よう、提督。
「ああ、おはよう、木曾」
それで、早速だが、今日の予定はどうするんだ?
「予定も何も……、『これ』がある以上、外出は出来ないよね」
そう言って、腕の手錠を見せてくる提督。
……すまない。それは外せないんだ。少しの間だけ、我慢しててくれ。
「ああ、いや、分かってるよ。皆んな寂しかったんだよね。暫くは外出しないからさ、安心してよ」
……ああ。
……先日、提督が五日間の旅に出た時の話だが、俺は……、寂しさのあまり、正気を失っていて、出撃も碌にできない有様だった。
全く、自分の弱さに反吐が出る。
提督を支えると決めたのに、未だに守られてばかりだ。「寂しかったよな、ごめんな」と頭を撫でられ、ガキのようにあやされる自分が許せない。
何て不甲斐ないんだ、俺は……。
「……偉いな、木曾は。俺に気を遣ってくれるのか」
やめてくれ、当たり前のことだ。
「いや、それでも嬉しいよ。さあ、朝早くから悪いが、厨房に行こうか」
……ああ。料理は出来ないが、野菜の皮剥きくらいは手伝うからな。
「助かったよ、木曾。ありがとう」
何言ってるんだ、提督。俺はちょっと手を貸しただけだ。鳳翔や間宮の方がずっと役に立ってただろ。
「それはそうだ。人には得意不得意がある。差があるのは仕方ないことだ。でも俺は、手伝ってくれたこと自体が嬉しかったんだよ」
そんなの……。
「綺麗事かな?」
ああ……。そんなのは綺麗事だろ。邪魔だったんじゃないのか?
「俺はかわい子ちゃんと厨房に立ててラッキー、君は俺と厨房に立ててラッキー。それで良いじゃん?」
……そうだな。それで良いか。だが覚えておいてくれ、俺は提督の役に立ちたいんだ。もっと俺を使って欲しい。
「んー、じゃ、おいで」
ああ、何だ?
「えい」
お、おお?何なんだ?急に抱きしめてきて?
「んんー、あったかいな木曾は。はあー、あーうー」
ど、どうした?
「セクハラした」
セクハラ?セクハラになるのか?俺は抱きしめられて嬉しいんだが。
「よっしゃ、メッチャ元気出たわありがとう」
そ、そうか?そういうものなのか?
「スキンシップは大事、だろ?」
あ、ああ!そうだな!スキンシップは大事だな!!
「スキンシップは大事なんだが……、手を繋いだまま歩くのはどうなの?」
……嫌か?
「そんなことはないよ」
……なら、良いだろう?俺とお前の仲じゃないか。
「……ただ、手を繋ぎたいだなんて、木曾は可愛いこと言うなー、と思ってさ」
意外か?
「いや?そうでもないな。なんたって、木曾は女の子だし」
女の子、か。
「うん、可愛い女の子だ」
はは、そんなことを言うのは提督くらいだ。街に出ても男と間違えられるくらいだぞ、俺は。
「見る目がない人間なんて沢山いるさ。少なくとも俺は、木曾の良いところ、沢山知ってるよ」
なら、それで良いさ。有象無象がどう思うかなんてどうだって良い。提督に見てもらえるなら、俺はそれだけで良い。
「……そっか。でも、世界は広いんだ。俺以外にも、木曾の良いところを分かってくれる人もいるよ」
要らないさ。お前がいればそれで良いと言った。……いつも、俺以外にも良い人が、などと言うが、何故なんだ?俺が鬱陶しかったか?
「いやいや、そんなことないよ。そうじゃなくってさ……。確かに、俺と艦娘の皆んなとの出会いは幸せなものだと思ってるよ?でも、幸せってのは、探せばいくらでもあるものなんだ。だから、皆んなにも、幸せを探して欲しくってね」
与えられる幸せに満足せず、より大きな幸せを探し求めろと?
「そう、なるのかな?」
成る程、俺の幸せか……。提督の言う通り、俺自身が幸せを探すのも重要かもしれない。だが、少なくとも、提督の側にいれるだけで俺は満足なんだがな。
「……やっぱり、可愛い女の子だな、木曾は」
『テーテレッテー、テーテーテー』
おお、凄いな!
