旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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本当は、勇者のくせになまいきだ、の魔王様に提督をやってもらうつもりでした。

けど、そうなると人類壊滅、深海棲艦大勝利になるので、やめておきました。

新台真央は真大魔王の名残みたいなもんです。





9話 オリョクルはいやでち

「ああああああ!!!おーわった!!もう二度とやらねぇ!!」

 

昨日の夜から、この鎮守府の溜まりに溜まった書類を処理していた俺と艦娘の皆さん。お外はもう明るくなってきている。

 

「ふぅ、これで溜まっていた分はどうにかなったな」

 

「戦闘ならまだしも、書類仕事で徹夜したのは初めてよ」

 

と、あんまり役に立たなかった長門さんと、長門さんの分まで働いた陸奥さんが言う。

 

「……榛名は……大丈夫……です……」

 

「……雨は……いつか……止むさ……」

 

「はー、終わったか、予定より早いな。助かったぞ、大淀」

 

「はい、皆さんお疲れ様でした!」

 

書類仕事お手伝い勢も、満身創痍と言ったところかな?

 

「はーい、解散!もう、(仕事は)やめにしませんか?皆んな疲れたよね?休んで、どうぞ」

 

当たり前だ。流石に徹夜の後にまた働くなんてあってはならない。

 

 

 

「……何を言っている?本日の業務はこれからだぞ?」

 

「…………は?」

 

「見ろ、05:00、業務の開始時間だ」

 

「…………あ、あああ、うわああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

膝から崩れ落ちた俺。が、長門さんは我関せずと言った様子で、さっさと出撃してしまった。

 

その際、長門さんは、木曾ちゃんに大本営からの提督変更のお知らせの書類を渡すと、潜水艦の部屋まで案内してやれ、と言っていた。何でも、顔合わせは早めにしておけ、だとか。

 

それを了承した木曾ちゃんは、俺についてこい、と言って、鎮守府の奥へと歩き出した。

 

 

 

 

 

「……ねえ、木曾ちゃん?」

 

「何だ?」

 

「……このへんって倉庫じゃないの?道、間違えてない?」

 

「いや、間違えていない。ここらが、俺達の部屋だ」

 

「ウッソだろお前!」

 

「いや、本当だか?お前がどう思っているかは分からんが、艦娘は兵器で、道具だ。「倉庫にしまう」ことの何がおかしい?」

 

この人達、頭おかしい……!常識が息してない!ここでは常識に囚われてはいけないとかっていうジンクスでもあるの?そんなの、知り合いの2Pカラー巫女だけで充分だよ!!

 

「そ、それは違うよ!常識的に考えて、女の子を倉庫にしまうかよ?!」

 

「……それはお前の常識であって、ここの常識ではないだろう。ほら、着いたぞ、潜水艦の部屋だ」

 

そして辿り着いたこの部屋。

 

まず廊下。窓はひび割れ、壁は朽ち、床は腐っている。ホラーゲームかな?

 

部屋の中は、立て付けの悪い扉、打ちっ放しのコンクリートの壁に、埃の積もった床。廃墟かな?

 

そして、部屋の片隅。ボロボロのスク水の女の子が4人。震えながら、オリョクルがどうとか呟いてる。イメクラかな?

 

 

 

 

 

「オリョクルはいやでちオリョクルはいやでちオリョクルはいやでちオリョクルはいやでちオリョクルはいやでちオリョクルはいやでちオリョクルはいやでちオリョクルはいやでち…………」

 

 

 

違った、イメクラじゃねえ、社畜だ。

 

「ねえ、木曾ちゃん。アレ、大丈夫だと思う?」

 

「……大丈夫ではないが、いつものことだ」

 

大丈夫じゃない、問題だ。

 

「……え、酷くない?(疲労が)」

 

「潜水艦は、艦隊運用の要の一つ、燃料を拾得する仕事があるからな。恐らく、この鎮守府で最も忙しい艦娘だろう」

 

