「ふんふんふふーん♪」
私は鳥海。
黒井鎮守府の艦娘だ。
……最近の私は充実している。
最初の頃は不安だったけど、優しくてカッコいい司令官さん、強い仲間達、そして大切な姉妹に囲まれて、日々訓練に励んでいるからだ。
訓練は笑ってしまうほど厳しいけど、自分の実力がどんどん伸びていってるのが分かるし、目一杯頑張った達成感は何物にも代え難い。
この調子で強くなって、皆んなと肩を並べて戦えるようになれたら良いな。
「ふふ、良い天気。今日も平和で」
「ぬわーーーーーっ!!!!」
「しししし司令官さんーーー?!!!!」
その瞬間、大地を揺るがすような爆発音。
同時に空から降ってきた司令官さん。
「ち、鳥海……」
「ッ?!しゃ、喋っちゃ駄目です!!」
ひ、酷い!胸から下が弾け飛んでる!!いくら司令官さんでもこれじゃ……!
「あ、アイカツの結果がこれだよ……」
「?!、し、司令官さん?司令官さん!司令官さーーーん!!!」
司令官さんが意識を……!
どうすればいい、どうすれば……!!
落ち着け!落ち着くのよ私!!司令官さんは大丈夫、不死身よ!今私にできる事は……!
「誰か来てください!!司令官さんが負傷して意識を失いました!!」
助けを呼ぶこと!
幸いにもこの黒井鎮守府には、様々な技能を持つ艦娘が多数います!
皆んなの力を合わせれば、司令官さんを助ける事だってきっと出来るはずです!!
「何事ですか?あ!」
「提督?!」
「司令官!!」
私の呼びかけに応じて、近くの艦娘が集まって来ました。
「皆さん、司令官さんが……!」
「落ち着けよ、鳥海」
「摩耶!」
姉の摩耶が、私の肩を掴む。
不思議なことに、摩耶は冷静だった。
「大丈夫だ、これくらいじゃ提督は死なねえ。それよりも犯人は誰かってことだ!」
「犯人?!司令官さんの治療は?!」
「三分の二くらい吹っ飛んじまってるじゃねえか。手の施しようがねえよ」
そ、そんな!
「ま、放っときゃ元に戻ると思うけどな」
「そんな訳……!」
摩耶の目線の先、私の手の上の司令官さんを見ると……、
「嘘……?!」
ゆっくりと、本当にゆっくりと、傷口がテープの逆再生の様に元通りになっていっている。
「……いつもは爆発くらいじゃこうはならねえんだけどよ、前の謎の宇宙人に襲撃された時の傷が治ってなかったからな、提督」
「どう言うことなの……?」
「要はスリープ状態なんだよ。全エネルギーを回復に回してんだろうよ」
「スリープ状態……」
じゃあ、眠っているだけ?
「そう言うことだ。だから、今やるべき事は……!」
「ウワーッ!何ですか何なんですか!何で急に捕まったんですか私達!!」
「痛い痛い痛い痛い!やめて長門さんやめて!!」
犯人探しってこと……?
「あのですねー、何かしら事件がある度に、私達を犯人扱いするの、やめてもらえません?」
「そーですよ!心外です!」
捕まった容疑者はいつもの二人、明石さんと夕張さん。
黒井鎮守府で起きた事件の半分はこの二人の仕業と言われています。
実際、一昨日も鎮守府の倉庫一つが爆発炎上しました。この二人の謎の実験で。
「喧しい!多少騒ぎを起こすくらいならまだしも、提督に怪我をさせる奴があるか!!」
「や、やってないですよ!!」
「私達、さっきまでプラモ作ってましたもん!爆破なんてしてません!!」
……限りなく怪しいけど、証拠はない。
犯人と断定することはできないと思う。
「ま、待って下さい」
「む、何だ鳥海」
「まだ、明石さんと夕張さんがやったと決まった訳じゃ……」
こんなの、駄目だ。
まだ犯人と決まった訳じゃないのに。
「なら、犯人は誰なんだ?」
「分かりません……、でも、ちゃんと捜査してから捕まえましょうよ」
「捜査か……」
すると長門さんは、顎に手を当て、少し考える素振りを見せた後、こう告げた。
「よし、良いだろう。提督をこんなにした奴には、神通の訓練168時間をプレゼントだ。さあ、犯人は名乗り出てこい!」
「「「「………………」」」」
「……鳥海、犯人はここにはいないようだ」
「当たり前ですよ!!」
そんなこと言われて名乗り出てくる訳ないじゃないですか!!
捜査して下さいって言ってるのに!!
