東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

23 / 109
恋人は朱鷺子。

おまけもあります!


香霖堂
朱鷺子の恋華想


 

 香霖堂ーー

 

 穏やかに時を刻む幻想郷。

 しかし、昼下がりを迎えた香霖堂では些か賑やかな時を迎えていた。

 

「こ〜り〜ん、何か食いもんないのか〜?」

「お茶のお代わりちょうだ〜い」

「君達は本当に遠慮と言うものを知らないな」

 

 レジ側のカウンター席に居座り、店主の霖之助へあれこれと注文をつける霊夢と魔理沙。

 霖之助は文句を言いつつも、こんなことは慣れっこなので煎餅やらお茶やらを甲斐甲斐しく用意している。

 

 霖之助をこうやって顎で使っている霊夢達は、店の片隅で読書に勤しむ朱鷺子へ声をかけた。

 

「朱鷺子も食べるか〜?」

「…………うん」

「お茶もあるわよ〜?」

「…………うん」

 

 朱鷺子は小さく頷くと、霊夢とは反対側の魔理沙の隣に座った。

 

「やっぱ、まだ霊夢に怯えてるのな」

「もう何もしないわよ……」

「…………」

 

 霊夢はそう言うが、朱鷺子は前に一度、霊夢にボコボコにされているため、霊夢へジト〜っと疑いの目を向けている。

 

「そ、それで? あんたはなんで珍しく香霖堂(こっち)に来てるの?」

 

 霊夢が慌てて別の話題を振ると、魔理沙も「そういやそうだな〜」と言って朱鷺子の方を見た。

 対する朱鷺子は「別に……」と言って目を逸らす。

元々物静かな性格なので、基本的に多くは語らないのだ。

 

「彼が今日は夕方まで帰って来ないらしくてね。それまで面倒を見てほしいと頼まれたんだ」

 

 店の奥から朱鷺子の分の湯呑を持って戻ってきた霖之助が代わりに答えると、霊夢と魔理沙は「なるほど」と納得したように頷いて茶をすすった。

 

 朱鷺子は随分前から人里で古書店を営む半人半妖の男と懇ろな関係になっている。

 何でも森で傷付いた朱鷺子をその男が見つけ、そして自分の家で介抱したことで話すようになり、朱鷺子もその男も本が好きという共通の趣味があるため、口数の少ない朱鷺子とでも別に会話しなくても心は通じていった。

そしていつしか二人は一緒に暮らすようになり、店ではいつも肩寄せ合って本を読んでいることから、人里の人々からは『シュガースポット』などという呼ばれ方をされている。

 

「夕方までってあいつ何してんだ?」

「何でも、紅魔館の図書館と鈴奈庵で傷んだ本の修繕をするとか言ってたな」

 

 魔理沙の疑問にまたも霖之助が答えると、魔理沙は「あ、そっか」と納得した。

 

「本の修繕とかでもお金になるからいいわよね〜」

「それだけあいつの腕は確かだってことだろ? 霊夢がやったら現物がなくなるじゃん」

「このお祓い棒で臨死体験させてあげようか?」

 

 霊夢が爽やか笑顔で魔理沙にお祓い棒を見せると、魔理沙は冷や汗を流しながら謝った。

そんな魔理沙を見て霊夢は「なら最初から言うな」と言って魔理沙の頭をポコンッと叩き、また煎餅を小動物のようにカリカリと小気味良い音を立てて頬張るのだった。

 

 すると黙ってそのやり取りを見ていた霖之助が湯呑を置いてつぶやいた。

 

「でもわざわざうちに預けなくても、彼の店に置いておけばいいのにな〜。どっかの魔法使いと違って金目の物は盗まないだろうし」

「そんな魔法使いが居るのか……魔法使いの風上にもおけないヤツが居るんだな。ヤレヤレだぜ」

 

