東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人はリリー。


リリーの恋華想

 

 人里ーー

 

 人里のとある一角に小さな花屋があった。

 その花屋を経営するのは若い青年ただ一人。

 しかし、季節の様々な花をあの風見幽香から仕入れるため、知る人ぞ知る名店とささかやれている。

 

「いやぁ、今回もいい花をありがとうな! また必要になったら買いにくるよ!」

「ありがとうございます。今後ともご贔屓に」

 

 墓参りのための花を購入した中年の男は青年の肩をバシバシと叩いて店を後にした。

 青年がお客を店の前まで出て見送っていると、ふと自分の背中に暖かな気と小さな気配を感じた。

 青年は「あぁ、今日も来てくれた」と心から喜んで振り返ると、

 

「来ましたよ〜♡」

 

 春の桜のような可憐で愛くるしい妖精、リリーホワイトが立っていた。

 青年とリリーは恋人同士で、リリーはここ最近は毎日店に訪れている。

 

 最初は季節外れな春の花につれられてリリーがこの店に訪れ、それがすっかり気に入ったリリーはそれからも頻繁にここを訪れるようになった。

 そしてリリーはいつしか青年に惹かれ、青年もリリーに惹かれていて、二人は互いに特別な存在となった。

 

「いらっしゃい、リリー。今日も来てくれて嬉しいよ」

「私もあなたに会えて嬉しいです〜♡」

 

 彼に優しく抱きしめられるリリーの周りには、季節外れの桜が舞い散るほど春が訪れていた。

 

 そして二人は互いの顔を笑顔で見つめ合いながら店の中へと入っていった。

 

 ーー。

 

 店の中に入ると今はお客も居ないため、二人は店の奥にある座敷へ上がり、窓からの日差しを浴びながら過ごしていた。

 リリーは彼の膝の上に乗り、彼に後ろから優しく抱きしめられ、嬉しそうに笑顔の花を咲かせる。

 

「リリーは本当にポカポカして抱き心地がいいな〜」

「えへへ、もっとギュ〜ッてしてもいいですよ〜?♡」

「そんな風にするとリリーが苦しいだろ?」

 

 すると、リリーは体ごと彼の方へ振り向き、彼の顔をグイッと自分の方へ固定した。

 そんなリリーの表情はどこかとても真剣で、真っ直ぐに彼の瞳をジッと見つめている。

 

「どうしたのリリー?」

「苦しいだなんて思いません……あなたにされることなら、それは全部私の幸せです」

「リリー……」

「あなたに会えない時間、あなたと触れ合えない時間……これ程、苦しい時間は私にはありません」

「…………」

「ですから、もっともっと強く抱きしめてください。あなたと離れても、この瞳を閉じた時に瞼の裏でもあなたをハッキリと映し出せるように……♡」

 

 そう言ってリリーは彼にキュッと抱きついた。その手はいつもより力強く、まるで『もう離れたくない』と言っているようだった。

 そんなリリーに彼は「俺も同じ気持ちだよ」と優しく囁き、彼も負けじとリリーの小さな体をギュッと力強く抱きしめた。

 

「んぁ……♡」

「あ、ごめん。痛かった?」

「いいえ……今のはその……嬉しくて、つい♡」

「嬉しくて?」

「はい……普段優し過ぎるくらいの抱擁しかされませんでしたから、いざこうして強く抱きしめてられると……あなたと一つになっているような、そんな気持ちになって……♡」

「っ!?」

 

 両方の頬を桜色に染めた上に上目遣いでそんなことを言われるのだから、至近距離でされた青年としては、胸が高鳴るなんて言葉では計り知れないくらいの衝撃と高鳴りが押し寄せていた。

 

「リリー……」

「あ……♡」

 

 その証拠に彼はリリーの顎をいつもより少し強引に自分の方へクイッと向ける。リリーは彼のそんな行動に心がときめき、その瞳には彼の姿しか映し出されていなかった。

 リリーがソッと目を閉じて唇を彼に差し出すと、すぐに彼の唇がリリーのその唇に重なった。

 

「ん、ちゅっ……ちゅっ、んぁ、好き、はむっ♡ らいしゅき、んんっ、でしゅ、ちゅっ……♡」

「りり、ぃ、ちゅっ……んんっ」

 

 春ではなく常夏くらいの熱い口づけを交わす二人。

 そしてそれは暫く続き、やっと二人が唇を離した頃には、互いの唾液が糸を引いていた。

 

「んふふ〜、いっぱいちゅうしてくれて嬉しい♡」

「あはは、俺もだよ♪ ほら、口拭いてあげるから」

「あの日の夜みたいに舐め取ってくれないんですか?♡」

「それはそれ、これはこれってことで」

「じゃあ……♡」

 

 そう言ったリリーはトンッと彼に覆い被さるように押し倒した。

 

