旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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異世界オルガで内臓お釈迦になる一歩手前まで笑った。


195話 フランス旅行、そして救済

黒井鎮守府秋刀魚パーティから数日後。

 

俺の気は狂っていた。

 

「あびゃぁぁぁ!!!」

 

「ど、どうかしたかしら、Admiral?」

 

どうかしたのか?

 

どうかしてるぜ。

 

だってよお、

 

「禁断症状だ……」

 

「禁断症状?」

 

「最近旅してなぁぁぁいのぉぉぉ!!!」

 

旅してないからな!

 

「旅?tripね!」

 

「いやjourney!!!」

 

旅行とは違うんだよ!

 

「良いかウォースパイト、俺は旅人だ、旅人なんだ。……旅らしい旅ができない現状は、辛い!!」

 

ほら見て鳥肌。旅人アレルギー発動なの。

 

「じゃあ、何処かに出掛けるかしら?」

 

「銀河の彼方とか行きたい。遠くへ、遠くへ……」

 

知り合いのイ=スと時間旅行するのも良いかもしれん。或いは、ノーステリィスでの冒険者生活、或いは、幻想郷でのその日暮らし。或いは、或いは、或いは、或いは……。旅に出たい。まだ見ぬ新たな世界をこの目で見たい。

 

「そんな遠くへ行ったら帰ってこれないでしょう?」

 

「いや、それは……」

 

そもそも、旅人の俺に帰るという概念はない。艦娘の皆んなに帰って来いとせがまれるから帰って来ているだけだ。出来ることなら、世界の果てに姿を眩ませたい。

 

「兎に角、何処かに行きたい、遠くに行きたい」

 

「じゃあ、フランスに行きましょう?私、ルーヴル美術館を見たいの!」

 

「ルーヴル美術館?私も行くわ」

 

「コマちゃんか」

 

「コマちゃんはやめて」

 

「やはり海外か、いつ出発する?」

 

「ヴェールヌ院」

 

どこからか現れたコマンダン・テストと響。なんだ、行けってか、海外に連れてけってか。

 

……気楽な一人旅が一番なんだがな、本当はな。

 

「んー、しょーがないなー!連れてってあーげちゃう!!」

 

どうしようもなく、女の子には甘いんだよな、俺ってやつは。

 

 

 

「えー、これがモナリザだ。描かれたのは1503年から1506年辺り、元々はフランス王フランソワ1世が購入したと言われていて……」

 

と言う訳で。

 

やってきましたパリ。ルーヴル美術館。世界最大級の美術館だ。

 

最近の移動は専ら門の創造だな。日帰りにしたいんだもん。ほんの二、三日鎮守府にいないだけで発狂するからな、うちの艦娘は。

 

ああ、門の創造ってのはちょっとした魔術の儀式で、特殊な紋章を刻んだ壁に対してアルコールをかけ、魔力を注ぎ込むと消費した魔力の分だけ空間転移する、って言うやつ。便利だからついつい使っちゃう。

 

「……magicじゃなくて、普通に飛行機とかで行きたかったわ」

 

まあ、そうだよな。移動も含めて旅行だよな。でも、日帰りの予定だからね、仕方ないね(レ)。

 

「まあまあ、帰りはノルマンディーに寄ってディナー奢るからさ。ノルマンディーは何食っても美味いけど、特にチーズとりんごが絶品なんだよなぁ。カマンベールチーズめっちゃ美味い。クリームソースとか正直洒落にならん美味さ」

 

ノルマンディーの料理はクリームソースが何かとついてくるんだけどそれがまた美味いのなんのって。りんごの焼き菓子とかも美味いのよ。

 

「それは美味しそうね!……もう、今度はちゃんとtripしましょう、ね?」

 

「おっ、そうだな」

 

だから、俺のこの欲求は、溢れるパトスは旅行欲ではなく旅欲だと……。いいや、言っても通じないだろうし。良いか。

 

「司令官、あれはなんだい?」

 

