全然ダメ。
調子出ないなー。
やっぱり、天気悪いとねー。
「わはははは!やれやれー!凄いぞー!カッコいいぞー!」
メギドラオンがボカスカ爆発して、深海棲艦の肉片が飛び散る。
もう本当に物凄いレベルの大虐殺。
神州丸もよくやるわ。
他にも援護役の艦娘も十数人いるし、そのお陰で雑魚は殆ど散らしたから、後は南太平洋空母棲姫と南方戦艦新棲姫のボス二体だ。
『オノレ!ヤッテクレタナ、黒井鎮守府!』
「前衛、退け!扶桑型を出す!」
俺が叫んだ。
「「「「了解!退避ーーーッ!!!」」」」
前衛の艦娘が退避する。
そして……。
『何ヲ……?』
「行くわよ、山城」
「はい、姉様」
×××××××××××××××
生まれた時から、私はなんとなく、不幸であった。
音成鎮守府のドックにて、海原提督に迎えられた時も、滑って転んで怪我をした。
初めての出撃では、命中弾なし、駆逐艦の魚雷で大破という大敗を喫した。
初めての給料は全額落として無くした。
それは、私だけじゃなく、妹の山城もだった。
なんとなく、運が悪い姉妹だった。
そして、音成鎮守府は黒井鎮守府に編入された(公式記録ではされていないのだが、そういう事になった。旅人さんがそうした)のは幸運だった。
海原提督のような、優しい善人を提督とできたのは、人生でも一二を争う幸運だったと思う。
そして、間違いなく一番の幸運は、旅人さんの下で働ける事だった。
私如きには、もらい過ぎな幸運だった。
だから、私達は、その分を働いて返そうと、どんどん鍛えた。
しかし、おかしい。
鍛えれば鍛えるほど、『不幸』が加速していった。
初めのうちは、主砲が中々当たらないだとか、相手の雷撃に直撃してしまうだとか、その程度のものだった。
それがやがて、もっと狂ってくる。
砲塔が暴発して爆発した。
訓練場の流れ弾が直撃して手足が弾け飛んだ。
ここ一番という時に足を滑らせて内臓が潰れた。
『不幸』は、私達を殺そうとしてきた。
その度に、大切な仲間や、愛する旅人さんが巻き込まれた。
……私達は、『不幸』に負けないように、もっと鍛えた。
それでも、『不幸』はどんどん加速した。
ある時は、ピンポイントに私達がいる地点にミサイルや隕石が落ちてきた。
またある時は、出先で魔王が降臨して戦う羽目になった。
あまりにも不幸なので、幸運を得られるマジックアイテムを集めて、それを拘束具のように全身に取り付けた。
それで初めて、『常識の範囲内で不幸な人』の枠の中に収まることができた。
拘束具さえあれば、私達は人並みの幸せを感じられた。
愛する人に触れられて、まともに外を出歩けた。
けど、ある日、思った。
私達は、こうして『不幸』であること以外に、何の力もないのではないか、と。
周りの皆さんは強かった。
神秘の力たる魔法を使う。
圧倒的な腕力を使う。
最新の技術を活用した兵器を使う。
私達は?
私達は、何の役に立っているのだろうか?
そう考えた時、私達の掌には何もない事に気がついた。
それに気がついて、努力をした。
けど、びっくりするくらいに、私達には何の才能もなかった。
魔法もからきし、身体能力は並以下、技能技術も身に付かず。
「結局、私達には、私達が『不幸である』という事実それだけしかなかったのよ」
『何ノ話ダ……?』
「だから……、だから」
『不幸』と、地獄まで相乗りしてやる事にしたわ。
私と山城は、艤装たる『拘束具』を外す。
その瞬間。
漏れ出す……、『不幸』が。
忌むべき『不幸』が!
『何ダ……、ソレハ!ソレハ何ダ?!!!』
海が腐りゆく。
ボコボコと、気泡を弾けさせ。
魚達が死に、浮かび上がる。
死骸は高速で腐敗し、生臭い腐臭を撒き散らす。
凝縮された『不幸』……、『瘴気』が私達に纏わり付き、私達の身体を蝕む。
しかし、このくらいでは何ともない。訓練の賜物だ。
『ア、アア……!!!』
《ドウシマシタカ?》
自分の声とは思えないほどに暗く淀んだ声だ。
『瘴気』を纏う私達の声は、『呪い』となる。
相手の名を呼ぶだけで、衰老病死を齎すだろう。声を聞くだけでも、並の存在なら即死を免れない。
『ク、クルナ、クルナ、ヤメロオオオオオッ!!!!』
私の腕は『鬼神』の腕だ。
一度触れれば……。
『触ルナ、ヤメロ、熱イ、寒イ……、痛イ……、痛イ、痛イ、苦シイ、苦シイ!!!アアアアアアアッ!!!』
皮が爛れ、肉が腐り、骨が焼ける。
『ヤメロ、ヤメテクレ、降参スル、モウヤメテクレ!!!ギャアアアアアアッ!!!!』
《ナントモ、ナサケナイ。シンカイセイカントハ、コノテイドノモノデスカ……》
扶桑・山城
艦娘とは、皆、神霊として生まれるが、黒井鎮守府で生活すると、何故か質が変化する。扶桑型は厄病神としての力を持っている。