おっ、台風来てるな。
「大淀」
「はい?」
「鎮守府内放送で台風来てるって伝えて」
「はい」
黒井鎮守府の各所に設置されたスピーカーからピンポンパンポンと。
『鎮守府放送、鎮守府放送。現在、K県に台風が接近しています。明日頃にはK県に台風が上陸する模様です。艦娘の皆さんは外出を控えましょう。鎮守府放送でした』
と、こんな放送が大淀によって流される。
黒井鎮守府は自家発電しているし、食料や資源の備蓄もあるので問題はなさそうだな。
今日の黒井鎮守府は閉店です。
みんな、家の中でまったり過ごそうか!
「そぉい!……アアアアアーーー!!!!」
「あっひゃひゃひゃひゃ!!!」
まったりとは一体なんだったのか……。
今現在、明石と夕張が、台風の強風で、ウイングスーツで空を飛ぼうとして遊んでいる。
そして三日月は田んぼの様子を見てくると言い残して山へ。
長門は日課の走り込みをしている。
君達ちょっとさあ……。
「お昼頃までにはちゃんと帰ってくるんだよー」
まあ許すけど。
自然を舐めちゃいかんよ?
室内は室内で……。
「望月、何やってるの?」
「ツイッターでツイフェミの身元を特定してばら撒いて遊んでる」
タチ悪い!!!
「秋雲は?」
「タピオカ廃棄のアートを書いたらツイフェミから叩かれた」
「……初雪は?」
「5ちゃんでレスバトルしてる」
その……、そのさ、もっとこう、生産性のあることしない?
黒井鎮守府は、実は、艦娘が常にいる訳じゃない。
海外艦は旅行、鹿島や長門なんかはバイト、妙高型は暗殺家業、その他にも出撃や山籠り、ショッピングにドライブ、アウトドア、食べ歩きなどと、艦娘の約半数は外にいる。
二百人もいるんだ、普段顔を合わせない艦娘同士や、あまり話したことのない艦娘同士などももちろんある。
そんな艦娘が、今日は珍しく、全員が鎮守府内にいる。
変な化学現象が起きなきゃ良いが……。
艦娘同士なら、滅多に喧嘩やらはしないから、問題はなさそうだけど。
「うおっ」
ぴしゃーん、雷が落ちる。
外を見ると、鎮守府外の建物が停電している。
あ、黒井鎮守府は自家発電設備あるんで。
自衛隊頑張れ。
ああ、俺達は軍隊だから、救助は手伝わなくて良いんだよ。
日本では、自衛隊が国防と救助活動をして、軍隊が戦闘活動を行うんだよ。
え?GHQによる軍の解体?何言ってんの?この世界で軍隊を解散したら即滅びるよ?
週一くらいのペースで怪獣が現れ、最近では飛電インテリジェンスがゴタゴタしてるし、毎年のようにゴジラが現れ、定期的に悪魔が召喚されてヤクザが抗争してるからね。
アメリカも、毎日のようにヴィランが暴れて、悪魔が湧いて、怪獣が湧いてる。
基本的に全世界がそんな感じなので、今回の台風も、「はいはい、いつものいつもの」みたいなノリで対処されている。
むしろ、昔現れた暗黒大将軍とかの方がヤバかったね。あの時は一千万人くらい死んだから。
え?人口減少?少子化?何の話だ?日本は常に一億人以上の人口があるぞ?
就職難?何言ってんの?常にどこも人手不足で、ヒューマギアやアンドロイドが作業の代行をしてるよ。
特に土木作業員なんかいくらいても足りないね。
グロンギは五代さんと全滅させたから良いとして、魔化魍やオルフェノク、イマジン、ショッカー、ドーパント辺りは未だに湧くからなあ……。
死ぬ時は何十万人とか平気で死ぬんだよな。
まあ、台風くらいなら大した問題じゃないんだよ。
農場や牧場にはバリアを張っておいたし、黒井鎮守府の窓は強化ガラスで、何かあれば窓が閉鎖されて気密モード発動、酸素発生装置が起動する。
計算によると、核ミサイルがいきなり落ちてきても、黒井鎮守府は無事だそうだ。
水が無限に出る蛇口、自家発電機、エアコン、電熱器と食料。
基本的に、黒井鎮守府は、鎮守府内に引きこもっていても生活可能なのだ。
さて、そんな訳で、俺は……。
「ほいっ、カレーコロッケ上がり!」
「カニクリームコロッケも上がりですー!」
厨房組とコロッケを揚げていた。
台風の日にはコロッケ。
コロッケなのだ。
普通のコロッケ、コーン入りカニクリームコロッケ、カレーコロッケの三点盛り!
今日のお昼はこれで決まり!
「しれぇ!私、コロッケパンが食べたいです!ソース多めで!」
「おうよ、雪風!はい、コロッケパンどうぞ!」
「わーい!ありがとうございます!」
コロッケパンもだ!
