東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人は輝夜。


輝夜の恋華想

 

 迷いの竹林ーー

 

 夜も明け、笹と笹の隙間から朝日が射し込む。

 穏やかに揺れる竹の音と朝を告げ、自分達の巣へと戻る夜雀の鳴き声。

 そんな竹林の奥に隠れるよにある永遠亭。

 そこで暮らす輝夜は、縁側に座ってある人物を眺めていた。

 それは、

 

「ふぅ、朝の庭の掃除終わりっと……」

 

 永遠亭に数年前から住み込みで働く若い青年だった。

 

 彼は妖怪拡張計画で幻想郷入りした妖怪で、元は迷いの竹林に住み着いていた妖怪「万年竹」だった。

 永夜異変後、輝夜は時たま永遠亭から出て、暇潰しに夜の竹林を散歩することがあった。その時に輝夜は万年竹と出会い、話をするようになった。

お互い長年の時を生きてきた者同士ということもあり、輝夜は月の話を、彼は地上や外の世界で耳にしてきた、または見てきた話をし合い、友好を深めていった。

 

 そんなある日、幻想郷で人間と妖怪の隔たりが無くなり、迷いの竹林にも多くの人間が訪れるようになると、永遠亭の人手が足りなくなってきたと永琳がボヤいた。

それを聞いた輝夜は「それなら迎えたい者がいる」と言って、永琳のヒトニナール(薬)を万年竹に振り掛け、それにより人間の青年の姿にされ、有無を言わさず永遠亭の新たな雑用係として輝夜に連れて来られた。

 

 そして輝夜は人の姿となった万年竹を一時も目を離そうとはせず、自他共に認めるバカップルと変貌していた。

 

「お掃除終わった〜?」

 

 箒を置いて一息吐く万年竹を見て、輝夜がそう声をかけた。

 

「お姫さん、毎回言ってるが庭の掃き掃除が終わったら池の掃除があるんでさ。もうちょい待ってくれよ」

 

 輝夜の問いに万年竹は苦笑いを浮かべて返すと、輝夜は「お〜そ〜い〜!」と駄々をこねた。

 

「そう駄々をこねなさんな。池の掃除が終わりゃ茶でも散歩でも付き合ってやっからよ」

 

 万年竹はそう言って優しく輝夜の黒く美しい髪を手で梳くと、輝夜は「絶対に約束よ?」と上目遣いで指切りをせがんだ。

 

「あいよ、俺とお姫さんの約束だ♪」

「うん♡ ゆ〜び〜き〜り〜げ〜んまん♪ 嘘ついた〜ら♪ 灼熱の炎で燃やして竹炭にする〜」

(どうして毎度毎度、罰のところだけ真顔で早口なんだろうね、このお姫さんは……)

「ゆ〜び切った♪」

「あいあい。んじゃ池の掃除に取り掛かるよ」

 

 輝夜と指切りを交わした万年竹はそう言って姿勢を直す。

 しかし透かさず輝夜が万年竹の腰に手を回して、彼を抱き寄せて、彼のお腹ら辺に顔を埋めた。

 

「お姫さん……」

「ん〜♡ 貴方の成分を補給してるの〜♡」

「本来、生気を吸うのは俺の方なんだけどな〜」

「そんなの知らな〜い♡」

 

 そう言って輝夜は顔をグリグリと押し当て、万年竹の匂いや温もりを堪能した。

 

 それからも顔を押し当てる輝夜に万年竹は「お姫さん、そろそろ」と言って、輝夜の頭を優しくポンポンと叩くと、ようやく輝夜は彼から顔を離した。

 

「すぐに終わらせっから、な?」

「は〜い……じゃあ、ん♡」

 

 輝夜はそう言って目を閉じて万年竹へ唇を差し出すように顎を上げた。これは輝夜なりのキスの催促である。

 

「お、お姫さん……またなのか?」

「またなの……ほら、早く♡」

「〜〜〜」

 

 万年竹は頬を赤く染めながら周りをキョロキョロと見回し、誰も居ないことを確認した上で、ソッと輝夜の唇にキスをした。

 

「〜♡」

 

 すると輝夜は万年竹の首に手を回してガッチリとホールドした。

 

「!!?」

 

 驚いて離れようとした万年竹だったが、時は既に遅く、輝夜の舌がスルスルっと彼の口へ侵入した。

 あっさりと侵入を許した万年竹は抵抗するも、輝夜の舌に口の中を丹念に愛撫され、徐々に引き離そうとする力は弱まった。

 

 唾液と唾液が混ざり合い、互いの舌が交差する度に口元から艶やかな音がもれる。

 どのくらい混じり合ったのか思考が回らなくなるほど、輝夜にされたい放題にされ、「ちゅぱっ♡」という音と共にやっと唇を解放されると、万年竹の目の前には妖しく、そして愛らしく微笑む輝夜の顔があった。

 

「お姫しゃん……」

「んふふ♡ 本当に貴方ってこういうことには弱いわね♡ 可愛いわ♡ んちゅっ♡」

「や、やめれ……」

 

 呂律が回っていない上に、今度はついばむように小さなキスを何回もしてくる輝夜に、万年竹は本当にされるがままだった。

 対する輝夜は普段の飄々とした万年竹とは違う、愛に溺れ、無抵抗に自分を受け入れる彼を余計に愛おしく思い、何度も何度もキスをした。

 

