東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人はアリス。

クールでツンでデレデレアリスです!


アリスの恋華想

 

 魔法の森ーー

 

 よく晴れた朝、私アリス・マーガトロイドは今、恋人の家に訪れている。

 彼は数年程前から魔法の森に住み着いた魔法使い。

 フワフワと掴みどころがなく、それでいて人の気持ちを敏感に察知する心優しい人。

 そして彼は普段、得意の機織りで様々な布や生地を作ってそれで生計を立てている。彼の織った織物は使い勝手が良く、人里でもそこそこ人気で彼の織った物しか買わないというファンもいるくらい。

 

 かく言う私も彼と知り合った頃から自分のお人形達のお洋服は彼の織った物で作っている。

 普段他人にはあまり興味のない私だけど、彼とは波長が合うというか、馬が合うというか、お話をしなくても居心地が良かった。

 私の家に招待した時も上海や蓬莱以外に喋ることが出来ないお人形達に対しても良く話しかけてくれて、それが馬鹿にしているとかではじゃなく、とても大切に思ってくれていることが分かり、彼の優しさを思い知った。

 

 それでいつしか私は彼を目で追うようになり、お互いに色んな話をする仲になり、一年くらい前に彼から告白をされ、私達は晴れて恋人同士となった。

 

「………………」

 

 そして彼は今、機織りをしている。

 ついこの前、私達が人里で買い物をしているとひとりの女性から声をかけられ、自分の娘の七五三衣装を作ってほしいと頼まれた。

 そこで生地を彼が織り、私がその生地で着物を作るといった共同製作をすることになり、彼が生地を織り終わるまで私はこうして彼の家に度々訪れている。

 決して会える口実にはしてない。たぶん……。

 

「いつも来てくれるのに背中ばっかり見せてごめんね」

「ううん、気にしないでいいわ。私が勝手に来てるだけだから。私こそ邪魔してごめんなさい」

「あはは、相変わらずアリスは謙虚だね。僕はアリスがいてくれるだけで嬉しいよ」

「そ、そう……」

 

 彼はすぐにこうやって私が喜ぶセリフをポンポン出してくる。おかげで私は顔が熱くなる……ホントにズルい。

 仕事中でも時たまこうして私に声をかけてくれるだけでも、私は嬉しい。自分だったら集中し過ぎて声なんてかけないから。

 そしてまた彼は仕事の方へ集中する。

 そんな彼の背中を私は黙って眺めていた。

 

(男の人の背中って広いわよね……霊夢や魔理沙がいかに女の子か分かる……)

 

(そしてどうしてか抱きつきたくなるのよね……自分からは絶対に出来ないけれど……)

 

 すると彼がふと手を止めてクルッと上半身を捻って私の方を向くと、

 

「アリス、どうしたの?」

 

 と微笑みながら訊いてきた。

 私は急いで「何でもない」と取り繕ったが、彼は私の側までやってきて、ギュッと私を優しく抱きしめてくれた。

 

「ふふ、ギュッてされたいって顔に書いてあるよ♪」

「書いてないもん!」

「じゃあ僕がしたいから暫くこのままね♪」

「……し、仕方ないわね♡」

「ありがとう、アリス」

「…………♡」

 

 また彼に心を読まれてしまった。でも彼の抱擁に私はもう脳や身体が拒めなくなっている。このフィット感からはもう離れないだろうと毎回実感させられている。

 

 それから暫く彼に優しく抱きしめてもらい、彼が仕事を再開した時には、もう日もかなり高くなっていてお昼になっていることが分かった。

 するとドアが勢い良く開き、ある人物が入って来た。

 

「おっす、二人共〜♪ 今日も仲良くやってるか〜?」

 

 その人物は魔理沙だった。

 

「やぁ、いらっしゃい魔理沙」

「何の用なの?」

「昼飯時に来たんだから察してほしいな。できる女アリスよ♪」

 

 その言葉に私は思わず頭を抱えた。要するに魔理沙はいつものように昼食をたかりにきたんだもの。

 そんな魔理沙に対して彼は愉快そうに笑ってるし……ホントお人好しなんだから。

 

 彼も仕事を再開したばかりだったから、私が仕方なく魔理沙の分も昼食を用意した。彼には冷めても大丈夫なようにおにぎりにして彼の側にある小さなテーブルにソッと置いておいた。

 

「ん〜……アリスの作る料理は相変わらず美味いな♪」

「はいはい、どうも」

 

 魔理沙の言葉は相変わらずなので適当に流しつつ、私も自分の分の昼食を食べた。彼は気を遣われることを気にするタイプだから、こういう時は気にせず食べることにしている。

 

「なんかお前ら最近いつも一緒に居るよな〜。やっぱ恋人同士だから一緒に居たいのか?」

「そ、そうじゃなくて、仕事の関係よ!」

 

 私はそう魔理沙に言ったけど彼は、

 

「僕はどんな理由であれ、アリスと一緒に過ごせる時間が増えて幸せだよ♪」

 

 だなんて声を弾ませて言うものだから、一気に私の胸がトクンと跳ねてしまった。ホントにズルい。

 

「ひゃ〜、お熱いね〜♪ 仕事も同じように一緒にやってんなら、もういっそのこと結婚しちまったらどうだ?」

「っ!?」

 

