一日一話上げてた頃のポテンシャルは何処へ。
羽黒は強い。
毒の扱いに長けていて、隠密性も一番。それで、敵の群れに単身で潜り込んでは、勘付けれずに敵の首を落とす。
足柄は強い。
妙高型一の気迫。一太刀で三体は殺す剛剣。煙幕に含み針の様な小手先の技術も決して馬鹿には出来ない。煙幕に乗じた奇襲はかなりのものだ。
妙高姉さんは強い。
心技体全てが高い水準で纏まっていて、二刀流の、熟練の剣さばきと高い対応力であらゆる場面で活躍する。
ならば、私は。
私の強さとは何か。
「疾ッ……!!!」
……技だ。
正面、深海棲艦。
私専用に、先端を鉤爪状に湾曲させた暗殺剣、フックブレードを手甲の手首から引き出し、動脈を斬りつける。刃を引き抜いてやると、滑った血液が間欠泉のように噴き出す。
迫る砲撃は、近隣の深海棲艦の眼孔にフックブレードを引っ掛けて、盾にして対処する。目玉をくり抜いた柔らかさの次に来る、砲弾の衝撃は関節を曲げて受け流す。
剣を抜けば一体、首筋を半ば程断ち切り、二体、口蓋から剣を突き刺し脳幹を貫く。返す刀で三体、殺す。
私達は……、妙高型は、強い。
しかし、何よりも強いのは、武技ではない。
忠誠、だ。
全ては、司令官の為……。
あの人の為なら、私達はどんな汚れ仕事でもできる。例えそれが、暗殺の様な真似でもだ。
だから司令官、覚えていて欲しい。
貴方には忠臣がいるのだと。
貴方に隷属する女がいるのだと。
貴方のモノであるのだと……。
「那智、集中しなさい。来ましたよ」
「ん、ああ、済まないな、姉さん」
いかんいかん、意識を切り替えねば。あの人のことを考えると、夢見心地になってしまう。まるで、恋に浮かれた乙女のようにな。
「一体、二体……、四体。鬼クラスの戦艦かな。赤いからエリートだと思う。いつも通り量産型」
羽黒の知らせを聞いて、自分の眼でも確認をする。……成る程、その通りのようだな。
「では、一人一体。首級を提督に捧げますよ。私達が殺せば殺すほど、提督はお喜びになりますからね」
「「「了解」」」
ああ、そうだな、殺す、殺さねば。殺した数だけ愛されるのだ。殺した数だけ忠義を示せるのだ。
散開し、敵を仕留める。必要とあらば、チームワークを行うが、妙高型はそれぞれのやり方で戦う事の方が多い。
しかし、まあ、
「何とも、弱い……」
鈍いのだ。全てが。
『メイ、レ、イ……、ハカイ』
目は節穴か、鼻は飾りか、勘はどうした。
こうして目の前に立っても、
『………………?』
気付かれる事はない。
量産されたゴミでは、私達に敵わない。
どんなに強化された装甲も、火砲も、私を認識していないなら意味はない。
「死ね」
『ギッ……』
喉を一突き。
力を込めて引き抜くと、裂けた首から鮮血が舞う。
これで終わりだ。これだけで終わりだ。
「さあ、終わりです。帰投しますよ」
見れば、他も同じだった。私達、妙高型の隠密性の前では、量産された深海棲艦の感知能力では無力なのだ。
返り血を拭って、剣を振り、血を吹き飛ばす。
……私達は、強い。
だが、戦いにならないと言うのも、どうなのか、な。
×××××××××××××××
「姉さん待って姉さん待って、流石にそれは死ぬと思うの」
「腕の一本や二本で艦娘が死んだりするもんですか」
「あア"っ?!!!」
「ま、まあまあ、そう怒らなくても良いじゃないか、妙高姉さん」
いいえ、今日ばかりは許しません。
……大体、那智も那智です。毎晩毎晩、提督と晩酌をして。それについて行って酔潰れる足柄が悪いとはいえ、誘う那智にも責任がありますよ。
「おっ、折れたァ、これ絶対折れたァ……」
「折ってません!」
失礼な。実戦でもないのに本気で力を入れるものですか。ただ、痛めつけただけです。
「いやいや、俺は怒ってないよ、妙高」
「……提督がそう言うなら」
全く、しょうがないですね……。
「それより、妙高もどうだい、一杯やろうよ」
「ええ、提督のお誘いとあらば」
倒れ伏した足柄の座っていた席に、代わりに座ります。
因みに羽黒は、提督に寄りかかって寝たフリをしていますね。まあ、甘えているだけなら、あまり問題は無いでしょう。
「お説教も良いけど、やり過ぎないようにね」
「はい、それはもう!」
提督がそう言うならば。
