東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人はレティ。

太ましくないよ!


妖々夢
レティの恋華想


 

 妖怪の山の麓ーー

 

「ふんふんふ〜ん♪ らら〜ら〜♪」

 

 冬の間だけ姿を現す妖怪ことレティは秋の昼下がりだというのに、上機嫌に歌を口ずさみながら小川を眺めていた。

 

「あれ? レティじゃない。どうしたの?」

 

 そんなレティの前に秋静葉が現れた。

 

「あら〜、静葉さん、こんにちは〜」

 

 静葉に対して相変わらず間延びした挨拶を返すレティに、静葉は苦笑いを浮かべながらも「はい、こんにちは」と返した。

 

「実はですね〜♪」

 

 そして静葉の先程の質問にレティが答えようとすると、

 

「春ですよ〜♪」

 

 と言いながらリリーホワイトが現れた。

 

「はぁ? リリーまで……もしかして異変!?」

 

 春告精のリリーまで登場する始末に静葉は大混乱。しかしそんな静葉をよそに、リリーはレティの周りをフワフワと飛びながら「春ですね〜」「春ですよ〜」と触れ回っている。

 

「あらあら〜、恥ずかしいわ〜。溶けちゃいそう♡」

 

 そんなリリーに対してレティは白く澄んだ頬を紅潮させ、その頬を両手で押さえ「んふふ〜♡」と嬉しそうな声をもらしている。

 

「え……まさかその春なの!?」

「そうですよ〜♪ レティさんに春が訪れているんですよ〜♪」

「そんなに言いふらさないで〜♡」

 

 静葉は心底驚いた。何故ならあの冬以外は寝ているだけのレティに青春という春が来たというのだから。

 

「それは本当なのよね、レティ?」

 

 静葉が念押しするとレティは赤くなった頬を押さえたまま「はい」と小さく頷いた。

 

「驚いた〜……あのレティがね〜」

「レティさんはあの異変以来、よくお外を出歩くようになったのですよ〜♪」

「へ〜……まぁ確かに前に比べたら冬場以外でも見掛けたわね」

「そうしている内に素敵な男性と出会ったんですよ〜♪」

「うふふ♡」

 

 レティは恥ずかしそうにしながらもリリーを止める素振りがないため、リリーはペラペラとレティの恋事情を語り出す。

 

「レティさんが暑さで参っている時に〜、その男性がレティさんにかき氷をご馳走したのですよ〜♪」

「ほうほう……」

「それでレティさんが後日にお礼として氷をその男性にプレゼントしたのですよ〜♪」

「それでそれで?」

「それからもお二人は交互にプレゼントを重ねて〜、ついこの間お付き合いを始めたのですよ〜!」

「おぉ〜!」

 

 リリーの話に聞き入った静葉は思わず拍手してしまった。そんな静葉の反応にレティは「ありがと〜♡」と嬉しそうに答えていた。

 

「ん? ちょっと待って。リリーはどうしてそんなに詳しいの?」

「ご相談を受けていたからですよ〜♪」

「その節はお世話になりました〜♪」

「どういたしましてですよ〜♪ 私としても恋の春を感じられて嬉しいのですよ〜♪」

 

 仲良く頭を下げ合うレティとリリー。そんなレティに静葉は素朴な質問をぶつけた。

 

「レティの恋人って話を聞く限り人間よね?」

「はい〜♡ とっても優しくて〜、素敵な方なんです〜♡」

「い、いやそこまで聞いてないけど……」

「あらあら〜♡」

「人間と付き合うなんて大丈夫なの? ほら、あの鬼巫女とかスキマの妖怪とかにうるさく言われない?」

「言われませんでしたよ〜? 寧ろ〜、人間と妖怪が仲良く出来るからドンドン、ラブラブになってほしいって〜♡」

 

 レティはそう自分で言いながら「きゃっ、言っちゃった♡」と口を押さえた。そんなレティにイラッとしながらも静葉は「へぇ〜」と神対応するのだった。

 そして静葉はニヤッと怪しい含み笑いをして、レティに訊いた。

 

「それで小川で待ち合わせてこれから逢引でもするの?」

 

 静葉の質問にレティは耳まで真っ赤に染まった。もうこの反応からして「そうです」と言っているようなものだ。

 

「は〜る〜で〜す〜よ〜♪」

「〜〜♡」

 

 リリーが一際大きな声でレティの春を告げると、レティは言葉にならないような声をあげてモジモジと体をくねらせた。

 