 霖之助のつぶやきに魔理沙はそう言うが、その場に居た全員が魔理沙の方を呆れた顔で見ていることには気付かなかった。

 

「まぁ、一人にさせておくよりは誰かと居てもらった方がいいんでしょ。それに霖之助さんなら手は出さないでしょうから」

「それもそうだな〜。霖之助は枯れてるからな」

「酷い言われようだな。僕だって恋人くらい居るぞ?」

 

 その言葉に霊夢と魔理沙は衝撃が走った。それは霊夢が煎餅を落とし、魔理沙が茶を吹き出しす程。

 

「嘘だろ!? そんな話聞いたことないぜ!?」

 

 魔理沙の言葉に霊夢もコクコクと頷いている。

 

「聞かれなかったからね」

 

 そんな二人に霖之助は平然と返し、茶をすすった。

 

「魔法の森に住んでるんだよね?」

「あぁ、君は会ったことがあったんだったね。そうだよ」

 

 朱鷺子の言葉に霖之助がそう返すと、魔理沙が朱鷺子に詰め寄った。

 

「おい、その妖怪ってルーミアか!? だったら犯罪だぜ!?」

 

 すると朱鷺子は「ううん」と首を横に振った。

 それを見た魔理沙はホッと胸を撫で下ろすと、今度は霊夢が「じゃあ誰よ?」と訊いた。

 朱鷺子は勝手に答えてはいけないと思い、霖之助の方を見ると、霖之助は小さく息を吐いて「この人だ」と写真を見せた。

 

 その写真には霖之助とその隣でニッコリと微笑む、若く麗しい女性が写っていた。

 女性の見た目は十代後半か二十代前半で、目は切れ長で鼻も高く、かなりのベッピンである。腰まである長い黒髪は、まるで鳥の濡れ羽色のように藍色掛かっていて、その髪を一つに纏めて右肩から胸の方へ垂らしている。

 

「うわぁ……超美人……」

「男を騙す妖怪なんじゃね?」

「失礼な……彼女の手を良く見ろ」

 

 霖之助にそう言われた霊夢達は彼女の手に注目すると、その手には青い紙を貼り付けた行燈をぶら下げていた。

 

「青行燈なんて幻想郷に居たのね」

「あ〜、百物語すると出て来るっていう、あいつか〜」

「彼女は百物語の語り部でね。またに人里で彼女自ら話を披露してるんだ」

「私も前に、森で沢山聞かせてもらった」

 

 それから霊夢達は霖之助にどういう経緯で今に至ったのか訊ねた。

 しかし霖之助は「さぁ、どうだったかな」と話をはぐらかしつつ、その写真に写る彼女を見て優しく微笑むのだった。

 

 納得しない霊夢達が霖之助に詰め寄る中、カランコロンとドアベルが鳴ると、朱鷺子の彼氏とその青行燈が入ってきた。

 

「もうそんな時間か」

 

 霖之助が二人を見てから、窓の外を確認すると空はもう夕焼け色に染まっていた。

 一方で朱鷺子は男の側へ駆け寄り、彼と青行燈の間へ強引に入って、彼の腕にしがみついた。

 そんな朱鷺子を見て、青行燈は「あらあら」と笑って二人から離れてレジのカウンター席へ退散した。

 

「霖之助さん、朱鷺子の面倒を見てくれてありがとうございました」

「いいよ、これくらい。この二人より手が掛からないからね」

 

 霖之助に男がお礼を言うと、霖之助はそう笑顔で返した。

 そして朱鷺子とその男はみんなに一言言ってから、仲良く手を繋いで香霖堂を後にした。

 それを見送ると、霊夢や魔理沙は青行燈に詰め寄り、先程から霖之助がはぐらかしていた二人の馴れ初めを根掘り葉掘り訊いた。

霖之助は止めたが、青行燈の方は「どこから語ろうかしら♡」とノリノリで話をするのだった。

 

 

 帰り道ーー

 

