八雲立つ出雲の開闢者(仮)   作:alche777

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019:A級5位嵐山隊

 嵐山隊。

 ボーダーの顔役を担う彼らは別名タレント部隊と呼ばれている。

 

 

「嵐山隊だ……!」

 

「A級隊員だ!」

 

 

 故に彼らが登場した事でざわめくのも無理はない。

 

 

「到着が遅れてもうしわけない! 負傷者は!?」

 

 

 避難所から現れた教師に向けて、傷を負っている者を確認する。教師陣も確認中なのか名簿を片手に一人一人無事である事を確認し、彼に告げる。

 

 

「いま確認できました! 全員無事です!」

 

 

 負傷者がない朗報を聞いて「よかった」と安堵の溜息をもらす。

 

 

「しかし――」

 

 

 嵐山准は機能停止しているモールモッドを見やる。

 

 

「見事なものだ。的確にモールモッドの急所、複眼を捉えている。これを例の三雲君とやらがやったのか」

 

「そそ。それ、うちの新人君がやってのけたのよ」

 

 

 感嘆の声を上げる嵐山に声を掛けたのは迅であった。彼は調査を八幡と葉山に任せ、自分は駆けつけた嵐山隊の方へ戻ってきたのである。

 

 

「迅、お前も来ていたのか!?」

 

「や、嵐山。俺の他に八幡と鈴鳴支部の金髪君もいるよ。最も、俺達が駆けつけた時には既に戦いは終わっていたけどね。このメガネ君のおかげで」

 

 

 遠巻きで見守っていた三雲の傍まで歩み寄り、彼の肩に手を回して嵐山隊の傍まで近寄らせる。

 

 

「キミが……」

 

「あの……。初めまして、B級隊員の三雲修です。他の隊員が来るのを待っていたら間に合わないと思って、自分の判断で行いました」

 

「そうか、キミが三雲君か」

 

 

 嵐山は三雲の右肩を掴む。

 

 

「よくやってくれた。ありがとう、キミがいなかったら犠牲者が出ていたかもしれない。うちの弟と妹もこの学校の生徒だったから、気が気でなかったんだ」

 

 

 そう言うと嵐山はとある方角へ走り去っていく。三雲に礼を言った時に目敏く愛する弟と妹を見つけたのだろう。大きく両手を広げて嵐山副と佐補がいる場所へ駆け寄る。

 そんな兄の姿を見て不味いと思ったのだろう。思春期の中学生的には感涙しながら近寄ってくる兄の姿をクラスメイト達や学校の者にあまり見られたくない。そんな時の対処方法は一つしかない。他人の振り。二人は駆け寄る兄の姿など目撃もしていないし、知らなかったと――なんて甘い考えが通じる訳がなく、二人は兄の抱擁を受ける事になってしまう。

 

 

「うぉ~~!! 副! 佐補! お兄ちゃんは心配したぞ~~!!」

 

「ぎゃ――! やめろ――!」

 

「恥かしいよ、兄ちゃんっ!」

 

 

 嵐山准の行動に唖然とする三雲。三雲が知る嵐山准はあくまでボーダーの嵐山准しか知らない。まさか凛々しくかっこいい嵐山准が感涙しながら姉弟の元へ駆け寄るなんて思いもしなかった。

 

 

「なんかおもしろいやつだな。アラシヤマって」

 

 

 一部始終見ていた空閑が素直な感想を漏らす。それを聞いて迅は「ぷっ」と息を零した。

 

 

「あれでも特に優秀なボーダー部隊の部隊長なんだぞ。ボーダーの顔としてテレビとかにもよく出ているし、この辺では有名人だぞ」

 

「ほう、てれびとな」

 

 

 この半年間、情報集めを主に行っていた為に空閑はテレビの存在を今の今まで知る由もなかった。だからこそ、有名人と言われてもピンとこないでいる。

 

 

「いやしかし、すごいな。ほとんど一撃だろ、これ。B級になって間もないと聞いたが?」

 

「まぁね。なんせ、玉狛支部全員でメガネ君を鍛えているんだから。これぐらいの芸当、軽くこなしてくれないと俺達の立つ瀬もないよ」

 

「玉狛支部全員? と言うとあの比企谷も?」

 

「そそ。どちらかと言うと、練習量は八幡との模擬戦が多いから、八幡の弟子と言っても過言じゃないかもね」

 