「台風コロッケだ!台風コロッケは食べざるを得ない!プレーンコロッケ四つ!部屋で食べるからプラ容器に入れて!」
「はいよ望月!」
持ち帰り対応!
と、そんな風に対応していたら……。
ん、電話か。
誰だろう?
「はい、もしもし?」
『俺だ』
ゲ、ゲェーッ!も、桃さん!総理大臣の桃さんじゃないか!
あれ〜?俺、またなんかやっちゃいました?(なろう主人公並の感想)
大丈夫これ?
どの件?
遂に逮捕されるやつ?
『新台、黒井鎮守府にはどれだけの人間が収容できる?』
「え?まあ、空間弄れば百万人くらいなら……」
『では、総理大臣の権限において、黒井鎮守府の一部施設を開放して、避難民の受け入れを命ずる。やってくれるか?』
あー……。
「えっと、構いませんけど、うちも機密があるもんで、指示を聞かずに『イタズラ』するような奴には酷い目を見せますが、それでもよければ」
『構わん。今、避難予定地に黒井鎮守府を指定した。それと、自衛隊の拠点として庭を貸して欲しい。避難民はおよそ一万人程だ』
「はい、分かりました。三十分で受け入れ態勢を整えるんで、どんどん人を呼んでください。じゃ」
俺はエプロンを外して、アイテムボックスから鎮守府放送端末を取り出す。
『黒井鎮守府放送!これから避難民の受け入れをする!警備担当は侵入者と間違えないように!工廠組はすぐさま避難所モデルAを10軒用意して、アンドロイド部隊を起動しろ!厨房組は一万人分の食事を作って、手近なアンドロイドに料理を渡してくれ!以上!』
指示を聞いた艦娘が即座に動き出す。
3Dプリンタによって作られた避難所に、避難してくる人間をどんどん入れる。
そして、食事を提供して、テレビを見せる。wi-fiと電気も定期。
台風は二日で通り過ぎるようだから、それまでうちで避難していてもらおうか。
いやー、まあね。
災害ともなれば、みんなで協力しなきゃならないからね。
別に、黒井鎮守府って、普段から立ち入り禁止って訳じゃないから、災害から逃げてきたとかなら普通に受け入れるよ。
……でも、現代っ子は台風とか増水で大騒ぎするもんなんだなあ。
俺は、寝室が爆発したくらいじゃ既に驚かなくなってるから。
朝起きた瞬間に腕を食い千切られたりする、黒井鎮守府のスリリングな生活にすっかり慣れてしまった。
まあほら、日本人も強いから、今回ちょっと川が増水したりしたくらいでギャーギャー騒いだりはしないんだよね。
数日前にメタトロンとベルゼブブの召喚で地区一つが吹っ飛んでるから。
今回避難してきた人達も、災害は慣れっこなようで、特に問題なく過ごしている。
避難民特有の悲壮感は特になく、皆笑いながらバラエティ番組を見ている。
「あ、そうだ」
黒井鎮守府産の酒と食品の宣伝に、避難民達に酒とツマミを配布しよう。
黒井鎮守府海軍ビールと純米大吟醸『ブラック鎮守府』を無料で提供する。
渡す量はあくまでもロング缶一つだけ。タダで配るって、あんまり良いことじゃないからね。宣伝だからちょっとだけ。
それと黒井鎮守府産の鶏肉の焼き鳥を塩タレ二本ずつ。これを一人ずつ配る。
足りなきゃ買え。
すると、酒飲み達がこれだけじゃ足りないとうずうずし始め、そこで俺が、「欲望の解放のさせ方がへたっぴさ……」みたいなノリで酒とツマミを販売し始める。
結果、避難所はお祭り騒ぎになった。
「台風を吹き飛ばすような人間の元気さを垣間見たよね。だから、今回のことは不問って事にしない?」
「酔った人間が黒井鎮守府内に侵入した件ですか?」
「許して……、許して……」
「いえ、私は怒っていませんよ?」
わちき許された……?
「ご命令通り、しっかりと全員気絶させて、避難所の床に転がしておきました」
おお!偉いぞ大淀!正直皆殺し案件かと思ってたんだが……。
「……まあ、提督のご指示がなければ皆殺しでしたが」
「え?今なんか怖い事言わなかった?!」
そんなこんなで、台風が過ぎるまで、避難民相手に黒井鎮守府の製品を売りさばいてゆっくりと過ごした。
死人も出ずに、平和な台風だった。
いつもこんな調子であって欲しいんだがなあ……。
望月
旅人に「台風の日はコロッケ揚げなきゃ駄目なんだよ」とそそのかした張本人。
旅人
「なるほど、台風の日はコロッケ揚げなきゃならないんだな(洗脳済)」