内の掃除を終え、自身が寝泊まりしている住宅の縁側で茶をすすっていた。
すると博麗神社へ一人の青年が訪れた。
青年は手水舎で手水を取り、心身を清めてから神前へ進み、軽く会釈をしてから賽銭箱に賽銭(お札)を入れ、鈴を鳴らして「二拝二拍手一拝」の作法で拝礼し、最後にまた軽く会釈をしてから退くと、今度は霊夢の所へまっすぐと向かっていった。
「お久しゅうございます、霊夢殿」
「一週間振りなんだから久し振りって程でもないでしょ。仕事の方は終わったの?」
「はい。紅魔館の改築作業は昨日終わりまして、今日は朝から紅魔館の方々にそれぞれ新たに改築した点の説明をして、それが終わったのでこちらへ顔を出させて頂きました」
「そ、まぁお疲れ様。萃香ならまだ寝てるから、起きてくるまでもう少し待ってなさい。今お茶淹れるわ」
霊夢がそう言うと、青年は「ありがとうございます」と返し、縁側に腰を下ろした。
この青年は見た目こそは若いなりをしているが、これでも数千年以上生きている聖獣・獅子であり、獅子が人の姿に化けているのだ。普段は妖怪の山にある小さな小屋に住み、人里や妖怪達の住まいを建築、増築、改築したりして日々を過ごしている。獅子である彼には招福駆邪(福を招き、邪気を追い払う)という力があるため、人間達だけでなく妖怪達にも多く慕われている。
そしてこの獅子の青年は萃香の恋人でもある。
青年と萃香の出会いは萃香自身が起こした萃夢想の異変以後、萃香が神社に度々訪れるようになってから神社を訪れた彼と知り合ったことからだった。
そして萃香は獅子の心意気や人間に対する優しい心、そして萃香や他の鬼、妖怪に対しても嘘偽りのなく接する心に段々と惹かれていった。
それでつい一週間前に神社で行われた宴会で、萃香は大衆の前で青年に告白。そんな萃香に青年は「未熟者ですが、よろしくお願いします」と返し、みんなの前で大物カップルが誕生したのだ。
このことはすぐ様、文の新聞やはたての新聞で幻想郷中に知れ渡り、多くの者達から祝福された。
「アンタも大変だったわね。紅魔館の改築工事なんて頼まれて」
緑茶が入った湯呑を持って霊夢が戻ってくると、青年にそんなことを言いながら湯呑を渡した。
「ありがとうございます……いやいや、にとり殿や他の河童の方々と一緒だったのでそんなに大変ではありませんでしたよ」
「でもレミリアって注文細かそうじゃない。無駄に理想高いから」
「あはは……そこはまあ、否定出来ませんが、お金を払う側なのですから出来るだけ良い改築をしてほしいと願うのは当然でしょう」
「まぁ分からなくもないけどね〜」
そう言って霊夢が茶をすすると、青年は「あ」と何か思い出したような顔をし、持っていた手提げをガサゴソと漁った。
「これ、紅魔館の改築工事のお礼に頂いた西洋のお菓子だそうです。沢山貰ったので霊夢殿にもお裾分けです」
「あら、ありがと♪ 最近お菓子なんて食べてないから嬉しいわ♪」
「…………何なら全部差しあげますよ?」
青年がそう言って霊夢に箱を丸々渡すと、霊夢は「やった〜♪」と大喜びでその箱を抱きしめた。そんな霊夢を見て、青年は「今度山の幸をお持ちしよう」と密かに思うのだった。
すると、
「霊夢〜……薬湯作って〜……」
奥の襖から萃香が頭を押さえてのそのそとやってきた。
「あら、起きたのね萃香」
「おはようございます、萃香」
霊夢はお菓子を貰って上機嫌なのでニコニコしながら挨拶し、青年はにこやかに萃香へ挨拶した。
「お? おぉ〜!? 何だお前! 帰ってたのか!♡」
青年の姿を見るなり、先程まで具合が悪そうだった萃香は途端にハキハキとし出し、彼の背中へムギュッと抱きついた。
「遅かったじゃんかよ〜♡ 寂しかったんだぞ〜♡」
「会いに来ても良かったんですよ?」
「仕事の邪魔しちゃうもん……」
「あはは、お心遣いありがとうございます。しばらくは何も予定は無いのでゆっくり過ごせますよ」
「ホントか!?♡」
萃香は目をキラキラと輝かせて青年に確認すると、彼は「はい♪」と頷いて萃香の頭をポフポフと優しく撫でた。
「んじゃ宴会だ〜♡ お前と朝まで飲み明かすぞ〜♡」
「お金も何もないのに宴会なんてしないわよ」
ノリノリの萃香に霊夢がそう釘を刺すと萃香は「えぇぇぇぇ!?」と不満の声をあげた。
「どんなに言ったってない袖は振れないの。第一、昨日だって宴会みたいなもんだったじゃない」