「そうなのか! ここしばらくランク戦にも顔を出さないし、どうしたのか心配だったが……。そうか、今は三雲君の指導を」

 

 

 八幡とは兄弟繋がりで交流を持っていた。

 A級部隊を率いた頃から八幡の事を知っている者として、未だにボーダーを止めていない事が嬉しかったのだろう。

 

 

「あのあの! 嵐山さんはお兄ちゃんと仲が良かったんですか!?」

 

 

 兄の名前を聞いて黙っていられなかったのだろう。彼女の妹である小町は挙手しながら、嵐山准に詰め寄る。

 

 

「ん? キミは……?」

 

「あ、初めまして。比企谷八幡の妹、小町と言います。いつも副君と佐補ちゃんにはお世話になっています」

 

「そうか、キミが小町ちゃんか。二人から話しは聞いているよ。尊敬する先輩って」

 

「そうなんですか。て、照れちゃいますね。それで、あの……。お兄ちゃんとは」

 

「彼とは仲良くさせてもらっていたよ。いま学校の中に入っていった充や今は別部隊の柿崎とはよくランク戦をしていたからね」

 

 

 八幡が玉狛支部に転属する前までは普通にランク戦などをして交流を深めていた。

 嵐山准も空いている時間を利用して何度かお手合わせした記憶がある。戦い方が他の隊員と違ってトリッキーな動きを見せるから、色々と勉強になったのを覚えている。

 

 

「……そう言えば、木虎は八幡と面識がなかったよな?」

 

「例の腐った目の人ですよね?」

 

「腐ったって……。普通、妹さんの前でそれを言うか」

 

 

 部下の小馬鹿にした言葉を注意し、苦笑いを浮かべている小町に謝罪する。

 

 

「あ、いいんです。小町もお兄ちゃんの目は腐っていると思っているので。なんであんな風に腐ってしまったかは小町も分かりませんが」

 

 

 兄の八幡の目が腐敗しているのは紛れもない事実。何度も言われているせいで言われ慣れてしまったのか、笑って許してしまう。

 

 

「しかし、彼の実力は目に見張るものがあるのは知っていたが、弟子を育てる才能もあるとはね。キミの様な弟子を持てて、彼も鼻が高い事だろう」

 

「そうでしょうか。さっきも報告をし忘れた事で注意を受けたぐらいなので」

 

 

 三雲自身、かなり八幡に甘えている事は自覚している。何度も我儘を言って彼を困らせている故、嵐山准が考えるような評価をしてくれているとは思えないでいる。

 

 

「そうよ。現場にいたならなんで連絡の一つもしないの。おかげで、私達は無駄骨を折らされる羽目になったじゃない」

 

 

 それを機に木虎が不満をこぼす。自分達は仕事を中断して現場に急行したのだ。

 B級だろうとボーダーがいれば自分達が急行する必要はなかったはず、と木虎は主張する。

 

 

「おいおい、それはないだろ木虎」

 

「嵐山さん。私達のスケジュールは分刻みで決められているんですよ。彼のミスでスケジュールが大幅に遅れてしまったのは事実です」

 

「しかし、失敗は誰にもあるしな」

 

「その失敗のせいで誰かが迷惑をかける事を知るべきです。結果はともあれ、今後このようなミスを犯さない様に注意をするべきなのでは?」

 

 

 ふむ、と考え込み始める嵐山准。

 木虎にしては珍しく厳しい――普段からつんけんとしているが、今日は特に――主張に頭を悩ませる。なぜに、彼女はこんな事を言い出すのかと。

 そんな嵐山准が考えている事など露知らず、木虎は三雲に牙を剥ける。

 

 

「あなた、一人で倒せたからと言っていい気にならない事ね」

 

「別に僕はいい気になったりは――」

 

「普通、こう言う緊急事態の時は緊急マニュアルに従うべき。敵を見つけたら報告。その後に市民の安全を確保し、B級の場合は単独で戦う事は避けること。常識でしょ」

 

 

 完璧な状況で防衛を行えない場合は少なくない。その時は定められたルールに従って行動するべきとC級の時に教えられる。それは三雲も覚えていた。けれどそのルールに従っていたら、現状の結果を導けたであろうか。それを口にすると水掛け論に発展してしまう。ここはA級隊員の意見を尊重するべきだと三雲は判断した。

 

 

「そうだね。木虎の――」

 

「――おいおい、それはないんだろう」

 

 

