旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

334 / 593
久々に知り合いとカラオケ行ってきたんすけど、もう体力がないんで一曲歌うだけでお疲れ。

得意な曲は原曲キーで歌うプリキュアです。

目標はインマイドリームを原曲キーで歌えるようになることです。

問題はアニソンしか歌えないところですかね。いや、個人的にはロックも好きなんだけど英語の歌詞は歌えないし。


334話 異世界転移これくしょん その3

「……えへへへへ、やぁん、旅人さんったら、そんなにおっぱい揉んじゃ駄目ですよぉ……」

 

『………………』

 

「ちゅっちゅも駄目ですぅ、千歳、旅人さんのこともっと大好きになっちゃいますからぁ……」

 

『………………』

 

「でもぉ、大好きな旅人さんにお願いされたら、私は断れません……、ああ、ついに千歳と旅人さんは結ばれるんですね……」

 

『………………その』

 

「うー?何ぃ、千代田?今何時……、あ、あら?どこここ?」

 

 

 

はい、こちら千歳です。

 

えーと、ですね。

 

目の前には全身鎧の騎士。

 

石造りの、祭祀場、らしき場所。

 

こ、ここは、どこかしら?

 

昨日の夜、艦娘皆んなでワイワイ飲んだあと、記憶がない。

 

確か……、トイレに行って、その後……。

 

ええと……。

 

駄目ね、思い出せないわ。

 

でも、ね?

 

それがなんで、こんなことになるのかしら?

 

まず、見るからに、ここは日本じゃない。

 

となると……。

 

「明石さん?出てきなさい、また変な悪戯をして!」

 

『……その、だな』

 

「それとも夕張ちゃんの方ですか?早く出てこないと怒りますよ?!」

 

『……待ってくれ』

 

……はぁ。

 

「……あなたは?誰が変装してるの?それとも立体映像?ロボット?」

 

こんな、鎧の騎士なんて、そうそういてたまるもんですか。

 

『……私は、その立体映像とか、ロボットとかは分からないが、少なくとも、そのどちらでもない』

 

「じゃあ何かしら?今時、騎士鎧だなんてあり得ないわ。誰かの悪戯なんでしょう?」

 

すると、騎士は、私の手を握った。

 

『ほら、触れるだろう。霊体やまやかしではないぞ』

 

「中身が機械とか」

 

今度は、兜を取る騎士。

 

「これでどうだ?」

 

「あら、美形ね。旅人さん程じゃないけれど」

 

「それはどうも。……旅人の知り合いか?」

 

「妻よ」

 

「そ、そうか」

 

妻よ。

 

ええ、そうですとも。

 

妻だって言ったら妻なのよ。

 

まだ肉体関係はないけれど、それも時間の問題。

 

旅人さんは私のことを愛してくれているもの、そのうち抱いてもらえるわ。

 

そうしたら、元気な子供を作って……。

 

『人間か?』

 

……っと、兜をかぶり直した騎士が質問してくる。

 

「人間?違うわ、私は艦娘よ」

 

『……聞いたことがないな』

 

兜のせいで表情は見えないけれど、悩んでいるような仕草を見せる騎士。

 

「……それで?ここはどこ?」

 

『ここは、火継ぎの祭祀場だ』

 

はぁ、そうじゃないわよ、もう。

 

「そうじゃなくって、どこなの?」

 

『……?、ああ、ロスリックだ』

 

ロスリック?

 

聞いたことないわね。

 

まあ、別にニュースとか地理とかには興味がないから、私が知らないだけなのかもしれないけれど。

 

「そう……、ロスリック。それで、あなたは?」

 

『火の無い灰……。そう呼んでくれ』

 

「?、それは、渾名とかじゃないのかしら?名前は?」

 

『名前?名前か。……ふふ、そんなものは、とうの昔に忘れてしまったよ』

 

どこか、悲しそうに、自嘲するかのように短く笑った騎士は、そう呟いた。

 

「……そう。何か事情があるのね。それじゃあ、騎士さんと呼ばせてもらいますね」

 

『ああ、好きに呼んでくれ。それで、君はどこから来たんだ?』

 

「日本の、黒井鎮守府からよ」

 

『……日本、か。聞いたことがないな』

 

まあ、でしょうね。

 

「まあ、何日か待てば、旅人さんが迎えに来てくれるわ、きっと」

 

『そうか。愛されているんだな』

 

「ええ、当然よ!私と旅人さんは結婚しているの!」

 

『……そうか。幸せに暮らすといい。私のようにはなるなよ』

 

……過去に何かあったのかしら。

 

ちょっと、暗いわね、この人。

 

『……艦娘、とは、不死ではないのか?』

 

「それはそうでしょう。不死?死なない生き物なんていないんじゃないのかしら?」

 

何を言っているのかしら。

 

『そうか。では、飢えるのか』

 

……そうね、お腹が空いてきたわね。

 

「この辺に飲食店とかって……、いえ、外国だしお金が使えないわね。どうしようかしら……」

 

まあ、一週間くらいなら、我慢できないこともないけれど。

 

『そうか……。人間に近い生き物なんだな、艦娘とは。しかし、この辺りに食べれるものはないな……』

 

「どういうことかしら?食べれるものはないって。じゃあ、あなたは何を食べているの?」

 

『はは、私に食事とか、睡眠とかというものは不要なんだ』

 

はぁ?

