俺はリョナラーでも光のリョナラーだから、四肢欠損しても前向きに生きていく女の子や、腹パンされながらも笑うマゾの女の子が好きです。何だ、こう、うまく説明できないんだけど、俺は君を傷つけるけど、お互い幸せになろう?みたいな。違います、変態ではありません。
「もう、やめちゃっても良いかなァ、人生」
「あっはっはっは、お互いまだまだ若いじゃないですかぁ」
もう消えて無くなりたい。
闇に還りたい。
やめて!旅人のライフはゼロよ!
「次行きましょ次」
「ひええ、堪忍してぇ」
「良いではないかー良いではないかー」
あーれー。
《遺伝情報確認、フルダイブ》
×××××××××××××××
次は誰だ。
誰が俺の心を殺す?
……ここは、白露型の工房、か?
いや、違うな。
似たような建物が併設、いやいや、増設されている?
ドアを、開ける。
中に入ると、そこには。
「やあ、待っていたよ、提督」
「こんにちは、父上」
男が、時雨の隣に腰掛け、本を読んでいた。
十代半ば頃、若いが、落ち着いた雰囲気から成人にも見える。細長い体躯、しかし、絞られた身体であり、一切の無駄がない印象。切れ目の瞳は青く、確かな智慧を秘めている。長い黒髪を編んでいて、顔には何を考えているか読めない微笑みが浮かぶ。
服装は一般的なヤーナムの狩装束を改修したもの……、黒の得体の知れぬ皮でできたロングコート、同じ材質のブーツと手袋。傍らには羽根付きの三角帽子と、刀……、千景。
……胡散臭え!
「おや、それは酷い」
って、こいつも俺の心を読めんのか。
「ええ。特に父上は素直なお人だ、読むのは容易い」
「ほー、言うねぇ」
「中々に優秀な狩人じゃないか。僕は嬉しいよ」
と、時雨。
「ええ、ええ、もちろんですとも。私は母上の最高傑作。至上の狩人なのです」
薄ら笑いを浮かべる息子カッコカリ。
「デカイ口を叩く。何を以って至高と嘯く?」
「嘯くなどと……。私達白露型の子は皆、調整と訓練を受け、それなりに実戦もこなしましたから。これは根拠のある自信なのです」
あー、嫌な予感がするが、一応聞こうか。
「調整とは?」
「薬物及び魔術……、様々な視点からのアプローチによる身体と精神の強化です」
なーにやってんだ白露型。
「私達の身体と精神は、母上の胎にいる頃から投薬や儀式によって強化されております。他にも、神話生物や上位者達の肉体の一部を切り離し、肉体に埋め込み、瞳を中心に様々な能力が強化されているのです」
人体改造、か。
「全く、倫理って言葉知ってるか、時雨」
「ふふふ、知っているとも」
知っている上でそう言うことするなら尚更タチ悪いよね!
「まあ、胎教の一種のような感覚だろうね。僕達にとってはそれが普通なのさ」
「……そして、誕生してからも、投薬や儀式、更に手術を続行し、更なる強化を。父上の血も輸血させていただきましたよ。あれは良い、貴方は月であり太陽だ」
俺の血を輸血?
なんてことを……。
「時雨、お前は息子を何だと思ってるんだ」
「うん?とても大切に思っているとも。ともすれば、君の次くらいには」
時雨の言う、俺の次に大事というのは、いつでも切り捨てられることを指す。
白露型の忠誠心は異常だ、俺のためなら自分の姉妹だって容赦なく殺す。
と、言うか、艦娘は、特に強いものこそ精神に異常を持っている。
「時雨……」
「愛してもいるさ、とても、とてもね」
「お前はそれで良いのか?」
俺は息子カッコカリに問う。
「何が、ですか?」
「お前は、実の母親に肉体を弄られて、人じゃない何かにまでなって、それでも一番に愛されている訳じゃなくって……。それで、良いのか?」
「はは、何を。私は例え一番でなくとも、母上にも父上にも愛していただいております。それに私は改造のお陰で人を超えることができました。私は嬉しいですよ。感謝しています」
ああ、クソ。
こいつも人として、どこかおかしい。
まー、サイコパスの俺が言っても仕方ねえか。
「それで、訓練と実戦とは?」
「ヤーナムで狩りを。そしてドリームランドでも少々流浪の旅を。更に、ミスカトニック大学の医学部で学問を修めました」
ふむ、頭も切れると。
この歳で医学部卒ってんだから、紛れもなく天才だわな。
「はは、ありがとうございます」
笑う息子カッコカリ。
「ですがまだ、母上には敵いませんから。私にもまだ改善の余地があると言うことです」
そりゃあまあ、時雨には敵わないだろうな。
時雨は俺の知る中でもかなり強い部類だ。
簡単には超えられないだろう。
「だけどまあ、いずれは超えてもらわなきゃ困るね。僕の子供なんだから」
「これは手厳しい」
「当たり前さ」
ははは。
《ダイブ終了》
×××××××××××××××
「どうでした?」
「ああ、なんか、俺の子供とは思えないくらいまともだっ、いや、まとも?まともか?」
「どうしたんですか?」
「いや、いや、ええと……。まあ、何でもない」
まあほら、子供作るなんてそんな。
そんな訳ないそんな訳ない。
時雨だぜ?
