「旅したい」
旅欲がムンムン湧いてきた。
いかんな、こういう時はパーっと旅るしかない。
タピるみたいなもんだよ。
さて、どこに旅るかなー?
……うん、国内にしよう。
国内のー?
そうだ、たまにはドヤ街に行こうか。
どうも、最近は、仕事でおフランスやらおイタリアやら、上等な街で上等な飯を食い、上等な酒を飲んで、上等な人間と商談していたもんだから、下等な街に行きたい。
いや、住んでる人には悪いが、ドヤ街は下等な街と言われても仕方がない面がある。
俺は基本的に、取り繕うことはできるが、性根の部分が下等というか庶民派というかで……。
まあ俺、いわゆるバックパッカーだからね?
各国のドヤ街で日銭を稼いで、酒飲んで生きてたわけで。
美女を口説きたいから、性欲を原動力に、上等な人間の仕草や技能を覚えたけど、俺は結局、旅人なんだな。
しばらく旅に出ます、探さないでください……、と。
「行ってきます!」「待てや」
ひっ。
「どこ行く気だ?」
ま、摩耶様。
「あいりん地区」
「良くわかんねーけど、アタシも行く」
「い、いやいやいや!やめときなって!女の子が行く街じゃないよ?!」
あそこは日本のスラム街だぞ。
「そこって、ノースティリスより危険なのか?」
それを言われるとキツイな。
「いや……、でもめっちゃ汚いよ?」
「良いから行くぞ」
「はい……」
また、監視がついてしまった。
「うわ……、この街、なんか臭えな」
「まあそんなもん」
あいりんでも、人口が多い地帯は臭いんだよね。
ここにはまあ、日雇いマン、バックパッカー、ヤーさん、頭パラッパラッパーのヤク中、違法難民、北朝鮮の工作員……、そういうのが揃った日本の闇だから。
そんな酷いところで暫く過ごすぞ!
いやー、汚い空気がうまい!
アイマイミーユアステディガールってか?
いや、ペペペのペって感じ?
育ちが悪いから汚い空気がうまいんだよ。
今なら夕暮れ空に黒スプレーで落書きできそうだ。
さて、街に入るか。
あいりん地区……、この辺りは流石のスラムっぷりだ。
新今宮駅で降りたらすぐにブラックマーケット。麻薬ブローカーから違法義体販売業者、武器密売人すらいる。
「おう、にいちゃん、買ってかないか?うちのは米軍の純正品だよ!」
と、どう見てもガラクタにしか見えない義体の腕を見せびらかす男。
シンナーか何かやっているんだろう、歯が溶けている。目の焦点も合っていない。
「いらねーよ、消えろ」
「チッ、んだよ」
引き下がる売人の男。
この手の連中には、脅すくらいに強く言わなきゃ駄目だ。
え〜、でも〜、みたいな、ぶりっ子みたいな態度をしていると、カモだと思われて尻の毛までむしられる。
宗教勧誘とかと一緒だ。とりあえず話を聞いてみる、とかじゃなくって、殴ってでも追い返すのが吉。
どの道、こんな闇市ではレアものもそうそうない。
闇市の奥の方を探せば相当なレアものもあるから、せどりをしようと思えばできなくもないんだが。
まあ、この辺は表の方だから、そういうディープなことは起きないな。
「じゃあとりあえず、せんべろするか」
「せんべろ?」
摩耶が聞き返してくる。
「千円でべろべろに酔える価格帯の居酒屋のことだな」
「へー、この辺って物価安いのか?」
「やっすいよ」
かなりね。
大阪って食い物が安いよね。コスパ良くって最高だよ。
とりあえず、その辺の屋台のホルモン焼き屋に入る。
「ビールとホルモン、ガンガン焼いて」
「あいよ」
うおっ、すげーニンニクの匂い!
甘辛ーいタレをたっぷり塗ったホルモン焼きはビールとの相性がバッチリだぞ!
肉の品質は保証されないけどね。おおよそ、外国産の冷凍ものだろう。
まあ、美味けりゃどーでもいーのよ!
