旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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消えて無くなりたい。


481話 ドヤ

「旅したい」

 

旅欲がムンムン湧いてきた。

 

いかんな、こういう時はパーっと旅るしかない。

 

タピるみたいなもんだよ。

 

さて、どこに旅るかなー?

 

……うん、国内にしよう。

 

国内のー?

 

そうだ、たまにはドヤ街に行こうか。

 

どうも、最近は、仕事でおフランスやらおイタリアやら、上等な街で上等な飯を食い、上等な酒を飲んで、上等な人間と商談していたもんだから、下等な街に行きたい。

 

いや、住んでる人には悪いが、ドヤ街は下等な街と言われても仕方がない面がある。

 

俺は基本的に、取り繕うことはできるが、性根の部分が下等というか庶民派というかで……。

 

まあ俺、いわゆるバックパッカーだからね?

 

各国のドヤ街で日銭を稼いで、酒飲んで生きてたわけで。

 

美女を口説きたいから、性欲を原動力に、上等な人間の仕草や技能を覚えたけど、俺は結局、旅人なんだな。

 

しばらく旅に出ます、探さないでください……、と。

 

「行ってきます!」「待てや」

 

ひっ。

 

「どこ行く気だ?」

 

ま、摩耶様。

 

「あいりん地区」

 

「良くわかんねーけど、アタシも行く」

 

「い、いやいやいや!やめときなって!女の子が行く街じゃないよ?!」

 

あそこは日本のスラム街だぞ。

 

「そこって、ノースティリスより危険なのか?」

 

それを言われるとキツイな。

 

「いや……、でもめっちゃ汚いよ?」

 

「良いから行くぞ」

 

「はい……」

 

 

 

また、監視がついてしまった。

 

「うわ……、この街、なんか臭えな」

 

「まあそんなもん」

 

あいりんでも、人口が多い地帯は臭いんだよね。

 

ここにはまあ、日雇いマン、バックパッカー、ヤーさん、頭パラッパラッパーのヤク中、違法難民、北朝鮮の工作員……、そういうのが揃った日本の闇だから。

 

そんな酷いところで暫く過ごすぞ!

 

いやー、汚い空気がうまい!

 

アイマイミーユアステディガールってか?

 

いや、ペペペのペって感じ?

 

育ちが悪いから汚い空気がうまいんだよ。

 

今なら夕暮れ空に黒スプレーで落書きできそうだ。

 

さて、街に入るか。

 

 

 

あいりん地区……、この辺りは流石のスラムっぷりだ。

 

新今宮駅で降りたらすぐにブラックマーケット。麻薬ブローカーから違法義体販売業者、武器密売人すらいる。

 

「おう、にいちゃん、買ってかないか?うちのは米軍の純正品だよ!」

 

と、どう見てもガラクタにしか見えない義体の腕を見せびらかす男。

 

シンナーか何かやっているんだろう、歯が溶けている。目の焦点も合っていない。

 

「いらねーよ、消えろ」

 

「チッ、んだよ」

 

引き下がる売人の男。

 

この手の連中には、脅すくらいに強く言わなきゃ駄目だ。

 

え〜、でも〜、みたいな、ぶりっ子みたいな態度をしていると、カモだと思われて尻の毛までむしられる。

 

宗教勧誘とかと一緒だ。とりあえず話を聞いてみる、とかじゃなくって、殴ってでも追い返すのが吉。

 

どの道、こんな闇市ではレアものもそうそうない。

 

闇市の奥の方を探せば相当なレアものもあるから、せどりをしようと思えばできなくもないんだが。

 

まあ、この辺は表の方だから、そういうディープなことは起きないな。

 

「じゃあとりあえず、せんべろするか」

 

「せんべろ?」

 

摩耶が聞き返してくる。

 

「千円でべろべろに酔える価格帯の居酒屋のことだな」

 

「へー、この辺って物価安いのか?」

 

「やっすいよ」

 

かなりね。

 

大阪って食い物が安いよね。コスパ良くって最高だよ。

 

とりあえず、その辺の屋台のホルモン焼き屋に入る。

 

「ビールとホルモン、ガンガン焼いて」

 

「あいよ」

 

うおっ、すげーニンニクの匂い!

 

甘辛ーいタレをたっぷり塗ったホルモン焼きはビールとの相性がバッチリだぞ!

 

肉の品質は保証されないけどね。おおよそ、外国産の冷凍ものだろう。

 

まあ、美味けりゃどーでもいーのよ!