「り、リリー?」

「今度は私が舐め取ってあげますね♡」

 

 そしてリリーは妖しく舌なめずりをした後、彼に「頂きます♡」と言ってから彼の唇を何度も何度もついばんだ。

 

 ーー。

 

「…………」

「んゆ〜♡」

 

 何度も唇をついばまれた青年は、未だにリリーに押し倒されている状態だった。何故ならリリーが彼の胸に顔を押し付け、甘える猫のようにグリグリとしてくるからだ。

彼としてもこれはこれで可愛いので止めることも出来ず、惚れた弱みということもありリリーにやられたい放題だった。

 

 そして、

 

「ここはいつから春画紛いのことを実演するようになったのかしら?」

 

 風見幽香もそれを見ながらにこやかに笑っていた。

 

 幽香はいつも通り彼の店に花を卸しに来たのだが、呼んでも返事がなく、奥の座敷へとやって来たら何やら面白いことになっていたのでずっと眺めていたのだ。

 彼は幽香の存在にすぐ気付いたがリリーが全然離してくれなかったので、ずっとこの状態だった。

 

 そして幽香の声でやっとリリーが起き上がりると、彼も顔を真っ赤にしたまま上半身を起こした。

 

「んふふ、随分と楽しい季節外れな春ね〜♪」

「す、すみません、幽香さん」

「幽香、こんにちはです〜♪ 私と彼はいつも熱い春なのです!」

「はいはいご馳走様……で、花を卸しに来たのだけれどそろそろ確認してくれないかしら?」

「は、はい、今やります! 幽香さんは座敷で待っててください!」

 

 すると青年はリリーを優しく退かし、一撫でした後で急いで店先へ向かった。

 

「お茶飲みますか〜?」

「えぇ、せっかくだから頂こうかしら」

「は〜い♪」

 

 リリーが幽香へお茶を淹れて、湯呑を渡すと幽香は「ありがとう」と言って受け取り、リリーが淹れた緑茶をコクッと口に含んだ。

 

「緑茶なのに砂糖がこれでもかって入ってるみたいに甘いわね……ふふ」

「お砂糖は入れてませんよ〜?」

「なら雰囲気のせいでしょうね」

「そんなに甘い雰囲気ありました〜?」

「さっきまであんた達が私の前で繰り広げてたじゃない」

 

 リリーのわざとなのか素なのか分からない答えに、幽香は思わず苦笑いを浮かべてツッコんだ。

 するとリリーはニヨニヨと顔を緩め、ほっぺを両手で押さえながら『やんやん♡』と体をくねらせた。

 

「改めて言われると恥ずかしいです〜♡」

「恥ずかしいって顔してないわよ」

「だって幸せの方が大きいですから〜♡」

「どうしようもない春頭ね」

 

 幽香が呆れ半分で言うとリリーは「えへへ〜♡」と辺りに花吹雪を舞い散らせた。

 

「ごめんくださ〜い」

 

 すると店先に一人の女性が現れた。

 女性は青年に花束を頼み、彼はその場で色々と要望を聞きながら要望に合った花を選んでいる。

 

「相変わらずいい花を選ぶわね〜」

「お花と言えば彼ですからね〜♡」

 

 彼の仕事風景を見ながら感心する幽香と惚気るリリー。

 

 すると女性と青年は何やら楽しそうに会話を始めた。

 それを見たリリーは、

 

「何なのですか、あの(あま)は? 私の彼だというのにあんなに馴れ馴れしく……」

 

 と言って、いつの間にか全身真っ黒のブラックリリーへと変わり、嫉妬の炎を燃やしていた。

 

「だだの接客でしょう? あれくらいで嫉妬なんてするんじゃないわよ」

「分かってはいますが……ぐぬぬぬぬっ!」

 

 幽香はそんなリリーを見て『恋って大変ね』と考えながらまた茶をすすった。

 

 それから接客が終わり、卸しの確認も終えた青年が戻ると、リリーはパッとまたいつも通りのホワイトなリリーへ戻った。

 

「お待たせしました。確認終わりましたよ」

「お疲れ様です♡」

「はい、お疲れ。お代はいつも戻りよ」

 

 そして彼からお代を受け取った幽香は「色々とご馳走様」と言って帰っていった。

 

「恥ずかしかった……」

「私は幸せでしたよ〜♡」

「俺はまだまだ慣れそうにないな〜……」

 

 そう言って頭を掻く彼を見たリリーはニヤッと小さく笑った。

 

「じゃあ、慣れるまでしましょ♡」

「へ……うわっ」

 

 そしてリリーにまた押し倒された青年はまたまたリリーに何度も何度も唇をついばまれるのだったーー。




リリーホワイト編終わりです!

妖精ですがキス魔っぽくなりました。
春でもないのに外にいることに関してはどうかご了承を。

ではお粗末様でした☆

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