東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人はメルラン。


メルランの恋華想

 

 廃洋館ーー

 

「〜♪ 〜〜♪」

 

 メルランはメロディを口ずさみながらご機嫌な様子。

 朝早起きして髪をセットし、何度も何度も鏡の前で百面相してた。

 

「随分ご機嫌ね、メルラン」

「そりゃあ恋人と会うんだからルンルンっしょ♪」

 

 そんなメルランを眺めるのは姉のルナサと妹のリリカだった。

 そしてリリカが言ったように、メルランはこれから恋人に会いに行くのだ。

 

 メルランのお相手は人里でライブハウス兼バーを営む男性で、プリズムリバー三姉妹を始め、鳥獣伎楽、堀川雷鼓、九十九姉妹といった者達の演奏の場なっている。

 そしてメルランはその男性とつい数ヶ月前にお付き合いすることになったのだ。

 

「メルランが幸せならそれでいいわ。もしメルランを悲しませるなら、相手を鬱にしてメルランが居ないと生きていけない精神状態にしてあげよう」

「そんな物騒なこと考えないでよ……」

 

 不気味な笑みを浮かべて言うルナサにリリカは「洒落にならん」と言った感じにツッコミをいれた。

 するとメルランがクルリとルナサ達の方を向いた。

 

「姉さん、リリカ、そろそろ行くわね〜♪」

 

「え、あぁうん、行ってらっしゃい」

「お土産よろしく〜♪」

 

 こうしてメルランは自分の周りに音符を飛ばして、珍しくスキップしながら出ていった。

 そんなメルランを見送ったルナサとリリカは優しい微笑みを送るのだった。

 

 

 人里ーー

 

 人里の彼の店までひとっ飛びにやってきたメルランは、彼の店の中に入る前に髪や服を整えていた。

 彼に会いたい一心だったのでメルランは髪も服もボサボサになってしまったのだ。

 

(Danger Z○neなんて口ずさまなきゃ良かったわ〜)

 

 そんな後悔をしつつ整えていると、お店の中から何やら楽器の音が聴こえてきた。

 

(この音色は……ハーモニカかしら?)

 

 その音色はとても優しく、音楽を心から愛している者が奏でるものだった。メルランはその音色に聴き惚れていたが、あることに気がついた。

 

(そういえば誰が演奏しているのかしら?)

 

 ライブハウスは地下に作ってあり、一階はバーである。

そして更にはこの店の営業時間はいつも夕方からなので、こんな日が高い内から楽器の音色が聞こえるはずがないのだ。

 

 メルランはドアの高い位置にソッと張られているガラスから中の様子を伺った。

もし誰が演奏しているのならドアを開ける音でせっかくの演奏の邪魔なってしまうからだ。

 

(ごめんくださ〜い……っ!?)

 

 覗いた窓の向こうの光景にメルランは驚いた。

 

『〜〜〜♪』

 

 ハーモニカを演奏していたのは自分の恋人だったからだ。

 

(えぇぇぇ!? 音楽が好きなのは知ってたけど演奏もするだなんて知らなかったぁぁぁ!)

 

 付き合って数ヶ月。知り合ってから一年近く。メルランがこの時に初めて知った彼の一面だった。

 そしてメルランは改めてその音色に耳を澄ました。

 

 それはどこまでも優しくて、どこまでも澄んでいる空ようにメルランの心を包んだ。

 

(あ〜……こんなにも優しい音色は初めてだわ……いつまででも聴いていたくなっちゃう……)

 

「お母さん、あの子何を見てるのかな〜?」

「しっ! 見ちゃ駄目よ!」

 

 その通りすがりの親子の会話でメルランは自分の今の姿にハッとした。

 今の自分は傍から見れば、ふわふわと浮かんでドアの窓からこの店の中を覗く不審者なのである。

 

(降りよ……)

 

 恥ずかしくなったメルランは浮かぶのを止め、地上に立ち、今度は辺りをキョロキョロと見渡した。

 

(さっきの親子しか見てた人居ないわよね?)

 

 そして周りに誰も居なかったことを確認したメルランは大きく深呼吸をした。

 

(よし、入ろう!)

