迷いの竹林ーー
穏やかな日和を迎えた幻想郷。
そしてここ迷いの竹林では、寺子屋の生徒達がたけのこ掘りの体験学習をしに訪れていた。
この竹林のことを熟知している妹紅は、その体験学習の案内役兼特別講師として慧音とその生徒達と共に竹林を歩いた。
「今日はありがとうな、妹紅」
「……あぁ」
「みんな今日の体験学習を楽しみにしていたからな。晴れて良かった」
「……あぁ」
慧音の言葉に適当な相づちを返すだけの妹紅。
そんな妹紅を慧音は可笑しそうに見てから、妹紅が先程から注目している後ろの方へ視線を移した。
「なぁなぁ、兄ちゃん、笹笛ってどう作るんだ?」
「この大きな笹の葉で舟作ってよ〜♪」
「笹って食べられるのか〜?」
後ろではチルノ、リグル、ルーミアなどなど、多くの子ども達が一人の青年を囲んでいた。
この青年は見た目だけなら若いが、彼は妖怪『かまいたち』でこの竹林に長年住んでいるれっきとした妖怪である。
そして妹紅の恋人でもある。
そんな彼も妹紅のお手伝いとして、慧音にこの体験学習に招かれたのだ。
彼は元々、この竹林でひっそりとその日暮しをしていた。そして数十年前に妹紅と知り合い、話すようになり、人間と妖怪の隔たりが無くなったことをきっかけにし、つい最近お互いに色々と吹っ切れ恋仲となった。
「笹笛ってのは若い葉で作った方がいい。葉笛をやんならこっちの大きい方がいいがな……ほら、こんな方に」
彼はそう言うと、適当に切り取った大きな笹の葉を唇に押し当てて「ピ〜プ〜♪」っと適当な音を奏でた。
子ども達はそれに大喜びし、彼と同じように笹の葉の葉笛を「ピ〜ピ〜♪」と明るい音を奏でる。
「ふふ、自然と戯れることで生徒達の心が豊かになるな♪ 彼には後で何かお礼をしなければなるまい♪」
「アイツはお礼なんか遠慮しちまうから、言葉で十分だろ……わざわざ慧音が何か特別なお礼とかする必要はない」
「私は略奪愛の趣味は無いぞ?」
「べ、別にそんな心配してねぇし……」
妹紅は微かに頬を赤く染めて慧音にそう返すと、慧音は「ならいいじゃないか」と言った。それでも妹紅は頑なに首を縦に振ろうとはせず、「もしお礼するなら私の前でしろ」と言った。
「お前は本当に彼のことになると独占欲が増すな」
「独占欲なんてねぇし……ただ、慧音とアイツが二人で一緒に居るのが嫌なだけだし……」
「それを独占欲と言うんだ……ま、仮に私が彼を妹紅から略奪しようとしても、彼は妹紅一筋だから無理だろう」
「…………♡」
慧音がニッコリと笑顔を浮かべて言うと、妹紅は何も返さなかったが明らかに顔を緩め、とても喜んでいるようだった。その証拠に頭からハートの形をした白い煙がポッポッといくつも浮かび上がっていた。
「そんなに好きなら、もう同棲したらどうだ?」
「は、はぁ!? どどど同衾!?」
「同棲だ。ど・う・せ・い」
「あ、あ〜……同棲な」
そんな妹紅に慧音は呆れたように息を吐いて「で?」と訊ねた。
「ど、どどど同棲なんて私らには早いよ……こ、この前だって、や、やや、やっと、ちゅちゅちゅ……ちゅう出来たのにににに……」
「ちゅうって……」
慧音は妹紅に「どこの生娘だ!」とツッコミを入れたいのをグッと堪えた。
「そ、それに私から同棲したいとか言ってさ……重い女だとか思われたら嫌じゃん?」
「何を今更……妹紅と彼は何十年も共に過していたじゃないか。今更同棲だの何だので重く受け止めるはずがなかろう」
「な、何だよ、その言い草〜……他人事だと思って」
「他人事だとは思ってはいないさ。親友の恋路なのだからな」
そう言って爽やかな笑顔を慧音が妹紅に送ると、妹紅は「お、おう」と頬を染めてだけ返した。
「慧音先生〜」
すると大妖精が慧音を呼んだ。
慧音はその声に「どうした?」と返すと、大妖精は「ルーミアちゃんがお腹空いたそうです」と答えた。
「お腹空いたのだ〜」
「橙もお腹空いた〜」
ルーミアと橙が自分のお腹を押さえて言うと、他の生徒達も「私も〜」「僕も〜」と次々と慧音に訴えた。
「まぁ遊びながら歩いてればお腹も空くわな」
「日も大分高くなってるしねぇ」
かまいたちと妹紅がそれぞれ言うと、慧音は「仕方ない」と笑顔を見せた。
「妹紅、何処かにみんなが座れるような開けた場所はあるか?」
慧音が妹紅に訊ねると、妹紅は「こっちだ」と言ってみんなを先導した。
ーー。
開けた場所に着き、生徒達はお弁当を広げてワイワイガヤガヤと昼食を食べていた。
しかし、
「うわぁ♪ もこたんと兄ちゃんのお弁当同じだ〜♪」
「流石付き合ってるだけあるね〜♪」
「愛妻弁当かはたまた
「いやいや同じ物を二人で作ったのかもよ〜?♪」
「ラブラブなのだ〜♪」
チルノ、リグル、橙、てゐ、ルーミアは妹紅達のお弁当を見ながらニコニコニヤニヤと二人を見た。
「ちょ、ちょっとみんな〜」
「妹紅さん達困ってるよ〜」
大妖精とミスティアはみんなにそう言うが、みんなのヤジは止まらなかった。
「これは妹紅と一緒に作ったんだ〜♪ 妹紅は何だかんだ言って料理とか出来るからな♪ いいだろ〜?♪」
「…………っ♡」
かまいたちは胸を張って妹紅のことを自慢するが、妹紅は顔を真っ赤にして複雑な表情を浮かべている。褒められるのは嬉しいが、みんなにはそんなに言わないでほしいと言った感じなのだろう。
「ほらほら、みんな。食事中は立っちゃダメだぞ〜」
そんな妹紅を見て、慧音は手を叩きながらみんなに言うと、みんなは声を揃えて返事をして素直に昼食に戻った。
それから食休みをした後、目的地に着いた一行は昼下がりまでたけのこ掘りを体験し、妹紅とかまいたちに感謝して今日の体験学習を終えるのだった。
そしてそれからーー
妹紅はかまいたちと慧音達を見送った後で、彼の手を取ると、彼に有無を言わさず強引に自分の家へと連れてきた。
そして、
「妹紅、帰ってからどうしたんだ、一体?」
「うるさい。お前は黙ってろ」
妹紅はかまいたちを適当な場所に座らせると、彼の腰に手を回して、彼の膝を枕代わりにうつ伏せに寝そべっていた。
「そんなに疲れたのか?」
「そんなとこだ……」
(鈍感め!)
