お久しぶりです。
元となる作品を良く知らないにわかファンの筆者でございますが、リクエストをいくつか頂いておりましたのでこうして限定カムバックします。
未プレイ、未読で他の東方二次創作作者様方の作品から得た知識程度の身ではありますが、読んでもらった読者様方に『甘い』と思ってもらえるよう、頑張って書きます。
どうか温かい目で、ブラックコーヒーを片手に読んでくださいませ。
注意
本編にマヨヒガを登場させますが、八雲家はそこに住んでおらず、別の場所に居を構えている設定でお願いします。
女苑の恋華想
人里ーー
幻想郷は今日も穏やかに時が過ぎ、人々も
しかしそんな人里ではちょっとした騒ぎが起こっていた。
「あーはっはっ! 重たくて重たくて仕方ないわ! 欲しい人は好きなだけ持っていけーっ!」
あの富を吸い出す疫病神の依神女苑があろうことか道のど真ん中を金銭をばら撒きながら歩いているのだ。
女苑は時たまこのようなばら撒きをして人里を練り歩き、一人で馬鹿騒ぎをする。
道行く人々の多くはその金銭に群がり、またある者たちは疫病神の捨てた金銭だからと命蓮寺や博麗神社、守矢神社へ届けるといったことをし出す始末。
女苑がこのようになったのは半年程前のこと。
最初はまた異変を起こしたのかと霊夢たちが退治に乗り出したが、理由を聞いた霊夢たちはそのどうでもいい理由に馬鹿馬鹿しくなってその日の内に解散してしまった。
その理由はーー
『最高の金づるを見つけてお金があり過ぎて困ってるから』
ーーとのこと。
女苑は自身が起こした異変の後、姉の紫苑と付かず離れずな関係をしながら金持ちを探して幻想郷を彷徨っていた。
しかし自身が起こした異変の主犯と広く知られており、どんな金持ちに取り入ろうとしても誰も彼も彼女に取り入る隙を見せなかった。
そんなある日、女苑は魔法の森のマヨヒガに迷い込んだ。
女苑もマヨヒガのことは知っているがそれをその目で見たのは初めてで、しかもマヨヒガから何か物を持ち出すことが出来ればその者は一生幸せになれると言われているため、女苑はすぐにマヨヒガへと上がり込んで物色を始めた。
しかし物色を始めたものの、どれも女苑の好みに合わない物ばかり。
古びた物ばかりでアクセサリーも宝石も見つからず、女苑は『湿気た家だ』と舌打ちをかます始末。
すると女苑は背後から声をかけられた。
驚いた女苑が振り返ると、そこには黒紅梅色の小袖に紫紺の袴を身にまとう青年が立っていた。その顔は薄くも気品に溢れており、女苑は中でも耳から伸びる大きな大きな耳たぶに目を引かれた。何しろ外の世界で言う五百円玉ほどの大きさだから。
マヨヒガにまさか住人がいるとは知らなかった女苑。
しかもいないことをいいことに物色していて中も散らかし放題だったので、これには女苑も自身の浅はかさを悟り、青年へ頭を下げた。
いつもの彼女ならあの手この手と言葉巧みに逃げおおせたはずが、何故か青年を見るとこの時ばかりは言い訳が思いつかなったという。
そんな女苑を見、青年は『僕は怒ってはいません』と言った。
驚いて女苑が頭を上げると、青年は目を細め、優しい優しい笑顔を浮かべていた。
その青年の笑顔を見た途端、女苑は自分の顔がカァーッと沸騰するかように熱を帯びていくのを感じ、逃げるようにマヨヒガを飛び出した。
後に女苑はその青年が『
それを知り、女苑は下心のままに青年へ取り入ろうとする。
しかしそこで大きな誤算が生じた。
黒原は女苑を疫病神と知りながら側に置き、彼女の言うまま富を渡したのだ。
そこまでは良かった……どんな無理難題を言っても優しく叶えてくれる黒原に女苑は次第に恋心を抱いた。
女苑も自分の心の変動にどうしたものかと一時は頭を悩ましたが、彼の側にいるだけで幸せになり、女苑はそんな自分を自覚し、黒原と共にあろう……と告白をして半ば強引に共に住むようになったのだ。
ーーーーーー
そうした経緯で、女苑は今日もいつものように黒原の住むマヨヒガへ帰ってきた。
そもそもマヨヒガは一度行けばもう二度と辿り着けないのだが、黒原からもらった紫色をした石があればこうして難なく辿り着けるのである。
「たっだいま〜! 今日も散々ばら撒いて来ちゃったわ!」
すっからかんになった金銭を入れとく巾着をそこらへ投げ捨て、女苑はドカドカと座敷に上がった。
「おかえり、女苑。新しい巾着と金銭はいつものように用意しておいたよ。それと料理も用意してあるからね」
黒原は笑顔で女苑を出迎える。
居間のちゃぶ台には女苑がリクエストした豪華な料理が煌々と並べられ、女苑は「ありがと〜♡」と黒原に抱きついた。
「あはは、僕は何もしてないよ。全部は天からの授かり物だからね」
「んふふ、それもそうよね!♡」
女苑はそう返すと黒原から離れ、テーブルについてその料理をモシャモシャと頬張り始める。
