八雲立つ出雲の開闢者(仮)   作:alche777

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002:グラスホッパーを習得しよう

『三雲修です。よろしくお願いいたします』

 

『……ちょっ師匠、迅先輩。これってどう言う事でしゅか!?』

 

 

 いつもの様に玉狛支部に到着した八幡は抱えている仕事を取り組む前に、訓練室で軽く体を動かそうとしていたら師である木崎レイジと迅悠一が連れ込んだC級隊員に頭を下げられて困惑するしかなかった。

 

 

『比企谷、こいつは三雲修だ。訳あって玉狛支部に転属する事になった。烏丸が師となって面倒を見る事になったんだが、あいつはあれだろ。だから、あいつが指導できない時はお前に任せたいと思う』

 

『ちょ、ちょっと待ってください。なんでそんな話になるんですか。玉狛には小南や迅先輩だっているじゃないですか』

 

『俺も最初はそう言ったんだがな。迅がな』

 

 

 二人の間に割って入って、迅が話し始める。

 

 

『俺のサイドエフェクトが言うには、八幡の指導を受けてもらった方がいいみたいだ』

 

『また視えたんですね。俺、弟子を取った事なんて一度もないんですよ』

 

『分かっているって。けど……メガネくんの生死は八幡にかかっているらしい。彼の力になってくれ』

 

『それもサイドエフェクトですか?』

 

 

 迅は力強く頷いた。

 その態度を見て、事の重大さに気づいた八幡は後ろ首を描きつつ「分かりました」と了承する。

 

 

『けど、俺一人では限界がありますので手伝って下さいよ』

 

『分かっている。どうも、あのメガネくんは俺の二代目になるみたいだし』

 

『……暗躍二号とか可哀そすぎるだろ』

 

 

 八幡とレイジは全力で三雲を迅と同じ道を歩ませない事に決意したのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 トリガーにグラスホッパーを入れ直した八幡と三雲は再び訓練に勤しむ事になった。

 

 

「三雲はグラスホッパーを使うのは初めてだよな」

 

「は。はい」

 

「こいつは主に触れたものを強制的に動かす効果を持っている。自身が乗れば、ジャンプ台にもなるし、敵を踏ませて移動を促すのもよし。荒業だが瓦礫などを触れさせて、即席の投擲台にすることも可能だ。ここまで、何か質問は?」

 

 

 首を横に振って「ありません」と答える。

 

 

「こいつはシールドと同じ様に分割させる事も出来る。これを利用してグラスホッパーからグラスホッパーへ連続で加速移動させる事も可能だ。最近A級になった緑川って奴が良く使う手のようだ」

 

「な、なるほど。それを使えば――」

 

「機動力を補えると思っているかもしれないが、こいつはセンスが必要だ。なぜだか分かるか?」

 

「い、いえ」

 

「単発のグラスホッパーは読まれやすい。動きが直線的だしな。上位の変態組なら、グラスホッパーを起動した瞬間に動きを読まれて落されてしまうぞ。同様にテレポーターも言えるな。要は使い方だが、レイガストの防御力に頼っている三雲と相性はよくない。それは俺にも言えた事だけどな」

 

 

 三雲のトリガーは本人の意見を参考に玉狛支部全員が意見を出し合って構成している。

 何を思ってか知らないが、メインとサブメインのトリガーにレイガストとスラスターを入れたいと言われた時、全員は相当頭を悩まされてしまった。理由を聞いて渋々納得した一同は、三つのトリガーを入れる事にした。残り一つは、今後の三雲の成長で必要になりそうなものを自分で決めて欲しいと言う意味も込めて、あえて決めなかったのである。

 その三つの中にグラスホッパーは組み込まれていなかった。それゆえ、空いているトリガーにグラスホッパーを組み入れる事にしたのである。

 

 

「使い方はアステロイドの置き球に似ているな。試にやって見ろ」

 

「はい。グラスホッパー!」

 

 

 三雲の手に起動させたグラスホッパーが出現する。トリオンの総量が少ないせいか、三雲のグラスホッパーは愛用する使い手達の奴と比べても二回りほど小さかった。

 

 

「えっと……」

 

「ま、トリオン量に作用されるらしいからな。試に、それでどれぐらい移動できるか確認するか。三雲、自分の足元にグラスホッパーを作って飛んでみろ」

 

「分かりました」

 

 

