東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人は慧音。


慧音の恋華想

 

 迷いの竹林ーー

 

 穏やかに雲が流れる昼下がり。

 慧音は寺子屋が終わってから、迷いの竹林を妹紅と共に歩いていた。

 

「すまないな、妹紅。恩に着るよ」

「気にするなよ。親友の頼みとあればこれくらいはな」

 

 妹紅が清々しい笑顔で返すと、慧音は「ありがとう」と笑顔を返した。

 

「でも川で溺れた子どもを助けて、自分がそのまま風邪引くとか……本当お人好しだな。夫婦(めおと)揃ってさ」

「夫婦言うな! 私と彼は夫婦の契は結んでいないぞ!」

「結んでなくても二人して寺子屋で教師して、同じ家に寝泊まりしてて、暇な時は縁側で肩寄せ合って空を見上げてるくせによく言うよ♪」

「こ、恋仲にある男女が縁側で寛いでいて何が悪いんだ!」

「何も悪いとは言ってないだろ……ただ、あんなに仲睦まじいと夫婦にしか見えないんだよ。さっきだって「彼が熱を出してるんだ! 妹紅、永遠亭まで案内してくれ!」ってかなり必死だったし♪」

 

 妹紅の話に、慧音は「くぅ……」と顔を真っ赤にして唸ることしか出来なかった。

 

 慧音とその恋人の半人半妖の男は数年前から共に寺子屋で子ども達に勉学を教えていて、傍から見たら夫婦にしか見えないほど仲睦まじく、人里ではおしどり夫婦等と囁かれている程だ。

 

「ほら、早く行くぞ。弱った旦那が帰りを待ってるんだろ?」

 

 妹紅がそう言って慧音の肩を叩くと、慧音は「妹紅〜!」と抗議の声をあげた。

しかし妹紅は「はいはい」と聞き流すだけで、まったく反省の色は見せなかった。

 

 

 永遠亭ーー

 

 永遠亭に着いた慧音と妹紅。

 妹紅は門前で待ち、慧音は一人、鈴仙に連れられて診察室へ通された。

 

「師匠。患者様をお連れしました」

「あら、慧音じゃない。()()精力増強剤でも?」

「い、いや、今日は風邪薬を貰いに、な。彼が熱を出してるんだ」

 

 永琳の唐突のカミングアウトに慧音は平静を装って本来の目的を告げた。

 それを聞いた永琳は幾つかの簡単な質問をし、慧音の答えによってそれに合った薬を処方するため、慧音に待合室で待つように言って作業場へ向かった。

 

 待合室で待っていると、鈴仙がお茶を淹れて戻ってきた。

 

「どうぞ♪」

「あぁ、すまない」

()()()()の様態は大丈夫ですか?」

 

 鈴仙の言葉に慧音は思わずすすった茶を吹き出しそうになった。しかし何とか堪えた慧音はゴクンと喉を鳴らして茶を呑み込み、鈴仙を睨み付けた。

 

「え、えぇ!? 私何か変なこと言いました!?」

「私達はまだ結婚などしていない!」

「えぇぇぇぇ! そっだったんですかぁぁぁ!?」

 

 鈴仙の驚きように慧音は鼻息を荒くして頷くと、鈴仙は「ごめんなさい。てっきり……」と苦笑いを浮かべて謝罪した。

 

「まったく……みんなして私と彼を何だと思ってるんだ……」

(夫婦って言ったらまた怒っちゃうよね〜)

 

 慧音は顔を赤くして「まったくまったく」と怒っているのを見ながら、鈴仙は思った言葉を呑み込んで苦笑いをするしかなかった。

 

 すると永琳が複数の紙袋を持って待合室へやってきた。

 

「お待たせ。食後に一袋で一週間分。こっちは高熱が出た時用の解熱剤ね」

「あぁ、ありがとう」

「あと貴女を見た時から、気になっていたことがあるのだけれど……」

 

 永琳の言葉に慧音は「ん?」と首を傾げた。

 

「貴女の首筋からチラホラと見える赤いアザ、治すなら塗り薬を処方するわよ?」

「っ!?」

 

 慧音が急いで自身の首筋を手で押さえると、

 

「あ〜、それ私も思いました。髪の毛と服の襟であまり目立ってませんが、ポチポチと見えますよね」

 

 鈴仙も気になっていたとばかりにそう口にした。

 

「こ、ここ、これはあれだ、ほら……竹林を歩いて来たから、む、むむ、虫にだな……」

「あ〜、分かります〜。私もしょっちゅう刺されてますから」

 

 鈴仙はそう言うが、永琳はニヤリと怪しい笑みをした。

 

「まぁ()()()()のなら大丈夫かしらね♪」

「あ、あぁ……」

「じゃあ最後に今回のお代ね」

 

 永琳は請求書兼処方書を出すと、慧音は「うむ」と頷いてお代を支払った。

 しかしあることに気が付いた。

 

「永琳、この予防薬とはなんだ?」

「貴女用よ。こっちの紙袋に入ってるわ。彼氏の看病してて移されても困るでしょう? それも食後に服用してね」

 

