うー☆じゃないよ!
紅魔館ーー
夕焼けに照らされ更に赤くなる紅魔館。
そんな紅魔館の主・レミリアはとある人物を今か今かと待っていた。
いつもなら冷静なレミリアだが、今回ばかりはソワソワと落ち着きがなく、部屋の中をウロウロしたり、吸血鬼も映る魔法の鏡の前で何度も何度も身だしなみをチェックしている。
(ソワソワするお嬢様可愛いいいい!)
そんな主を見ながら待機している咲夜は鼻から噴き出しそうな忠誠心を何とか抑えていた。
すると部屋のドアがコンコンとノックされた。
「どどど、どうぞ!」
平静を装ってレミリアが声をかけると、一人の男が入室した。
彼は人里から離れた土地に住み、若くしてブドウ園を営むレミリアの恋人である。今日は紅魔館へブドウ酒を卸しに来たのだ。
「失礼します。レミリアさん」
「え、えぇ……いらっしゃい♡」
いつものように優しく微笑んで挨拶をする青年に、レミリアは目にハートマークを浮かべて羽をパタパタとさせる。
「ようこそおいでくださいました。お茶をどうぞ」
「いつもありがとうございます」
「いえ。ではお嬢様、何かありましたらお呼びくださいませ」
咲夜の言葉にレミリアは無言でコクコクと頷いた。もう言葉を発する余裕がないほど彼に夢中である証拠だった。咲夜はそんなレミリアにニッコリと微笑み、二人に一礼してパッと姿を消した。
咲夜が姿を消すと、レミリアはその時を待っていたかのようにスススッと青年の元へ移動し、彼の膝の上へちょこんと座った。
彼と二人きりのレミリアには彼の膝の上が定位置なのだ。
「はふ〜、落ち着くわ♡」
「お嬢様にお気に召してもらえて光栄です♪」
「む、そんな言い方しちゃ駄目だって前に約束したはずよ? 今は恋人同士の時間なんだから♡」
「ふふ、そうですね。レミリアさん♪」
彼が優しく笑って返すと、レミリアは「ん〜♡」と幸せそうに声をもらして青年の胸に顔をグリグリと埋めた。
「僕としては皆さんの前でもしてあげたいですね。紅魔館の皆さんには悪いですが、この方は私の大切な人だと見せつけたいです♪」
「そ、その気概は嬉しいわ。でも、せめて並んで座るくらいしか……今の私は持たないわね」
そう言うとレミリアはみんなにこの状況を見られることを想像し、耳まで真っ赤にして「はぅ……」と俯いてしまった。
そしてレミリアはまた口を開いた。
「それに貴方はフランからもとても気に入られているわ。もしも今の私達をフランが見れば、自分もして欲しいと願うでしょう?」
レミリアはそう話しながら、繋いでいる青年の手にまたキュッと力を込める。
「あの子を邪魔者扱いしたくはないけれど、二人きりの時間くらい……私は貴方を独占していたい♡」
レミリアは気恥ずかしそうに言葉を紡ぎつつ、今度は青年の首に手を回した。
レミリアの真紅の瞳はまっすぐと青年の顔を捉える。
「そこまで愛されている僕は幸せです。なら暫くは、二人でこうして触れ合いましょう」
彼の言葉にレミリアは「えぇ♡」と眩しい笑顔で答えた。
「もっと僕の方にもたれてもいいですよ? レミリアさんはとても軽いですから」
まだ遠慮が見えるレミリアに青年が優しく言葉をかけると、レミリアは「じゃあ」と前置きして彼の体に自身の身体全体を預けた。
「ん……ふふ、温かい♡ 大好きな貴方の顔も匂いも……貴方のすべてが近くて、幸せで頭がクラクラしちゃう♡」
「僕はいつでもレミリアさんに酔ってますよ♪」
「ふふん、当然ね♡ この私を本気にさせたのだから、ちゃんと責任を取りなさいよね♡」
「えぇ、勿論dーー」
とその時、レミリアはバッと身体を離し、元の席へと素早く座り直した。
それと同時に部屋のドアがバーーンと解き放たれ、
「お兄ちゃん!」
レミリアの妹、フランが目を輝かせて現れた。
「……フラン。もっと静かにお入りなさい。それとご挨拶も忘れているわよ?」
「あ、ごめんなさい、お姉様」
レミリアに注意されたフランはトボトボと部屋から出て行き、今度はドアをトントントンとノックしてから入室した。
「ご機嫌よう、お兄ちゃん、レミリアお姉様♪」
「はい、ご機嫌よう、フランちゃん」
「ん、ご機嫌よう、フラン」
もう一度初めからやり直したフランは、「これでいいんだよね?」と言うようにレミリアの顔色をうかがった。
「いい子よ、フラン」
「えへへ♪ ねぇねぇ、お姉様。お兄ちゃんとお人形さんごっこしてもいい?」
「こらこら、そんなこtーー」
その時レミリアの脳裏に電撃が走る。
