旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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旅人、最近真面目に働いてるなあ。

褒めてあげてください。


551話 アライアンス

ふーむ。

 

「おかしいね」

 

俺は、手元の資料を読んでそう言った。

 

「はい、おかしいですね」

 

秘書艦の大淀もそう言った。

 

ここは、黒井鎮守府の執務室。

 

俺は、大淀と一緒に報告書の検分をやっていたのだが、おかしい点を見つけて二人で首を傾げていたのだった。

 

おかしい点とは?

 

「うちの技術がパクられてるね」

 

「はい。ですが、それは仕方のないことです。核心部は漏れていませんが……、黒井鎮守府も末端は一般人ですからね。どうやっても技術は漏れます」

 

「厄介な組織が協力し合っている」

 

「はい。あの手この手でバラバラのルートを使っていますが、資金や戦力を一か所に集め、黒井鎮守府に対抗しようとしている節があります」

 

「そして、『深海棲艦の技術』を使っている」

 

「はい。間違いなく」

 

うーん?

 

最近、様々な組織同士の連携が密となっているのが気になっていたんだが……。

 

その、組織同士の連携の輪に、深海棲艦が一枚噛んでいる?

 

うーん!

 

「めんっっっどくさっ!!!!」

 

 

 

話を整理しよう。

 

深海棲艦の祖は、地球の抑止力であることは既に研究や本人達への聞き込み調査から分かっている。

 

海を汚す愚かな人類に対する地球の防衛反応、いわばワクチンのようなもの。

 

ワクワクチンチンだ。

 

だが、薬も度が過ぎれば毒になる。

 

深海棲艦は、世界に漂う怨念を吸い過ぎて、海を守るための防衛者ではなく、海を汚す人類を抹殺するための殺戮者となった……。

 

そう、殺戮者だ。

 

殺戮者が、何故地上の組織と手を組む?

 

人類抹殺が目的の深海棲艦が、何故、人類の組織と手を組むんだ?

 

まあ、理屈は分かる。

 

現在、ほぼ一強の大組織である黒井鎮守府を、様々な小組織が連合になって叩き潰す、というのは合理的だ。

 

しかし、深海棲艦は合理的な存在ではないはずだ。

 

……いや、それは俺達の思い込みに過ぎなかったってことか。

 

「深海棲艦の指導者は、俺達が思うよりも遥かに理性的な存在だった……、ってコト?!」

 

「ワアッ……!」

 

おk、把握。

 

でもなあ、即座に対策は取れないしなあ。

 

国同士の争いなら、戦時国際法とかあるんだろうけど、我々のような裏社会やら他種生命との戦いをする人々は、法の加護の元にないからなあ。

 

「大淀」

 

「はい」

 

「以降、この深海棲艦と協力している組織群を暫定的に『アライアンス』と呼称。全職員に周知してくれ」

 

「分かりました、直ちに」

 

よし、と。

 

じゃあ俺は、現場の生の話を聞いてこようかな。

 

生っすかサンデーだ。

 

 

 

「はい」

 

「はいであります」

 

あきつ丸を呼んだ。

 

「あきつ丸、聞きたいことがある」

 

「なんなりと、であります」

 

「まず、最近の任務は?」

 

「直近で二日前に、フランスの違法武器工場の襲撃でありましたな。その前は、四日前のインドでの『ヒドラ』の基地を襲撃したであります。七日前には大空魔竜戦隊の大文字博士の護衛を二日……」

 

ふむふむ。

 

「偉いねー、良い子だねー」

 

よしよし。

 

「えへへ……」

 

照れ照れ丸!

 

「で?その際に深海棲艦の技術が使われた襲撃者が出たらしいけど、どうなの?」

 

「はい、その通りであります。敵戦力の中に、深海棲艦の陸上侵攻用ユニットがいたであります」

 

ふむ。

 

「陸上侵攻ユニットってのはこれだね?」

 

俺は、あきつ丸に資料を見せる。

 

深海棲艦の陸上侵攻ユニット……。

 

深海棲艦には、陸上要塞のように、陸と結びつくことで強化される存在がいくつかいる。

 

人類から陸地を奪って要塞化する訳だが、その時に兵士として送り込まれるのがこの侵攻ユニットだ。

 

黒い球状に大きな口がついており、そこから灰色の触手が何本か生えている、という見た目。

 

雑魚キャラのような見た目だが、少なくとも戦車砲の直撃も数発は耐えて、鋼鉄をねじ曲げて、人とまとめてなんでも食べてしまう化け物だ。

 

こいつらによって、人も建物もなんでも食べられて平地にされた陸地に、深海棲艦の母港が建設される。

 

いや、母港というのは正確じゃない。

 

深海棲艦の本当の母港は海の底にあるんだから。

 

橋頭堡というべきだな。

 

深海棲艦の橋頭堡となった陸地は、その範囲も海の一部であると深海棲艦側が『事象の書き換え』を行うらしく、陸上にイ級などの海上用ユニットが現れるようになる。

 

そして、そこを起点にじわじわと陸地を蝕んでいく。

 

故に、陸上侵攻ユニットは即座に潰さなきゃならないんだが……。

 

「これが、敵軍に混ざってたのね?」

 

「はいであります。また、それだけでなく、形状が違ったり、武装していたりする陸上侵攻ユニットもいたのであります」

 

なるほどね……。

 

つまり、深海棲艦の陸上侵攻が本格的に進んでいて、更に、陸上の侵略をやりやすいようにユニットの強化が行われている、と。

 

まだ強化については試行錯誤の段階であるということはあきつ丸の話から読み取れたが……。

 

「私見になりますが、よろしいでありますか?」

 

おっと?

 

「うん、聞かせてくれるかな?」

 

「恐らくは、連合組織……、『アライアンス』でありましたかな?その連中が、海に情報を沈めて、情報提供をしてるように思えるであります」

 

……ふーん?

 

「続けて?」

 

「はっ。まず、旧タイプの兵器のフレームに、深海棲艦の陸上侵攻用ユニットが寄生したかのような姿の存在がいくつか見受けられました」

 

「例えば?」

 

「ロボット兵器の導入により陳腐化した、戦車や戦闘機などでありますな」

 

なるほどね。

 

「決めつけるのは危険でありますが、軍事産業系の組織の仕業かと……」

 

「うん、分かった。後で大淀にも報告書を上げといてくれる?あきつ丸の私見も入れて欲しい」

 

「はっ!了解であります!」

 

 

 

うーん、厄介なことになったなあ。

 




あきつ丸
割と万能型で何でもできるので色んな仕事を任せられている。

旅人
珍しく真面目に働いた。

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