旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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ほのぼのを目指しました。

つーか、どうせ皆んな笑ってはいけないやつ見てるんでしょ?良いじゃん、適当で。笑ってはいけない鎮守府、その内やりたい。


65話 新人研修

息を、吐く。

 

すん、と鼻を鳴らす。潮風の臭いに乗ってくるのは、敵の臭い。深海棲艦の臭い。提督に仇なす愚か者共の臭い。

 

そして、こちらを取り囲む深海棲艦の臭いは、ゆっくりと闘争の臭いに変化していく。

 

私と背中合わせで、身の丈以上の剣を構えるのは、姉の古鷹。

 

古鷹は、次の瞬間に動くだろう。合図はいらない、私には分かる。

 

古鷹が動くと同時に、私は……、

 

「ブレストリガー……!!」

 

胸元の、一対の拳銃を抜く!

 

まるで居合のように、早撃ち一閃。

 

目の前の深海棲艦の脳幹を貫く。

 

飛び散った「脳味噌だったもの」が、顔に引っ付くが、気にすることはない。

 

死の匂いだから。敵の死の匂いは大好きだ。提督の匂いの次くらいには。

 

二丁の拳銃を交差させて構える。

 

二丁拳銃、ダブルトリガー、アキンボ……、まあ、何でもいい。好きに呼べ。

 

目的は何時もと同じ。何も変わりはしないのだから。

 

 

 

死を振り撒く。私達の、提督の前に立ち塞がる愚か者共を地獄に誘うこと……!

 

最早、艦娘としての大義はない。

 

艦だった頃の矜持は何処へやら、護国ではなく、惚れた男の為に命を懸ける、唯それだけの個人的な理由。

 

惚れた男の邪魔だから殺す……。

 

何と言う自分勝手。

 

しかし、この私の、私達の想いは、自分自身を以ってしても止められやしない。

 

この身が艦娘でなく、悍ましい魔神と成り果てようとも、私達は提督の為に武器を振るうだろう。

 

そう、つまり……、

 

 

 

「神に逢うては神を斬り」

 

「悪魔に逢うてはその悪魔をも撃つ」

 

「戦いたいから戦い」

 

「潰したいから潰す」

 

「「私達に、大義名分などないのさ!!」」

 

 

 

そして、包囲している深海棲艦共が一斉に襲い掛かってくる。

 

……愚か。

 

こちらを囲む程度の知能が関の山なのか?

 

引鉄を引きながら、腕を開くように射撃、数多の銃弾を吐き出す。

 

開かれた腕は、まるで悪魔の羽だ。

 

そして、銃弾の全ては、吸い込まれるように深海棲艦の急所に当たる。一発も外さない。

 

ある者は胴体がはじけて、ある者は頭が吹き飛び、ある者は胸に風穴。

 

二丁の拳銃で地獄を彩る。

 

 

 

……半数程殺ったか?すると、深海棲艦共の動きが変化する。

 

成る程、剣を持った古鷹からは離れて、逆に、銃を持った私には近付く、か。

 

……全く、全く以って愚かだ。

 

そんなこと、予想しているに決まっているだろう。

 

飛びかかってきた深海棲艦。無駄だ、コンパクトに銃を振るう。顎をカチ上げるように銃口を突きつけ、トリガー。破壊する。

 

そして私は、銃を持ち替え、砲身部分を握る。……銃底に鋭利な刃が付いたこのブレストリガーは、手斧にもなるのだ。

 

……もっとも、私には、後ろで主砲を撃ちながら斬撃を飛ばす古鷹のような技量はない。だから、力任せに深海棲艦共の肉体を刻むことしかできないが。

 

近付いてきた深海棲艦を斬り刻み、ほんの数十秒。

 

さあ、そろそろ仕上げだ。

 

ブレストリガーを一つに合わせ、大斧に変形、すかさず周囲を薙ぐ。

 

真後ろの古鷹には何も言う必要がない。お互いの行動は分かりきっているから。現に、古鷹は跳躍、回避した。

 

そして古鷹も、跳躍後に斬撃。縦に一回転。もちろん、私は見ずに回避。先程言ったように、私と古鷹は一心同体。お互いの行動は、見ずとも分かるのだ。

 

さて、これで終わりだ。全滅だ。

 

振り向きざまに、後ろから迫る深海棲艦を斬りつける。同時に振り向いた古鷹も、私の前にいた深海棲艦を貫く。

 

 

 

「「私達が、地獄だ!!」」

 

 

 

×××××××××××××××

 

「うわあ、派手ですねー」

 

相変わらず怖いなぁ、あの二人は。

 

……にしても、深海棲艦にも変化が見られますね。前までは、取り囲んだり、相手の行動を見て距離を変えたりなんてしなかったのに。

 

学習している?単純に性能が上昇しているだけではない?

