ボボボボボ!!
また近いうちに安価取ります。安価は活動報告の方によろしくです。
はぁ、はぁ、はぁ……。
大丈夫、私は大丈夫……。
黒井鎮守府にも、きっとまともな所はある。
……庭に行こう。
今の時間帯なら、確か……、古鷹さんが庭で花に水やりをしているはず。
「ふんふんふふーん♪」
いた……。
鼻歌を歌いながら、ホースで水やりをする古鷹さん。なんていうか、可愛らしいなあ。
でも、見た目に騙されちゃいけない。この人も黒井鎮守府の一員なんだ。絶対にどこかおかしいに決まっている。
例え、白のワンピースに麦わら帽子の美少女に見えても、中身は何を考えているか分からない、魔物と言っていいだろう。少し失礼な表現だけども。
「あの、古鷹さん?」
「何ですか、海原提督?」
「黒井鎮守府のイメージビデオを作成しろと旅人さんからの指示で……」
「撮るんですか?構いませんよ」
「ありがとうございます!」
そうすると、優しげな鼻歌とともに、水やりを再開する古鷹さん。
「ふんふんふーん♪」
……可愛らしいなぁ。
これでまともな精神ならなぁ……!!
おっと、このまま代わり映えしない動画じゃアレだし、質問でもしてみようかな。嫌な予感がするけど。
「あの、何故花を?」
「え?可愛いじゃないですか、お花。良い匂いもするし」
……うん、真っ当な理由だ。
「艦娘は五感が鋭いですよね。私と妹の加古は、特に嗅覚が鋭いみたいで、良い匂いのするお花は大好きなんですよ」
うん、うん。
ちゃんとした話だ。
私は今、「会話」できている!!
「じゃあその、好きな花は?」
「うーん、これと言って好きな花はありませんね。でも、薔薇とか、百合とか、良い匂いのする花が特に好きですよ」
「そうなんですか!」
良し、この調子で……。
と、思った矢先のこと。
「古鷹ー、肥料持ってきたぞー」
「ありがとう加古」
あ、加古さんだ。台車に肥料を乗せて運んできた。
「あら?駄目よ加古、ここに骨が残ってるわ」
「あ、本当だ。悪い、骨粉用の骨とどっかで混ざったみたいだね」
………………骨?
い、いや、待て、まだ危ないものと決まった訳じゃない!獣の骨かもしれない!!
「あは、あはははは、ひ、肥料はやっぱり、生ゴミから作っているんですよね?」
「ええ、生ゴミね」
「で、ですよねぇ!」
解体した獣の骨ですよね!!
「あんな醜い生ゴミから、こんなにも綺麗なお花が咲くんですから、素敵です」
醜い、生ゴミ……?
「ま、まさか……」
「肥料の元は深海棲艦なの」
や、やっぱりぃぃぃ!!!
「そ、そんな、死体だなんて!」
「?、生ゴミですよ?」
「おかしいですよ!」
「そうなんですか?でも、深海棲艦は生きていようと死んでいようと生ゴミじゃないですか?」
「いやそれは、古鷹さんにとってはそうかもしれませんが」
「提督に逆らうんですよ?生ゴミじゃないですか?」
ああっ、一瞬にして「会話」ができなくなった!!
こうなった黒井鎮守府の艦娘は駄目だ、意思疎通ができない!!
カメラを構えている春風ちゃんの肩を叩いて合図する。……ここから離れなきゃ。
「じゃ、じゃあ、私達はこの辺で!!」
「え?まだ全然撮ってないと思うんですけど……?」
「いえ!もう十分ですよ!!」
これ以上恐怖映像は要りませんから!!
こ、怖かった。
……さっきの古鷹さん、顔は笑っていたけど、目の奥底は真っ暗だった。
何を考えているのかまるで分かんないよ……。
「うう……、取り敢えず、取材しなきゃ」
訓練場の神通さん……、は駄目だ、笑顔で凶悪な訓練をしてる。
工房の白露型……、も駄目だ、明らかにやばい。
ガレージの睦月型……、も駄目、明らかにおかしい。
くっ、万事休すなの……?
「……おい、道の真ん中に突っ立って、何をやっている」
「えっ、あっ、ご、ごめんなさい」
ええと、初月、ちゃん?
防空駆逐艦、秋月型の三人だ。
「さあ、秋月姉さん、照月姉さん、勉強の時間だ」
「うう、本当にやらなきゃ駄目?」
「駄目だ。今のうちに勉強しておかないと、将来困るじゃないか」
「将来なんて……」
「戦争が終わっても、僕達の人生は終わらないんだ。先のことも考えなきゃいけないだろ?」
あっ、なんかいい事言ってる……?ひょっとしてまともな人なんじゃ……?
うーん、よし、駄目元で取材してみよう?
「ちょっと良いかな、あの……」
と、イメージビデオ作成について伝えると、
「ん、ああ、構わない。ただ、勉強をするだけだから、見ても面白いものじゃないぞ」
「いえいえ!良いんです!平和な動画が撮れれば!!」
「そ、そうか」
そんなこんなで着いて行った先は秋月型の私室。全体的に質素な感じの部屋だ。
三人は、部屋の中央の丸テーブルに集まって、勉強を始めた。
主導しているのは初月ちゃんだ。
「照月姉さん、そこ違う」
「あ、本当だ、ありがとう初月」
ちょっと覗いてみよう……。
うーん、高校レベルくらいかな?結構ちゃんと勉強してるんだ。
「あの、ちょっと聞いて良いかな?」
「何だ?」
「勉強して、どうするの?」
正直な疑問だ。勉強してどうするつもりなんだろう?
