東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人は舞。


舞の恋華想

 

 後戸の国ーー

 

 薄暗い空間の中に巨大な緑色をした木質の扉が多数浮かび、なんとも奇妙な空間が広がる後戸の国。

 その深部では摩多羅隠岐奈とその部下、二童子の丁礼田舞と爾子田里乃が今では主にのほほんと暮らしている。

 先の四季異変を終えてから、幻想郷がちゃんと機能していること知った隠岐奈はその後は定期的に八雲紫と情報交換しつつ、これまでと何ら変わりない生活をしていた。

 少しだけ変化があったとすれば、隠岐奈自身も舞も里乃も後戸の国を出て幻想郷へ遊びに行くようになったこと。

 隠岐奈は紫が築くネットワークの(スーパー)女子会に参加したり、舞や里乃はあの異変で友達になったチルノや他の妖精と妖怪たち、博麗の巫女や白黒の魔法使いの元へ行っている様子。

 因みに超女子会のメンバーはーー

 

 八雲紫:西行寺幽々子:風見幽香:八意永琳

 レミリア・スカーレット:古明地さとり

 八坂神奈子:聖白蓮:豊聡耳神子:茨木華扇

 四季映姫:へカーティア・ラピスラズリ:純狐

 

 ーーと、そうそうたる面子が揃う。

 

 そうした中、隠岐奈は最近気になることがあった。

 それはーー

 

「〜♪ 〜〜♪」

 

 ーー二童子の一人である舞が近頃はずっとご機嫌で、このように鼻歌を歌っている時もあれば、

 

「……はぁ」

 

 このように時折、虚空を見つめてため息を吐くのだ。

 しかもため息を吐いているのに、その表情はとても恍惚としており、両頬も桜の花のようにほんのりとピンク色に染まっている。

 そして極めつけは、

 

「それではお師匠様、里乃、僕は幻想郷へ遊びに行ってきます! あ、もしかしたら帰らないかもなので、ご心配なく!」

 

 こうして毎日のように幻想郷へ遊びに行くことだ。

 

 隠岐奈自身、舞が幻想郷へ行くことに関してはなんら問題と思っていない。寧ろこれまでが遊びに割く時間がなかったので、それまでの時間を取り戻すように遊んでほしいと思っている。

 しかし幻想郷には妙な輩も少なからずいることも事実で、紫も霊夢たちへ常に警鐘を鳴らしているくらいだ。

 舞はバカではないがおっちょこちょい……故に隠岐奈は舞が何か知らず知らずの内に罪の片棒を背負わせているのではないかと心配しているのである。

 

「心配だ……」

 

 舞を見送ったあとでぽつりと隠岐奈がこぼすと、里乃が「まぁ、確かに心配ですよね。粗相をしてなきゃいいんですけど……」と苦笑いを浮かべた。

 

「やはり、里乃も心配しているのだな?」

「はい。何しろお相手は神使(しんし)様ですから……」

 

 里乃の口から出た神使とのワードに隠岐奈は「ん?」と首を傾げる。

 

「あれ、お師匠様は舞から聞いてませんか? 幻想郷に恋人が出来たと」

「それは聞いている。なんでも優しくて温厚で包容力の塊みたいな方だそうだな。舞はおっちょこちょいだからな、あの子のそういったところも優しく包み込んでくれる方がいたのはとても良いことだ」

 

 うんうんと頷きながら舞から聞いた恋人のことを語る隠岐奈。

 すると、

 

「ですから、その恋人が神使様なんです」

 

 里乃がハッキリと伝えると、隠岐奈は「んんん?」と首を傾げた。

 そして冷静に舞から聞いた話と里乃の言葉を理解していくと、

 

「舞の奴は神使と恋仲になっていると言うの!?」

 

 驚愕の事実が判明し、思わず椅子から転げ落ちる。

 

「だ、大丈夫ですか、お師匠様!?」

「大丈夫よ! それよりなんでもっと早く言わないの!?」

「いやぁ、舞も話しているみたいだったのでご存知なのかと……」

「私は舞から『優しい彼氏が出来ました。はーと』としか聞かされていない!」

 

 里乃はそれを聞くと、舞は相変わらずおっちょこちょいだなぁ、と苦笑い。しかも『はーと』ってなんやねんと心の中でツッコミを入れてしまった。

 

「まさかあの子が神使と恋仲になっているなんて……どうしてそうなったのよ。そもそもそれだけ大物なら挨拶しないといけないじゃない」

 

 ブツブツと早口で思案する隠岐奈。隠岐奈自身も秘神であるが、自分以外の神の使いということで慌てているのだ。

 神と神の間で争いが起これば幻想郷どころの騒ぎではない……なので隠岐奈は予想外のことに頭を悩ますことになった。

 

「お師匠様が気にしているようなことにはならないと思いますよ?」

 