「映画、あんまり観ないの?」
ああ、そう言えば観たことが無かったが……、いやぁ、面白いな!にしても、考古学者とはこんな仕事なのか。大変なんだな。
「いや、それは映画だから」
鞭は使わないのか?
「フェドーラ帽も被ってないよ」
そうなのか……。
「まあでも、世の中が不思議で溢れてるのは本当かな」
じゃあやっぱり、聖杯とかもあるのか?
「ああ、あるぞ。うちにある。使うとダンジョンへの道が拓けるだけだが」
クリスタルスカルも?
「聖者の頭蓋なら。使うとこれまたダンジョンへの道が拓ける」
す、凄いな。それはなんとも……、
「旅、してみたくなるだろ?」
……ああ、そうだな。
まだ見たことのない何かを探しに行きたい、その気持ちが少し分かった気がする。
だから提督は旅に出るんだな。
「ああ!未知の世界は最高だろ?」
次、旅に出るときは、着いて行って良いか?
「そうだね、今度、皆んなで一緒に旅行にでも行こうか」
「お昼、どうだった?」
ああ、美味かった。いつもありがとう。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。さて、午後はどうしようか?何かやりたいこととかはある?」
いや、ないな。暇な時間にやることと言えば鍛錬くらいだ。
「んー、鍛錬以外にも何か趣味を持ってみるのも良いと思うよ?」
そうだな……、さっき見た映画は面白かったな。
「じゃあ今日は、映画を観て過ごそうか」
良いのか?俺に付き合う必要はないぞ?提督にやりたいことがあるならそっちを優先してくれ。
「大丈夫。今日は映画を観たい気分だから。さあ、行こうか」
そう言って、自室に入ってテレビを点ける。姉貴達はいない。恐らくは休憩室だろう。
「はい、ポップコーンとコーラ。映画観る時のしきたり」
へえ、そうなのか。
「何でか分からないけど、食べたくなるんだよね、キャラメル味のポップコーン」
「そろそろお風呂入ろうか、木曾」
ん、ああ、そうだな。映画に夢中になって忘れていた。
ちょうど終わった映画を消して、と。風呂に向かうか。自室にもシャワーはあるが、どうせなら、提督が態々作った大浴場が良い。
自室から数分歩いて……、ここだ。因みに、大浴場の裏には露天風呂がある。至れり尽くせりだな。
「っと、手錠があるから脱ぎづらいな、一旦外すよ……、よし、はい」
よし、俺も脱いで、と。
さあ、風呂だ。
「………………きゃああああ!!!」
……何だ?
「ししししし、司令官!!!な、何故ここに?!!!」
「朝潮か。急に大きな声出しちゃいけないよ、皆んながびっくりするからね」
「はい、すいません……、じゃなくって!何故女湯のここに司令官が?!」
「いやぁ、本当は俺も遠慮してるんだけど、皆んなの強い要望があってここに」
「?!……、?!!!」
確かに、初見では困惑するか。だが、提督と一緒に入浴したいと言う欲求は、ここの艦娘なら当然あるもの。
「ごめんね、気を悪くしたなら謝るし、すぐに出て行くから」
「い、いえっ!何も問題ありませんっ!む、むしろ、光栄です!」
例え新入りでも、それは同じだ。
「本当にごめん、なるべく後ろ向いておくから」
「いえっ!司令官さえ宜しければ、朝潮の身体を、どうぞお好きなようにっ!!!み、見るのも!ふ、ふ、触れるのも!司令官の思うがままにして下さい!!!」
「お、おう」
……ほらな。
「……ん、どうした木曾?」
いや?手が早いな、と思ってな。
「あー、悪かったよ。新入りだけじゃなく、君もちゃんと相手するさ」
本当か?
「もちろん」
そう言うと、提督は俺の肩を抱いてきて……、
んっ……❤︎
優しい、口付け……❤︎
「ふう、満足かい?」
まだだ、もっとだ、提督……❤︎
そんなものじゃ満足できない。もっと強く、激しく……❤︎
俺を求めてくれ……❤︎
木曾
割と乙女。
朝潮
初めて見る異性の身体に興味津々。
旅人
本来は外でドラム缶風呂に入っていたが、艦娘達からの要望で大浴場で混浴が基本に。