 

 

「ん?燃料?燃料って石油でいい?」

 

がこん、という音と共に、ドラム缶一杯の石油を懐から取り出した。

 

「あ、ああ、これだけあれば、艦隊の出撃一回分くらいにはなるな」

 

「じゃあ、伝手があるわ。あとで連絡しとく」

 

と言う訳で、潜水艦お休み券を書く。

 

燃料が手に入る以上、潜水艦の子達を酷使しちゃいかんでしょ。

 

「あの子達も休まなきゃならないやつだよ?大淀ちゃんと同じだ」

 

そして俺は、モップに箒、掃除機に雑巾と、掃除用品を出す。物は大切にしなきゃな。例え、建物でも。だから、こうして整備されてない建物は気にくわないのだ。

 

「……おい、今度は何をするつもりだ?」

 

 

 

「いやいや、ちょっとお手伝いをね!さてと、じゃ、一丁行きますか!」

 

 

 

×××××××××××××××

 

 

 

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌………………。

 

毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日…………。

 

まるで機械みたいに、ずっと、ずっと戦って、戦って……。

 

私も、イクも、はっちゃんも、イムヤも、もういっぱいいっぱいでち…………。

 

疲れた、眠い、空腹、辛い、怖い、痛い……、家畜以下の扱い。

 

もう、もう嫌だ。

 

でも、逃げることは許されない。

 

仮に、逃げたとして、どこへ?艦娘という化け物がどこへ逃げる?誰が受け入れてくれる?私が逃げたら皆んなはどうなる?私は、ゴーヤは、…………どうすればいいの?

 

 

 

「あ、ポイーッと!」

 

 

 

その時、聞いたことのない声と共に、私達は部屋から廊下に放り出された。

 

「「「「?!!、きゃああああ?!!」」」」

 

じ、地面にぶつかる!と、思ったが、何故か廊下にはクッションが沢山あり、それが緩衝材となって怪我はしなかった。

 

見ると、手元には、「潜水艦は本日お休みです。(提督)」と書かれた紙切れが握らされていた。

 

 

 

り、理解が追いつかないでち。

 

見ると、聞いたことのない声の主である白髪の男の人は、

 

「まあ、やるんなら本気でやろうかぁ!そっちの方が楽しいだろ?!!ハハハッ!!!」

 

などと言って、部屋の掃除を始めた。

 

あまりのスピードにもう声も出ない。

 

というか、誰でち?何で掃除を?あのキチガイじみたスピードは?どうしてあんなにテンションが高いの?

 

「おい、どうしたお前ら。怪我でもしたのか?」

 

フリーズする私達に木曾さんが声をかけてきた。

 

何とか再起動した私は、木曾さんに問いかける。

 

「き、木曾さん、あ、アレは何でち?」

 

「新しい提督だ」

 

「…………?」

 

ちょっと何言ってるか分からないでち。提督はもっと怖くて、いつも怒ってるはず。あんな、別方向に怖い変な白髪じゃない。

 

そんな私に、木曾さんは書類を見せた。内容は、前提督は事実上の退役、代わりに、新台って人が提督になると書いてある。じゃあ、あの変なのが……?

 

「信じられんだろうが、事実だ。受け入れろ」

 

木曾さんは遠い目でそう言った。いやいやいやいや、受け入れろと言われても、普通に困るでち。

 

そうこうしている内に、部屋の掃除を終わらせた白髪は、またもや奇行に走った。

 

「なんか足んねえよなぁ、おい………、!!、おおお!無空波!!!」

 

「「「「ヒィィィ!!」」」」

 

きゅ、急にパンチで壁に穴を!!な、何やってるんでちこの変質者!!

 

「建築基準法第二章第二十八条ェ……!!」

 

こ、この人頭おかしいでち!!