今は夕方であるが彼は優しいからフランのお願いは聞いてくれる。フランとお人形さんごっこをすれば夜になる。夜になると妖怪に襲われる危険性があるので彼は帰れない。となると紅魔館へ泊めさせることが出来る。この考えを0.5秒間の間に思いついたのだ。
するとレミリアは小さく咳払いをして、青年に訊いた。
「フランがこう言っているのだけれど、貴方はどうかしら?」
「えぇ、勿論構いませんよ」
「やった〜♪」
彼が快く頷くとフランは大喜びでその場でピョンピョンと飛び跳ねた。
「ありがとう。お願いね」
レミリアが笑顔でそう言うと、彼も笑顔でまた頷いた。
そして青年はフランに手を引かれて部屋を後にし、それを見送ったレミリアはニヤリと妖しく微笑んで、冷めた紅茶をゆっくりと飲み干すのだった。
「咲夜」
「はい、お嬢様」
「今夜はあの人を紅魔館へ泊めるわ。客室の準備をお願い」
レミリアの言葉に咲夜は「畏まりました」と言って頭を下げる。そしてレミリアは「あぁ、それと……」と言葉を紡ぎ、窓の方へとゆっくりと歩み寄り、窓に掛かる真紅のカーテンをバッと開け放った。
「今夜、その客室の周辺には誰も見回りさせないこと……いいわね?」
「畏まりました」
咲夜はそう言ってまたパッと姿を消し、ティーセットを片し、客室の準備へと向かった。
レミリアは夕闇掛かった空を眺め、
「今夜は楽しい夜になるわね」
と真紅の瞳をギラギラと輝かせるのだった。
ーー。
フランとお人形さんごっこをした青年は夜も更けた頃にようやく開放された。
そしてレミリアは予定通り、彼を紅魔館へ泊めることに成功し、今は館のお馴染みの面々に青年を加えたみんなでの晩餐会になった。
「宿泊もさせてもらえた上にお食事まで、ありがとうございます」
「気にしなくていいわよ♡ 今日はフランと遊んでくれたお礼と貴方が造った美味しいワインのお礼よ♡ 好きなだけ食べてね♡」
「お兄ちゃんとお食事、嬉しいなぁ♪」
彼の正面に座るレミリアは彼の顔をニコニコと眺め、フランは彼の右隣に座って嬉しそうに咲夜の用意した料理を食べていた。
「そう言えばレミィ、彼とはどこまで行ったの?」
「っ……ごほっごほっ!」
親友であるパチュリーの唐突な質問に、レミリアは思わずむせてしまった。
「お、お嬢様!」
「あらあら、そんなにむせ返るほど進展しているなんて……親友として喜ばしいことだわ♪」
「いい性格してるわね、パチェ……」
「貴女の親友を長いことしていた賜物ね♪」
パチュリーの言葉にレミリアは「ぐぬぬ」と悔しそうに唸った。
「あはは、お姉様が『ぐぬぬ』だって〜♪ きゃはははは♪」
「可愛らしい唸り声ですね」
そんなレミリアにフランはコロコロと楽し気に笑い、青年はクスクスと優しく笑った。
愛する妹の笑顔と最愛の人の笑顔にレミリアはそれ以上パチュリーに何も言うことが出来ず、その後もパチュリーからの質問攻めにレミリアはてんやわんやするのだった。
ーー。
そして夜も更け、青年は自分のために用意された客室のベッドに横たわっていると、キィ〜っとドアが開いた。
「レミリアさん?」
彼がそう声をかけると、
「ぎゃおー♡ たーべーちゃうぞー♡」
とレミリアがノリノリで言ってきた。
青年が身を起こしてレミリアの姿を確認すると、彼は心臓が止まるのではないかと思うほど自分の心臓がドクンと跳ねるのが伝わってきた。
どうしてそこまで驚いたかと言うと、ランタンに照らされていたレミリアが黒地にバラの刺繍が施されたレースのネグリジェ姿だったのだ。
「れ、レミリアさん、そそ、その格好は何ですか!?」
「あら、貴方と
「いやいや、添い寝するだけでそんな格好は……それに色々と、その……」
「んふふ、添い寝だなんて……それで済むはずないでしょう?♡ 吸血鬼の目の前に美味しそうな人間がいると言うのに、ね♡」
そう言いうとレミリアは青年をトンッと押し倒し、覆い被さった。
「レミリアさん……」
「責任、取ってくれるのでしょう?♡」
「……はい」
「頂きま〜す♡」
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翌朝、ゲッソリした彼とツヤツヤしたレミリアを見た咲夜は朝食にお赤飯を用意したというーー。
レミリア・スカーレット編終わりです!
カリスマとかりちゅまを持ち合わすレミリア様は本当に魅力的ですな〜。
自分で書いているのに主人公が羨ましいのであります。
レミリア様は吸血鬼なので年齢的には大丈夫ということでお願いします!
ではお粗末様でした☆