前々からコツコツと更新に向けて書いていたので毎日1話ずつ更新します。
無理はしていないのでご心配なく(*´∀`)
エタニティラルバの恋華想
地底ーー
夏も過ぎ、厳しい冬が訪れた幻想郷。
レティやチルノは時期が時期なので毎日楽しそうに過ごしているが、寒さが大嫌いな神に近づく蝶の妖精にして真夏のアゲハ蝶の妖精のエタニティラルバ(以降ラルバ)は厚着をして地底のとある場所へと向かっている。
「あぁ〜、地底に来たけどまだまだ寒い! マフラーや上着が無きゃ死んでるわ!」
これまでのラルバであれば、冬は外出せずに魔法の森にある洞穴奥深くの別荘に行き、部屋を夏らしく模様替えしては春が来るまでひたすらにゴロゴロしていたはず。
それがわざわざ寒さにも耐えて向かった場所とはーー
「ふぇ〜、やっと着いた〜!」
ーー旧都の温泉郷内に数多くある温泉宿。その中でもこの小さな小さな温泉宿がラルバのお目当ての場所。
普段仲良くしている妖精たちに言われて訪れ、太陽の日差しはないが何より静かで温泉で暖かくてすっかり気に入ってしまったのだ。
そして何よりラルバがここをご贔屓にしている理由は、
「おぉ、いらっしゃい、ラルちゃん」
恋人がこの宿を経営しているから。
ラルバの恋人は一見、人間に見えるがその背中にはラルバみたいに羽がある。ラルバみたいと言ってもラルバのように色鮮やかではなく、鋭く大きい透明な羽が左右に二枚ずつあるのみ。
この青年は
シュッとしたシャープな顎ラインに小さな鼻、そしてくっきり二重に赤く大きい瞳を持ち、黄色と黒のメッシュの髪。髪型は外の世界で言うところの長めのスポーツ刈りでさっぱりとしており、蜂のような触覚が額から生えている。
見た目は若いがこれでも数千年の時を生き、旧地獄が今ある地獄へ移る際に亡者を拷問する任を引退し、慣れ親しんだこの場所で温泉宿をほそぼそと営んでいるのだ。
ほそぼそとはいうものの、地獄で働いた関係で実際のところは閻魔や死神、獄卒らが休暇で訪れたりお忍びで泊まりにきたりと結構繁盛している。言うなれば知る人ぞ知る宿。
ラルバはふらっと立ち寄ったこの宿が気に入り、しかも血狩の人柄に惹かれちょくちょく訪れるようになり、今ではこうして恋仲となったことで余計に訪れる回数が増えている。
「寒かった〜!」
「おぉ、よしよし……寒くてもこうして来てくれて儂は嬉しいよ」
ムギュッと抱きついてくるラルバを優しく受け止め、優しい言葉をかける血狩。対するラルバは彼の胸板にグリグリと顔を押しあてて久々に会えた喜びを爆発させている。
久々と言っても前に訪れたのはほんの二日前だが……。
「血狩さん、ちょっと確認してほしいことがあるですが……」
そこへ宿の従業員の女(鬼)が帳簿を持ってやってきた。
血狩はラルバに待っててというように頭を軽くポンポンと叩くと、女の元へ行って「どれどれ……」と帳簿を確認する。
「すみません、恋人さんがお越しなのに空気が読めなくて……」
「よいよい、時間はたっぷりあるでの。それよりどこじゃ?」
ほんわかと笑って確認してほしいところを指すよう促す血狩。すると女は「ここなんですけど……」と言いながら指差した。
「………………」
そんな二人をラルバはじーっと射抜かんばかりに見つめる。
何しろ女の方が血狩の肩にピッタリとくっついているので、ラルバとしては面白くない。しかも血狩もそれを咎めようともしないのだからラルバの不満は増す一方。
(私の血狩なのになんなのあの女。私よりほんの少し……ほんの少〜〜〜し、スタイルがいいからって!)