「(おぉ〜!)」

「(あんなにちゅっちゅしてる……)」

「(姫様……)」

 

 睦み合う二人を朝食に呼ぼうとやってきた永琳達は、たまたまその光景を目撃してしまった。

 

 てゐは輝夜の珍しい光景に目を輝かせ、鈴仙は顔を手で覆いながらもしっかりと指の隙間から覗き、永琳は輝夜の幸せそうな姿にホロリと涙を流した。

 

「(ここは邪魔せずに姫様達の分は取って置いて、私達は退散しましょう)」

「(えぇ〜! もっと見たい〜!)」

「(だ、ダメよてゐ!)」

「(そうよ、てゐ。邪魔すると馬に蹴られるわよ?)」

「(ちぇ……)」

「(は、早く行きましょう!)」

 

 こうして永琳達はそそくさとその場を後にした。

 

 それからようやく輝夜がキスを止めた時には、もう日が大分高くなってしまってからだった。

 

「はぁ……はぁ……はぁ、おひめしゃん……」

「はぁ、はぁ、大好きよ、んちゅっ♡」

「お、おれも……」

 

 今回最後のキスを終えた二人はようやく離れた。

 互いに肩で息をして、どれだけキスをしていたかが分かる。

 

 それから万年竹はようやく池の掃除に取り掛かるが、足元がおぼつかないため、何度か石垣から落ちかけたのだった。

 

 

 それからーー

 

「私、今度はその玉子焼きがいい〜♡」

「あいあい♪」

 

 二人は遅めの、と言うよりはお昼御飯を仲良く縁側で食べていた。

 輝夜は「あ〜♡」と口を開け、雛鳥状態である。対する万年竹は甲斐甲斐しく輝夜が指定した物を口へ運んでいた。。

 

 万年竹が箸で玉子焼きを輝夜に食べさせると、輝夜は顔をほころばせて「ん〜♡」とご満悦の声をあげる。

 そんな輝夜を見て、万年竹もニッコリと笑い、自分も玉子焼きを食べた。

 

 それからも二人で和気藹々としたお昼を過ごしていると、カゴを背負った妹紅が現れた。

 

「お〜、今日も二人して揃ってるな〜」

「何よ、何か文句あるっての?」

「ねぇよ。ただ呆れただけだ」

「は?」

「あ?」

 

 相変わらず喧嘩腰の二人に万年竹が急いで仲裁に入ると、輝夜は「むぅ」と言いながら彼の腕にギュッと抱きついた。

 そんな輝夜に妹紅は苦笑いを浮かべつつ、背負っていたカゴを下ろした。

 

「この前の決闘の約束だ。たけのこ取ってきたぞ」

 

 妹紅はそう言うとカゴから一つのたけのこを輝夜達に見せた。

 

「あらあらあら、随分殊勝な心掛けね♪」

「お姫さん……すまんね、妹紅。ありがたく頂くよ」

「気にすんなよ♪」

 

 万年竹の言葉に妹紅は笑顔を見せて返すと、輝夜は「そうそう♪」と言った。

 妹紅は思わず顔をしかめるが、輝夜は万年竹にたしなめられ「ぶぅ〜」と不満の声をあげた。

 

「それじゃ、渡すもんも渡したし、私は帰るぞ。またな」

 

 妹紅はカゴを二人に預けてからそう言って背を向け、振り返らずに手だけを振ってその場を去った。

 万年竹は「お〜、またな♪」と声をかけるも、輝夜は何も言わずに妹紅を見送った。

 

「貴方って妹紅と随分親しく話すのね」

 

 妹紅が完全に去った後で輝夜は不機嫌そうに万年竹へ言った。

 

「お姫さんより前から知り合いだったからな〜。こればっかりはしょうがねぇさ」

「何かムカつく……」

「ムカつくって言われてもな〜」

 

 すると輝夜は万年竹の手をギュッと握りしめた。

 

「お姫さん?」

 

 万年竹は輝夜に声をかけるも、輝夜は「うぅ〜」と唸るだけだった。恐らく妹紅に嫉妬しているのだろう。

 それを見抜いた万年竹は優しく微笑んで、輝夜の頭をポンポンと撫でた。

 

「知り合ったのは妹紅が先だったが、そんな妹紅も知らない俺の顔をお姫さんはいくつも知ってる。それで十分じゃねぇか」

 

 万年竹がそう言うと、輝夜は「それもそうね……♡」とはにかんで頷き、すっかり機嫌を直し、彼の腕に頬ずりするのだった。

 

「ねぇねぇねぇ♡」

「あいあい?」

「キスしよ、キス♡」

「ま、またかい!?」

「貴方とのキスだから好きなの♡ ほら早く♡」

 

 そして言われるがまま輝夜にキスをした万年竹は、またも輝夜に暫く唇を奪われた。

 輝夜と万年竹の甘く長い時はこれからも続くのだーー。




蓬莱山輝夜編終わりです!

キス魔の輝夜さんって何かいいですよね!
と思ったので妄想をそのまま書きました!
ちょっと独自設定が強い感じになりましたが、ご了承を。

ではお粗末様でした☆

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