「取り敢えず、大学は出ないとな。学歴がないとこの先困るだろ」
大学!え、偉いなぁ、先のことまでしっかりと考えてるんだ。
「その後は?」
「提督と共働きで、夫婦として生きていく。子供も欲しいから、育児休暇がとれる会社が良いな」
へ、へえ。
「そして都心から少し離れた海の見える土地に家を建てて、ペットに大きな犬を飼って、家族皆んなで一生幸せに暮らすんだ。僕自身は子供は二人欲しいな。男の子と女の子一人づつ。まあ、姉さん達の子供も合わせれば大家族になるだろうから、家は結構大きい所になるだろうな。だから、相応の経済力が必要なんだ。今の貯金に数百万あるけど、これだけじゃ足りないだろうしな。その為にも学歴を積んで……」
うう、将来計画がやたらとリアルなんだけど……。
「……それで、子供が大きくなったら、年に一度は旅行をするんだ。提督は外国の文化や外国語に堪能だから、海外に行くのも良いかもしれない。いつもは海の見える家に住んでいる訳だから、観光先では綺麗な街並みを見るためにヨーロッパなんて良いかもしれないな。それで……」
お、重いッ……!!途轍もなく重い!!愛が重い!!!
頬っぺたに手を当てながら、嬉しそうに話し続ける初月ちゃん。
これはこれで、ある意味でやばい!
逃げなきゃ延々と話すよね、これ。
「う、うん!そうなんだ!ありがとう!十分撮れたから、私達はこの辺で!そ、それじゃ!!」
「だから、頭のおかしいうちの艦娘達とは違って……、ん?もういいのか?そうか。じゃあ、また今度」
ここも離脱……。
黒井鎮守府の深い闇……。
やはり、一筋縄ではいかない!
そう、ですね、朗らかな人。朗らかな人を探しましょう。
そう思って歩き回ること数分。私達は埠頭に辿り着いていた。
「あれは……」
そこには、折りたたみ椅子に腰掛け、釣り糸を垂らす天龍さんの姿があった。
「ん、なんか用か?」
天龍さん……、天龍さんはまともな方、かなあ……。
話してみよう。
「あの、取材を……」
と、イメージビデオの件について伝えると、
「おお、良いぜ、何でも聞きな」
快諾してくれた。心は広いんだよなぁ。病んでさえなければ、皆んな良い人なのに……。
「天龍さん、釣りが好きなんですか?」
「ああ、アウトドア全般だな。でも、釣りが一番好きだ」
「なるほど、何を釣るんですか?」
「何でも釣るぜ?今日はサビキやってるけど、この前は提督とカジキ釣りに行ったしな」
「カジキ釣りを?」
「おう!ありゃあ楽しいぜ?かなり暴れたけど、ま、そこは艦娘の腕力で押さえ込んで一本釣りだ」
和かに語る天龍さん。釣りかぁ。実家を思い出すなぁ。私の実家、漁師だから。
「でもまぁ、一番釣りたい獲物は、釣れないままなんだけどな」
「へぇ、何を狙ってるんですか?」
「決まってんだろ?提督だ」
「アッハイ」
さて、春風ちゃんに合図をしてビデオを切る。いかなる理由があっても、黒井鎮守府の艦娘が旅人さんの話をし始めたらもう駄目。深い闇に包まれる。
「提督、カッコいいよな……。俺のものになってくれないかな……」
「い、いやあ、ちょっと分からないですね……」
曖昧に言葉を濁しておこう。
「あ"?分かんねえのか?提督は最高の男なんだよ」
ひいっ!やっぱり駄目だ。はっきり言おう!
「は、はい!そうですね!私もカッコいい人だと思います!」
「んだと?提督に手出ししたら……」
「わ、分かってます!分かってますから!手出しなんてしませんから!!」
どっちにしろ怒るんじゃないですか?!
こんな時は、えーと、そうだ!
「良いですか天龍さん!わ、私は旅人さんのこと、尊敬してはいますけど、異性としてどうこうってつもりはありません!」
兎に角、異性として興味がないと言っておけば……!!
「……そうかよ、ならいい」
良かった、信じてもらえた……。
「どの道、提督に手出しした奴は殺すんだ。好きにしろよ。俺は最終的に提督が側にいてくれりゃそれで良いからよ」
良くなかった、私殺される……。
い、いや、大丈夫、手出ししてないもの、しないもの!
「大丈夫です!手出ししませんから!」
「だから、良いって。問題があれば殺すから」
う、うう、目が本気だ……。
「わ、分かりました」
もう、無理だ。
ビデオを返そう。
イメージビデオなんて撮れなかった。
私は何も見てない。
今日あったことは忘れて、音成鎮守府に帰ろう……!!
重巡軽巡
忠誠心と恋慕がない交ぜになった特異な感情を向けてくる。
駆逐艦
八割サイコパス。
海原守子
この後、ビデオを返却して音成鎮守府に逃げ帰る。