つーか、どうせ皆んな笑ってはいけないやつ見てるんでしょ?良いじゃん、適当で。笑ってはいけない鎮守府、その内やりたい。
息を、吐く。
すん、と鼻を鳴らす。潮風の臭いに乗ってくるのは、敵の臭い。深海棲艦の臭い。提督に仇なす愚か者共の臭い。
そして、こちらを取り囲む深海棲艦の臭いは、ゆっくりと闘争の臭いに変化していく。
私と背中合わせで、身の丈以上の剣を構えるのは、姉の古鷹。
古鷹は、次の瞬間に動くだろう。合図はいらない、私には分かる。
古鷹が動くと同時に、私は……、
「ブレストリガー……!!」
胸元の、一対の拳銃を抜く!
まるで居合のように、早撃ち一閃。
目の前の深海棲艦の脳幹を貫く。
飛び散った「脳味噌だったもの」が、顔に引っ付くが、気にすることはない。
死の匂いだから。敵の死の匂いは大好きだ。提督の匂いの次くらいには。
二丁の拳銃を交差させて構える。
二丁拳銃、ダブルトリガー、アキンボ……、まあ、何でもいい。好きに呼べ。
目的は何時もと同じ。何も変わりはしないのだから。
死を振り撒く。私達の、提督の前に立ち塞がる愚か者共を地獄に誘うこと……!
最早、艦娘としての大義はない。
艦だった頃の矜持は何処へやら、護国ではなく、惚れた男の為に命を懸ける、唯それだけの個人的な理由。
惚れた男の邪魔だから殺す……。
何と言う自分勝手。
しかし、この私の、私達の想いは、自分自身を以ってしても止められやしない。
この身が艦娘でなく、悍ましい魔神と成り果てようとも、私達は提督の為に武器を振るうだろう。
そう、つまり……、
「神に逢うては神を斬り」
「悪魔に逢うてはその悪魔をも撃つ」
「戦いたいから戦い」
「潰したいから潰す」
「「私達に、大義名分などないのさ!!」」
そして、包囲している深海棲艦共が一斉に襲い掛かってくる。
……愚か。
こちらを囲む程度の知能が関の山なのか?
引鉄を引きながら、腕を開くように射撃、数多の銃弾を吐き出す。
開かれた腕は、まるで悪魔の羽だ。
そして、銃弾の全ては、吸い込まれるように深海棲艦の急所に当たる。一発も外さない。
ある者は胴体がはじけて、ある者は頭が吹き飛び、ある者は胸に風穴。
二丁の拳銃で地獄を彩る。
……半数程殺ったか?すると、深海棲艦共の動きが変化する。
成る程、剣を持った古鷹からは離れて、逆に、銃を持った私には近付く、か。
……全く、全く以って愚かだ。
そんなこと、予想しているに決まっているだろう。
飛びかかってきた深海棲艦。無駄だ、コンパクトに銃を振るう。顎をカチ上げるように銃口を突きつけ、トリガー。破壊する。
そして私は、銃を持ち替え、砲身部分を握る。……銃底に鋭利な刃が付いたこのブレストリガーは、手斧にもなるのだ。
……もっとも、私には、後ろで主砲を撃ちながら斬撃を飛ばす古鷹のような技量はない。だから、力任せに深海棲艦共の肉体を刻むことしかできないが。
近付いてきた深海棲艦を斬り刻み、ほんの数十秒。
さあ、そろそろ仕上げだ。
ブレストリガーを一つに合わせ、大斧に変形、すかさず周囲を薙ぐ。
真後ろの古鷹には何も言う必要がない。お互いの行動は分かりきっているから。現に、古鷹は跳躍、回避した。
そして古鷹も、跳躍後に斬撃。縦に一回転。もちろん、私は見ずに回避。先程言ったように、私と古鷹は一心同体。お互いの行動は、見ずとも分かるのだ。
さて、これで終わりだ。全滅だ。
振り向きざまに、後ろから迫る深海棲艦を斬りつける。同時に振り向いた古鷹も、私の前にいた深海棲艦を貫く。
「「私達が、地獄だ!!」」
×××××××××××××××
「うわあ、派手ですねー」
相変わらず怖いなぁ、あの二人は。
……にしても、深海棲艦にも変化が見られますね。前までは、取り囲んだり、相手の行動を見て距離を変えたりなんてしなかったのに。
学習している?単純に性能が上昇しているだけではない?
