得意な曲は原曲キーで歌うプリキュアです。
目標はインマイドリームを原曲キーで歌えるようになることです。
問題はアニソンしか歌えないところですかね。いや、個人的にはロックも好きなんだけど英語の歌詞は歌えないし。
「……えへへへへ、やぁん、旅人さんったら、そんなにおっぱい揉んじゃ駄目ですよぉ……」
『………………』
「ちゅっちゅも駄目ですぅ、千歳、旅人さんのこともっと大好きになっちゃいますからぁ……」
『………………』
「でもぉ、大好きな旅人さんにお願いされたら、私は断れません……、ああ、ついに千歳と旅人さんは結ばれるんですね……」
『………………その』
「うー?何ぃ、千代田?今何時……、あ、あら?どこここ?」
はい、こちら千歳です。
えーと、ですね。
目の前には全身鎧の騎士。
石造りの、祭祀場、らしき場所。
こ、ここは、どこかしら?
昨日の夜、艦娘皆んなでワイワイ飲んだあと、記憶がない。
確か……、トイレに行って、その後……。
ええと……。
駄目ね、思い出せないわ。
でも、ね?
それがなんで、こんなことになるのかしら?
まず、見るからに、ここは日本じゃない。
となると……。
「明石さん?出てきなさい、また変な悪戯をして!」
『……その、だな』
「それとも夕張ちゃんの方ですか?早く出てこないと怒りますよ?!」
『……待ってくれ』
……はぁ。
「……あなたは?誰が変装してるの?それとも立体映像?ロボット?」
こんな、鎧の騎士なんて、そうそういてたまるもんですか。
『……私は、その立体映像とか、ロボットとかは分からないが、少なくとも、そのどちらでもない』
「じゃあ何かしら?今時、騎士鎧だなんてあり得ないわ。誰かの悪戯なんでしょう?」
すると、騎士は、私の手を握った。
『ほら、触れるだろう。霊体やまやかしではないぞ』
「中身が機械とか」
今度は、兜を取る騎士。
「これでどうだ?」
「あら、美形ね。旅人さん程じゃないけれど」
「それはどうも。……旅人の知り合いか?」
「妻よ」
「そ、そうか」
妻よ。
ええ、そうですとも。
妻だって言ったら妻なのよ。
まだ肉体関係はないけれど、それも時間の問題。
旅人さんは私のことを愛してくれているもの、そのうち抱いてもらえるわ。
そうしたら、元気な子供を作って……。
『人間か?』
……っと、兜をかぶり直した騎士が質問してくる。
「人間?違うわ、私は艦娘よ」
『……聞いたことがないな』
兜のせいで表情は見えないけれど、悩んでいるような仕草を見せる騎士。
「……それで?ここはどこ?」
『ここは、火継ぎの祭祀場だ』
はぁ、そうじゃないわよ、もう。
「そうじゃなくって、どこなの?」
『……?、ああ、ロスリックだ』
ロスリック?
聞いたことないわね。
まあ、別にニュースとか地理とかには興味がないから、私が知らないだけなのかもしれないけれど。
「そう……、ロスリック。それで、あなたは?」
『火の無い灰……。そう呼んでくれ』
「?、それは、渾名とかじゃないのかしら?名前は?」
『名前?名前か。……ふふ、そんなものは、とうの昔に忘れてしまったよ』
どこか、悲しそうに、自嘲するかのように短く笑った騎士は、そう呟いた。
「……そう。何か事情があるのね。それじゃあ、騎士さんと呼ばせてもらいますね」
『ああ、好きに呼んでくれ。それで、君はどこから来たんだ?』
「日本の、黒井鎮守府からよ」
『……日本、か。聞いたことがないな』
まあ、でしょうね。
「まあ、何日か待てば、旅人さんが迎えに来てくれるわ、きっと」
『そうか。愛されているんだな』
「ええ、当然よ!私と旅人さんは結婚しているの!」
『……そうか。幸せに暮らすといい。私のようにはなるなよ』
……過去に何かあったのかしら。
ちょっと、暗いわね、この人。
『……艦娘、とは、不死ではないのか?』
「それはそうでしょう。不死?死なない生き物なんていないんじゃないのかしら?」
何を言っているのかしら。
『そうか。では、飢えるのか』
……そうね、お腹が空いてきたわね。
「この辺に飲食店とかって……、いえ、外国だしお金が使えないわね。どうしようかしら……」
まあ、一週間くらいなら、我慢できないこともないけれど。
『そうか……。人間に近い生き物なんだな、艦娘とは。しかし、この辺りに食べれるものはないな……』
「どういうことかしら?食べれるものはないって。じゃあ、あなたは何を食べているの?」
『はは、私に食事とか、睡眠とかというものは不要なんだ』
はぁ?
