東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人はリグル


永夜抄
リグルの恋華想


 

 寺子屋ーー

 

「よし、本日の授業はここまで! 今日は算数の宿題を出すから、明日までにはちゃんとやってくるように!」

『は〜い』

 

 本日も平和に時が過ぎたお昼過ぎ、寺子屋の教師である慧音の言葉に、多くの生徒達は力無く返事をしつつ慧音から宿題のプリントを受け取った。

 中でも某カルテットはみんなして机に突っ伏し、明らかに不満の色を見せている。

 

「みんな大丈夫?」

「これ見て大丈夫には到底見えないけど?」

「あはは……」

 

 そんなカルテットに大妖精が心配の声をかけるも、てゐに見たままをツッコまれ、橙には苦笑いをされてしまう始末。

 

「勉強なんてしなくても生きていけるのだ〜!」

「私は歌とお店で生きて行けるも〜ん!」

「算数はあたい達をダメする洗脳教育だ〜!」

「大人の勝手な押し付けによる弾圧だ〜!」

 

 ルーミアの叫びに便乗するように、ミスティア、チルノ、リグルも揃って変な理屈を叫ぶ。

 

「洗脳とか弾圧とか、こいつら意味知ってて言ってるのか?」

「多分知らないで言ってるね……」

「橙もどういう意味か分かんない」

 

 カルテットの悲痛な叫びに大妖精達は余計に表情を曇らせている。と言うよりは隣の部屋にまだ居るであろう慧音にみんなが怒られないかと、大妖精と橙は内心ヒヤヒヤしていた。

 しかしそんな心配などそっちのけで、カルテットの話題は既に違う話題へ突入していた。

 

「でもチルノは大ちゃんから宿題教えてもらえるからまだいいのだ〜」

「そういうルーミアだって霊夢に教えてもらえるじゃん!」

「霊夢は優しいから好きなのだ〜♪」

 

 チルノとルーミアは互いの先生役の話題で盛り上がり、

 

「ミスティアは妹紅さんに教わるの?」

「え、あ、うん。妹紅さんの都合が悪かったら、てゐちゃんと一緒に鈴仙さんに教わるけどね」

「永琳先生じゃないんだ。どうして?」

「お師匠様は診察とか研究があるから無理なんだよ。だから鈴仙に教えてもらってるんだ。姫様よりはマシな頭してるから」

 

 ミスティアとリグルはてゐも巻き込んで先生役の話題で盛り上がり、終いには橙も「橙は藍様に教わってる〜!」と参加してしまう。

 するとまたも話題は別な話題へと変わった。

 

「そう言えば、リグルはお菓子屋の兄ちゃんから教えてもらえるよね?」

「え、まぁ……うん……」

 

 チルノの急な話題振りにリグルは頬を少し赤く染めて頷いた。

 

 チルノが言った"お菓子屋の兄ちゃん"とは、人里で小さなお菓子屋を営む男のことで、この男はリグルの恋人なのである。

 彼の店には寺子屋の帰りなどにみんなで寄ることが多く、妖精だろうと妖怪だろうと分け隔てるなく接する彼の優しさに、心を惹かれたリグルが思い切って告白をして今に至る。

 

「いやいや、勉強は勉強でも夜の勉強じゃね?」

 

 てゐがニヤニヤしながらそんな話を振ると、その話題に無頓着なチルノやルーミア、橙は首を傾げるが、ちょっとおマセな大妖精やミスティアは急に顔を赤らめた。

 

「そ、そんなことないよ! おにぃはちゃんと宿題とかしないとしてくれな……はっ!」

 

 てゐの話題に猛抗議したつもりが、リグルは墓穴を掘る形になってしまった。

 

「へぇ〜……ヤることはヤってんのか〜……ふ〜ん」

「い、今のは言葉の綾で……」

「リグルちゃんって大人なんだね」

「次からお兄さんに会い難いね」

「大ちゃんとミスティアも変なこと想像しないでよ!」

 

 おマセな三人からの言葉にリグルは顔を真っ赤にして意見するも、てゐ達は「ラブラブ〜」と冷やかしてくるだけだった。

 更には何の意味か分かってないチルノ達も何故か便乗してきたため、リグルは「とにかくそんなことしてないから!」と叫んで、逃げるようにその場を後にした。

 

「あはは、真っ赤になって逃げてったな〜♪」

「行き先はお兄さんのところなのだ〜♪」

「ラブラブなのは否定しなかったもんね♪」

 

 てゐ、ルーミア、チルノは愉快に笑い合っていたが、一方のミスティア、大妖精、橙の三人は「ちょっと言い過ぎたかな」と少し反省していた。

 

「……お前達、早く帰りなさい」

 

 すると隣の部屋から慧音がまだ残っているチルノ達に声をかけた。

 チルノ達はみんなして返事をすると、慧音は「それと……」と言ってみんなへ言葉を更にかけた。

 

「リグルにはちゃんと謝ること。もし謝らなかったら制裁だ」

 

 ニッコニコの慧音の笑みにチルノ達は寒気を感じ、必死にコクコクと頷くのだった。

 それを見た慧音は「よし」と優しく微笑んで、帰っていくチルノ達を見送った。

 