まあ、良い。分析は私の仕事じゃないし。私、工作艦だもん。多分、大淀さんが資料でもまとめてるんじゃないかな?
……そんなことを考えていると、私の前にも深海棲艦が立ち塞がる。
「面倒ですね……」
だから、私は工作艦なのに……。
まあ、艤装の改造や改修を重ね、強化し続けた私は、自分で言うのも何ですが、強いんですよ。
万が一、怪我人がいても修理できますし、今回みたいな時には出撃するべきなんでしょうね。
しょうがない、です。
……別に、戦うのが嫌だとか、そう言う訳じゃありませんけど。こうして強くなったのだって提督の為ですし。
でも、私個人としては、提督に守ってもらいたいですよね!やっぱり、女の子ですし!
いや、艦娘だから、私が守るべき?うーん、どうなんだろう?
『ギギギギギギギギ!!!!』
『ヴヴヴヴアア!!!』
『ガァァァァァ!!!!!』
……ああ、そう言えばいたんだっけ、深海棲艦。数はほんの2、30だけど、五月蝿いな、五月蝿い。不細工な化け物共が。
「はぁ、厭ですねぇ、喧しい化け物共は。美しい機械音ならまだしも、何で声を出すんですか?」
ベースのような燃える炉心の音は好きだが、深海棲艦の叫び声は嫌いだ。
鋼鉄のドラムのような銃声は好きだが、深海棲艦の撃つ砲のような湿った音は嫌いだ。
エレキギターのような震えるモーターの音は好きだが、深海棲艦の壊れた起動音は大嫌いだ。
……ああ厭だ、とっとと解体しよう。
そう思って、艤装に火を入れる。
……異常な改造をし続けた私の艤装は、既に『工作艦明石』のものではない。肥大化したタービン、炉心は最新式、増加装甲に強化スクリュー……。最早、艦娘であるかどうかも定かではない。
ならば、私を私たらしめるものは何なのか?何故に私は『工作艦明石』でいられるのか?
……それは一重に、愛だろう。
提督が好きだ。
百遍愛していると伝えても、この気持ちの一厘も伝わらない。
彼の為なら、私は何にでもなってみせる。彼の隣に居れるならば、何になっても構わない。
そうだ、今の私の技術力ならば、何にだってなれる。なってみせる。彼が望むなら、艦娘でも人間でもない何かになっても構わない!
「そう、こんな風に……!」
増設した両肩のハードポイントから、二本のチェーンソーを外す。
「チェインデカッター!!」
ああ、実にいい音だ。
モーターと言う心臓から伝えられた運動エネルギーは、まるで流れる血液の様にビートを刻む。
赤熱する程のエネルギーを持ったチェインデカッターは、深海棲艦の装甲も肉体もバターのように断ち切る。
最高、最高だ!
お次は新しい武器。
「ギークガン!!」
愛用の釘打ち銃を強化改造、武器として使用できるようにしたものだ。すぐさまセーフティーをリリース、景気の良い音と共に釘を射出。
深海棲艦は濡れた紙屑のようにボロボロだ。
我ながら素晴らしい出来!
最後はこれだ、いつもの。
「ライアットジャレンチ!!!」
クレーンにマウントした巨大なレンチ。大きく、重く、そして丈夫だ。だけど、戦艦に匹敵する出力を持つ私にとっては最適の武器。
大きく振りかぶって、ぶん殴る。圧倒的なスピードと重さで振り回される大きな質量はそれだけで莫大な力を持つ。
艦種なんて関係ない、これに当たった深海棲艦は皆須らく潰れて捩じ切れ、海上に屍を晒す。
相変わらず至高の道具だ!!
「……っと、こんなもの、ですかね?うちの鎮守府は大体こんな感じです!これからよろしくお願いしますね、元浦野鎮守府の皆さん!!」
「「「「え、いや、無理……!!」」」」
あるぇー?
加古
姉の古鷹と共に黒井鎮守府最大戦力の一人。胸元に装備したブレストリガーは、一対の拳銃でありながら、一対の手斧、一本の大斧に変形する。性格は極めてマイペースで、尚且つ冷淡。
明石
黒井鎮守府最大戦力の一人。度重なる改造、改修によって、艦娘であることすらやめそうになっている。
元浦野鎮守府の皆さん
ドン引き。