永遠亭ーー
今日はあいにくの雨となった幻想郷。
昼頃までは晴れていたが、太陽が西へ傾くに連れ雨雲が増し、昼下がりを迎えた今では本降りとなっている。
そんな雨模様を月の頭脳こと八意永琳は自身の研究室の窓から眺めていた。
(あの人は傘を持って行かなかったけど、ちゃんと何処かで雨宿り出来ているかしら……)
そして永琳の頭の中には一人の青年のことがグルグルと巡っていた。
永琳が研究の手を休めるほど想いを馳せる人物は、数年前に人里から永遠亭へ医師を志してやってきた青年で、今では永琳の恋人である。
最初こそは永琳も拒んだが、彼の人を救いたいという熱意に負け、輝夜の許しを得て、弟子として永遠亭に迎え入れた。
彼は永琳の元で多くを学び、吸収。そんな彼の純粋さや実直さに永琳は段々と心を惹かれた。
そして彼が永琳から往診を任されるほどの実力を持った時、永琳は彼から告白を受けた。
永琳は彼の告白を最初は断った。
何故なら寿命の問題があるから。
残されると分かっている。ならばいっそのこと今まで通りの方がいいと、永琳は考えたのだ。
しかし、彼は医師を志した時と同じく、永琳を諦めなかった。終いには輝夜すら付き合ってしまったらどうかと言い出すほど。
永琳は根負けする形で彼と恋仲になったが、いざ彼と恋仲になると、永琳は今までのタガが外れ、鈴仙やてゐは勿論、あの輝夜まで呆れるほどのバカップルへと変貌した。
永琳が彼のことを心配しながらいると、永遠亭の玄関の戸がガラリと開く音がした。
その音を聞いた永琳は早足で玄関へと向かった。
ーー。
玄関を覗くと、そこには寺子屋帰りでずぶ濡れのてゐの姿があった。
「うひ〜……朝は晴れてたのに、最悪だ〜!」
てゐはそう言って手荷物を玄関へ置くと、また外へ出て玄関先でプルプルと頭や体を振った。
「おかえり、てゐ。はい、タオル」
「お、サンキュ、鈴仙♪」
後からやってきた鈴仙からタオルを受け取ったてゐは、鈴仙にお礼を言って濡れた髪をワシャワシャと拭いた。
「あれ、師匠? 休憩ですか?」
「おっ♪ お師匠じゃん、ただいま♪」
永琳の存在に気がついた二人が永琳に声をかけると、永琳はニコッと笑って二人の元へ歩み寄った。
「おかえり、てゐ。私は少し外の空気を吸いにね……」
「そうでしたか。お疲れ様です!」
「乙、乙〜」
二人は永琳へ労いの言葉をかけると、永琳は「ありがとう」と笑みを見せた。
「本当は彼が帰ってきたと思って、玄関まで様子を見に来たんでしょ〜?」
奥の襖から顔だけを出してそんな声をかけたのは輝夜だった。
永琳は輝夜の言葉に内心ギクッとしながらも、平静を装った。
「ま、まぁ、姫様の言われることも少しありますわ……でも空気を吸いに来たことも確かです」
(そんなに顔を赤くしてまだ言い訳するのね……)
(照れてる師匠、可愛い……)
(お師匠もこんな乙女顔するんだな〜)
「な、何なの、みんなして!?」
永琳はそう言って、ニコニコする鈴仙とニヤニヤする輝夜とてゐに抗議した。しかし三人は「何も〜♪」と口裏を合わせたかのようにハモり、余計に永琳を見つめた。
「そんなに心配しなくても、アイツならどうせ適当な所で雨宿りしてるって」
「そうかしら? だといいのだけれど……」
てゐの言葉に永琳はそう言うと、てゐは永琳に見えないようにニヤリと含み笑いをした。
「まぁアイツは人里でも人気だからな〜」
その言葉に永琳はピクリと眉を震わせた。
そしてそんなてゐに呼応するかのように輝夜もニヤリと含み笑いをした。
「なんでも最近、人里には出会い茶屋が出来たみたいだからね〜。ホイホイ雨宿りさせられてそのまま……なんてことがあるかも♪」
「姫様! 私、人里に用事があることを思い出しましたので人里に行って参ります!」
輝夜の言葉が決定打となり、永琳は足早に人里へと向かっていった。
それを鈴仙はポカンとしながら見送っていると、輝夜とてゐはケラケラと笑い合った。
「あっははは、姫様も人が悪いな〜……ふひひ、人里に出会い茶屋なんて無いのに……ぷくくく……」
「ふふふ、だって……ふふ、嗚呼でもしないと行かないじゃないの……あははは♪」
「あの〜、出会い茶屋って何なんですか?」
鈴仙がそう訊ねると二人はまた笑い「男女のための茶屋♪」とだけ教えた。
それを聞いた鈴仙はボンッと顔を赤くして「私、夕飯の用意してきます!」と、逃げるように去って行った。