すると、かまいたちは「そうかそうか」と頷くと、妹紅の白銀の髪を優しく手で梳いた。
「お疲れだったな、妹紅」
かまいたちが優しく言葉をかけると、妹紅は「ん♡」と嬉しそうに頷き、彼の膝に顔を押し当てた。
「さて、んじゃそろそろ俺もお暇させてもらうかな。流石にあんなに子どもの面倒を見て疲れたから」
「…………ダメ」
「え?」
「まだ帰っちゃダメ……帰っちゃヤ……」
妹紅の潤んだ瞳に下から見つめられてそう言われたかまいたちは、ドクンと胸の中が跳ねた。
「きょ、今日は随分と我儘なんだな」
「こんな私は嫌い?」
「んことないさ。寧ろグッと来た♪」
「何それ……バカ♡」
妹紅はそう返すと彼の膝にまた赤くなった顔を押し当てて足をパタパタする。何だかんだでまだ帰らずに居てくれるかまいたちの優しさが嬉しいのだ。
すると妹紅の脳裏に慧音の言葉が浮かんだ。
『今更同棲だの何だので重く受け止めるはずがなかろう』
妹紅はあの時の慧音の言葉を思い出し、かまいたちの顔をチラッと覗いた。
「? 今度はなんだ?」
妹紅の視線に気がついたかまいたちは、変わらぬ笑顔を妹紅に向けて優しく訊いた。
そして妹紅は起き上がり、彼のまっすぐに見つめた。
「ん?」
「あ、あの……さ」
「ん〜?」
「嫌だったら断っていいんだけどさ……」
「うん」
「わ、わらひと……うぐぅ」
「…………」
言葉を噛む妹紅をかまいたちは笑ったりせず、ジッと妹紅の言葉を待った。
そして妹紅は大きく深呼吸してから、またかまいたちの目を見つめた。
「わ、私と一緒に……く、暮らさないか?♡」
「!!?」
妹紅はかまいたちの手を両手で握りしめてギュッとまぶたを閉じた。
すると、かまいたちは妹紅の手を反対の手と掴まれた手で包み込むように優しく握り返した。
「俺で良ければ喜んで♪」
「っ……♡!」
「どわぁ!?」
妹紅はかまいたちの言葉を聞いた瞬間、彼を押し倒し彼の胸に頬ずりした。
「ありがとう♡ すっごく嬉しい♡ これからはずっと一緒だから♡」
「あぁ、勿論」
「えへへへ♡」
「それじゃ、式は博麗の巫女さんとこで挙げるか♪」
「ん?」
かまいたちの言葉に妹紅は固まった。
「俺からプロポーズしようとしてたんだけどな〜。まさか妹紅から言われるとは思わなかったよ〜♪」
「え、プロ……えぇ?」
「一緒に暮らさないか。なんて好きな女に言わせるなんて男の恥じだな〜。結婚したら目一杯愛でてやるからな♪」
「けっ!?」
「あ、突然のことだったがちゃんと指輪は用意してあるからな♪」
「ゆ、指輪!?」
「んじゃ、今日はそういう日だってことだよな?」
混乱している妹紅はあっさりとかまいたちに押し倒されてしまう。
「え……え?」
「俺も初めてだから上手くとは言えないが、優しくする」
「え、あ……うん♡」
「愛してるよ、妹紅。俺の残りの生涯で、妹紅に沢山思い出を残してやるから」
「うん……沢山頂戴♡」
(これはこれで良かったのかな♡)
それから二人は今まで以上に深く繋がり、愛を育んだ。
そしてその数週間後、二人は博麗神社で盛大な結婚式を開いたそうなーー。
藤原妹紅編終わりです!
今回も色々とオリジナル要素を入れましたがご了承を。
不死のもこたんですが、幸せな思い出を沢山作ってほしいですね♪
そして永夜抄も終わりです♪
ではお粗末様でした☆