紅魔館ーー
「林檎と蜂蜜〜♪ 紅茶のジャムはアプリコット〜♪」
穏やかな昼下がり、レミリアの妹、フランドールは日傘を差して紅魔館の中庭広がるバラ園のバラを眺めていた。
「ご機嫌ですね、フラン様」
そんなフランに一人の執事が声をかけた。
するとフランはパァッと表情を輝かせ、執事の胸に飛び込んだ。
「お兄様〜♡ おかえりなさ〜い♡」
「おっと……フラン様、いくら曇りとは言え、日傘はちゃんとお使いください」
執事はそう言いながらもフランが落とした日傘を拾い、フランのために差し、にこやかな表情でフランの頭を優しく撫でた。
「むぅ〜、これからはフランって呼んでって言ったでしょ!?」
しかし対するフランは執事の言葉に不満をもらした。
この執事はレミリアが召し抱えた執事で、主にフランのお世話を担当している。
そして、
「フランの恋人なんだから、もっと親しく呼んでくれなきゃ♡」
フランの恋人でもあるのだ。
最初は気性の荒かったフランも、彼の誠実な態度や姿勢に心を突き動かされ、今ではこうして自分の部屋を出るまで回復。更には彼の紹介からチルノや大妖精といった友達も出来、彼という存在はフランの中で絶大な存在となっている。
「いえ、今は勤務中ですので、ご愛称でお呼びするのは……」
「今はお姉様も咲夜もいないじゃん」
「この場に居られないからと言ってお呼びして良いことでもないのですよ、フラン様」
執事は優しく諭すように言うものの、フランは納得がいくはずもなく、彼の背中に回した手で執事の背中をギューッと握っている。
「フラン様、痛いです」
「私はフラン様じゃないから知らな〜い」
そんな彼女の態度に執事は「ふぅ」っと小さく息をこぼし、フランの耳元に自身の口を近付けた。
「んにゃぁ、くすぐったい……もぉ、何なの?」
「(今はこれで我慢して、フラン)」
「〜♡♡」
執事が耳うちでしっかりとフランのことを呼ぶと、フランの胸はキューンと飛び跳ね、羽もパタパタ、キラキラと上機嫌な反応を見せる。
「えへへ〜♡ やっぱりお兄様にそうやって名前呼ばれると、すっごく嬉しいなぁ♡」
「お気に召してもらえて光栄です♪」
「うん♡ ん〜♡ お兄様、お兄様〜♡」
すっかり機嫌を直したフランは彼の胸に頬ずりをし、脚も完璧に彼の身体をホールドしている。
「ねぇねぇ、私の所に来たってことはもうお姉様の所に行かないのよね?」
「いえ、バラ園のお手入れが済みましたら、ご報告へ向かいます」
「それって一緒に行っちゃダメ?」
「いえ、そんなことはありませんよ」
「じゃあフランも行く〜♡ お仕事なら我慢するけど、しなくていいならお兄様と離れたくないもん♡」
「ありがとうございます」
彼はフランに笑顔でお礼を言って頭を撫でると、フランは気持ち良さそうに「みゅ〜♡」と声をもらした。
「…………フラン様」
「ん、なぁに?♡」
「大変申し訳ありませんが、このままだとバラ園のお手入れが出来ません故、降りてください」
「あ、は〜い♪」
フランは素直に返事をし、ストンと執事から降りると、今度は執事の背中に回ってポフッと背中にしがみついた。
「落ちないでくださいね?」
「落ちそうになったら飛ぶから平気♪」
そう言いつつフランは彼の背中をよじ登って彼の肩に頭を置いた。
「なら良いのですが……」
「んふふ、心配してくれてるの?♡」
「当然です」
「それはフランがお姉様の妹だから?」
「…………」
フランは執事がそう言わないと分かっていて敢えてああやって質問した。執事がどう答えるのかワクワクしていると、執事は黙ってフランの方に首をひねり、フランの柔らかく瑞々しい唇に軽く自身の唇を重ねた。
彼の大胆な行動にフランは一瞬だけ驚き、すぐにその表情は恍惚な表情へと変わった。
「この口づけが答えです。私の愛するフラン様」
「んへへ〜♡ お兄様にフランの唇奪われちゃった〜♡」
フランは言葉ではそう言っているが、両手を頬に当て蕩けた顔で「やんやん♡」と嬉し恥ずかしいと言った感じである。対する執事はクスッと小さく笑い、フランの頭をポフポフっと叩くように撫でた。
ーー。
バラ園の手入れをしつつフランと執事が談笑していると、
「お、今日もお前らは仲いいな〜♪」
紅魔館の外壁を箒に乗って越えてきた魔理沙が現れた。
「魔理沙だ〜♪ やっほ〜♪」
「よっ、フラン♪」
「魔理沙様、ちゃんと門からお入りになってください。拒みはしませんから」
笑顔で挨拶を交わすフランと魔理沙に対し、執事が苦笑いを浮かべて注意すると、魔理沙は箒から降りて「分かってるんだけどさ〜」と前置きして、門の方を指差した。
「門番が寝てっからさ〜。美鈴じゃないと外からは開けられないだろ?」