「あれは宅飲みだ! 宴会はもっとこうパーッtーー」
「と・に・か・く! 宴会はしばらくやりません、以上!」
霊夢に明言された萃香は青年の膝にすがりつき、「あぁんまりだぁ〜!」と泣き叫んだ。
そんな萃香に青年は「泣かないでください……」と優しく声をかけながら、萃香の頭を優しく撫でた。
「大体ね、せっかく彼氏が仕事を終えて帰ってきたんだから、恋人とゆっくり過ごしなさいよ。あの告白以来、恋人らしく過してないんでしょ?」
「霊夢……」
「一週間振りに恋人に会えて宴会したいって気持ちは分かるわ。でもだからこそ二人の時間が必要なのよ。離れてた時間が愛を強くし、一緒となった時間が愛を育むのよ」
「霊夢殿……」
霊夢の言葉に萃香だけでなく青年も胸を打たれた。
すると萃香が「おい」と言って青年の服をクイクイと引っ張った。
「どうしました?」
「お前も、その……わ、私と二人っきりで過ごしたいか?」
顔を微かに赤くし、上目遣いで訊いてきた萃香に青年はニッコリと笑って頷くと、萃香はパァッと表情を明るくさせて、彼の胸に顔を埋めた。
「じゃあ、今日はずっと二人で過ごそうな♡ いっぱいいっぱい♡」
「今日だけと言わず、しばらくは二人で過ごしましょう。萃香に沢山お土産話がありますから」
「うん♡ 聞く♡ お前が見てきたこと、お前が体験したこと、全部♡」
すると萃香は善は急げとばかりに青年の手を引いて、「お前の家に帰ろう♡」と言った。
それに頷いた青年は、霊夢に「お邪魔しました」と言って萃香に引きずられるように神社を去るのだった。
「よし。これで萃香はしばらく来ないわね……今日は彼にお賽銭入れてもらったし、いつもより豪華な物食べましょ♪ 大根のお味噌汁に沢庵も食べちゃおっと♪」
二人を見送った霊夢はしばらく贅沢な食卓になると喜び、意気揚々と人里へ買い出しに行くのだった。
妖怪の山ーー
妖怪の山にある青年の小屋に戻った二人は、夕闇に染まる空を肴にまったりと酒を酌み交わしていた。
二人の時間を作ったのはいいが、お互いに何をすればいいのか分からず、取り敢えず飲もうということになったからだ。
「二日酔いじゃなかったんですか?」
「お前と居るのに酒が無きゃ始まんねぇだろ♡」
「僕としてはお酒よりも萃香の瞳に酔ってしまいますけどね」
「っ……か、からかうなよ、もぉ〜♡」
青年の言葉に萃香は嬉しそうにはにかみ、盃に注いだ酒をグイッと飲み干した。
「お、お前はそんなに私の目、好きか?♡」
「えぇ、好きですよ……大きくて真っ直ぐで、嘘をつかない綺麗な瞳ですから」
「お、お前の目は優しくて何でも包み込んでくれそうな目だよな……♡」
「萃香に褒めてもらえると嬉しいです♪」
青年は嬉しそうに笑って萃香に返すと、萃香は「そっか〜♡」と上機嫌に返してからまた酒を口に含んだ。
「…………なぁ、お願いがあるんだけどいいか?♡」
萃香が青年にそう訊ねると青年は「なんでしょう?」と柔らかい口調で返した。
すると萃香は酒が入った盃を青年に差し出した。
「この酒、人肌にしてくれ♡」
「……ふふ、分かりました」
青年は萃香から盃を受け取ると、そこに入っている酒を口に含み、飲み込まずに口の中に留めた。
そして萃香は青年が胡座を掻いている足の空間に、彼と向かう合う形でちょこんと座って小さな口を「あ〜♡」と開けた。
すると青年は萃香の口にソッと自身の口を近づけた。
「っ……んっ……っ……ん〜っ……」
「んぅ……ん、ぁ……んんっ……ぁふ♡」
萃香は青年の口から自分の口に移される酒を、コクッコクッと可愛らしく喉を鳴らして飲んでいく。
そして酒を飲み干してから、萃香は青年の口の中に残った微かな酒を舌で舐め取りつつ、彼の舌と自身の舌を絡めていく。
「んんっ〜……
「ちゅっ……ん、すいか……んんっ」
長い長い口づけが終わると、二人は少々息を荒げながら互いの目を見つめ合った。
「大好きだぞ♡」
「僕も萃香が大好きです♪」
短く愛の言葉を囁いた二人は、また吸い寄せされるように互いの唇を重ね合わせ、これまでの時間を取り戻すかのように何度も何度も口づけをし、互いを強く求め合い、愛をより深く育むのだったーー。
伊吹萃香編終わりです!
萃香は見た目こそ□リですが、鬼なので大丈夫ということで!
此度もオリジナル要素が多かったですがご了承を。
ではお粗末様でした〜☆