 

「いただきます」

 

お、コリッコリだ。

 

「ん、美味い」

 

摩耶様も満足。

 

そうして飲んでいると……。

 

「てめーこのブタ野郎!ぶっ殺してやる!」

 

「ぎゃああああ!!!」

 

銃声が。

 

それに釣られて、四次元ポケットから長剣を取り出した摩耶。

 

「摩耶」

 

「提督、敵か?」

 

「摩耶、やめろ。この街はこんなもんだ。関わらなきゃいい」

 

「そうか……」

 

長剣を納めた摩耶。

 

そしてそのまま、会計をして移動。

 

「ヒデェ街だな。ションベン臭えし、ヤクの匂いもする。あと、血の匂いもな」

 

「パリだのロンドンだの、お高くとまった街よりは居心地がいいのさ、俺にとってはね」

 

まあパリもロンドンも割と臭……、おっといけない。黙っておこう。

 

お口ミッフィー。

 

ミッフィーちゃんの本名ってナインチェ・プラウスって言うんだよね。カッコいいよな。

 

「ふーん、そうなのか。あ、カレーの匂いがする」

 

「ああ、ありゃ、ボランティア団体のカレーの炊き出しだ。カレーは土日にしか出ないレア飯だぞ」

 

「へー」

 

まあ、本当にここのカレーを食べるべき労働者やホームレスの列に割り込んで食べるもんじゃないね。

 

だから、俺たちは遠巻きに見守ってるよ。

 

「カレーか。アタシも、好物は別にあるけど、人生で一番美味い飯はカレーだったよ」

 

「ん?カレーに何か思い入れがあるのかな?」

 

俺が問いかける。

 

「提督が初めて黒井鎮守府に来た時にさ、艦娘全員にカレーを食わせてくれたよな。アレがほんっとに美味くってさあ……。思い出の味なんだよ」

 

「摩耶……」

 

そう、か……。

 

「ま、今の好物はグリーンドラゴンのステーキだけどな!でも、あの時の提督のカレーには、アタシ達艦娘全員が救われたんだよ。……その、あ、ありがとな!」

 

「……ああ、どういたしまして」

 

これからも、しっかり面倒見てやらなきゃな。

 

 

 

そして……、銭湯に入ってから、ドヤに泊まる。

 

千円くらいのヤベー宿をドヤと言うんだが、三畳ワンルームにブラウン管テレビとちっちゃい布団みたいなノリだな。

 

摩耶と一緒にドヤに泊まる。

 

「へへへ……❤︎」

 

おおっとー?

 

「布団一枚しかねーもんな!くっつかないと寒いもんな!かーっ!しょーがねーよなーっ!寒いもんなーっ!」

 

「露骨ゥ!」

 

露骨にくっついてくる摩耶。わざとらしい。

 

でもすき。

 

 

 

ネクストデイ。

 

まず酒。

 

「うーっす」

 

「あら〜、新台君久し振りだねえ!」

 

「おお、あんた、生きてたんかい」

 

「おやおや、彼女さんかい?また違う彼女さんだね」

 

適当な飲み屋に入ると、店員や客から歓迎される。

 

「ははは、どーもどーも」

 

そして朝から酒ェーッ!!!

 

「まーた朝から酒かい?」

 

「酎ハイなんてね、ジュースみたいなもんだよ。だからノーカンノーカン!トマト酎ハイと卵焼き、唐揚げよろしく!」

 

「はいよ」

 

と、俺が飲んでると。

 

「なんか、恐ろしく馴染んでるな」

 

と摩耶。

 

「まあ、本来の居場所だからねー」

 

俺は本来、こういうところで昼間から飲んだくれてる生き物だ。

 

馴染むッ!実に馴染むぞッ!

 

「……なあ、アタシ達じゃ、提督の居場所になれないのか?」

 

あー。

 

んー。

 

「自分の居場所って、一つしかないものなのかな」

 

「それは……」

 

「俺は色んなところに居場所がある。ごめんよ、まだ僕には帰れる所があるんだ。こんな嬉しいことはない……、って感じ」

 

「……アタシのところに、帰ってきてくれるよな」

 

それは……。

 

「……ああ、そうだね。……そうだと良いね」

 

すまん。

 

こればっかりは、分からないんだ。

 

俺は旅人だから。

 

 

 

「さあ、まだ飲むぞー、金はあるしなー!」

 

「は、はひ、ま、まだにょむのかぁ〜?あ、あたしはもう、げんかいだ〜」

 

「じゃあ鎮守府に帰って休めば……」

 

「やーだー!!!」

 

はいはい……。

 

まあ良いや。

 

そんな感じで、摩耶を連れ回して遊び呆けた。

 

三日後に大淀に回収されるまで、飲んで食って遊びまくりだったとさ。

 




摩耶
実はかわいい。

旅人
実はクズ。

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