 

まあ、良い。分析は私の仕事じゃないし。私、工作艦だもん。多分、大淀さんが資料でもまとめてるんじゃないかな?

 

……そんなことを考えていると、私の前にも深海棲艦が立ち塞がる。

 

「面倒ですね……」

 

だから、私は工作艦なのに……。

 

まあ、艤装の改造や改修を重ね、強化し続けた私は、自分で言うのも何ですが、強いんですよ。

 

万が一、怪我人がいても修理できますし、今回みたいな時には出撃するべきなんでしょうね。

 

しょうがない、です。

 

……別に、戦うのが嫌だとか、そう言う訳じゃありませんけど。こうして強くなったのだって提督の為ですし。

 

でも、私個人としては、提督に守ってもらいたいですよね!やっぱり、女の子ですし!

 

いや、艦娘だから、私が守るべき?うーん、どうなんだろう?

 

 

 

『ギギギギギギギギ!!!!』

 

『ヴヴヴヴアア!!!』

 

『ガァァァァァ!!!!!』

 

 

 

……ああ、そう言えばいたんだっけ、深海棲艦。数はほんの2、30だけど、五月蝿いな、五月蝿い。不細工な化け物共が。

 

「はぁ、厭ですねぇ、喧しい化け物共は。美しい機械音ならまだしも、何で声を出すんですか?」

 

ベースのような燃える炉心の音は好きだが、深海棲艦の叫び声は嫌いだ。

 

鋼鉄のドラムのような銃声は好きだが、深海棲艦の撃つ砲のような湿った音は嫌いだ。

 

エレキギターのような震えるモーターの音は好きだが、深海棲艦の壊れた起動音は大嫌いだ。

 

 

 

……ああ厭だ、とっとと解体しよう。

 

そう思って、艤装に火を入れる。

 

……異常な改造をし続けた私の艤装は、既に『工作艦明石』のものではない。肥大化したタービン、炉心は最新式、増加装甲に強化スクリュー……。最早、艦娘であるかどうかも定かではない。

 

ならば、私を私たらしめるものは何なのか?何故に私は『工作艦明石』でいられるのか?

 

 

 

……それは一重に、愛だろう。

 

提督が好きだ。

 

百遍愛していると伝えても、この気持ちの一厘も伝わらない。

 

彼の為なら、私は何にでもなってみせる。彼の隣に居れるならば、何になっても構わない。

 

そうだ、今の私の技術力ならば、何にだってなれる。なってみせる。彼が望むなら、艦娘でも人間でもない何かになっても構わない!

 

「そう、こんな風に……!」

 

増設した両肩のハードポイントから、二本のチェーンソーを外す。

 

「チェインデカッター!!」

 

ああ、実にいい音だ。

 

モーターと言う心臓から伝えられた運動エネルギーは、まるで流れる血液の様にビートを刻む。

 

赤熱する程のエネルギーを持ったチェインデカッターは、深海棲艦の装甲も肉体もバターのように断ち切る。

 

最高、最高だ!

 

お次は新しい武器。

 

「ギークガン!!」

 

愛用の釘打ち銃を強化改造、武器として使用できるようにしたものだ。すぐさまセーフティーをリリース、景気の良い音と共に釘を射出。

 

深海棲艦は濡れた紙屑のようにボロボロだ。

 

我ながら素晴らしい出来!

 

最後はこれだ、いつもの。

 

「ライアットジャレンチ!!!」

 

クレーンにマウントした巨大なレンチ。大きく、重く、そして丈夫だ。だけど、戦艦に匹敵する出力を持つ私にとっては最適の武器。

 

大きく振りかぶって、ぶん殴る。圧倒的なスピードと重さで振り回される大きな質量はそれだけで莫大な力を持つ。

 

艦種なんて関係ない、これに当たった深海棲艦は皆須らく潰れて捩じ切れ、海上に屍を晒す。

 

相変わらず至高の道具だ!!

 

 

 

「……っと、こんなもの、ですかね?うちの鎮守府は大体こんな感じです!これからよろしくお願いしますね、元浦野鎮守府の皆さん!!」

 

 

 

「「「「え、いや、無理……!!」」」」

 

あるぇー?

 

 




加古
姉の古鷹と共に黒井鎮守府最大戦力の一人。胸元に装備したブレストリガーは、一対の拳銃でありながら、一対の手斧、一本の大斧に変形する。性格は極めてマイペースで、尚且つ冷淡。

明石
黒井鎮守府最大戦力の一人。度重なる改造、改修によって、艦娘であることすらやめそうになっている。

元浦野鎮守府の皆さん
ドン引き。

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