古鷹いいよね……。
最近は本当に、仕事がない。
深海棲艦は、大攻勢の前には、力を蓄えるために一旦退くんですね。
今は退いてる状態なので、深海棲艦はしばらく出ません。
その状態を仕事がない!と言ってしまうのは、気の緩みなのでは?と言う意見も当然有りますが……。
私達、黒井鎮守府は、少数精鋭です。
なので、戦時体制には即座に移行できます。
戦艦だったあの頃のように、出撃の為に整備だとか船乗りだとか指揮権だとかなんだとか、そう言ったことは殆ど必要がないのです。
艤装を動かす為の資材は充分にストックしてあり、例え、百回全力戦闘をしても使い切れないほどに蓄えがあります。
ついでに言えば、ここの艦娘は全員、艤装を限界まで近代化改修しているので、必要な資材はそれぞれ異なるんですけどね。
私のような、肉弾戦タイプの艦娘は、そもそも燃料を必要としませんし……。
艤装を使う艦娘は、大体、搭載しているのは核融合エンジンとかなので、必要なのは重水素やヘリウム3とかですかね?
中には、アイスセカンドなんかを使う艦娘もいますし、それを言えば、『勇気』さえあればいくらでも動かせる……、なんて子もいます。
整備の問題も、個人で使う、人間用サイズの武装を個人で整備するだけで良い訳ですし、指揮権は、提督を頂点として、聯合艦隊旗艦は長門さんになっています。
まあ、何にせよ、私達は即座に戦時体制に移行できるので、普段から気を張る必要はあまりない訳ですね。
そもそも、私達にとって重要なのは、『いかに提督を喜ばせられるか?』であって、深海棲艦と戦うことじゃありませんしね。
提督から命じられた仕事だからやっているだけで、人命や、海の平和とか、そういうのは正直どうでも良いです。
私達は提督の猟犬であり、提督が「狩れ」と命じた獲物を狩るだけの存在です。
獲物を狩って、ご褒美に「お情け」をいただく為だけに生きているんですよ。
ああ、もちろん、全ての決定権は提督にありますが、自分で考えなくて良いという訳ではないんですよ?
例えば、提督のお世嗣を産むこととか、そう言ったこともしっかり考えないと、一人前の猟犬とは言えません。
さあ、今日も、提督のしもべとして、敵を狩りましょう!
そう思って私は、隣で寝ている加古を起こしました。
「加古、起きて、朝だよ」
「んんぅ……?ふぁ〜あ、おはよー古鷹……」
半分寝ている加古の手を引いて、顔を洗って歯を磨き、着替えて髪を整えて、と。
「ほらっ、加古ー!今日は私達が、提督の護衛役なんだよ!」
「そうだった!」
その一言でばっちり起きたは加古は、すごい速さで身支度を整えた。
そして、提督の私室へお迎えにあがります!
まずはノック。
そして声をお掛けします。
「提督、起きていらっしゃいますか?」
『ん、起きてるよ』
「入室してもよろしいですか?」
『良いよ』
そうして、扉を開く。
「おはよう、古鷹」
ああ……、ああ!
提督!
私の主人!神にも等しい、いや、神そのもの!
素敵、素敵、素敵!
白亜の御髪も、鋭利な視線も、彫りの深いお顔も、薄い唇も、がっしりした肩幅も、分厚い胸板も、引き締まった筋肉も全部!
全てが美しい!
「おいで、古鷹、加古」
「「はい!」」
提督が、まるで、よく懐いた犬にそうするかのように、両手を広げる。
ああ、ああ!
私に、私達に、飛び込んでこいと!
そう仰るのですね!
私も女ですから、本能では、提督の分厚い胸板にマーキングするかのように頬擦りして、朝から奉仕をしたく思っています。
けれど、猟犬としての理性の部分がそれを許しません。
主人と犬との間には、絶対的な上下関係があるのです。
提督が上、私達犬が下。これが決まりです。
ですから、本能のままに、提督にしゃぶりつくことなど、本来は許されません……。
けれど、そこを!