 里乃の言葉に隠岐奈が「んんんんん?」と再度首を傾げると、

 

「一度あちらからご挨拶にいらしましたから」

 

 更に紡がれた里乃の言葉で隠岐奈は白目を向く。

 

「ほら、この前舞がお牛さんを連れてきたじゃないですか? あの方が神使様のお牛さんですよ?」

「どうしてもっとそれを早く言わないの!?」

「だって知ってると思ってたんですよ! 知ってるからこそ、お師匠様はよその神使様相手にも堂々としておられると思ってたんです!」

「知らないから喋れる牛の妖怪としか見てなかったのよ! 神使ならばあんな風に腹をベシベシしたり、背中に乗せてもらったりしなかったわよ!」

 

 あぁ、もう早く支度して謝りに行くわよ!

 人里で菓子折りやなんかも買うから付いて来なさい!

 

 隠岐奈の悲鳴にも近い叫び声がこだまし、里乃は急いで支度をするのだった。

 

 ーーーーーー

 

 その頃、舞はというと、

 

「えへへ、とっしーに後ろからギューッてされるのしゅき〜♡」

「あはは、そう言ってもらえて何よりだよぉ」

 

 玄武の沢のほとりで人間の姿となった神使の牛と逢引の真っ最中で、恋人があぐらを掻いた足の隙間に舞が座って後ろから抱きしめられている。

 

 青と白の狩衣を身にまとい、体が大きくのほほんとした丸顔に細い目、そして低い鼻に耳や額も出た短い髪をしている癒やし系青年が舞の恋人。

 牛の神使で名を天宮 牛満(あまみや としみち)と言う。その証拠に牛満の頭の両側面からは雄々しい牛角が生え、袴からはちょこんと牛の尻尾が見えている。

 

 彼は天界に暮らす火雷神様の使いであり、学業の神様の使いでもある。

 舞が幻想郷を遊び回わっていた際に空を散歩する彼とぶつかり、それを彼が優しく笑って許したことにより、お近づきになったのがきっかけだ。

 それから舞は彼の優しい人柄に惹かれ、幻想郷に来た時には必ず会うことにしていた。

 牛満は普段、天界でのんびりと暮らしているのだが、舞がいつも会う約束をするのでいつも約束通りに幻想郷へやって来ていた。

 そしてつい最近、舞からの告白で二人は恋仲となり、今では最初に出会った玄武の沢が二人の待ち合わせ場所なのだ。因みに牛満はちゃんと火雷神様の許可を得て舞とお付き合いしている。

 

「ねぇねぇ、今日は何する?♡」

「僕は舞ちゃんと一緒ならなんでも嬉しいよぉ」

「それが一番困るんだよね〜♡」

 

 舞はそう言うが、牛満からそう言われるのが好きなので表情や声色は相変わらずデレデレ。

 対して牛満は「ん〜、でも本当のことだしぃ」と相変わらず間延びした言葉を返している。

 

「じゃ、僕がこれから朝までちゅうしよ、って言ったらしてくれる?♡」

「もちろんだよぉ。舞ちゃんがそれで笑顔になれるなら、断る理由がないからねぇ」

「ちゃんととっしーも喜んでくれなきゃやだよ?」

 

 舞がそう言うと、牛満は小さく笑って舞の頭を大きな手でワシワシと撫でた。

 

「んぁ、もう、何〜?♡」

「そんな心配してる舞ちゃんが可愛くてねぇ」

「か、可愛いって……♡」

 

 好きな人からそんなことを言われ、舞はつい頬が緩む。

 すると牛満は更にこう続けた。

 

「僕はねぇ、舞ちゃんと会えるだけで幸せなんだぁ。だから舞ちゃんがそんな心配しなくてもぉ、舞ちゃんが側にいるだけでぇ、僕は喜んでるんだよぉ」

 

 相変わらず間延びした話し方ではあるが、その目の色に嘘も偽りもない。

 それを見た舞は自身のお腹ら辺に回されている牛満の手を払い除け、クルンと体を牛満と向かうようにした。

 

「とっしーはいつも僕を喜ばせるからずるい♡」

「ごめんねぇ」

「許さない♡ だから僕の気が済むまで今日はちゅうしてようね♡」

「いいよぉ」

 

 こうして二人はちゅっちゅっと沢のせせらぎにも負けない甘い音を響かせた。

 

 ーー

 

「お師匠様、この空気は流石にぶち壊せないですよ?」

「〜〜……!」

 

 一方、ご挨拶に来た隠岐奈と里乃は二人のその光景に割って入ることが出来ず、口の中をジャリジャリさせながら後戸の国へ退散したという。

 後日、ちゃんと隠岐奈は牛満が住む天界に出向いて「舞のことをよろしくお願い申し上げます」と深々と頼んだそうなーー。




丁礼田舞編終わりです!

舞ちゃんはこんな感じにしました!

お粗末様でした!

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