 

「そんなの、あり得ないわ。人間なら、いえ、艦娘でも、お腹は減るし眠くもなるわよ」

 

『……私は、人間じゃないんだ』

 

「やっぱり、ロボット?」

 

『い、いや、違うんだ。私は……、不死なんだ』

 

不死。

 

火の無い灰。

 

そう名乗った騎士は、どうにも人間じゃないらしいわ。

 

どうにも、呪われていて、死ねないのだとか。

 

「あなたも大変なのね」

 

『ふふ、そうだな、大変だな』

 

兜で、くぐもった声で答える騎士さん。

 

『しかし、そうだな。食事をしなければならないのか。困ったな』

 

少し首を傾げると、そうだ、と前置きしてから、こう言った。

 

『前に、旅人と一緒に食べた、大沼の蟹……。あれは美味かったなあ……。他にも、古竜の頂の岩トカゲも美味かった。よし、取ってこよう』

 

そう言って、騎士さんは、私にここで待つようにと言いつけて、篝火に触れると、姿を消してしまった。

 

 

 

「なんなのかしら、もう」

 

待てって言われてもね。

 

何が何だか。

 

取り敢えず、祭祀場と呼ばれたここを歩き回る。

 

「………………」

 

黙って鍛治をする人、本を読んでいる人、祈っている人。

 

話しかけづらいわね……。

 

「お嬢ちゃん」

 

「あら?」

 

……なんだか、明らかに怪しい人に話しかけられた。

 

私の、困惑というかなんというかを感じ取ったのか、柔らかい態度を見せる、おじさん?かな?

 

「いやぁ、俺は怪しいもんじゃないんだ。まあ、こんな格好じゃ説得力はないだろうけどよ」

 

痩せた身体に腰蓑一つ、頭に大きな頭巾を被った小男。

 

「え、ええと、あなたは?」

 

「俺はグレイラットってもんだ。お嬢ちゃんは、旅人のマオの知り合いなんだろう?」

 

「妻よ」

 

「お、おう、そ、そうなのか?その、それでよ、この世界について何も分からないみてえだったからよ、俺が教えてやろうと思ったんだが、迷惑か?」

 

「いえ、それは有難いわ。あの騎士さん、何処かに行っちゃったから」

 

「あいつはそういう奴さ。ふらっといなくなると、デカいことをやって帰ってくる大物さね」

 

「そうなの?」

 

「ああ、そうとも。……それじゃあ、あいつと旅人の話をしようか」

 

………………

 

…………

 

……

 

「へえ、そんなことが……」

 

どうやら、ここは、遠い遠い昔のどこかも分からない遠い場所らしい。

 

そこで、騎士さんは、旅人さんと旅をして、ある時は巨大なドラゴンを、ある時は伝説の騎士を、またある時は巨人を。

 

様々な困難に打ち勝ってきたらしいわ。

 

「凄いのね、騎士さんって」

 

「ああ、あいつは凄えよ、本当に凄え」

 

『戻ったぞ』

 

あら、帰ってきたみたい。

 

「で、これは?」

 

『大沼の蟹の鋏と、岩トカゲだ。火を通せば食えるはずだ』

 

「私の為に態々?その、あ、ありがとう」

 

『気にするな。私はもう、使命を果たして退屈なんだ』

 

使命、ね。

 

火の時代を終わらせたとか言うけれど。

 

『火防女、鍋と塩はどこにやった?』

 

「こちらです、灰の人」

 

『ああ、あったあった。さて、水と薪は……、と』

 

蟹の鋏と岩トカゲを砕いて、捌いて、鍋に入れ、塩を振る騎士さん。それと、どこからか摘んできたのか、野草も入れている。

 

『発火、と』

 

片手から火を放ち、鍋を火にかける。

 

『贅沢を言えば、野菜やパンも欲しいが……、たまに旅人から買い取るくらいで、常備してはいないんだ。すまないな』

 

「そ、そう。良いの、食べられるだけで十分よ」

 

食べなくても死なない人に、食料を用意しておけって言うのも無理な話よね。

 

『……さあ、そろそろ良いだろう。食べるといい』

 

粗末な、木でできた器に、蟹と肉をよそわれる。

 

「ありがとう、いただくわ」

 

まあ、味には期待していないけれど……。

 

「あら」

 

思ったより美味しいわね。

 

『どうだ、中々いけるだろう?旅人が教えてくれた料理なんだ』

 

「そうなの。……旅人さんとは、長い間一緒にいたのよね」

 

『ああ。彼は、決して強くはなかったが、どんな白霊より頼りになった、私の大切な友人さ』

 

……ふーん。

 

なんだか、私の知らない旅人さんを知っているのって、ちょっと、悔しいわね。

 

 

 

「千歳!」

 

「旅人さん!」

 

半日もすると、旅人さんが迎えにきてくれた。

 

「心配したんだよもう!こんな危ないところに来て!」

 

「ごめんなさい、旅人さん……」

 

「いや、良いさ。無事でいてくれただけで、俺は嬉しいよ」

 

「あのね、旅人さん。貴方の知り合いの、騎士さんが面倒を見てくれたの」

 

「騎士さん……、ああ、灰か。ありがとう、火の無い灰よ。世話になった」

 

『気にするな、お前の妻だと聞いた。大したもてなしができなくて悪かったな』

 

「いや、もてなしなんて……。ここにいさせてくれただけでありがたいよ」

 

旅人さんは、頭を下げると、騎士さんと握手をして、私を連れ帰った。

 

 

 

不思議な体験だった。

 

おとぎ話の世界に迷い込んだような。

 

もし、次があるなら。

 

祭祀場の外を見て回りたいものね。

 




千歳
しっかり者だが酒にはルーズ。

火の無い灰
火の時代を終わらせた大英雄。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。