 

「あっ、あの、新しい提督さん?お、お部屋を壊されると、イク達、困るかなって……?」

 

イクがおずおずと言う。もう手遅れだと思うんでちけど。(名推理)

 

「ちゃうねん、こんな採光面積じゃ、建築基準法にふれるんや……。居室として認められないんや……。法律怖い、超怖い」

 

そう言いつつ、どこからか取り出した窓を壁の大穴に取り付け始める提督。そ、そんなに大きなもの、どこに持ってたの?

 

「?、えっと、窓がないと、ほーりついはんなの?」

 

「うん、有効採光面積が床面積の1/7無いと、その部屋には住んじゃならないんだよ」

 

イク、違うでち、もっと根本的なところに疑問を持つでち。

 

「じゃ、じゃあ、イク達捕まっちゃうの?!大変なの!!」

 

「そこに気付くとは、やはり天才か……。その天才さに免じて、ジュースを奢ってやろう」

 

「わーい!!」

 

ああ、駄目だ、イクじゃ太刀打ちできない。速攻で言いくるめられた。こ、ここは私がガツンと言わなきゃ!怖いけど!!

 

「な、何のつもりでち!新しい提督がゴーヤ達をどうするつもりなんでち?!どうせまたオリョクルでち!!部屋をリフォームしたところで、毎日毎時オリョクルに行くんだから、どうせ帰ってこれないでち!!意味が無いでち!!」

 

い、言ってやった、言ってやったでち!!

 

そしたら、窓を付け終わった提督が、だんだん近づいてきて……。

 

「な、殴るんなら殴るでち!!提督なんか怖くな……い……?」

 

…………あれ?おかしい、撫で、られてる?

 

「……お休みだよ」

 

「……ふぇ?」

 

「オリョクルはお休みだ、今後は燃料を他所から買ってくるよ。取り敢えず、今日はゆっくり休みなよ」

 

 

 

お、お休、み?

 

お休みって何だったっけ?

 

「……お休み?何でちか?それは?」

 

 

 

「……もういい……!もう……休めっ……!休めっ……!」

 

 

 

×××××××××××××××

 

 

 

あまりの社畜っぷりに全俺が泣いた。お休みの存在そのものを忘れるって何だよ。もうね、他人にお休みの概要について説明するのは初めてだよ。

 

まあ、お休みを知った潜水艦の子達は、泣いて喜んでたけど。

 

「ゴーヤ、嬉しいでち!オリョクルに行かなくても良いなんて初めてでち!!新しい提督さんに一生ついていくでち!!」

 

とのこと。なんかもう、不憫でならない。

 

まあ、何にせよ、

 

「さーて、俺もお休みだぁー!!」

 

休む。

 

 

 

「全く、凄いもんだな、お前は」

 

木曾ちゃんが俺を褒める。

 

「それほどでもない(謙虚)」

 

「いや、正直言って有難いよ。潜水艦の奴らには常々休んでほしいと思ってたからな」

 

「でも、木曾ちゃんもどうせ休んでないんでしょ?」

 

「俺なんかまだ良い方さ。さて、俺はこれから三十分の仮眠をとる。そのあとは27:00まで出撃と遠征だ。じゃあな」

 

そう言って、木曾ちゃんは倉庫の一室のドアを開ける。

 

 

 

そこには、

 

潜水艦の子達と同じ、

 

窓のない廃墟があった。

 

 

 

「あは、あはははははは!!こっ、この程度、想定の範囲内だよォ!!!」

 

俺は、泣きながら掃除道具を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 




書類お手伝い勢
このあと、普通に出撃した。

潜水艦’s
オリョクルのせいで精神崩壊寸前だった。

ゴーヤ
でち公。
お休み一つで好感度がストップ高。

イク
ジュースで懐柔された。

2Pカラー巫女
昔、旅人が迷い込んだ異世界で会った。
高校中退な件については触れてはいけない。

旅人
死亡確認。

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