「そんなの、あり得ないわ。人間なら、いえ、艦娘でも、お腹は減るし眠くもなるわよ」
『……私は、人間じゃないんだ』
「やっぱり、ロボット?」
『い、いや、違うんだ。私は……、不死なんだ』
不死。
火の無い灰。
そう名乗った騎士は、どうにも人間じゃないらしいわ。
どうにも、呪われていて、死ねないのだとか。
「あなたも大変なのね」
『ふふ、そうだな、大変だな』
兜で、くぐもった声で答える騎士さん。
『しかし、そうだな。食事をしなければならないのか。困ったな』
少し首を傾げると、そうだ、と前置きしてから、こう言った。
『前に、旅人と一緒に食べた、大沼の蟹……。あれは美味かったなあ……。他にも、古竜の頂の岩トカゲも美味かった。よし、取ってこよう』
そう言って、騎士さんは、私にここで待つようにと言いつけて、篝火に触れると、姿を消してしまった。
「なんなのかしら、もう」
待てって言われてもね。
何が何だか。
取り敢えず、祭祀場と呼ばれたここを歩き回る。
「………………」
黙って鍛治をする人、本を読んでいる人、祈っている人。
話しかけづらいわね……。
「お嬢ちゃん」
「あら?」
……なんだか、明らかに怪しい人に話しかけられた。
私の、困惑というかなんというかを感じ取ったのか、柔らかい態度を見せる、おじさん?かな?
「いやぁ、俺は怪しいもんじゃないんだ。まあ、こんな格好じゃ説得力はないだろうけどよ」
痩せた身体に腰蓑一つ、頭に大きな頭巾を被った小男。
「え、ええと、あなたは?」
「俺はグレイラットってもんだ。お嬢ちゃんは、旅人のマオの知り合いなんだろう?」
「妻よ」
「お、おう、そ、そうなのか?その、それでよ、この世界について何も分からないみてえだったからよ、俺が教えてやろうと思ったんだが、迷惑か?」
「いえ、それは有難いわ。あの騎士さん、何処かに行っちゃったから」
「あいつはそういう奴さ。ふらっといなくなると、デカいことをやって帰ってくる大物さね」
「そうなの?」
「ああ、そうとも。……それじゃあ、あいつと旅人の話をしようか」
………………
…………
……
「へえ、そんなことが……」
どうやら、ここは、遠い遠い昔のどこかも分からない遠い場所らしい。
そこで、騎士さんは、旅人さんと旅をして、ある時は巨大なドラゴンを、ある時は伝説の騎士を、またある時は巨人を。
様々な困難に打ち勝ってきたらしいわ。
「凄いのね、騎士さんって」
「ああ、あいつは凄えよ、本当に凄え」
『戻ったぞ』
あら、帰ってきたみたい。
「で、これは?」
『大沼の蟹の鋏と、岩トカゲだ。火を通せば食えるはずだ』
「私の為に態々?その、あ、ありがとう」
『気にするな。私はもう、使命を果たして退屈なんだ』
使命、ね。
火の時代を終わらせたとか言うけれど。
『火防女、鍋と塩はどこにやった?』
「こちらです、灰の人」
『ああ、あったあった。さて、水と薪は……、と』
蟹の鋏と岩トカゲを砕いて、捌いて、鍋に入れ、塩を振る騎士さん。それと、どこからか摘んできたのか、野草も入れている。
『発火、と』
片手から火を放ち、鍋を火にかける。
『贅沢を言えば、野菜やパンも欲しいが……、たまに旅人から買い取るくらいで、常備してはいないんだ。すまないな』
「そ、そう。良いの、食べられるだけで十分よ」
食べなくても死なない人に、食料を用意しておけって言うのも無理な話よね。
『……さあ、そろそろ良いだろう。食べるといい』
粗末な、木でできた器に、蟹と肉をよそわれる。
「ありがとう、いただくわ」
まあ、味には期待していないけれど……。
「あら」
思ったより美味しいわね。
『どうだ、中々いけるだろう?旅人が教えてくれた料理なんだ』
「そうなの。……旅人さんとは、長い間一緒にいたのよね」
『ああ。彼は、決して強くはなかったが、どんな白霊より頼りになった、私の大切な友人さ』
……ふーん。
なんだか、私の知らない旅人さんを知っているのって、ちょっと、悔しいわね。
「千歳!」
「旅人さん!」
半日もすると、旅人さんが迎えにきてくれた。
「心配したんだよもう!こんな危ないところに来て!」
「ごめんなさい、旅人さん……」
「いや、良いさ。無事でいてくれただけで、俺は嬉しいよ」
「あのね、旅人さん。貴方の知り合いの、騎士さんが面倒を見てくれたの」
「騎士さん……、ああ、灰か。ありがとう、火の無い灰よ。世話になった」
『気にするな、お前の妻だと聞いた。大したもてなしができなくて悪かったな』
「いや、もてなしなんて……。ここにいさせてくれただけでありがたいよ」
旅人さんは、頭を下げると、騎士さんと握手をして、私を連れ帰った。
不思議な体験だった。
おとぎ話の世界に迷い込んだような。
もし、次があるなら。
祭祀場の外を見て回りたいものね。
千歳
しっかり者だが酒にはルーズ。
火の無い灰
火の時代を終わらせた大英雄。