東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人はルナサ。


ルナサの恋華想

 

 廃洋館ーー

 

 霧の湖の近くにあるプリズムリバー三姉妹が暮らす廃洋館。

 ライブの無い日はいつも楽器の音が鳴り響いているこの廃洋館だが、今日ばかりは悲鳴のような声が響き渡っていた。

 

 何故なら、

 

「………………」

 

 ルナサがいつも以上にどよ〜んと暗いのだ。

 

「姉さん、何かあったの?」

「私達で良ければ話聞くよ?」

 

 そのルナサのどんより加減に悲鳴をあげたメルランとリリカだったが、二人はすぐにそう言ってルナサの側へ歩み寄った。

 

 するとルナサが掠れるような声で「彼が来ない……」と言った。

 

「彼?」

「あぁ、姉さんの恋人のことね?」

 

 メルランがそう確認するとルナサはゆっくりと頷いた。

 

 ルナサは半年程前から人里に住んでいる若い画家の男と恋仲になっているのだ。

 

「きっとあの女の所に行ってるんだわ……」

 

 ルナサの言葉に二人は驚愕した。何故ならあれだけルナサ一筋だった青年が浮気をするだなんて考えもしなかったからだ。

 

 二人がルナサに詳しく事情を訊くとルナサは淡々と説明した。

 

 それは今から三週間程前。彼が作品制作に集中したいとのことで今日までは会えないと言ってきた。

ルナサは寂しいと思いながらも、彼の絵に対する誠実さを分かっていたので「分かった」と頷いた。

 そしてついこの前、姉妹で人里へライブをしに行った時に問題が起こった。

その日のライブは無事に終えたが、その帰り際にルナサは彼の後ろ姿を見つけた。

彼に会いたかったルナサは急いで彼の背中を追いかけようとしたが、足が止まった。

 何故なら彼の隣に知らない女性が居たから。

 ルナサは彼が浮気をするなんて考えたくなかったが、約束のこの日に彼がまだ来ないということはそういうことなのだろうと思い、絶讃落ち込み中なのである。

 

「何かの間違いじゃないの?」

「そうよ。あんなに仲良かったじゃない」

「人の心なんて所詮そんなもんなのよ……」

 

 二人の言葉にもやさぐれて返すルナサ。

 するとメルランがルナサの肩をガシッと掴んだ。

 

「まだ好きなでしょう!? このまま黙ってるつもりなの!?」

「メルラン……」

「そうだよ! 兄さんはルナサ姉さんと結婚して、私の本当の兄さんになるの楽しみにしてるのに!」

「リリカ!?」

「とにかく何もしないでいるより、何か行動しましょう! じゃないと私達だって納得出来ないもの!」

「でも、どうすればいいのか分かんない…………」

 

 するとメルランが「私にいい考えがある」と言ってニヤリと笑った。

ルナサは不安になったが、彼に捨てられたくないという気持ちの方が勝り、メルランに言われた通りにした。

 

 ーー。

 

 そして太陽が下がってきた昼下がり。

 例のルナサの彼氏が廃洋館へとやってきた。

 

 リリカに出迎えられ、メルランにルナサの部屋へと案内された彼は、ルナサの部屋のソファーに座ってルナサが来るのを待っていた。

 

「(ねぇ、本当にこれで彼を取り戻せるの?)」

「(大丈夫大丈夫。紅魔館の図書館で読んだ本に、たまにはこういうことをすると燃え上がるって書いてあったもの!)」

「(きっと兄さんも惚れ直してくれるよ!)」

「(うぅ〜)」

 

 そしてルナサは妹達に背中を押されて部屋へと入った。

 

「お、お待たせ……」

「あぁ、いいよ気にしなくて。僕の方こそ来るのが遅くなってごめんね」

 

 彼が深々と頭を下げると、ルナサは慌てて「平気だから」と言って、彼に頭を上げるよう促した。

 彼が頭を上げてルナサに「ありがとう」と言って笑顔を見せると、ルナサの胸はトクンと高鳴った。

それもそのはず。ルナサはこの彼の笑顔で恋に落ちたのだ。そして三週間振りの彼の笑顔なのだからいつも以上に胸はときめいていた。

 

 それからルナサが彼のすぐ隣に腰を下ろすと、彼は透かさずルナサの肩を抱き寄せた。

 

「ちょ、ななな、何!?」

「嫌だったかな? せっかくこうやってルナサとちゃんと会えたから、もっと君を近くで感じたかったんだ。嫌なら離すよ」

「そんなこと言われたら答えは一つしかないじゃない……バカ♡」

「ありがとう……ルナサ……会いたかった」

 

 彼はルナサに優しく囁き、ルナサの肩だけではなく腰にまで手を回して抱きしめていた。

 ルナサは嬉しいやら恥ずかしいやらで目がグルグルと回ったが、両手だけはちゃんと彼の背中に回してギュッと彼を抱きしめていた。

 

 ーー。

 

「ねぇ、あれで本当に浮気してると思う?」

「嘘が上手ならあり得るけど、いつもの姉さん達と変わらないわね〜」

 