「キリスト磔刑、マンテーニャ作だね」

 

「じゃあ、あれは?」

 

「聖ゲオルギウスとドラゴン、ラファエロ作」

 

響にあれやこれやと説明しながら、美術館を回る俺達。

 

「そう言えば提督、結局、モナリザって本物なの?」

 

「いや、分からん。盗んで調べれば分かるだろうが……、やるか?」

 

「だ、駄目よ!」

 

などと、テストと他愛のない会話をしながら歩く。

 

美術鑑賞は良いな。心を豊かにしてくれる。過去の美術品を通して、古き日々を夢想し、そこから現代に通じる様々なインスピレーションを、刺激を得る。健全だ。これでもかってほど健全だ。

 

温故知新とはよく言ったもの、古きを知ってこそ見えてくるものが沢山ある。

 

「あ、あれは知ってるよ、ミロのビーナス」

 

「正解だ響。作者はアンティオキアのアレクサンドロス、紀元前130年から100年頃の作品だな」

 

「……さっきから、詳しくないかい、司令官」

 

「一般常識だぞ」

 

「そうかな、司令官が博識なんじゃないかな」

 

そんなことないんだけどな。ただ、美術品とかに詳しいとモテると思って覚えただけだし。何でもは知らないよ、知ってることだけ。

 

過大評価のし過ぎだ。俺の知識の半分は女の子を口説くため、もう半分は無いと死ぬ場面があったから覚えたもので。別に博識でも何でも無い。知能だって精々秀才止まりだ。

 

基本的に器用貧乏なんだよね、俺って。

 

「ははは、お褒めに預かり恐悦至極にございます」

 

「司令官は良い加減自分のハイスペックさを自覚した方が良いよ」

 

はいはい。

 

 

 

さてさて、夜。晩飯の時間だ。

 

予告した通りノルマンディーに到着。手近な店に入ってありったけの注文を。

 

いやいや、見ろよこの海の見える夜景!綺麗だ、ろ……?ん?

 

あー、ああ。

 

俺は、さ。

 

目が良いんだよ。少なくとも、マサイ族とかそんなレベルじゃなく。

 

こーんな海の見える所からじゃ、色々と見たく無いもんが見えちまう。

 

『立て、帰らなきゃならないだろ、鎮守府に!』

 

『……帰ってどうするのよ、待ってる人なんていないのよ、アーク!このまま逃げれば……』

 

『……ッ!それでも、私達は、仕える人を選べないんだ!』

 

ついでに聞こえたく無いことも聞こえちまう。

 

ああ、もう、君達さぁ。

 

「そう言うことは俺の見えないところでやってくれないかなぁ?!!!」

 

俺は一も二もなく飛び出した。

 

 

 

×××××××××××××××

 

『嫌よ……、私は嫌!帰りたくない!』

 

『駄々をこねるんじゃない、リシュリュー!!』

 

なんてことを言うんだ、リシュリューは!

 

例え、例え望まざる相手でも、忠義を尽くすのが我々の仕事ではないか!

 

逃げ出すなど……、あってはならない!

 

そう、例え……、延々と罵倒され、暴力を振るわれたとしてもだ。私達には、それしか、ないのだ……。

 

 

 

『アイ惨かりんかねか……、やっぱりクソゲーじゃないか!世の中はクソゲーだわ。リセットボタンはどこ?ここ?』

 

 

 

『なっ……?!だ、誰だ?!!』

 

海に、人が?!艦娘……、じゃない、男だ!!

 

「ん?君、女騎士っぽいな。could you say くっ殺せ!」

 

『な、何だと?』

 

「please , could you say くっ殺せ!」

 

「クッコロセ?」

 

クッコロセとは何だ?

 

『もっと感情を込めて!』

 

「?……クッ、コロセ!」

 

「excellent!」

 

何なんだ一体?!!

 

「ああ、クッソ、クウガさんとオーズ君と旅に出たかったなぁ。あの人ら今どこいるんだろう。良いなぁ、俺も凡ゆるしがらみを捨てて旅に出てえなぁ。……旅に、出てえなぁ……」

 

何だ、何を言っている?