「どうして青行燈(お姉)さんと一緒だったの?」

 

 帰り道の道中、朱鷺子が少し不機嫌そうに男へ訊いた。

 

「ん? 鈴奈庵から帰る時に出くわしたから。目的地も一緒だったから一緒に行っただけだよ?」

 

 男が平然と返すと、朱鷺子は「そう」とだけ返し、男の左腕をギュッと抱きしめた。

 すると男は何か思い付いたような表情を浮かべると、朱鷺子の頭をポンポンッと優しく叩くように撫でた。

 

「ん…………いきなり、何?♡」

 

 朱鷺子は不機嫌そうに訊きながらも、頭の方は「もっと♡」と言うように彼の腕にグリグリと押し当てられている。

 

「朱鷺子が可愛いから♪」

「え?」

「僕と青行燈さんが一緒に居たから嫉妬したんでしょう?」

「…………別に」

「僕は朱鷺子一筋だよ。これからもずっとね」

 

 男にそう優しく囁かれた朱鷺子は顔を真っ赤にして「知ってる♡」とだけ返した。

 そんな朱鷺子を男は一層愛らしく思い、朱鷺子の頬へソッとキスをした。

 

「い、いい、いきなり何!?♡」

「朱鷺子のことが好きって気持ちが一杯になったから♪」

 

 朱鷺子の言葉に男は悪戯っぽい笑顔を見せて答えると、朱鷺子は「バカ♡」と言って、嬉しそうに羽をパタつかせるのだった。

 

「もっとしてもいいのよ?♡」

「はいはい♪」

「〜♪♡」

 

 それからも二人は互いに頬へキスをし合い、肩寄せ合って帰り道を歩き、すれ違う人々に砂糖を振り撒いたそうなーー。




 おまけーー

 香霖堂ーー

「はぁ〜……」

 霊夢達もやっと帰り、霖之助は盛大なため息を吐いた。

「んふふ〜♡」

 その一方で霖之助の恋人である青行燈は満足気に笑っていた。

 朱鷺子達が帰った後、青行燈は霊夢達の質問に事細かく答え、霖之助との恋物語を暴露したのだ。

「語り部ってのは人の嫌がる話も語るんだね……」
「霖之助さんはあたしとの甘いお話はお嫌い?」
「嫌いなら君とこんな関係になってない。ただ魔理沙達に聞かれたくなかっただけだ」
「ふふ、照れなくたっていいじゃない♡」

 青行燈はそう言うと、隣に座る霖之助の頬をツンツンと突いた。

「君は何もかも話し過ぎなんだよ、前から……」
「あたし達の関係は何も隠すようなことは無いもの♡ あたしと霖之助さんはこんなにラブラブなのよってみんなに教えてるだぁけ♡」

 霖之助にそう返した青行燈は霖之助の腕にギュッとしがみついて頬ずりした。

「もっと慎んでほしいね」
「あら、人里であんなに熱い告白をしてくれたのに?♡」
「あれは君がそういう状況に持っていったからだ!」
「じゃあ、そんなあたしはもうお捨てになる?」

 青行燈がそう訊ねると、霖之助はたじろぎ、誤魔化すように茶の入っていない湯呑をすすった。
 そして、

「…………好きなものは手放さない主義だ」

 とそっぽを向いたまま青行燈の手を握った。
 青行燈はそれを聞いて嬉しそうに顔を緩め、霖之助の肩に頭を預けるのだったーー。

ーーーーーー

朱鷺子編、そして少しですが森近霖之助編終わりです!

東方香霖堂の方が永夜抄より早く登場したので、こちらを先に書きました!
朱鷺子は元々は名無しキャラですが、好きな方も居るので大妖精や小悪魔と同じくこの作品でも取り上げました♪
次からは永夜抄のキャラを書いていく予定です!

今回は甘さ控えめだったかもしれませんが、お粗末様でした〜☆

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。