 謝罪の言葉を口にするよりも早く、二人の会話に割って入ったのは現場の調査を終えた八幡であった。後ろで「あとは頼みます」と葉山が時枝に頭を下げている所を見て、調査結果は時枝に託したのであろう。

 

 

「よっ。比企谷、久しぶりだな」

 

「お久しぶりです、嵐山さん。あなた方も急行なされていたんですね」

 

「あぁ。妹弟達が襲われたと聞いて、いても経ってもいられなくてな。比企谷の弟子の三雲君には大変世話になった。ありがとう」

 

「よしてください。お礼を言うなら、助けた張本人に言ってくださいよ。俺達が到着したころには全て終わっていたんですから」

 

 

 正確には見守っていたのだが、それを素直に話す必要はない。三雲の隣で意味深な笑みを浮かべる空閑の姿を目にしたが、気付かない振りをして話しを続ける。

 

 

「んで、そこのお前。木虎だったか?」

 

「そうですが、貴方は……」

 

「俺は玉狛支部A級隊員、比企谷八幡だ。随分とマニュアルに詳しいようだが、あの緊急マニュアルの最後に『尚、必要な場合は臨機応変の対応を求める』と書いてあったはずだ。今回の三雲の行動はその最後のやつに該当すると思わないか?」

 

「それは……」

 

 

 確かに明記されていた。緊急マニュアルはあくまでマニュアルに過ぎない。

 状況に応じてはそのマニュアル書通りに動けない場合も少なくない。マニュアルに拘って視野を狭くするな、と言う事もC級時代に教わっている。

 八幡の言っている言葉は一理ある。しかし、ここで退いてしまったら自分が難癖を付けてしまったと思われる。

 

 

「しかしですね――」

 

「――まあまあ、木虎も落ち着いて。今回はこの実力派エリートの顔に免じて見逃してくれないかな。メガネ君には気を付ける様に言っておくから」

 

 

 これ以上話しがこじれてしまったら、あまり良い方向に発展しないと視えたのか。両者の間に割って入って迅が仲裁を誇る。流石に木虎もS級隊員の言葉を無視する事ができなかったのか「ふん」と顔を背けたのであった。

 

 

「なんか悪いな、迅。三雲君も。同い年でここまで戦える人はあまりいないから、きっと意識しちゃっているんだよ」

 

「ちょっと、嵐山さん!」

 

 

 図星だったのだろう。確かに木虎の世代で一目置かれている隊員は少ない。意識をするなと言われても無理な話だろう、と迅は納得する。

 

 

「いや、いいよいいよ。俺達はもう退散するが、嵐山たちはどうする?」

 

「俺達は調査結果を伝えたら、回収班が来るまで待機しているさ。一応、任された部隊は俺達になっているからな」

 

「そっか。なら、俺達は一足早く撤退させてもらうとするよ。メガネ君、授業が終わったら玉狛支部に来てくれよな。……もちろん、隣のネイバーの子も一緒に」

 

 

 耳元で囁かれた後半の部分に目を剥く。

 まさかこうもあっさりと空閑の正体がばれてしまったのか、と驚く三雲に気を使って「大丈夫。悪いようにはしないさ」と付け足したのであった。

 

 

「んじゃ八幡、そして金髪君。ここは嵐山隊に任せて行こうぜ」

 

「うす。……三雲。今日は部活で行けそうにないから、師匠にみっちり鍛えてもらえよ」

 

「了解です。またね、三雲君。今度は時間が空いたら、ちゃんと自己紹介させて欲しいな」

 

 

 現場を嵐山隊に任せた三人は早々と去って行った。

 

 

「オサムの師匠っていい人そうだな。さっきまで喚いていたキトラと違って」

 

「おい、空閑っ!」

 

 

 今の今まで黙っていた空閑を黙らそうと動くのであったが遅かった。空閑の何気ない感想はしっかりと木虎に聞かれていた。

 

 

「あなたね! 随分と失礼な物言いをするじゃないの!?」

 

「しつれいなのは、お前の方だろ。さっきは随分とつまんないウソを付いて、オサムを困らせてくれたな」

 

「な、何の事よ!?」

 

「緊急マニュアルが――」

 

「――待て待て待てっ!! 空閑、お前何を言い出すんだ。もう、終わった事を一々掘り返さなくてもいいよ!」

 

 

 慌てて空閑の口を押える。

 いま、彼の発言を許したら三雲にとって最悪な状況へ変わるのは目に見えていた。

 けど、親友の三雲をバカにされた空閑としては一言二言伝えたかったらしい。抑えていた三雲の手を振り払って、木虎に伝える。

 