「……まあ、説教をやめてくれるなら万々歳だ。また禁酒令なんぞ出されたら困るからな」
「……長い休肝日が必要かしら、那智」
「い、いや、遠慮しておこう」
那智も失礼ですね……。
姉を敬う心が足りません。
実はあまり尊敬されてないとか……。
……考えないようにしましょう。
「那智も飲みなよ、この酒、那智が持ってきたんだからさ」
「あ、ああ。にしても、ペースが早いなぁ、司令官は。艦娘よりも酒に強いとは」
確かに、早いですね。こんなに飲んでお身体は大丈夫なんでしょうか。本人は、「ザルどころか枠だから」とのことですが。
……毎度大怪我して帰ってきて、気付いたら再生してますから。お酒の飲み過ぎくらいでどうにかなる身体ではないと分かってはいます。それでも、心配です。提督に倒れたれたら、私……、後を追って自害します。
「はっはっはー↓俺の身が心配?(酒が)美味しいから大丈夫だよ!」
「む、そうだな!こんなに美味いものが身体に悪いはずがないよな!」
「もう、調子が良いんだから……」
確かに、こうして皆で飲むお酒は美味しいですけど。飲み過ぎはいけませんからね。
「くぅ〜、美味い!有り余る給金で良い酒を買った甲斐がある!!」
実際、余りますね、お給金。住み込みで、三食付きなのにこんなにもらって良いんでしょうか。それより、
「コラ、那智。提督に合わせてペースを上げちゃいけませんよ」
「まあまあ。あ、そうだ(唐突)。今日は何をしてたの?妙高の話、聞かせて欲しいな」
わ、私の話、ですか。
「ええと、今日は出撃を……」
「いや、そうじゃなくってさ。仕事の話じゃなくってプライベートの話だよ」
仕事を頑張ってくれてるのは知ってるしね、と付け加える提督。
「プライベート、となると……、読書でしょうか」
私も、その、有り余ったお給金で少し本を買うようになって。
「読書か……。良いじゃないか。失敗しても問題ない本を読むんだよ」
読書で失敗とは一体。
「マナを吸い取られたり、モンスターが出現したりするから、古書物には気を付けるように」
はあ……。
……もう、すっかり夜です。
明日も仕事ですから、お開きですね。
まだ飲みたいと駄々をこねる足柄を黙らせ、寝たふりを続ける羽黒を抱えて、部屋に戻ります。
「はいはい、もう遅いから。また明日な」
「やーだー、まだ提督と一緒にいるのー!」
「……足柄?」
「ヒッ!ま、待って姉さん!よく考えて?建造から一年そこらの私達はまだ年齢的には子供!ちょっとぐらいわがままを言っても」
「それが遺言ですか?」
「すいませんでした……」
少なくとも、お酒を飲んでいる時点で子供ではないでしょうに。毎度毎度、下手な言い訳をするから怒るんですよ。素直に謝ればお説教も短めになるのに。
「んー、そんなに言うなら、俺の部屋で寝るかい?」
「え、本当?!」
「て、提督!足柄を甘やかさないで下さい!」
そ、そんな破廉恥な!!男性の提督と同じ部屋で寝るだなんて、何か間違いがあってからでは、
「妙高も来るかい?正直、部屋のベッドがデカイから5、6人くらいは余裕だよ」
「行きます」
そりゃあ行きますとも、ええ。
「その、何だ、私も良いだろうか」
「司令官さん、お隣で寝ても良いですか?」
……那智は兎も角、羽黒はさっきまで寝たふりをしていたのに。
まあ、良いです。敬愛する提督のお誘いですから、断る訳がありません。
倫理も何も関係ありません。
そ、それに、もしかすると、これは……!
「夜伽でしょうか?」
「え?いやいやいやいや、ただの添い寝だよ?」
「そ、そうですか」
勘違いでしたか。そ、そうですよね、いきなり夜戦(意味深)のお誘いなんて……。ただの添い寝ですよね。
「さあ、寝ようか」
「はい、提督」
……添い寝、ただの添い寝……。
その、もしも、提督が我慢できなくなっても、私は……。
お説教、しませんから。
つ、つまりですね、妙高型は……、
「い、いつでもOKですからね!提督!」
「お、おう」
那智
技量が高い。妙高型らしく気配を消すのも上手く、生半可な深海棲艦は感知出来ずに首を落とされる。
妙高
趣味は読書。愛情と忠誠がないまぜになった感情を旅人に向ける。
旅人
部屋のベッドはノースティリス産の幸せのベッド。