小説版は昔読んだ。
「や連カ(やはり連邦軍はカス)」
「いややっぱり御禿様はバリバリ学生運動最盛期の頃を生きてた訳じゃない?荒れている日本の様子を見て、テロじゃどんなに崇高な理念を掲げていたとしても世界は変えられないってことを表現したかったんだと思うよ(ガノタ早口)」
俺は、ガノタ特有の早口を見せる望月に暖かい目を向ける。
「おっ、そうだな」
お察しの通り、我々は先程、映画館で『閃光のハサウェイ』を観てきた。
来ているメンツは、ゴリッゴリのガノタである望月と、オタク衆こと初雪、漣、秋雲、明石、夕張。
彼女らは相当に気合が入ったオタクなので、閃ハサと聞いたら黙っていられない。
実際、公開が決定した時はこんな感じだった。
『真実(マジ)かよ司令官クン!』
『閃ハサが……!!!』
『幻想(ユメ)じゃないよね?!』
『すぐに帰国する……!』
……うん、またなんか別なのに影響を受けているが、気にしない方がいいだろう。いつものことだ。
俺達は、近場のカフェに入店する。
「何名様ですか?」
「七人です」
「おタバコの方は……?」
「吸いませんけど、喫煙席でも大丈夫です」
「はい、ではこちらへ」
店員さんの案内でボックス席に通された俺達は、そこで感想を言い合う。
「注文どうする?」
「あ、私はホットケーキ食べたいです。あとロイヤルミルクティー」
「私は……、メロンソーダで」
「おやおやおや、明石さんったら減量中ですか?艦娘なのに?」
「はー?違いますぅー!メロンソーダはアイスが上に乗ってるので実質スイーツも兼ねてるんですぅー!」
「私はコーヒーとミルクレープ」
「私は……、オレンジジュースと抹茶パフェで」
「あれっ?秋雲ってコーヒー好きじゃなかった?」
「漣……、あれはね、追い詰められた時に飲むものなんだよ」
「極道入稿はやめなってあれほど……」
「私はホットココアとワッフルアンドバニラアイスで」
「ん、コーラとチーズケーキで」
「……食べ合わせ悪くない?」
「そう?別にどうでも良くない?」
全員が頼んだところで……。
「じゃあ俺はこの、テラ盛りギガンティックパフェと、コーヒーをお願いします」
と俺も注文。
さて……。
「やっぱり、見所はモビルスーツの戦闘ですね!」
まず最初にそう言い放ったのは、ロボットアニメ過激派の明石だった。
明石が好きなのはスーパーロボットなのだが、ガンダムももちろん嗜んでいる。
ロボットアニメ好きにも色々な派閥があるのでオタクはめんどくさいな(暴言)!!!
例えばさ、ミリオタっているでしょ?
アレにも色んな種類があるんだよね。
現代の米軍の陸軍の兵器が好きな人もいれば、第二次世界大戦期の日本の海軍について俺ならもっと上手くやれたなどと妄想するのが好きな人もいる……、みたいな。
ロボットアニメも、スーパー派とリアル派で二分されているし、ガンダムしか見ないって人もいる。
難しいのでその辺を突っ込むと爆発するので、素人は気を付けよう。オタクの精神はポリマーリンゲル液のように繊細なのだ。油断するとボン!だ。
しかも最近は、ロボットアニメの行く末を真に憂う者を自称する石動雷十太が湧いているそうだし、世の中って大変ね。
えー、それで。
明石はその中でも、『ロボットの戦闘シーン』に注目するタイプなのである。
更に言えば、『奇怪なデザインのデカブツ』が大好きだ。
「ペーネロペー!やはり素晴らしい……!提督!」
「駄目だ!」
敵の潜水艦を発見!
「まだ何も言ってないじゃないですかーっ!!!」
「いや、言おうとしてることは分かるけど、工場のライン的にペーネロペーを配備するのは無理です」
最近はエアロゲイターとかいう訳の分からん奴らがガンガン来てるからなあ。
各国に機動兵器を売ってるんだけど、もうラインがいっぱいなのよね。
そこでわざわざ、ワンオフ機を作るとかちょっと……。
「ちぇっ、まあ、それは良いですよーだ。後でガンプラを改造して心を慰めますから!それより、あのモビルスーツの戦闘!独特の音響ももちろん良かったんですけど、あのモビルスーツ戦に巻き込まれて被害を受ける街の様子が、怪獣映画を彷彿とさせて最高でした!」
なるほど。
「F91もそんな感じじゃなかった?」
望月が言った。
「だってよ……、アーサーなんだぜ?」
漣が言った。
「今やったら『黒人を殺すとは何事だ!』みたいなことになりそう」
「いやほら……、ガンダムは宇宙移民後の世界なんだから、人種とか混血が進んでもう関係ないでしょ」
「私達の頃は欧米列強の白人がデカい顔してたのに、今は黒人がデカい顔するんだもんねえ、世の中って分かんないね」
「そもそも、私達は人間じゃないから、人種とか言われてもあんまりピンと来ないよね」
うーん。
「会話内容が危なくなってきたので、本題に戻してください」
俺が提言する。
「あらヤダ私ったらオホホ」
「オホホホホ」
ンモー。
その辺の人種差別やらポリコレやらに自ら突っかかっていくのは、キャバクラで野球とか政治とかの喧嘩しやすい話題を出すくらいよくないことだよ?
「まあでも実際、メカデザインは良かったですね。ペーネロペーの怪人的な相貌は素敵でした」
と夕張。
「完全同意だなあ」
皆が頷く。
「んー……、でもやっぱり、ガンダムと言えば見るべきは政治劇的な……、思想のぶつかり合いの部分なんじゃない?」
と秋雲。
秋雲は、同人誌作成が趣味であるが故に、ストーリー面が気になるそうだ。
「マフティーが自ら掲げる思想と、それが本当に正しいのか迷う葛藤!連邦軍の腐敗!ギギとの関係!ストーリー的な見所は目白押しだよ!」
「つまり?」
初雪が訊ねる。
「つまり、我々黒井鎮守府も、マフティーにも連邦軍にも兵器を渡してがっぽり稼ぐアナハイムみたいな組織になろうよ!と……」
「大丈夫?カルト宗教とか攻めてこない?」
初雪が言った。
「サンダーボルトはパラレルワールドの話だから……(震え声)」
「司令官……、君の意見を聞こう」
ズァッ!
望月が俺に訊ねる。
「うーん、俺はさあ……、基本的には、頑張ってる人は幸せになってもらいたいと思うんだよ」
「ふむふむ」
「特に、今まで頑張ってきた人が、本人とは関係のないところで酷いことになるのとか、もう見てらんないな。かわいそうで」
「……つまり?」
「息子を処刑したことにされて美談を作られたブライトさんかわいそう」
「「「「「「「それな」」」」」」」
旅人
ガンダムはそこそこ好き。
望月
ガノタ。