ところで、ですね、最近忙し過ぎて、来月の半ばから再来月の半ば位まで連載停止するかもしれないです。お兄さんゆるして。
うーむ、艦娘に厳しく、か。
俺は人を叱るのが苦手だ。自分が上から物を言えるような立場だとは思わないし、何より、怒るのが好きじゃない。
だが、人間、他人から指摘されないと自覚できない欠点だってある訳だし、叱るという行動が悪いってことでもない。
つまりは、心を鬼にして叱る時が来たということ。
「よし」
叱ると言ったら体育教師。
体育教師と言ったら……、
「持ち物検査、開始ィーーー!!!」
ズバリ、持ち物検査だ。
持ち物には素行が出る、と思う。
よって、艦娘の持ち物を検査して素行のチェックをしようって寸法よ。まあ見てな。
「あら、提督?竹刀なんて持って何を?」
「はい、鹿島確保、と」
「え?え?」
鹿島 を 捕まえた !
私服の鹿島だ。恐らくは出掛ける予定なのだろう、小さなポーチを持っている。小物にしっかりと気を遣っていてお洒落。かわいい。十段階評価で百点。
「私物の検査だ!大人しく持ち物を見せるんだ!!」
だが俺は近年稀に見る修羅。女の子の荷物の詮索という禁忌を、犯す……!!
「私物の検査、ですか?はい、構いませんけど……」
懐から机を取り出し、その上に鹿島の私物を並べる。
「プラダのポーチと財布、キーケース、化粧品、携帯電話……」
上品な白のポーチと長財布……、プラダのブランド物。キーケースもプラダだ。化粧品も少しお高いもの。携帯電話はエクスペリア。待ち受けは俺とのツーショット写真だ。
参ったなあ、まともなものしか持ってないぞ。
「艤装は?」
「はい、今呼び出しますね」
どれどれ?
「連装砲、探照灯、水中探信儀、爆雷、蛇腹剣……」
よく手入れされた、しかしなんの変哲もない武装。
うーん、問題無し。清廉潔白。
「無罪!」
文句無しの無罪判決だ。
持ち物も艤装も、おかしなところはない。
「呼び止めて悪かったな、鹿島。行っていいぞ」
「はい、提督」
笑顔で手を振り、出掛ける鹿島。何だ、思いの外まともじゃないか。素行に問題無しだ。
この調子で正門で持ち物検査を続けよう。何、うちの子は良い子ばっかりだ。問題なんてないだろうぜ。
「問題なんてないだろうぜ……、そんな風に思っていた時期が、俺にもありました……」
「?、どうしたの提督?」
「ビスマルクゥ……、これは何なのかね?」
「あら?知らない?ルガーP08よ」
いや、ルガーP08は知ってるよ。ただね、今はルガーP08の存在の話をしてるんじゃねーのよ。そうじゃなくってね、
「何で持ち歩いてるんですかねぇ」
銃刀法って言葉、知ってる?
「趣味よ」
「うーん、この」
趣味かあ。ルガーP08が好きなのは分かったけどさ、持ち歩いている理由ではないよね?アレか、質問が悪かったのか。
「あのね、そうじゃなくってね……、日本国内で拳銃を持ち歩く理由が聞きたいんだよね」
「お守りみたいなものかしら?」
「随分と物騒なお守りだね」
アメリカならまだしも、日本国内では些か物騒過ぎるお守りだ。
「ルガーP08で使用する弾薬は9ミリパラベラム。パラベラムの意味は、ラテン語の警句のSi vis pacem, para bellumから取られてるの。お守りには最適でしょ?」
汝平和を欲さば、戦への備えをせよ、ね。知ってる。
「じゃあ、銃弾を持ち歩けば良いんじゃない?」
「それじゃ面白くないでしょ?」
まあ、確かに。
「それに、その気になれば、艤装として消せるんだから、大丈夫よ」
そうだな、拳銃も武器だもんな。艤装の一部として消すことも呼び出すことも可能だな。じゃあ最初っから消しておいて欲しいもんだが。バッグからルガーP08を取り出す女の子なんてそうはいないだろ。
「まあ良いや。ルガーP08以外は普通だし。艤装は?」
「艤装?全部かしら?」
「ああ、検査だからな全部見せ、ごめん待った多い多い多い多い」
ビスマルクのマントの中から、出るわ出るわ。ルガー、ワルサー、ヘッケラーコッホ、マウザー……。拳銃から大砲まで。うわっ、これカール自走臼砲じゃねえか。グスタフまである。何だこれどうなってんだ。
「本当はフルスペックのグスタフを持ち歩きたいんだけど、反動がきついから……。アハトアハトはあるわよ、フルスペックで」
艦娘の艤装は、史実よりスケールダウンしているのが常だ。どうやら、武装の概念を抽出して、その分の神秘を以って戦うようになっているみたい。
例えば、ビスマルクは38cm連装砲改を装備しているが、本当に口径が38cmある訳ではない。38cm連装砲改であると言う概念を取り出して、抽出した神秘が破壊力となる訳だ。勿論、見た目通りの威力もある。
フルスペックだと、その分、神秘の力は落ちるが、物理的な制圧力と破壊力はデカい。故に、態々フルスペックの武装を使う艦娘もいるとか何だとか。
「でもまあ、グスタフのフルスペックは無理でしょ」
海の上に列車砲は無理だ。
「そうかしら……。きっとカッコいいと思うんだけど。あ、それと提督?」
「何?」
「この銃……、仕舞うの手伝ってくれる?」
ビスマルクの銃器集めは実益を兼ねた趣味だからなー。良いことだよ、問題ないよ。
一大隊分くらいの火砲があったけど、気にしないでおこう。
さて、次のターゲットは……、
「提督?正門で何を?」
「あ、提督」
「夕張!明石!君に決めた!」
買い物袋をぶら下げ、鎮守府に帰ってきた夕張と明石。さあて、荷物を検査するぞー!