 永琳が答えると、慧音は「何から何までかたじけない」と頭を下げ、永琳は笑顔で「いいえ♪」と返した。

 こうして慧音は永遠亭を後にし、また妹紅の案内で迷いの竹林を抜け、妹紅と別れて愛する彼の待つ自分達の家へと戻った。

 

 

 慧音達の家ーー

 

「(戻ったぞ〜)」

 

 慧音は彼が寝ていても悪いと思い、小声で家へ入った。

 そして、そろりそろりと彼が寝ているはずの自分達の寝室の戸を少し開けると、彼は青と緑の横縞のちゃんちゃんこを羽織って机に向かっていた。

 

「おい! 風邪なのに何してるんだ!」

 

 彼の行動に慧音は荒い声をあげて寝室へ入ると、彼は呑気に「あ〜、おかえり」と言った。

 

「ただいま♡ じゃなくて! 風邪を引いているのに何で寝ていないんだ!」

「いや、暇だったから、生徒達が提出した読書感想文の採点を……」

「風邪を引いているのに仕事なんかするんじゃない! ほら寝た寝た!」

 

 慧音の気迫に押され、彼は「過保護だな〜」と言いつつ布団に戻った。

 

「過保護なくらいでいいんだ。それよりもう夕方だからお粥を作ってやる。それを食べたら薬を貰ってきたからそれを飲め。いいな?」

「あぁ、何から何までありがとう」

「っ!!?♡」

 

 彼の笑顔のお礼に慧音は胸がキューンと締めつけられた。

 それから慧音は「お礼なんかいい」と恥ずかしそうに返し、台所へと向かった。

 

 ーー。

 

 それから慧音が作ったお粥を平らげた彼は薬を飲んでまた布団に入った。

 それを見届けた慧音は洗い物をし、自分も永琳から貰った予防薬を飲んだ。

 

 すると、

 

「ぐっ!?」

 

 ドクンと胸の奥が跳ねた。

 そして次の瞬間、慧音は白沢(ハクタク)の姿になってしまった。

 

「飲んだ途端にこの姿になるとは……」

 

 しかし、窓の外を見ると満月が出ていたので、慧音は「あ〜、ただ時期が重なっただけか」とつぶやいた。

 それでも慧音は自分の体に妙な火照りを感じていた。

 胸の奥からジワジワと湧き上がるような火照りが。

 

(私も風邪が移ってしまったというのか?)

 

 そう思った慧音は自分も今日は早く休もうと、支度をして寝室へ向かった。

 

 ーー。

 

 眠る彼のすぐ隣に布団を敷き、彼の寝顔を眺めながら眠くなるのを待つ慧音だったが、一向に眠くなる気配がなく、寧ろどんどん体の火照りが増していった。

 すると彼が慧音の苦しそうな息使いに目を覚まし、慧音に「どうかしたのか?」と言ってすぐ側までやってきた。

 

(あぁ、もうダメだ♡)

 

 と次の瞬間、慧音は彼を押し倒していた。

 

「け、慧音?」

「はぁ、はぁ、すまん♡ お前の私を心配してくれる優しい声と愛するお前の蒸れた雄の匂いで……もう耐えられん♡」

「へ?」

「すまん……でも大丈夫だ♡ お前は天井のシミを数えていれば、それでいい♡」

「いやいやいやいや!」

「汗を掻けば熱も下がると私の歴史に記している♡」

「え、ちょ、まーー」

「さぁ、私達の愛の歴史に新しいページを追加しよう♡」

「きゃあぁぁぁぁ〜っ」

 

 

 翌朝ーー

 

「……昨晩はすまなかった」

「気にしてないよ。風邪も治ったみたいだし」

 

 昨晩の暴走を覚えていた慧音は朝一番で彼に耳まで真っ赤になりながら謝罪すると、彼は笑顔で慧音を許した。

 

「でも、慧音に朝まで搾られるとは思わなかったな〜。慧音も案外大胆なんだな。あんなに好き好き言われながrーー」

「うわぁぁん、言わないでくれぇぇぇ!」

「慧音は気が済むまでしてたからね〜。俺も気が済むまでは言わせてもらうよ♪」

「うぅ〜、イジワル……」

「朝までーー」

「やぁぁぁん、ごめんなさいってばぁ!」

 

 すると彼はイタズラっぽく笑って慧音に言った。

 

「じゃあ、口づけして♪」

「え」

「朝まーー」

「わ、分かった、分かったから!」

「じゃあよろしく♪」

「むぅ……ちゅっ♡」

 

「もう一回♪」

「く、くぅ……」

「ほらほら、早く〜♪」

「覚えてろよ〜……ちゅっ♡」

「覚えてていいんだ?♪」

「にゃう〜!」

 

 こうして慧音は彼の気が済むまでからかわれ続けたそうな。

 

 

 一方ーー

 

「師匠、あの予防薬って媚薬でしたけど、良かったんですか?」

「媚薬は時に予防薬にもなるのよ……免疫細胞の濃密な交換によってね♪ ま、半妖だから通じる理論なんだけどね♪」

「な、なるほど……」

「さ、今日もお仕事お仕事♪」

「はい、師匠!」

 

 そして黒幕は今日も研究に励むのだったーー。




上白沢慧音編終わりです!

前回に引き続きお前らもう結婚してんじゃんって感じになりましたがご了承を。

ではお粗末様でした☆

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