身体の凹凸が女性らしい女が恨めしいラルバ。ラルバは妖精なのでこればかりは仕方ないが、恋する乙女にとってはこれもかなり重要なことなのだろう。
「うわっ、なんか凄く睨まれてるんですけど……やっぱり邪魔したからですかね?」
ラルバの鋭い視線に気がついた女は震えた声で血狩へ耳打ちする。
血狩はそれに「大丈夫大丈夫」とのほほんと笑って返すが、そうしている間もラルバの嫉妬心は募っていく。
このままでは橋姫が嗅ぎつけてやってくるほどの嫉妬心だが、鈍感な血狩には分からない。
「あ、あ〜、そろそろ先輩が戻ってくる頃です! あとは先輩に聞きますから、血狩さんは恋人さんとゆっくりしてください!」
なので先に女の方が音を上げ、ラルバの視線から逃げるようにして去っていく。
血狩はそんな女をポカンとしながら見ていたが、ふと腰ら辺に軽い衝撃が伝わった。
「?」
「………………」
くるりと軽く首をひねって感触が伝わる箇所を見ると、ラルバが黙ったまま自身を睨みながら引っ付いているではないか。
血狩はどうしたのだろうと思い小首を傾げるが、どんなに考えてもラルバに睨まれる理由が見つからなかった。
なので血狩はそのままズリズリとラルバを引きずるように、いつもラルバが泊まる部屋へと運んだ。
ーー
ラルバが泊まる部屋は宿の宿泊部屋ではない。
恋人になる前からラルバは血狩が普段寝泊まりしている宿の屋根裏部屋に泊まるのだ。
どうしてかというと、ラルバはお金を持っていないから。
一番最初に宿へやってきた時も同じで『お金はないけど泊めてください!』と正直に、それでいて元気に言ったので血狩は『なら儂の部屋に泊まりなさい』と屋根裏部屋へ上げたことがきっかけで今に至る。
「着いたぞい、ラルちゃん?」
「…………知ってる」
部屋に着いたものの、やはりラルバは血狩から離れようとしない。しかも先程よりもギューッとしがみついており、血狩は頭を悩ました。
「儂は何かラルちゃんの気に障るようなことをしてしまったのかのぅ?」
なので血狩は素直にラルバへ訊ねてみた。
「分からないんだ?」
「恥ずかしいことじゃがな」
「血狩ってホント鈍感よね」
「お耳が痛い話じゃのぅ」
「私じゃなきゃ、すぐに振られちゃってるよ?」
「ラルちゃんが恋人で儂は幸せ者じゃな」
その言葉を聞くと、ラルバの羽はバッサバッサと羽ばたく。鈍感な彼にやきもきし、鈍感な彼のなんの変哲もない言葉に機嫌を直すラルバ。
ラルバは自分で自分が単純だと思ったが、自分の好きな相手はこうして自分と恋人であることを幸せと感じている……それが何やり嬉しかったのだ。
「血狩のバ〜カ♡」
なのでラルバはそれだけ言って許してあげた。
言葉はあれだがその口調は喜びに弾み、表情もキラキラと輝いて、腰に回している両手もキュッと甘く結ばれている。
一方、血狩は「かっかっか!」と愉快そうに高笑った。
「バカって言われて笑ってるとか、変な血狩♡」
「それはラルちゃんも同じであろう?」
「え〜、どうしてよ〜?」
「そんなバカと付き合っているじゃろう」
血狩は優しい声色でゆっくりと告げると、ラルバの頭を優しく優しく撫でる。
その優しさに包まれたラルバはカァーッと顔が熱くなり、「し、知らない!」と照れ隠しに赤くなった顔を血狩の腰に押しあてて隠した。
「本当にどこまでも愛らしい恋人よ……願わくばこれからも儂の隣に寄り添っていておくれ」
「…………そんなの言われなくたっているもん♡」
消え入りそうな声で言葉を返すラルバ。するとラルバはヒラヒラと舞い上がり、血狩の真ん前に移動する。
真ん前まで行くと、今度はギューッと正面から血狩に抱きついた。それはまるで"もう離れない"と言っているようで、血狩もラルバの背中に両手を回して応える。
「私、血狩のこと好き♡」
「儂もラルちゃんを好いておるよ」
「今日からここに住む♡」
「それは喜ばしいことじゃなぁ」
「えへへ、でしょう?♡ あ、でも夏は太陽の光を浴びに地上へ行くから、その時は血狩も一緒にくること!♡ 拒否権無しだから!♡」
「これは困ったことになったのぉ」
血狩はそう言うが、全く困っている風ではなかった。
後、血狩は夏場はラルバと太陽の畑で幽香の許可を得て養蜂場を開業し、ラルバと末永く甘い生活を送ったーー。
エタニティラルバ編終わりです!
エタニティラルバは妖精なのでセーフということで!
お粗末様でした!