「そう言えば提督?エルデの地では何を覚えて来たのですか?」
「美味しいカニの茹で方」
「アッハイ」
いや凄いんですよ、塩加減で上手い具合に物理カット率を上げる茹で方をマスターしてきたんですよ。
カニと塩と水だけで、強化アイテムが作れるのはかなりデカいんだよ?
この前行ったカムラの里で習ったうさ団子も凄いが、これも凄い。
あとは、各種耐性を高める干し肉の作り方とか、属性投げナイフとかも使える。
こう言うのって他人に渡してもOKだから、潰しが効く技能なんだよね。
いっそのこと裏社会の方で魔法アイテムとして売っても採算が取れるんだし。
まあ良いや。
さあ、今日も爽やかな朝。
今日からはゴールデンウィークというやつですよ。
ウイーク……、ルドウイーク……?!!!
うっ、頭が……。
辛い記憶が……。
よし、忘れよう!
忘却の秘薬(ウォッカ)グビー。
「うん!忘れた!」
頭空っぽの方が夢詰め込めるもんな!
笑顔ウルトラZで今日もなんかするぞー!
折角の休みなんだし(毎日休みみたいなもんだが)、遊んでいこうじゃないか!
旅行とか行こうかなー?
と、俺がそう考えた瞬間。
背後からぬうっと、時雨が出てきた。
比喩ではない、空間転移でぬろっと出てきたのだ。
「ご一緒するよ」
あっこれ逃げられないやつ。
俺は悟った。
仕方がないのでゴールデンウィークは鎮守府内で過ごすこととした。
艦娘達も休暇を取らせる。うちはホワイトなので、有給取りやすいですよー!
「あんっ♡あんっ♡」
俺?
俺はほら……、休日(休日とは言ってない)みたいな……?
今は叢雲と、お馬さんごっこ(意味深)してるよ。
「寂しかったんだからぁ♡もういなくなっちゃダメなんだからねっ♡」
「善処します」
「そういう態度だと、本気で孕むわよ?」
「善処するということは、善処するということです(構文)」
「もう本気で孕むわ」
「あっごめんやめて!嘘嘘!頑張るから!」
流石に叢雲を腹ボテにしたら各方面から殺される!
「もういい加減良くないかしら?深海棲艦騒ぎが終わったら孕んでいいって言うけれど、もう終わらないでしょこれ」
「ギクッ」
そうなんだよな。
深海棲艦、発生のプロセスが海の防衛機構であるからして、人類が存在する限りいなくなることはないんだよな。
あれは要するに怨霊みたいなもんだし。
この世から怨みをなくしたら良いよ!って、完全に断りの言葉だよなあ……。
例えるなら、一昨日きやがれみたいなもん?
「もうね、良い加減待てないわ。何年待ったと思ってるの?」
「本当に……、すまないと思っている」
「いや良いから。早く孕ませて」
うおお物凄い腰の動き!
「ヤダーッ!ヤダヤダ!ヤダーッ!!!」
「うるさいっ!良い加減観念してパパになりなさいっ!」
「本当に待って?俺、人の親には」
「ならなくても良いわよ。子供はこっちで勝手に育てるから。子育てに協力しろなんて言わないわ」
あー?
あー……、まあ、メイドロボやらヒューマノイドやら造魔やらがその辺にいる黒井鎮守府で、子供を育てられないなんてことは確実にないんだが……。
でもほら……、俺という呪われた血族を増やすのはさあ?
「もうね、待てないの。この前の件で私達はもう、覚悟を決めてきたわ」
そう言って叢雲は、短剣を一本見せつける。
「これは白露型特製の呪刀よ。これをこうしてあんたに刺せばっ!」
うぐおっ?!
こ、これは……、気が練れない?!!
「これで、あんたの房中術を無効化できるわ。精子を不活性化して孕ませないようにする術も無効よ!」
ま、拙い!
このままじゃ……!
「ほら、ほらぁっ!パパになりなさいっ!私のお腹にあんたとの思い出を!子供を残しなさいっ!!!いなくなっても良いから、あんたの子供を……、あんたと共に生きた証を!残させてよぉ……!!!」
半ば泣きながら、叢雲はお馬さんごっこ(意味深)を続けている。
そんなに……、泣くほどに思い詰めていたのか……。
艦娘というのは駆逐艦クラスであっても、心身共に相当に鍛えられた傑物だ。
見た目は女子供そのものだが、旧日本海軍の偉人達の魂を、精神性を受け継いだ一種の神霊。
それが、それが幼子のように泣いている……。
ああ、そうだなあ。
なんだかもう、良いかなあ。
泣いて頼まれたら、俺は断れないや。
「愛してるよ、叢雲」
「司令官っ……!」
もういいや。
多分俺、俺が認知してないだけで子供いると思うし。
俺の遺伝子データで生物兵器作るアホとかも山ほどいるし。
俺自身は恐らく、自分の子供のことを第一に考えてやれるような人間ではないが。
俺はシャアみたいなもんだからね?男をやるのは得意だが、親をやるのはできないんだよ。
何やらせても一流だけど、何をやっても超一流には勝てない辺り、マジでシャアだよね。
もう面白グラサンノースリーブでサボテンだのケーキがないだのと一発ギャグを言うしかない。
そうこうしているうちに、部屋に雪崩れ込んできた艦娘に揉みくちゃにされて、俺は意識を失った……。
その後の話だ。
黒井鎮守府内部に、保育所のような、孤児院のような何かができた。
そこには、艦娘が定期的に出入りし、しかも黒井鎮守府の執務室並みの防護性能を誇る、超厳重な警備で固められている。
艦娘達は皆、時折、母親の顔を浮かべるようになった。
普段は鬼のようなツラで深海棲艦をすり潰す彼女達が、優しい優しい、母親の顔をするのだ。
俺は結局、父親にはなれなかったが、彼女達が幸せでいてくれるならそれで良いや。
旅人
墓地送り。
艦娘達
十ヶ月と十日後、旅人に赤ん坊を抱かせに来る。