お優しい提督は、私達のその、浅ましい雌の本能を察して、甘えさせてくださるのです!
雌の匂いを感じ取られるなんて、犬として失格……、私達は駄犬ですね。
そんな駄犬を、提督は愛してくださる……。
こんなにも、こんなにも幸せなことが他にありますか?
「「提督っ!」」
私と加古は、提督の胸に飛び込みました。
「あらまー、かわいーねー、うりうり〜」
そう言って、提督は、私達を撫でてくださいました。
「こんな早い時間に来るってことは、朝からしたかったってことかな〜?」
そんなつもりは……!
ない、と言えば嘘になるかもしれません。
でも、違います!
たまたまなんです!
そう思って、私は強めに否定してしまう。
「ち、違います!」
「とぼけちゃってえ(マジキチスマイル)」
「わ、私達は、提督の犬なんです!犬が主人におねだりだなんて、浅ましい真似はできません!」
「ふーん?じゃあ……、俺が抱きたいんだけど、良いかな?」
ああ、すみません、提督。
気を遣わせてしまいましたね……。
「もちろんです!提督の為なら!」
………………
…………
……
朝から最高の時間を過ごした私達。
提督は、ベッドの上では、少々意地悪なお方です。
私がもう達してしまっているのに、私の弱いところをゴリゴリと……。
でも、そんなところも素敵なんですよね……!
軽くシャワーを浴びて、食堂へ。
提督は、鳳翔さん達と協力して、朝から数百人分の料理をお作りになります。
朝から二十種類を超えるメニューを考案し、作っていらっしゃいますね。
一度、負担になっていないかとお訊ねしたことがありますが、好きでやっているので苦ではないと仰られていました。
実際、提督に埋め込ませて頂いた『チップ』からは、あれだけの料理をしていても、バイタルの乱れはなく、非常にリラックスした信号を出していらっしゃいました。
恐らくは、本当に楽しんでいらっしゃるんでしょうね。
であれば、私から言うことはありません。
調理を一時間足らずで終わらせた提督と共に食事を摂って、午前の仕事に入ります。
と、言っても、提督には殆ど仕事は回ってきません。
雑事は全て、提督の忠実な猟犬たる艦娘がやります。
提督はただ、報告を聞いて、方針を立てていただくだけでよろしいのです。
もちろん、艦娘が、提督の利権を犯そうなどと言う考えは一切ありませんよ?
その証拠に、あらゆる事業や活動の『責任者』は艦娘ですが、利益は100%提督のものになります。
……まあ、その利益は、提督は殆ど受け取らず、ほぼ全てを艦娘名義の口座に入れたり、黒井鎮守府の運営資金として貯蓄なさっているのですが。
身持を崩さない、立派なお方であることは素晴らしいのですが……。
私としては、もっと好き勝手なさってもいいのに、と思いますね。
昼、昼食作りをなさった提督を護衛します。
午後の提督は、基本的に、外部組織との会合か、もしくは鎮守府の見回りをなさります。
今日は見回りですね。
見回りは、艦娘とのコミュニケーションが目的だそうです。
人数が多いので、充分なコミュニケーションが取れないことについて、提督は嘆いていらっしゃいました。
……なんてお優しいお方なのでしょうか。
提督の貴重なお時間を、私達艦娘に割いてくださる……。
本当に光栄なことです。
その後、夕食作り、入浴、晩酌の後、提督は床に入ります。
「おいでー」
「提督……♡」
寝る前にも、可愛がっていただけました。
幸せ……。
本当に幸せですね。
昔は考えられなかった、本当の幸福。
私達に愛を、本当の幸福を、全てを与えてくださった提督。
恩を返さなければならない。
提督の望みを叶え、全てを捧げ、敵を狩り……。
全霊で、無償の愛への対価を払わなければならない。
注がれた愛情の分だけ、忠誠を、忠義を返すのだ。
旅人
毎日、護衛だとかなんだとか言って、適当な艦娘がべったりついてくる。
古鷹
大天使。
加古
カコッテンダー。