 そんな話をしながらルナサ達をドアの隙間からこっそりとメルランとリリカが観察していた。

 仮に自分達の大切な姉を悲しませるものなら、いくらルナサの恋人といえど、二度と忘れないポルターガイストの恐怖の旋律を奏でようとしているのだ。

 

「ルナサ姉さんすっごく赤くなってるね〜。大丈夫かな?」

「こう見ると姉さんも乙女よね〜♪」

「と言うか二人して抱きしめ合ったままで、まったく会話しないね」

「でもそろそろ動くんじゃない?」

 

 ーー。

 

「ルナサ、今日はコート着てるんだね」

「え、あぁ、うん……」

 

 回した手はそのままで少し体を話した二人は、互いの鼻がくっつきそうな距離で会話する。

 彼が言ったように今のルナサは黒のオーバーコートを羽織っているのだ。

 

「違う服装を見るのは新鮮でいいね。凄く似合ってるよ」

「そう♡」

 

 彼から褒められたルナサは嬉しさのあまり顔がフニャっと蕩けた。

 

「本当に君みたいな可愛い女性が恋人で僕は幸せだよ」

 

 するとルナサはピクッと肩を震わせた。何故ならまだあの疑いは晴れた訳ではないから。

 彼の『恋人』という単語でそのことを思い出したルナサはグッと彼から体を離した。

 

「ルナサ?」

「私ね……見ちゃったの」

「何を?」

「あなたが私以外の女性と並んで歩いているところを……」

 

 すると彼は一瞬驚いた顔を浮かべるとすぐに、

 

「あ〜、やっぱり見られちゃってた?」

 

 と素直に言葉を返した。

 

 その言葉にルナサはその場から立ち上がり、彼の真正面に立った。

 

「ルナサ……?」

「私、あなたが好き……大好き……誰にも、渡したくない……!」

「気持ちは嬉しいけど、急にどうしたの?」

 

 するとルナサはガッとオーバーコートを脱いだ。

 

「っ!!!?」

 

 彼はルナサの姿に言葉を無くした。

 何故ならルナサはいつもの服装ではなく、胸元がダイヤモンド型にぱっくりと開いた黒のセーターワンピースを着用していたからだ。

丈もミニで太腿から下がハッキリと見え、更には控え目だがちゃんと自己主張している谷間がしっかりとこんにちはしている。

 

「め、メルランが男の人はこういう服が好きだって言ってた……私もこういう服、似合うか分からないけど、ちゃんとあなた好みの女になる」

「…………」

「だから……だから、私を捨てないで!」

 

 ルナサは彼の膝にすがりつき「お願い……それくらいあなたが好きなの」と声を震わせた。

 

「あの〜……凄く言い辛いんだけど……落ち着いて聞いてくれる?」

 

 彼がルナサの頭を撫でながら訊くと、ルナサは彼の目を見てコクコクコクコクと必死に頷いた。

 

「ルナサが僕と女の人が歩いてたのを見たのって、人里でライブやってた日だよね?」

「うん……」

 

 すると彼は「あちゃ〜」と言った顔を浮かべた。

 

「…………あの時一緒に歩いてたのはね……」

「…………」

「僕の妹なんだよ」

「へ?」

「妹が僕の恋人がどんな人のかしつこく聞くもんだからさ……直接会わせるのはルナサも緊張するだろうから、敢えてライブのルナサを見せに妹を連れて行ったんだよ」

 

 その説明から数秒の沈黙後、ルナサはボンッと音を立てて耳まで真っ赤にして自分のベッドに潜り込んでしまった。

 

「にゃうにゃうにゃう〜!」

 

 掛け布団を被り、その中でジタバタしながら羞恥に苛まれるルナサ。

 彼はそんなルナサの側へ行き、布団の上からルナサ背中ら辺をポンポンと優しく叩きながら「誤解させるようなことしてごめん……」と謝ると、ルナサは「私こそごめんなさい」と消え入りそうな声で謝った。

 

「その……その服も、凄く似合ってるよ。可愛い」

「うるさい……♡」

「もう一度今のルナサをじっくり見たいんだけど……ダメかな?」

 

 するとルナサはバサッと布団から出て、彼をベッドに押し倒して、それでまた布団を被った。

 

「布団の中なら暗いから、見てもいいわ♡」

「真っ赤になってるルナサ可愛い♪」

「や、やっぱり見ちゃダメ♡」

「もう遅い♪」

「あ、どこ触って……はんっ♡」

「三週間も我慢したんだ。じっくりとルナサの音色を聞かせてもらうよ♪」

「そ、そこは弾くところじゃ……んんっ♡」

 

 ーー。

 

「あらあら〜……大人の演奏会になっちゃったわね〜♪」

「結局ルナサ姉さんの勘違いだったわけか〜。本当に人騒がせなんだから」

「ふふ、そうね〜。さ、私達は二人のセッションの邪魔にならないように退散しましょう」

「そうだね♪ ルナサ姉さんが一方的に鳴るだけだし……」

 

 その後、ルナサは彼の前だけ、色んな衣装を着るようになったそうなーー。




ルナサ・プリズムリバー編終わりです!

ちょっと最後はんんんっ?てな感じになりましたがご了承を。

ではではお粗末様でした☆

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