「あらあら、イナバの鈴仙はまだまだ青いわね」
「どうせその内目覚めるから大丈夫じゃね?」
「ま、それもそうね……ところでてゐ」
「あぁ、分かってる。ちゃんと傘には細工したよ」
てゐはクスッと笑って輝夜にそう告げると、輝夜は「パーぺきよ♪」と親指を立てた。
そして二人は開けっ放しの戸から外の雨をにこやかに笑って眺めるのだった。
人里ーー
その頃、青年は迷いの竹林方面へ通ずる通りの茶屋の軒下で、適当に雨宿りをしていた。
(まさか本降りになるとは……もし止みそうにないなら濡れるの覚悟で走るか……)
「雨が止みませんね〜」
すると、茶屋の女将がおかわりの茶を持って青年へ声をかけた。
青年はお茶を受け取ると「そうですね」と返して、茶をすすった。
「もし止まないようなら、店の傘をお貸ししますから。その際は声をかけてくださいね」
「ありがとうございます。もう少し様子を見て、もしもの時はお言葉に甘えさせて頂きます」
彼はにこやかに女将へそう返すと女将はニッコリと笑みを見せてまた店の中へと戻った。
それから彼はまた雨空を見ながら待っていると、すぐ隣に誰かの気配がした。
「迎えに来るのが遅くなってごめんなさい♡」
「永琳先生……」
そこには赤い蛇の目傘を差した永琳が立っていた。
「すみません。お手数をお掛けして……」
「気にしないで。私が勝手に来ただけだから♡」
永琳は彼にそう言って笑みを浮かべると、彼もそれにつられて笑みをこぼした。
「じゃあ帰りましょうか……これ、あなたの傘よ♡」
「ありがとうございます……ん?」
「あら……」
永琳が持ってきた青い蛇の目傘は開くと点々と穴が開いていた。
「ごめんなさい、私ったら確認もしないで持って来てしまったから……」
「あはは、まぁこのくらい大丈夫ですよ♪ ずぶ濡れになるよりはマシでしょう♪」
「そ、そんなのダメよ! それが原因で風邪なんて引いたらどうするの!?」
過保護な永琳に彼は苦笑いを浮かべて「大丈夫ですよ」と返すが、永琳はその言葉を受け入れようとはしなかった。
そしてーー
「ほら、もっと私の方に寄って。肩が濡れちゃうわ♡」
「は、はい……」
二人は相合傘で家路を歩いていた。
「何を赤くなってるの? ほらもっとこう♡」
「え、永琳先生!?」
永琳は彼の腰に手を回し、キュッと自分の体と密着させた。
「ふふ、これで大丈夫、ね?♡」
「は、はは、はい……」
「もぉ、どうしたの?♡」
「どうしたのって……」
「もしかして照れてるの?♡」
永琳は彼の初々しい反応を愛らしく思い、クスクスと笑って訊ねると、
「こ、心から惚れている女性がこんなにすぐ側に居るのですから……当然です」
と彼は言った。
「!!?♡」
永琳はその言葉にズキューンと胸を射抜かれた。
「も、もぉ……いつも私はあなたの側に居るじゃない♡」
「いつだって先生が側にいるからこうなんです……貴女を好きだと言う気持ちが溢れてくるんです!」
「!!!!?♡」
永琳は彼の告白にエクステンドがグングン上昇した。
すると永琳は急に立ち止まり、彼を正面から抱き寄せた。
「え、永琳先生!?」
「ここはもう人里の外よ……だから今は先生なんて呼ばないで」
「…………永琳」
彼は掠れる声で永琳の名を呼ぶと、永琳は「は〜い♡」と嬉しそうに返事をした。
そして、
「ねぇ、キスしよっか?♡」
唐突にそんなことを彼に言った。
彼は狼狽すると永琳はクスッと笑って、彼の傘を持っている方の手をクンッと下げ、それと同時に彼の唇を奪った。
「っ!!!!!!?」
「ちゅっ……っ、んっ……んぅ♡」
ほんの数秒間、彼は永琳に唇をついばまれた。そして永琳が唇を離すと、ほのかに頬を紅潮させて小さく笑った。
「んふふ、お外でしちゃったわね♡」
「そ、そうですね……」
「あら、いつの間にか雨止んだわね……」
「じゃ、じゃあ傘を畳みーー」
すると永琳はスッと彼の唇に人差し指を当てて、彼の言葉を遮った。
「よく見たらまだ小雨……これは永遠亭に着くまで止まないわ♡」
「え」
「ふふ、濡れないように、肩寄せ合ってゆっくりと帰りましょ♡」
永琳はそう言って、彼の頬に軽くキスした。
そして彼は永琳に言われるがまま、仲睦まじく永遠亭までの道のりを相合傘で帰るのだったーー。
八意永琳編終わりです!
永琳のお話はちょっと淡くて大人っぽい感じにしました!
まさに(゚∀゚)o彡゜えーりん!えーりん!ですな←意味不明
ではお粗末様でした〜♪