「艦娘の持ち物を検査してるんだ。見せたまえよ」
「持ち物検査ですか。怪しいものは持ち歩いていませんよ?」
「そう言う面白いものは工廠に置いておきますしねぇ」
それは俺が決めることなのだ。
先ずは夕張のからだ。どれどれ……?
「鞄に、工具セット、財布に鍵、タブレット。買い物袋の中は、プラモデルか……」
問題無し、と。
「何で工具セット持ち歩いてんの?」
「職業柄、と言いますかね、無いと落ち着かないんですよ」
成る程ねぇ。
財布は二つ折りの小さいやつに鍵が付いている。プラモデルはガンプラ。タブレットの待ち受けは俺のアップ写真だ。
「持ち物に異常はないな。艤装は?」
「艤装ですね、了解です!」
ゴトリ、と言う重い音と共に、鎮守府正門前の庭に置かれる夕張の艤装。
「これは?」
「プラズマブレードです」
「これは?」
「レールキャノンです」
「これは?」
「フォトンランチャーです」
そっかー。
「爆雷とか電探とか、そう言うのは?」
「あはは、やだなぁ。今の時代、そんな古い装備で戦いませんよー」
「艦娘とは一体何だったのか」
現代どころか近未来の兵器を搭載するとは。これもうわかんねぇな。
「確かに、最新の装備では、戦艦だった頃の概念的神秘は機能しません。でも、それ以上に、圧倒的技術力を以ってすれば、容易に神秘を超えることが可能!」
「ゴリ押しだなぁ」
技術力を上げて物理で殴るのか。解答としては間違ってないから何とも言えねえ。
次、明石。
持ち物は、と。
「夕張と変わんねえな。買い物袋の中はフィギュアか」
夕張と同じく、工具セットを持ち歩いているみたいだ。無いと落ち着かないアイテムなんだろうか。タブレットの待ち受けは勿論、俺の写真だ。
うん、異常無し。
「怪しいものなんて持ち歩いてませんよー」
「じゃあ、艤装は?」
「これです」
そう言って渡されたのはオレンジ色の工具。巨大なレンチ、電動カッター、スパナ、釘打ち銃。
「見事に工具しかない」
「深海棲艦を解体するんですから、これで良いんですよ」
まあ、工具の形をしているけど、実際には武器として使われてるし、良いか。
艤装にも問題無し、と。
どこにも問題無いじゃないか。やっぱりうちの鎮守府は平和だったんだ。
いや、待て。
慌てるな、ここで結論を出すのはまだ早い。今日来た子がたまたま良い子だった可能性もある。
よし、明日も検査を続けてみよう。
この正義の使徒旅人仮面が、諸君らを……、裁くぜ!!
……「提督がタキシードっぽい」
……「タキシードに仮面なのです」
……「まーたおかしなことやり始めよってからに」
……「まあまあ、好きにさせてあげようよ、本人は楽しそうだしさ」
……「ぽい」
……「なのです」
……「せやな」
鹿島
白を基調とした上品なブランド物を好む。蛇腹剣を使った柔軟な戦い方がチャームポイント。
ビスマルク
服や持ち物に拘りは無いが、黒猫の刺繍が入ったものをよく選ぶ。艤装のマントから極めて大量の武装を呼び出し、とんでもない火力でゴリ押す。
夕張
武装のテストが趣味で、いつも怪しげな武装をガン積みしている。しかし、最も恐ろしい装備は、腕部装甲に取り付けられた改造用マニピュレータで、前に立つ深海棲艦は悉く分解される。
明石
対艦用巨大レンチ、ライアットジャレンチを中心に、様々な戦闘用工具を装備している。自らの艤装をほぼ完全に改造しているので、正確には艦娘と言えない存在になっている。
旅人
旅人仮面と化す。