 魔理沙の発言に私は思わず言葉を失ってしまった。

 だって、けけけ……結婚だなんて考えもしなかったから。

 ただ好きで好きで好きで好きで好きで仕方ないから、一緒に居られる口実を探してるだけなんだもの、私は。

 

「さってと、腹も膨れたしチルノ達をからかいに行くかな♪」

「程々にしなさいよね……その都度、私や彼のところに駆け込んでくるんだから」

「その時はその時だぜ♪ んじゃ、ご馳走さん♪」

 

 魔理沙はそう言って颯爽と帰っていった。結婚だなんて爆弾を投下したのくせに……。

 お陰で全然落ち着かないじゃない。

 

 彼の背中をチラッと確認してみたが、彼は何ら変わりなく作業している。

 

(結婚か……彼のタキシードは白……いやいや、ここはキリッと黒の方がいいかも……)

 

(って何を考えているの私はぁぁぁっ!!)

 

 魔理沙のせいで彼の背中すらまともに見れなくなった私は、自分を落ち着かせるために食器を片付けた。

 

 ーー。

 

 私が食器を片付けてテーブルへ戻ると、彼は作業を中断しておにぎりを頬張っていた。その食べてる仕草が何だか可愛くてつい顔がニヤけそうになってしまう。

 すると彼と目が合い、彼が笑顔で言ってきた。

 

「今僕のこと好きって思ってるでしょ?」

「なっ!? べべべ、別にいつも思ってるもん!」

(どうしてバレたのか分からない……もしかしてさとりみたいな心を読む能力もあったりするの!?)

 

 そんなことを考えていると、彼が私の座る椅子の隣にやってきた。

 

「ど、どうしたの?」

(近い近い近い!♡ きゃ〜!♡)

 

「アリスに問題です♪」

「へ? あ、うん……?」

「今日は何の日か知ってる?」

 

 彼の問題に私は真剣に考えた。何故なら彼がわざわざこんな問題を出してくるのは私達に関係した事柄だからだ。

 

「ん〜……初めて会った日は違うし、初めてデートした日……いやいや、それは一昨日に迎えたし……う〜ん……」

 

 何か思い出して私! せっかく彼がこうして私達の記念日を出題してくれてるんだから!

 

「初めてお泊りをした日……初めて手を繋いだ日……あ! 初めてキスした日!」

 

 これだと思った私が彼に答えると、彼は困ったような笑顔で首を横に振った。

 

「凄く嬉しいこと沢山覚えててくれてるけど、違うよ。今日は僕達が付き合って一年の記念日だよ」

「あ、そっか……えへへ♡」

「まぁ僕としては自分で勇気を出して告白した日でもあるんだけどね」

 

 はにかんで言う彼に私は胸をキュンっと締め付けられた。彼のこういう仕草や言動はホントに心臓に悪い。

 

 すると彼はおもむろに懐から小さな箱を取り出した。

 

「そんな記念日に僕からアリスに贈り物だよ」

「え、ありがとう♡」

「開けて開けて♪」

「えぇ♡」

 

 その箱の蓋を開けると、そこには綺麗なシルバーリングが輝いていた。

 

「うわぁ♡ 指輪なんて初めて貰っちゃった♡ ありがとう、すっごく嬉しいわ♡」

「喜んでもらえて何より……アリスにとっては指輪を貰うのは僕が最初で最後になるね♪」

 

 そんなことを笑顔でサラッと言った彼だったけど、すぐにまた言葉を重ねてきた。

 

「あ〜……最後ではないか」

 

 その言葉に私が「え?」と首を傾げると、

 

「だって婚約指輪と結婚指輪が残っているじゃないか。僕はどちらもアリスに贈るつもりでいるよ」

 

 彼はそう言って優しくニッコリと頬んで、私の両手を優しく包むように握ってくれた。

 

「まぁ、全てはアリスの返事次第だけどね」

「……分かってるくせに、バカ♡」

 

 私は彼の言葉に思わず涙ぐんでしまった。そして彼はそんな私を優しく抱きしめて頭を撫でてくれた。

 

 それからプレゼントされた指輪をはめた私は、満面の笑みで彼に見せた。

 

「えへへ♡ どう、似合う?♡」

「うん、とってもお似合いだよ♪」

「あのね、ちゃんと手を見て言ってよ……」

「アリス」

「な、何よ?」

 

 すると彼は少し強引に私を抱き寄せ、その勢いのまま唇を奪った。普段の優しい彼とは少し違う、力強くて、私のすべてを受け止めてくれる、男らしいキス。

 互いの唇が離れると、そこにはいつも通りの優しい彼の笑顔がすぐ近くにあって、

 

「これも初めて言うけど……愛してるよ、アリス」

 

 すぐにこんな恥ずかしいセリフをいつものようにサラッと言う。

 

「……そんなの知ってるわよ♡」

 

 そして私もまた素直になれずそう言い返すと、彼はまた私の唇を奪うのだったーー。




アリス・マーガトロイド編終わりです!

私の中でのアリスはツンデレキャラなので、今回はそのイメージのまま書きました♪

ではではお粗末様でした☆

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