そーんな子供にマジになる訳ないじゃーん。
「おっと、次の艦娘が来たようです」
「OKだ」
さて、苦行の再開だ。
辛いぞ。
耐えろ。
《遺伝情報確認、フルダイブ》
×××××××××××××××
「よっ、提督」
「やあ、摩耶」
摩耶、摩耶かぁ……。
まあ、ギリギリセーフだろうか。
「あたし達のガキか……。へへっ、なんだか照れ臭いな!」
「そうね」
俺は顔も見たくないんだがね。
でも摩耶が幸せそうならOKです!……OK、かなぁ。
「っと、転移成功……、ん?」
「おお!」
現れたのは冒険者風の少年だった。
年の頃は十代前半、摩耶と同じダークブラウンの髪を適当に切り揃えた髪形、青い瞳。
軽鎧に外套、ブーツ、手甲、ロングソードに盾。弓も背負っている。
「お袋と親父か。三週間ぶりだな」
「おおー!こいつがあたし達のガキか!生意気そうなところが提督にそっくりだ!」
いや、生意気そうってんなら君の遺伝だと思うよ。
「どこに行ってたんだ?」
と、俺が問いかけると。
「ノースティリスだよ」
息子カッコカリは頭をかきながら答えた。
ほーん、ノースティリスか。
「お、あそこに行って来たのか!ネフィアか?」
摩耶が嬉しそうに問いかける。
「ああ、俺は冒険者だからな」
平然と答える息子カッコカリ。
「何で冒険者なんかに……」
「あぁ?別に良いだろ、なりたかっただけだ」
そうだろうか。
冒険者などと言う、旅人に等しい、命がペラ紙一枚より軽い仕事をやるのは、親不孝者ではないか。
「摩耶はそれで良いのか?」
「ん?あたしは別に構わねーぞ?ガキがやりたいってことをやらせるのが親ってもんだろ?」
止めるのも親の仕事だと思うんだけどね。
まあ、そこらへんは、親がいない俺が言えることじゃねーか。
親無しが教育について講釈垂れるなんてな。
そもそも、誰かにものを教えられるほど何かを修めている覚えはない。精々、何やっても一流止まりだ。超一流や超超一流には敵わない。
「大体、俺がどこで何をしようと俺の勝手だろ」
ふーん、態度悪いなこいつ。
「テメエ、態度悪いぞ!」
言ってやれ摩耶。
「うるせーなぁ……」
どうでも良さそうに返す息子カッコカリ。
「親父、あんたさ、よくこんな跳ねっ返りで生意気なのを嫁にしたな。馬鹿なんじゃねーの?」
ほー、言うじゃんか。
「摩耶は俺の大切な人さ」
「ふーん。女はやかましくないのが一番だろうに。声を出すのはヤってるときだけにしろよ、とは思うけどな」
あ、この下衆さはあれだ。
ノースティリスのあいつ……。
「お前、ノースティリスのあいつと……」
「あぁ?あの人と俺とじゃ格が違えよ。あの人は本物だ、俺の目標だ」
よりにもよってノースティリスのあいつを目標にしちゃったか。
「まあ、良いさ。俺はとやかく言わないよ」
新台家は代々屑の家系。
新しい屑が生まれても特に問題はない。
《ダイブ終了》
×××××××××××××××
「やっぱり、俺の息子だわな」
「へ?」
「いや、屑だったよ」
「別に提督は言うほど屑でもないでしょう?」
強姦以外の犯罪行為は一通りこなした経験がある。
とある怪盗三世との強盗、窃盗行為、ヤクザとの賭博に詐欺、秘密結社との放火に爆破、ハッキング、飲酒運転、脅迫、名誉毀損、器物損害、公然猥褻、売春、偽証、賄賂、密輸……。
アレ?俺これ屑だな、大分屑だな?
何にも言えないやつやんこれ。
「いや、本当に屑だわ俺。人生省みると大分悪いことやった」
「そうですか?そんなに悪いことやってるとは思えないんですけど」
「これは酷いぞ」
「まあ、私は提督が何をやっても怒りませんからね」
俺を甘やかすなー?
……兎に角、俺の息子も新台家の男らしく人間の屑に育った。
やはり駄目だ、子孫を残してはならない。
呪われた血統、ここで断つ。
時雨
狩人。
摩耶
冒険者。
旅人
旅人。