 言われた通り、三雲はグラスホッパーを踏みつける。

 グラスホッパーの効力が発動されて三雲の体は三メートルほど宙に突き飛ばされた。

 突然の出来事に思考が上手く働かなかったのか、着地する事を忘れたらしく尻餅をついてしまった。尻を強打した三雲はしばらく動く事が出来なかったようで、実践訓練を始める前にいくつか注意事項を伝える事にした八幡であった。

 

 

「分かったように、お前のグラスホッパーはわずか三メートル弱しか動かす事が出来ない。加速力もそこまでなかったことだから、お前が実践に必要になる場面はそう多くないと思う。それを頭に入れて、迅先輩の可能性の未来に臨んでくれ」

 

「わ、分かりました」

 

「んじゃ、それを念頭に入れて訓練を始める。まずは三コンボぐらいまで出来る様にするぞ」

 

 

 三雲が単発のグラスホッパーに慣れるまで二時間ほど有した。

 

 

 

***

 

 

 

「……なるほど。それで修にグラスホッパーを使わせていたんですか」

 

 

 アルバイトから帰ってきた烏丸京介は、慣れない事をやり続けて疲弊した三雲の姿を見て目を細める。

 

 

「比企谷先輩。少し、スパルタすぎじゃないですか」

 

「言うと思ったよ。これは迅先輩の指示でもある。あいつには酷だが、これぐらいで根を上げて貰っては困るんだよ」

 

「迅さんが?」

 

 

 どうやら烏丸は迅の予知の話しを聞いていなかったようなので、迅から聞いた話を全て話す事にした。

 三雲の通う学校が襲われると聞いて、烏丸は神妙な顔になる。

 

 

「……なるほど。修が通う学校が、ですか」

 

「あぁ。どうも、俺が介入する事を迅先輩は快く思っていないらしい」

 

「そうですか。……期間は?」

 

「分からない。迅先輩が言うには数日の間らしい。いつごろになるかまでは聞いていない」

 

「分かりました。そういう事なら、俺もグラスホッパーの使い方を重点的に指導しましょう。レイジさんや小南先輩には俺から言っておきます」

 

「おう、そう言ってくれると助かる」

 

 

 それから三雲は烏丸に引き摺られて訓練室へ再度突入する事になる。幾らトリオンの消費がないとはいえ、平均以下の体力しかない三雲にとって本日三度目の訓練は苦以外の何者でもなかったであろう。

 何度も烏丸の弧月で切り裂かれた修を尻目に、八幡はもう一つの仕事をする為に訓練室を後にしたのであった。

 

 

 

***

 

 

 

「待ち侘びたぞ、我が相棒にして好敵――」

 

 

 宛がわれた部屋に入ろうとすると腕組みをしながら仁王立ちしている怪しい人物がいたので、一度開けた扉を閉めざるを得なかった。

 

 

「ま、待って待って。ボクだよ八えモン」

 

「んだよ、お前かよ材木座。誰だかわかんなかったから通報しちまうところだったぞ」

 

 

 閉ざした部屋から飛び出した変人が材木座輝義であると判明し、八幡は取出した携帯電話をしまう。

 ほっと胸をなで下ろした材木座は、一度咳払いをして気分を落ち着かせ、通常運転に入り始める。

 

 

「久しいな、我が友よ。幾千の絶望と抗い、幾万の試練を乗り越えてやってきたぞ。剣豪将軍義輝、汝の希望に応え馳せ参じた候」

 

「キャラがブレているぞ、お前。……てか、なに? 試練を乗り越えたって事は、ついに出来たのか?」

 

「うむ。この剣豪将軍義輝に不可能の文字はない」

 

「剣豪将軍は関係ないだろ。……だが、よし。それなら早速試作品に取り掛かるぞ。クローニンさんがいないのが痛いが、そこはどうにかしてみよう。材木座、喜べ。今日も徹夜だぞ」

 

「は、八えモン!? さ、最近、あなた様の嫌いなワーカホリックになっていますよ? い、いーやぁあああああ。ぼ、ボクちん、今日はおうちに帰るの!!」

 

「諦めろ! 俺だって、最愛の小町に会いたいの我慢してるんだからな!」

 

 

 材木座の抵抗が激しかったので、トリオン体になって彼の後ろ襟を掴んで引っ張る事にする。やっと休めると思った材木座は滂沱の涙を流したのであった。


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