「はいはい、ご馳走様……」

 

 レティに対して静葉は苦笑いを浮かべて言うと、遠くの方から一人の男性がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

 

「あ、もしかして、あの人?」

 

 静葉がそう言って目配せすると、レティはそれを確認するなりその男性の元へ飛んでいってしまった。

 そして男性に飛びつくレティとレティに押し倒されながらも笑顔で彼女を抱き止める男性を見て、静葉は「うわぁ……」と驚きの声をもらした。

 

「春ですよ〜! 春ですよ〜!」

「リリー、うるさい」

「我が世の春が来た〜〜!」

 

 リリーのテンションの高さに少々イラッと来た静葉は、軽くリリーの頭を叩いて落ち着かせた。

 するとレティが男性を連れて静葉達の元へと戻ってきた。

 

「静葉さん、ご紹介しますね〜♡ 私の彼で〜す♡」

「お初にお目にかかります、静葉様」

 

 レティに紹介をされた男性は礼儀正しく静葉に頭を下げて挨拶した。

 

「あら、レティの彼氏の割にはちゃんと教養はあるのね」

「はい、私達、百姓は秋姉妹のお二方に大変お世話になっております故……穣子様には畑仕事の際に度々お目にかかるのですが、こうして静葉様にお目にかかるのも私達、百姓にとってはありがたき幸せなのです」

 

 深々と頭を下げて言うレティの彼氏の態度に、静葉はとても気分が良くなった。自分も幻想郷の秋を司る神の一人として紅葉を人々に届けているが、豊作を届けている穣子より人々から感謝されるのは少ない。そのため、先程の彼の言葉は静葉にとって凄く嬉しい言葉なのだ。

 

「ふふん、当然よね♪ 私が居なきゃ幻想郷には秋の紅葉なんて来ないんだから♪」

「えぇ、本当に毎年見事な紅葉をありがとうございます」

 

 静葉の気分は最高潮だった。胸を張り、ドヤァと鼻を高くしていると、

 

「………………」

 

 親の敵でも見るかのように冷たく鋭いレティの視線が自分に突き刺さっていた。

 するとレティは静葉と男性の間に割って入り、男性の左腕にギュッと抱きついて、静葉に口を開いた。

 

「いくら静葉さんでも、彼を私から奪うなら容赦しません」

 

 先程とは全く違う、重く、冷たい絶対零度の視線とトーンで忠告するレティに、静葉は思わず身体を震わせた。

 

「第一次恋戦争ですよ〜!」

 

 そんな重苦しい場面で更に油を注ぐリリー。

 静葉は『空気読めよ!』と心で全力ツッコミを入れるが、目の前のレティは不気味に笑って辺りに冷気を撒き散らしている。

 

 すると、

 

「静葉様、大変申し訳ありません」

 

 と男性がまた深々と頭を下げてきた。

 そんな彼の行動に静葉が「へ?」と間の抜けた声を出すと、男性は冷気を放つレティの肩をグッと抱き寄せてから、ハッキリと静葉に言った。

 

「私はレティさんのことが大好きなんです。ですから静葉様のお気持ちにはお応え出来ません!」

 

 まさかのお断り宣言だった。

 静葉はあまりの展開に硬直し、口をあんぐりと開けて言葉が出なかった。

 

「レティさん、私はレティさん一筋です。これからもずっと! ですから心配しないでください!」

「嬉しいです〜♡ 私も、ずっと貴方だけを愛しています〜♡」

 

 そんな静葉をよそにレティ達は勝手に盛り上がり、熱い抱擁だけでなく、熱い口づけまでも交わし出す始末。

 

「んんっ、ん〜っ、ちゅっ……んはぁ♡ んふふ♡ 皆さんの前でなんて恥ずかしいわ〜♡」

「私達の愛に恥ずかしいことなどありませんよ」

「きゃ〜ん、溶けちゃうわ〜♡」

 

 そして二人は固まっている静葉とニコニコしているリリーに一礼して、仲良く腕を組んで小川沿いをゆっくりと歩いていった。

 

「振られちゃいましたね〜。秋ですか〜?」

「どうして私が振られた体になってるのか理解出来ないわ……」

 

 その後、静葉は「秋以外滅びればいいのに」と一層念じるようになったそうな。

 しかし静葉がどんなに念じたところで、レティ達カップルにとってはこれからも春なのには変わらなかったーー。




レティ・ホワイトロック編終わりです!

静葉の扱いがアレですがご了承を。

お粗末様でした♪

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