くっ、脳味噌が筋肉でできているという噂の長門さんじゃ駄目だ、もっと知能が高い人は……!
「提督ー、三分の一になっても素敵ネー!」
「眠ってる提督もカッコいいです!盗撮盗撮、と」
「チッ、下半身が吹っ飛んでちゃいかがわしいこと出来ないじゃないですか!畜生!」
だ、駄目だ!控え目に言ってアホしかいない!
「そ、そうだ、白露型は?!白露型の皆さんなら、なんかこう、よく分からないアレで犯人を言い当てられるんじゃないですか?!」
「む、今はいない。全員出撃している」
くっ、こう言う時に限って!
「インテリは?!インテリはいないんですか?!」
「ンー、霧島は今、バイクで首都高に行ってマース」
「一航戦はさっき食べ歩きに行きました」
「妙高型は遠征中です」
神は死んだッ!!
「もうめんどくせえからここにいる全員ぶん殴って……」
「摩耶、やめて」
我が姉ながら脳筋……。
駄目だ、これは駄目だ。アホと脳筋しかいない!
このままでは迷宮入りになってしまう!
「そうだ!司令官さんの伝手で探偵や警察を……!」
そう思って、司令官さんの傍に落ちていた、司令官さんの携帯電話の電話帳を開く。
探偵、警察……、あった!
金田一、江戸川、桂木、レイトン、杉下、左、高野、古畑……。
「ええと、誰を呼べば……」
「待てよ鳥海」
摩耶?
「探偵や警察を呼ぶのはやめとけ」
「え……?」
「他所の人間が入ってくる方が提督は困るね。それに、もしかしたら、事故かもしれねーだろ?だって爆発くらい毎日のように起きてるじゃねえか」
た、確かに……。
宇宙人にヤクザ、モヒカン、超ロボット生命体が現れるこの鎮守府において、爆発なんて日常茶飯事……!
そんなことで一々外部の人間を呼ぶ訳にはいかない!
と、なると……。
「鳥海」
「摩耶……」
「頑張れ」
あっ、私かぁ……。
「ええと、まず、何処でどう爆発したんですか?」
最初に、爆発の原因の特定ですね。
そう思って問いかけると、明石さんがタブレットを操作しながら答えた。
「倉庫の一つですね。爆発のエネルギー分布から見て、化学薬品によるものです」
「化学薬品……。ますます怪しいぞ、明石!!」
「違います長門さん違います痛い痛い痛い」
化学薬品、ですか。成る程……。
なら、犯人は化学薬品の調合が出来る人ですね。
となると、明石さん、夕張さん、妙高型、白露型、睦月型……、あれ?容疑者が多過ぎません?
いや、でも、妙高型、白露型は出撃しているし……、いやいや、事前に仕掛けておけば……。
兎に角、
「何者かが化学薬品を作り出して、それを使って爆破したと?」
誰かが故意にやったのは確かですね。
「何者かって言うか、提督がですかね」
え?
「何で断言出来るんですか?」
「いや、見てましたからね、私」
「………………は?」
「監視カメラの映像です、どうぞ」
「……あるんなら最初から出して下さいよ!!!」
「出す前に拘束されたんですよ!」
全く、監視カメラの映像は、と……。
『グリセリンと、硝酸硫酸をレッツラ混ぜ混ぜ……、アアッ!零し』
薬品と薬品を混ぜ合わせる司令官さんが、調合の最中、器を落として、大爆発。
「………………事故じゃないですか!!」
「グリセリンと、硝酸と硫酸。ニトログリセリンですね」
「何を作ったかとかはどうでもいいです!むしろ、何で作ったか、ですよ!」
問題はそこです!
「成る程、提督が爆薬を作った理由が大事なんですね?」
「え?あ?はい?」
まあ……、そうですね。もしも誰かに作らされているとするならば、その作らせている人こそが犯人と言っても過言ではないでしょう。
「ではあちらをご覧下さい、元凶です」
その時、パタパタと足音を立てながら、鎮守府のアイドル(自称)さんが現れました。
「あれー?提督ー?那珂ちゃんのライブで飛び切りの火薬演出するって言ってたよねー?何処ー?」
「………………では、皆さん。犯人は那珂さんで、良いですね?」
「「「「異議なし」」」」
「え?皆んなどうし、あ、待って、神通姉さん?え?訓練?一週間ぶっ通し?待ってやめて、死んじゃう、那珂ちゃん死んじゃう、あ、あ、アアーーー!!!」
解決、と言うことですかね。
鳥海
インテリ。
那珂ちゃん
取り敢えず犯人と言うことにされた。この後地獄を見る。
旅人
遊び半分で危険物を生成。頭空っぽ。