「いただきます」
お、コリッコリだ。
「ん、美味い」
摩耶様も満足。
そうして飲んでいると……。
「てめーこのブタ野郎!ぶっ殺してやる!」
「ぎゃああああ!!!」
銃声が。
それに釣られて、四次元ポケットから長剣を取り出した摩耶。
「摩耶」
「提督、敵か?」
「摩耶、やめろ。この街はこんなもんだ。関わらなきゃいい」
「そうか……」
長剣を納めた摩耶。
そしてそのまま、会計をして移動。
「ヒデェ街だな。ションベン臭えし、ヤクの匂いもする。あと、血の匂いもな」
「パリだのロンドンだの、お高くとまった街よりは居心地がいいのさ、俺にとってはね」
まあパリもロンドンも割と臭……、おっといけない。黙っておこう。
お口ミッフィー。
ミッフィーちゃんの本名ってナインチェ・プラウスって言うんだよね。カッコいいよな。
「ふーん、そうなのか。あ、カレーの匂いがする」
「ああ、ありゃ、ボランティア団体のカレーの炊き出しだ。カレーは土日にしか出ないレア飯だぞ」
「へー」
まあ、本当にここのカレーを食べるべき労働者やホームレスの列に割り込んで食べるもんじゃないね。
だから、俺たちは遠巻きに見守ってるよ。
「カレーか。アタシも、好物は別にあるけど、人生で一番美味い飯はカレーだったよ」
「ん?カレーに何か思い入れがあるのかな?」
俺が問いかける。
「提督が初めて黒井鎮守府に来た時にさ、艦娘全員にカレーを食わせてくれたよな。アレがほんっとに美味くってさあ……。思い出の味なんだよ」
「摩耶……」
そう、か……。
「ま、今の好物はグリーンドラゴンのステーキだけどな!でも、あの時の提督のカレーには、アタシ達艦娘全員が救われたんだよ。……その、あ、ありがとな!」
「……ああ、どういたしまして」
これからも、しっかり面倒見てやらなきゃな。
そして……、銭湯に入ってから、ドヤに泊まる。
千円くらいのヤベー宿をドヤと言うんだが、三畳ワンルームにブラウン管テレビとちっちゃい布団みたいなノリだな。
摩耶と一緒にドヤに泊まる。
「へへへ……❤︎」
おおっとー?
「布団一枚しかねーもんな!くっつかないと寒いもんな!かーっ!しょーがねーよなーっ!寒いもんなーっ!」
「露骨ゥ!」
露骨にくっついてくる摩耶。わざとらしい。
でもすき。
ネクストデイ。
まず酒。
「うーっす」
「あら〜、新台君久し振りだねえ!」
「おお、あんた、生きてたんかい」
「おやおや、彼女さんかい?また違う彼女さんだね」
適当な飲み屋に入ると、店員や客から歓迎される。
「ははは、どーもどーも」
そして朝から酒ェーッ!!!
「まーた朝から酒かい?」
「酎ハイなんてね、ジュースみたいなもんだよ。だからノーカンノーカン!トマト酎ハイと卵焼き、唐揚げよろしく!」
「はいよ」
と、俺が飲んでると。
「なんか、恐ろしく馴染んでるな」
と摩耶。
「まあ、本来の居場所だからねー」
俺は本来、こういうところで昼間から飲んだくれてる生き物だ。
馴染むッ!実に馴染むぞッ!
「……なあ、アタシ達じゃ、提督の居場所になれないのか?」
あー。
んー。
「自分の居場所って、一つしかないものなのかな」
「それは……」
「俺は色んなところに居場所がある。ごめんよ、まだ僕には帰れる所があるんだ。こんな嬉しいことはない……、って感じ」
「……アタシのところに、帰ってきてくれるよな」
それは……。
「……ああ、そうだね。……そうだと良いね」
すまん。
こればっかりは、分からないんだ。
俺は旅人だから。
「さあ、まだ飲むぞー、金はあるしなー!」
「は、はひ、ま、まだにょむのかぁ〜?あ、あたしはもう、げんかいだ〜」
「じゃあ鎮守府に帰って休めば……」
「やーだー!!!」
はいはい……。
まあ良いや。
そんな感じで、摩耶を連れ回して遊び呆けた。
三日後に大淀に回収されるまで、飲んで食って遊びまくりだったとさ。
摩耶
実はかわいい。
旅人
実はクズ。