それを聞いた執事は「それは大変申し訳ありませんでした」と頭を下げ、
「フラン様、少々お時間を頂きますね」
とフランを自分の肩からゆっくりと降ろした。
「あんまり美鈴に構ってちゃメ! だよ?」
「はい、早々に起こして戻って参ります」
執事はフランの言葉にニッコリと答え、居眠りする美鈴の元へと向かった。
フランはその様子をジーッと眺めつつ、羽をパタパタさせていた。
「フランは本当にアイツが好きだな〜」
「えへへ〜、だって大好きだもん♡」
「はいはい、お熱いこって」
魔理沙は「やれやれ」と言った具合に両手を上げ、ハートマークが飛び交うフランに苦笑いを浮かべて眺めた。
そして次の瞬間、魔理沙はあることを思い付き、フランに話題を振った。
「そういや知ってるか、フラン?」
「ん、何を?」
「アイツ、人里でかなり人気あるんだよ」
「へぇ〜、流石フランのお兄様ね♡」
「そ、そうだな……」
(ちっ、これくらいじゃ動じないか……)
魔理沙はフランが嫉妬したらどんなことになるのか興味が湧き、好奇心に駆られてフランが嫉妬しそうな話を考えた。
「んでさ〜、アイツ、団子屋の娘にすげぇ気に入られててよ。この前なんてアイツとその娘が一緒nーー」
魔理沙は『一緒に仲良さそうに歩いてたんだ』と言おうとしたが、思わず口をつぐんでしまった。
何故なら、
「んふふふふ……フランのお兄様にそんな汚い女が近寄ってるんだ」
満面の笑みで鋭く伸ばした爪を舌で舐めるフランが怖過ぎたからだ。
(や、やっべぇ! つい話を盛り過ぎたぜ!)
内心焦る魔理沙をよそに、フランは不気味な笑い声を隣であげている。
「まぁお兄様は素敵だから他の女が近寄ってくるのは仕方ないわ。寧ろお兄様の魅力の前についほの字になるのは仕方ないし、お兄様に惚れるのは趣味がいい証拠だわ。でもお兄様はフランの恋人でフランの大切な人でフランの一番でフランの全てなのにどうして分からないのかな。お兄様はきっと迷惑しているに決まってる。だってお兄様は優しいから相手が傷付くようなことを面と向かって言えない人だもん。でもそれに付け入ろうとする浅はかさは許してはおけない。だってお兄様はーー」
ブツブツと何かの呪文のように言葉を並べるフランに、魔理沙は心から震えがきた。何せフランは口では笑っているが目は紅く鋭く輝き、睨んだだけで睨まれた相手は潰れるんじゃないかと思うほどの威圧感を放っているのだ。
「魔理沙」
「は、はい!」
「その女はどこの団子屋のどんな女なの?」
「い、いや〜、誰だったかな〜?」
(作り話だなんて言えねぇ空気だぞ!?)
「魔理沙……魔理沙はフランの味方だよね? そいつを庇おうとする必要ないよ?」
(庇おうとしてるんじゃなくて架空の人物だから困ってるんですぅぅぅ!)
すると、
「フラン様、只今戻りました」
執事がにこやかに戻ってきた。執事の登場にフランの威圧感はシュッと消え、またハートマークがヒラヒラと舞い上がるオーラへと変わった。それを見た魔理沙は心底ホッとするのだった。
「お兄様〜♡」
フランは執事にまたもギューッとしがみつくと、
「お兄様、今度からお買い物とかで人里に行く時はフランも一緒に行く〜♡」
と無邪気に微笑んで言った。
(やっべぇ……声かける女は全員きゅっとしてドカーンしそう……)
魔理沙がどうしようと思考を巡らせると、
「フラン様はお連れ出来ません」
フランには特に従順なあの執事がキッパリと断った。
執事の言葉に呆然とするフランだったが、執事は透かさずフランを抱きしめて、ゆっくりとその理由を話した。
「愛するフランを人里の男共に見せたくない。フランを瞳に映す異性は私だけで十分だから」
「っ!!?♡」
いつもは冷静な執事が敬語も捨て、独占欲を丸出しにして『フランは俺のだ』言うように抱きしめ、その手に力を込めた。
フランはそれがもう嬉しくて嬉しくて、顔を真っ赤にし、蕩けさせている。
「お兄様、素敵……♡ フランはずっとお兄様だけだよ?♡」
「フラン、私もフランだけだ」
そして二人は魔理沙が居るのも忘れ、熱い口づけを交わすのだった。
「わ、私は図書館に行くぜ!」
こうして魔理沙は口にジャリジャリとした感触を覚えながら、逃げるように去った。
しかしそんな魔理沙を気にすることもなく、フラン達は長い長い口づけを続けていたーー。
フランドール・スカーレット編終わりです!
ちょっとヤンデレチックになりましたがご了承を!
フランちゃんが書き終わったので、紅魔郷は終わりになります。
取り敢えず次の妖々夢のキャラクターに移ります。
では小さなお知らせをしたところで、今回もお粗末様でした☆