東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人はリリカ。


リリカの恋華想

 

 人里ーー

 

 今日も今日とて穏やかな昼下がりの幻想郷。

 そんな昼下がりをプリズムリバー三姉妹はライブを終えた後で、小さな洋風茶屋に立ち寄って紅茶と洋菓子を楽しんでいた。

 

「人里のライブが終わるとここに来るのが定番になったわね……」

「いいじゃん、別に♪ お兄さんも素敵だし♡」

「紅茶もケーキも美味しいわよね〜♪」

「だよねだよね♪ お兄さんも素敵だし♡」

 

 ルナサとメルランの言葉に反応するものの、結局は同じセリフを放つリリカ。

 

「……はぁ」

「んふふ♪」

 

 そんなリリカにルナサは半分呆れた感じにため息を吐き、メルランは愉快そうに笑っていた。

 

「お兄さんまだかな〜♡」

 

 姉達からどう思われていようとお構い無しのリリカは目的の"お兄さん"が来るのを待っていた。

 

 リリカの"お兄さん"はここの洋風茶屋を営む男性であり、リリカの恋人でもある。

 リリカが一人で人里を探検(迷子)している時にたまたま来店し、二人は出会い、彼の優しい人柄に惹かれたリリカの猛烈アタックによって数週間前に二人は晴れて恋仲となった。

 

「お待たせしました。日替わりケーキセットになります」

「わぁ、今日も美味しそう♡」

「今日のケーキはモンブランケーキです。セットの紅茶はアッサムですので、是非ともミルクティーにして味わって頂けると幸いです」

「モンブランだなんて初めて見たわ」

「名前は知ってたけど実際に見たことはないわよね〜」

「このケーキは十六夜咲夜さんから教わりました」

「あのメイド長ってホントに何でも出来るんだね……」

 

 すると彼は最後に中くらいサイズの蓋付きバスケットを三姉妹のテーブルに乗せた。

 彼がその蓋を開けると、そこには三姉妹のそれぞれの顔がココアパウダーでプリントされた直径約五センチサイズのクッキーが所狭しと詰まっていた。

 

「こちらはいつもご贔屓にしてくださる皆様へ、私からのサービスです。皆様のお家でお召し上がりください」

「わぁ〜、ありがとう、お兄さん♡」

「ご馳走様です。次来た時にバスケットはお返ししますね」

「ありがとうございます〜♪」

 

 三姉妹がお礼を言うと男性はニッコリと笑みを返し、また一礼してカウンターへ戻った。

 

「んへへ〜、いつ見てもス・テ・キ〜♡」

「はいはい」

「ふふ、早速頂きましょ〜♪」

 

 恋人から目を離そうとしないリリカは放っておいて、ルナサはミルクティーを口に含み、メルランはモンブランケーキを食べた。

 

「ん……相変わらずいい味してるわ。レミリアさんがここの茶葉を買い付けてるのもよく分かる」

「ケーキもすっごく美味しいわ〜♪ 咲夜さんのケーキも好きだけど、ここのケーキも好き〜♪」

「むふ〜ん、恋人が姉さん達に褒められるのって自分も褒められてるみたいで、何か誇らしいわ♪」

 

 鼻高々に言うリリカだがルナサは「別にリリカは褒めてない」とその鼻をへし折った。

 しかしそれでもリリカは何も気にする素振りも見せず、ただただ目をハートマークにして彼の横顔や背中を追うのだった。

 

 ーー。

 

 それから暫く経ったが、リリカは今でもテキパキと仕事をこなす彼を眺めながら紅茶やケーキを口へ運んでいた。

 

「リリカ、食べるか見るかのどちらかにしなさい」

「お行儀悪いとお兄さんがガッカリしちゃうかもしれないわよ〜?」

「うぅ〜……分かった……」

 

 リリカは渋々といった感じで頷き、見るのを止めてやっと正面を向いた。リリカとしては一人で来た時のいつものスタイルだったが、改めて考えるとちょっと不安になってしまった。

 

「愛想尽かされてたらどうしよ……」

「どうしよって言ったってねぇ……と言うか、今更心配するのね」

「だってぇ〜」

「もし愛想尽かされたらここまで贔屓しないと思うけど?」

 

 ルナサがそう言うとメルランも笑顔でコクコクと同意する。

そんな二人に対してリリカが「贔屓?」と言って小首を傾げると、ルナサは無言で先程彼から受け取ったバスケットを指差した。

 

「クッキーがどうかしたの? 私達へのサービスでしょ?」

「中身を見れば分かるわよ」

 

 ルナサが呆れ気味に言うと、その隣に座るメルランはまたも笑顔でコクコクと頷いた。

 リリカは「ん〜?」と首を傾げてバスケットの蓋を開けるが、やはり最初に見た時と同じく三姉妹の顔がプリントされたクッキーが詰まっていただけだった。

 何が何だかサッパリといった感じで左右に首を傾げるリリカに見かねたルナサが「貸して」と言ってバスケットを取った。

そこからルナサが三枚のクッキーを取り出して、リリカへ手渡した。

 