 

 人里ーー

 

 その頃、リグルの彼氏が営むお菓子屋には、自分用の茶菓子や来客用の菓子を買いに霊夢が訪れていた。

 

「えっと、これとこれと……これもお願い!」

「はい、畏まりました」

「ツケでお願いね♪」

「……畏まりました」

 

 いつものようにツケを使う霊夢に、男は少し言葉を詰まらせながらも素直に返事をして菓子を紙袋に詰めた。

 

「お品物になります」

「ん、ありがと♪ 次の妖怪退治で入ったら払うから、それまではもう少し大目に見てね?」

 

 霊夢がそう言って上目遣いをすると、男は「はい」と返した。

 男は何か弱みを掴まれているのではなく、前に悪い妖怪から襲われたのを霊夢に救われた恩があるので、こうしてツケを利かせている。

 

「あ、後これ。換えの御札と破魔矢ね」

「いつもありがとうございます」

「いいのいいの♪ 融通利かせてくれてるお礼みたいなもんよ♪」

 

 ツケの額はかなりの額だが、ツケの代わりに清めの札や魔除けの矢を定期的に無料でくれる点から、何とかお互いに取り引きは成立しているのだ。

 

「ーーーぃ!」

 

 すると遠くの方から何やら声がし、その声は段々と近くなってきている。

 

「ーーーにぃ〜!」

 

 そして人影がハッキリと見える位置になると、

 

「おにぃ〜〜〜!」

 

 リグルが半べそで店にやってきて、思い切り男の胸へ飛び込んだ。

 

「ふぐぉ!?」

「おにぃ〜! おにぃ〜!」

 

 リグルからの強烈なタッコーを受けた男は、座敷の方まで飛ばされた。一方でリグルはそんなことお構いなしに、彼の胸に顔を埋めながら必死に何かを訴えている。

 

 状況の整理がついていない霊夢だったが、一先ずリグルに「落ち着きなさい」とリグルの頭を手でペシッと叩くと、リグルは「あ、うん」と言って覆い被さるのを止めた。

 

「あ、あんたがここに来たってことは寺子屋終わったのよね?」

「え、うん。そうだけど?」

 

 すると霊夢は「いっけない! ルーミア!」と言って急いで店から出て神社へと飛んで帰った。

 

 それをリグルは首を傾げて見送ると、男の方はやっと上半身を起こした。

 

「いったたた……今日は手荒な訪問だね……」

「あぁ、ごめんなさい!」

 

 彼が自身の胸を擦りながら起き上がるのを見て、リグルは謝りながら、慌てて自分も彼の胸を擦った。

 

「それで、何か嫌なことでもあったのかい?」

「え……嫌っていうか……なんと言うか……」

 

 リグルが歯切れ悪く答えると、彼は「ゆっくりでいいよ」と優しく言ってリグルの頭を撫でた。

 それからリグルは顔を少し赤らめて「あのねーー」とこれまでの経緯を話した。

 

 ーーーー

 ーー

 

「あっはっはっは……そういうことか、あっははは♪」

「もぉ、笑わないでよぅ!」

 

 リグルの説明に大爆笑の彼。そんな彼にリグルは顔を真っ赤にしながら彼の胸をポカポカと叩いて抗議する。

 

「ごめんごめん……でも、ふふふ……」

「むぅむぅむぅ!」

「はぁはぁ……よし、収まった」

 

 笑いが収まったのはいいが、リグルの方は完全に機嫌を損ね、彼の胸に顔を埋めて顔を合わせようとしない。

 

「リグル……」

「……知らない」

 

 フンッと鼻を鳴らすリグルに男は「笑って悪かったよ」と言いながら、リグルの頭をポンポンと優しく撫でた。

 

「確かに笑ったのは悪かったけど、馬鹿にして笑ったんじゃないんだよ」

「…………」

「チルノちゃん達にそうやって言われるほど、ラブラブだって気付かなかったからさ。こんなに幸せな状況なのに、自分が気付いてないと思ったら笑えてきたんだよ」

「…………♡」

「だからリグルを馬鹿にした訳じゃないんだ。許してくれないか?」

 

 そう言うと、リグルはゆっくりと男の方に顔を向けて唇を差し出すように目を閉じた。

要するに「キスしなきゃ許さない」と言っているのだ。

 彼はもう一度「ごめんね」と言って優しくキスをした。

 

「…………どうかな?」

「短かったからまだ許してあげない♡」

 

 顔では許していると分かっていても、リグルの言葉を聞いた彼はまた優しく笑って「分かった」と頷いて、今度は長い長いキスをした。

 

「ちゅっ……んっ、おにぃ、んんっ♡ ちゅぱっ、しゅき♡ んんっ♡ らいしゅきぃ♡ ちゅっちゅ♡」

 

 すっかり機嫌を直したリグルは自分の気が済むまで、彼の唇を離そうとはしなかった。

 そしてその現場をリグルに謝りにきたチルノ達に目撃され、更にからかわれたのは別のお話ーー。




リグル・ナイトバグ編終わりです!

リグルは妖怪なので大丈夫ということでお願いします!
今回は甘さ控えめでしたが、どうかご了承を。

ではではお粗末様でした☆

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