 

『……何者、なんだ?』

 

「にしても気に食わねえなあ、ああ、気に食わねえ。俺はクウガさんみたいに、誰かの笑顔を守りたいなんて高尚なことは考えちゃいないさ。オーズ君ほど命に価値を見出してもいない。だがな、だがよ!」

 

何を?

 

「目の前で辛い思いをしている美女くらい、助けてみせるさ!」

 

ええい、英語で話さんか!

 

『君、所属は?』

 

『えっ、あっ、EUの、サンドラ鎮守府だが……?』

 

むっ、きゅ、急になんだ?

 

『ようし分かった、サンドラ鎮守府を……、潰す!』

 

『は?はぁ?!何を言っているんだ貴様は?!!』

 

い、いきなり何を言いだすかと思えば……!!

 

『分かってる……、分かってるよどうせ!またブラック鎮守府だろ!良いよもう!ぶっ潰して来るからさあ!』

 

は、話が通じん!どう言うことだ?!何を言っている?!

 

『まーた鶏マスク付けてさ、鎮守府解体(物理)ですわ!見とけよ、二度と艦隊運営出来ない身体にしてやる!』

 

『待て待て待て待て!も、もしや貴様は、テロリストか?!何を堂々と鎮守府を潰すなどと発言しているんだ!!』

 

『君を幸せにしてあげる!(イケボ)』

 

『な、なぁ?!』

 

な、なんだと?!

 

『美人が幸せじゃないなら、世界の方が間違ってるんだよ!俺が世界を変えてやる!伝説は塗り替えるもの!』

 

『どう言うつもりだ?!何をする気だ!!答えろ!!』

 

『今から君達を不幸にする奴らを半殺しにして、君達を助ける』

 

なん……、だと……?

 

『ブラック鎮守府殺すべし、慈悲はない』

 

『待て……、待ってくれ。それじゃあ、何か?私達の為に、私達の鎮守府を、潰す、と?』

 

「exactly」

 

その通りでございます、って……。

 

『何故だ?何故私達なんかを』

 

『美人だ。助かるに値する』

 

『どうやって鎮守府を潰す?』

 

『変装して乗り込んで、全員半殺しにする』

 

『そんなことが許されると思っているのか?』

 

『知らないもんね、俺がやるって言ったらやるんだよ』

 

ああ、ああ、分かった、分かったぞ、この男……、

 

『さあ、案内してくれ、鎮守府解体ショーの始まりや』

 

何も考えていない……!!!

 

『まず、結論から言わせてもらおう……。国防の観点から、サンドラ鎮守府に案内することは出来ない!』

 

祖国に忠を尽くしたこのアーク・ロイヤル……、如何なる理由があれど、裏切ることなど出来ない!

 

『そう言うの良いから。今の辛い現状を抜け出して、真に国家の為に戦いたいと思わないかね?君はどう?』

 

『……本当に助けてくれるの?』

 

『リシュリュー?!』

 

リシュリュー、何を……?!

 

『アーク、良い加減目を覚まして!あんなところで使われていたら、私達はいずれ使い潰されるわ!』

 

『それがどうした!艦娘の役目だろう!』

 

『まあまあ、取り敢えず案内してよ』

 

『……分かったわ』

 

『おい、リシュリュー?!何を勝手に……!!』

 

『私は!……私は、使い捨ての道具のまま死ぬのはごめんよ。……だから、賭けてみようと思うの、この人に』

 

リシュリュー……。

 

『ああ、大船に、いや、宙船に乗った気持ちで待ってろ!俺が全部、するっとまるっと解決してやる!!!』

 

大丈夫、なのだろうか……。

 





大人っぽい。

ウォースパイト
美女。

コマンダン・テスト
ミステリアス。

アークロイヤル、リシュリュー
サンドラ鎮守府所属。

旅人
ブラック鎮守府スレイヤー。

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