そんな女苑を黒原は相変わらず優しく微笑みながら見つめ、お茶を淹れてやったり食べさせてやったりと甲斐甲斐しく世話を焼いた。
ーー
「……ねぇ」
しばし料理を堪能していた女苑がふと黒原へ話しかける。
「ん、なんだい? 違う料理がいい?」
黒原はそう言って土間の方へ向かおうと立ち上がろうとするが、女苑は違う違うと首を横に振って黒原の袴の裾を引っ張った。
「じゃあ、なんだい?」
優しく黒原が訊ねると、
「今日も一緒に食べてくれないの?」
女苑は消え入りそうな声で寂しそうにそう訊ねた。
「うん。僕は女苑が残した物を食べるから」
黒原は迷わずに言葉を返す。その顔は相変わらず優しい笑顔で、それを目の当たりにする女苑の胸にチクチクと嫌な痛みが生じた。
女苑がここへ住むようになってからいつも朝夕の食事は共に過ごすが、女苑は黒原と一度も同じ時に食事をしたことはない。
それは女苑が散々食べて残した料理を黒原が「余り物には福がある」と言って食べるから。そんなことをしなくても料理は次々と生み出せる黒原なのに、そうしないのは彼が福の神だからだろう。
現に食べ残しでも黒原はとても美味しそうに食べ、演技でも気を遣っている訳でも、はたまた何かを隠している風でもないのだ。
「でも……私は満大と一緒に食べたい」
「その願いだけは叶えることは出来ない……ごめんね」
どんなワガママも聞く黒原だが、共に食事は取れない。
その理由は二人が家族ではないからだ。
傍から聞けば変な理由と思うだろう。
しかし黒原は福の神。食を共にするのは家族でなくてはならず、いくら同居人だからと共に食卓を囲むことは彼の
「満大のケチ……」
「ごめんね……」
先程までの和気あいあいとした空気は消え、一気に重苦しい空気が二人を包む。
(こんなにこんなに大好きなのに……家族みたいに過ごしてるのに……)
女苑はそう思い、目を伏せ、下唇を噛みしめた。
ぽむっ
すると、ふと頭に何やら柔らかい感触が伝わってくる。
視線を上げると、
「そんなに悲しい顔をしないで……女苑が悲しいと僕は胸が張り裂けそうだ」
黒原はそう言って女苑の頭を優しく優しく撫でていた。
福の神である黒原は目の前の人が悲しみに暮れると、その不幸が彼自身の身体を蝕み、耐え難い苦しみを生じる。
それを思い出した女苑は無理矢理にでも笑顔を見せた。こうすることで彼の痛みは少しではあるが和らぐのだ。
「そんなに僕と一緒に食べたいと思ってくれてるんだね」
ふと聞こえた言葉に女苑はコクリと短く頷いて見せる。
するとーー
「じゃあ、家族になっちゃおうか」
ーーとんでもない言葉が返ってきた。
女苑はすぐに視線を黒原へ向けると、彼はいつものように優しく微笑んでいる。
「で、でも……私は疫病神だよ? そんな私と満大がけ、結婚なんて……」
自分で言ってて顔を赤くする女苑。
確かに結婚が出来るならしたい……そうすればもっと彼と同じ時を過ごせるのだから。
しかし自分は疫病神で彼は福の神……まさに表と裏の存在だ。そんな自分たちが結婚なんて誰が聞いてもおかしいと言うだろうし、快くも思われないだろう。
昔の女苑なら二つ返事で結婚し、いざとなったら捨てることも出来た……でも黒原の優しさに触れ、彼と育んできた愛を前に女苑はまた視線を落とす。
「女苑は何かを忘れているね?」
「え?」
「ここは幻想郷だよ? 幻想郷は全てを受け入れる……恐ろしくも素敵な場所さ」
「っ!?」
「疫病神と福の神が結婚……大いに結構じゃないか。妖と人が結ばれたり、妖精に人間の恋人がいたりするのに、どうして僕らは結ばれちゃ駄目なの? 女苑は何を怖がっているの?」
「…………」
「君を幸せに出来るのは僕しかいないと思うな」
なんの恥ずかしげもなく、笑顔で言い放つ黒原。
すると女苑はいてもたってもいられず、黒原の胸に飛び込んだ。
黒原は「おっと」と余裕そうに声をこぼしながら、そのままゴロンと女苑に押し倒されるようにして寝転ぶ。
「いっぱいいっぱいワガママ言うよ……?」
(結婚したら今以上に甘えるから!♡)
「これまで通りだね」
「私のワガママに応えられなかったら捨てるよ……?」
(私との時間をもっと増やしてくれなきゃ嫌!♡)
「全部応えるよ」
「それから、えっと……えっと……♡」
「ねぇ」
「な、何?」
「返事をもらえないかな?」
ニコニコと分かりきっている答えを求める黒原。
でもその笑顔の前に女苑も頬がふにゃふにゃに緩む。
「私をお嫁さんにしなさい!♡」
「うん、喜んで」
こうしてここに疫病神と福の神のなんとも不思議な夫婦が誕生した。
しかしそんな夫婦を幻想郷の人々は温かく祝福したというーー。
依神女苑編終わりです!
久々なのでちょっと説明文が多くなってしまいましたが、ご了承ください。
ともあれ、久々の甘いお話、お粗末様でした☆