 

「しかしなオサム。こいつはただ単にオサムが褒められるのが気に食わなかっただけだぞ」

 

「なっ!?」

 

「なわけないだろ。彼女はA級のエリート隊員だ。僕程度を彼女が意識したり、気に食わないと思う訳ないだろ」

 

「A級のエリート、ね」

 

 

 ボーダーの隊員制度を知らない空閑からしてみれば、三雲よりも木虎が凄いと言う方程式は納得いかなかった。なにせ三雲は油断していたとはいえ、黒トリガーの自身を単独で撃破した程の男だ。木虎の方が凄いと言う事になれば、空閑は彼女よりもしたと言う事になってしまうのだ。

 

 

「はいはい、お話しはそこまでにしようか」

 

 

 険悪なムードが立ち昇る中、調査報告を嵐山准に伝えた時枝が木虎に呼びかける。

 

 

「時枝先輩」

 

「あまり、人の功績に文句を言うと折角の人気に傷がつくよ、木虎」

 

「うぐっ」

 

「あはは。充に一本取られたな、木虎。後の事は俺達に任せてくれ、三雲君。本当にありがとう」

 

「そんな、こちらこそ」

 

 

 求められた握手に応じ、後の事は嵐山隊に任せて三雲たちはいつもの日常へ戻ったのであった。

 

 

 

***

 

 

 空閑遊真の敗北は彼を送り出したネイバー達に伝わっていた。

 

 

「ユーマが負けただと!? それで奴は無事なのか!」

 

『はん、俺が知るかよそんな事。それより話しが違うじゃないかよ。黒トリガーのユーマならどんな敵でも負けないんじゃなかったのか?』

 

「それは……」

 

『この落とし前どうしてくれるんだよ、貴様。あいつが敵の手に堕ちたとなると、こちらの情報が奴らに知られるぞ。俺達が近々襲い掛かりに行くこともな』

 

「あいつがそう易々と情報を流すとは思えない。だからチャンスをくれ」

 

『チャンス、ね。攻撃力に長けたアイツの黒トリガーでも負けた奴らにお前の黒トリガーが通じるとは思えないがな。……ま、いいだろう。好きにやりな。ただし、チャンスは一度だけだからな』

 

「ありがとうございます。必ずご期待に添える様に全力を尽くしますので。ですから、どうか!」

 

『分かった、分かった。それまでの間、お前の子供の命は保障してやる。だから、うまくやれ。……な、防衛団長殿。いや、今はユーゴと名乗っているんだったな』

 

「はっ。エネドラ様」

 

 

 言いたい事だけ告げたエネドラは通信を閉ざす。

 防衛団長、ユーゴと名乗った男は畏まった態度を止め、懐から一枚の写真を取り出す。

 

 

「ユーゴ、すまない。すまない。俺はお前の息子を……」

 

 

 一緒に映っているかつての親友に何度も謝罪する。決して謝っても許される事ではない事は分かっているが、それでも共に戦ってくれた戦友に詫びずにいられなかった。

 

 

「――嘆く暇はないぞ、ユーゴ殿」

 

「っ!? 誰だ」

 

 

 仮にも一国の防衛団長まで上り詰めた男。だれか人が来れば気配で直ぐに察知できるはずなのだが、声を呼び掛けられるまで全く持って気づく事ができなかった。

 ユーゴは己のトリガーを取り出して、いつでもおっぱじめる様に身構える。

 

 

「安心しろ、味方だ」

 

 

 現れたのは全身ローブに包まれた男であった。いや、声色から判断しただけで目の前の人物が男性かどうかは定かでないが。

 

 

「……味方? アフトクラトルの援軍か?」

 

「そう捉えてもらって構わない。俺の名はジン。貴君の援護をしに参った」

 

「俺の……?」

 

「左様。空閑遊真が負ける未来も見えていたのに、その対処を怠った。今回の失敗は私のミスでもある。故に、その埋め合わせをさせてもらう為に参った」

 

「未来が視える……? お前は、まさかっ!?」

 

「さぁ。始めるとしようか、ユーゴ殿。玄界の連中に目に物を見せてくれよう」

 

 

 ジンと名乗った男の瞳には黒トリガーを携えた男と戦う光景が広がっている。

 

 

「迅悠一。貴様の首は私が貰い受ける」


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