 

 そう思った矢先、

 

「おはよう」

 

 店のドアを開けて男性が声をかけたのだ。

 

「おおお、おはおはおはよう!」

 

 すっかり気が動転したメルランは盛大にどもってしまった。

 そんなメルランに男性は「そんな挨拶初めて聞いた」と可笑しそうに笑って言うのだった。

 メルランは恥ずかしさのあまり顔から火が出るんじゃないかというくらい、カァ〜ッと真っ赤にさせた。

 

「はは、そんな真っ赤になるメルランは初めて見たな。入れよ、メルラン」

「お、お邪魔しま〜す」

 

 中に入り、お店の奥にある彼が寝泊まりしているだけの和室に通されたメルラン。

 そこには男の部屋としては不釣り合いな淡いピンク色の座布団がある。これは彼がメルラン用に買った座布団であり、メルランの特等席だ。

いつも通りその座布団に座ったメルランに彼は透かさずコーヒーを淹れた。

 

「ほい。これでも飲んで落ち着け」

「いただきましゅ……」

 

 言葉を若干噛みながらコーヒーカップを受け取ったメルランは、早速一口含んで落ち着こうとした。

 

(あ……)

 

 そしてメルランはいつも通り、何も言わなくても既に入っているお砂糖の甘さにホッとした。

 

「で、何で店の前に来た時からワチャワチャやってたんだ?」

「うぅ〜……せっかく落ち着いたのに〜」

「落ち着いたから話せるんだろ?」

「イジワル〜」

「その意地の悪い男と付き合ってるのは誰だったかな〜?」

「〜〜♡」

 

 彼の意地悪な質問にメルランはボソボソッと答えた。

 しかし彼は「聞こえな〜い」とわざとらしく言ってメルランを困らせた。

 そしてメルランはまた顔を赤くし、

 

「わ・た・し!」

 

 とハッキリと答えた。

 そんなメルランに彼は「は〜い、よく言えました〜♪」と悪戯っ子のような笑みを見せ、メルランの頬を優しく撫でた。

 

「もぉ……本当にイジワルなんだからぁ〜」

「好きな女ほど悪戯したくなる男心なのさ」

「ああ言えばこう言う……もう♡」

 

 すると彼はまた笑った。そしてメルランに「すまんすまん♪」と言葉だけの謝罪をした。メルランとしてはこんな愛らしいことをされては許すほかなく、悔しいとただただ思った。

 

 一頻り笑った後で、彼はまた先程と同じく「店の前で何してたんだ?」と訊ねてきた。そしてメルランは観念したかのように素直に白状した。

 

「お店の前に着いたらハーモニカの音が聴こえてきて……誰が演奏してるのか気にってドアの窓から見てました。これでいい?」

「うん、満足♪」

(あの顔は絶対に知ってて訊いてる……だって私をからかって楽しそうにしてる顔だもん)

 

 メルランはそう考えながら彼の顔を「むぅ〜」っと恨めしそうに睨んだが、彼はそんなのは一切気にしない風にクスクスと笑っていた。

そんな彼の笑顔にメルランはキュンと来てしまい、先程までのことはもう忘れてしまったかのように顔をニャァっと緩めるのだった。

 

 ーー。

 

 そして落ち着いたメルランは彼に素朴な疑問を訊ねた。

 

「あ、そう言えば、どうして楽器出来るってこと黙ってたの?」

「訊かれなかったから」

「…………」

「訊かれなかったから」

「二度も言わなくていいわよ!」

 

 彼の対応にメルランが顔を真っ赤にして言うと、彼はふと真顔になった。

 

「まぁ……なんつうか、今のは冗談なんだけどさ」

「知ってるわよ」

 

 フンッと鼻を鳴らしてメルランがそっぽを向くと、彼は苦笑いを浮かべて言葉を紡いだ。

 

「黙ってたっていうか……話せなかったんだよ。ごめん」

「どうして?」

 

 すると彼は頬を少し赤くし、急にソワソワと落ち着きなく目を泳がせた。

 

「…………メルランが吹くトランペットの音色に惚れて、楽器始めたからな……俺は」

「へ?」

 

 彼の言葉にメルランは思わずボンッと顔が真っ赤になった。

 一方の彼も更に頬を紅潮させ、照れ隠しなのかしきりに頭を掻いている。

 

「まぁそんだけの話だ……」

「うん……えへへ♡」

「何笑ってんだよ」

「だって……えへへ〜♡」

(そんなこと言われて嬉しくない訳ないじゃないの〜♡)

 

 ニヨニヨと笑うメルランを見て、彼はとうとう耐え切れずに「コーヒー淹れ直してくる」と言って立ち上がってしまった。

 そんな彼にメルランは「私も行く〜♡」と言って彼の背中に飛び付いた。

 

「な、い、いいよ! いいから座ってろよ!」

「やだ〜♡ 寂しい〜♡」

「〜〜!!」

「今度セッションしましょうね♡」

「…………気が向いたらな」

 

 照れ臭そうにしながらもちゃんと笑顔で言った彼に対して、メルランは満面の笑みで「うん♡」と返した。

 

 それから更に数ヶ月後、メルランと彼が奏でる明るく優しい音色は、たちまち幻想郷中に響き渡るようになるーー。




メルラン・プリズムリバー編終わりです!

恋人の前だと振り回されるメルランにしてみました!

お粗末様でした☆

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