「私達の顔が上手にプリントされてるね」

「それだけじゃないのよ」

「そうかな〜?」

「ふふふ、リリカちゃんクッキーの上を見れば分かるわよ〜♪」

「ん〜……っ!?」

 

 リリカはそれを見て思わず赤面した。

 何故かと言うと、リリカの顔がプリントされたクッキーにだけ、スタンプで小さく『Cutie』という文字が刻まれていたから。

 

「その言葉だけじゃなくて他にも『Sweetie』・『Honey』・『Juliet』・『Angel』って刻まれてるクッキーがどっさりよ」

「どの言葉も恋人に対して使う言葉よね〜♪」

「あぅあぅあぅ〜……♡」

 

 リリカは頭から湯気を出す程赤面していた。しかし目ではしっかりとそのクッキーを捉えていた。口角の方も上がりに上がっていて、その口からは「ふひひ♡」と何やら怪しい声をもらしている。

 そんなリリカを見てルナサは両手を小さくあげて「やれやれ」と言った感じに首を横に振り、メルランは「あらあら〜♪」と口を押さえて笑った。

 

 バスケットの中のクッキーを眺めながら締まりのない顔をするリリカだったが、ふとある文字が目に入った。

 

「ねぇねぇ、ルナサ姉さん」

「今度は何?」

「これ何て読むの?」

 

 そう言ってリリカは気になった文字が刻まれたクッキーをルナサへ見せた。

 ルナサはその文字をじっくりと見たが分からなかった。なのでメルランの方に視線を向けると、メルランも「分からないわ」と言った具合いに首を横に振った。

 

「B・a・eで何て読むのかな〜?」

「普通の読み方なら『ベイ』とか『ベー』だけど、意味は分からないわね〜」

「気になるなら聞くのが一番でしょ」

 

 そう言ったルナサは透かさず「すみませ〜ん」と彼を呼んだ。

 彼はすぐにその声に返事をしてルナサ達のテーブルの側へやってくると、丁寧にお辞儀をした後に「どうされました?」と訊ねた。

 

「ねぇねぇ、お兄さん。このB・a・eってどう言う意味なの?」

 

 リリカが気になっていることをそのまま彼に訊ねると、彼の表情に少し動揺の色が見えた。

それでもすぐに普段の表情へ戻った彼は小さく深呼吸をしてから、ニッコリと微笑んで答えた。

 

「その言葉は『before anyone else』の頭文字を取った略語です」

「お〜、で、その言葉の意味は!?」

「『他の誰よりも優先して』という言葉になるそうです。パチュリーさんから教えて頂いた言葉で、せっかく教えて頂いたので愛するリリカさんへ送ろうと思いまして……」

「ふぇ……」

 

 彼が珍しく少し早口で説明しながらほんのりと自身の頬を紅潮させると、その説明を聞いたリリカもポッと頬を赤く染めた。

 

「言葉はいつも進化するのね……凄いわ」

「素敵な言葉ね〜♪ こっちまで熱くなっちゃうわ〜♪」

 

 ルナサの言葉はともかく、メルランの言葉に二人は恥ずかしさのあまり同時に顔を伏せた。

 しかし、それと同時にリリカは彼の手をキュッと握った。

 

「リリカさん?」

 

 リリカの行動に思わずリリカに彼が訊ねると、とリリカは少しだけ顔を上げ、彼の顔……瞳を見て、

 

「わ、私も、ね……」

 

 と前置きした。

 彼は思わず生唾を飲み込み、次の言葉を待った。

 

「お兄さんのことがどんなことよりも最優先だよ?♡」

 

 言葉を絞り出すように上目遣いで言ったリリカは、言い終わってからすぐにまた顔を伏せた。

しかしそれとは真逆に手では彼の手をギュ〜ッと握りしめいた。

 すると彼はその場で片膝を突き、リリカの手を両手で優しく包んだ。

 そして、

 

「ありがとうございます。これからもリリカさんを大切にします」

 

 と優しい笑顔で伝え、リリカの手の甲へソッとキスをした。

 それが終わると彼は照れ隠しなのか、その場から急ぎ足で厨房の方へと姿を消した。

 

「うぇ、うぇっへへへ〜♡」

「もう少しマシな笑い方しなさいよ」

「でも雰囲気は激甘ね〜♪」

 

 その後リリカは廃洋館へ帰ってからもその笑い声をあげ続けたそうなーー。




リリカ・プリズムリバー編終わりです!

ちょいとロマンチックな感じにしましたが、リリカらしさ(?)は残した感じのお話にしました!

お粗末様でした♪

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