これもうわかんねぇな。
『司令官帰宅まで後……!!、司令官、お帰りなさい!!!!』
「ん、ああ、ただいま」
瞬間、鎮守府中が揺れた。
……気がした。けど、あながち間違いでもなさそうだ。
はいまずトップバッターは島風。
「提督ーーーーーー!!!!!」
「ぁ"んっ!!!」
まるでミサイルだ。
続いて駆逐艦。
「提督!!!!」
「司令官!!!!」
「司令!!!!」
「ぉお"ぉん!!!」
直撃。狂気のスピードから繰り出される抱き着きは凶器である。思わず、死にかけのニャン◯ゅうみたいな声が漏れた。
軽巡重巡と、速い順に突撃してくる。
部屋は既に人口で飽和状態。
うん、死ねる。
「待って、待って、お願いだから」
揉みくちゃにされてるよ!来日したハリウッドスターかな?なお威力。
「はっ、提督!怪我しているじゃないか!待っていろ今私が」
きゃー長門さん男前ー。返しがついた矢を引っこ抜くのは治療とは言わないぞー。そして素早く回収される俺に刺さっていた矢。きっと誰かのコレクションになったんだろうな。ほら、あれだ、ロックスターのギターピックみたいな。
「はむ、ちゅ、れる……」
闇喰らいと称される、強力な闇の力を持つ黒龍ミディールに囓られた傷口に舌を這わせているのは夕立。え?何々?俺の血美味い?そっかー。
「提督っ……!必ず帰ってきてくれると、私は信じてました……!!」
パンツ返して大淀。
と、まあ、こんな感じで。所謂大歓迎状態。いやー、モテモテですわ。笑える。
あれ?見れば、明らかにやつれている子もちらほら。ある程度は予想は出来てたけどさぁ。俺がいない間ずっとダウンしてたとでも言うの?嘘やん。笑えねえ。
「宴だ、宴の準備をしろ!提督の帰還をお祝いするんだ!!」
神かな?人を神仏か何かのように扱うのはNG。悪いが、俺は人だ。
「はっはっは、良いよそんな。お祝いなんて」
「いや、そう言う訳にもいかん。貴方が無事帰ってきてくれたのだ。全力で祝う他ない。私達にとってこんなに嬉しいことはないのだからな」
そう?まあ、そこまで言うなら、良いけど……。
「さあ、提督を宴会の会場までご案内するんだ。陸奥」
「分かったわ」
すると、どこからか取り出した手錠を片方は俺の、もう片方は自分の腕にかける陸奥。
「はは、何これ。アクセサリーにしちゃデカくない?」
それに、俺の趣味じゃない。
「さ、行きましょう、提督」
そのまま俺の手に指を絡める陸奥。
良いけど、さぁ。
「……シャワーでも浴びてきたら?」
返り血塗れじゃん、君。また自棄になって深海棲艦を殴り殺してきたな?女性に多い、怒るとヒステリックになるやつかな。まあ、被害に遭うのは深海棲艦だし、困ることでもないんだけど。
取り敢えず、顔を拭いてやるか。
「あ、ん、ありがと」
拭きながら撫でる。
陸奥は自分のプロポーションに自信を持ってるからな。褒めたり触ったりすると喜んでくれるのだ。
可愛いやつめ。このこの。ここか、ここがええんか。
「……で、この手錠は?」
「……行きましょう、提督」
あ、そっかあ。スルー推奨かぁ。
まあ、外そうと思えばいつでも外せるし。
とか思いつつ、陸奥の誘導に従って移動。どこ行くんだ、食堂か。既に宴の準備は出来ているみたいだ。鳳翔達が三分でやってくれました。
ぞろぞろと集まって来る艦娘。……出入り口や窓の前に立つのは、俺を逃すまいとしているからだろうか。だろうな。
「さあ、座って、提督。お祝い……、の前に治療ね。全くもう、こんなにいっぱい怪我して……」
そう来ると思ってある程度は治してある。帰って来る前に、回復魔法やら奇跡やら薬やらで、四肢の欠損や主要臓器は治しておいた。自然治癒とは違って、負担とコストがかかるから、急速な肉体の再生はあまりしたくなかったが。
「治療と言っても、特にやることないんだけど。一応、大きな怪我は治しておいたし」
それに、どうせほっときゃ治るからね。
しかし、
「駄目よ」
と、服を脱がされ、包帯を巻かれる。
もちろん、服は回収された。
「いくら治るからって言っても、怪我して良い訳じゃないわ。本当に、本当に……、本当に本当に本当に本当に心配だったのよ?」
「そ、そうか」
愛されてるな俺。
こんなに大切に思ってもらえるなんて、俺はきっと特別な存在なのでは(ヴェルタースオリジナル感)。
よし。
「ありがと。包帯はこんなもんで良いよ。さて、俺も料理を手伝「良いから。座っててちょうだい」……はい」
目力。
目で制されてしまった。
「提督は何もしなくて良いの。ね?」
ね?じゃないが。
「はーい、提督ー。あーん」
「あ、あーん」
いつの間にか隣に座っていた最上に餌付けされる俺。うん、料理は美味しい。
「提督ー、この北上様が肩揉んであげるよー」
「お、おう」
肩こりとかそういうものは一切ないけど。
「五分経ったよー、交代して、雪風ちゃん!」
「うー、分かりました、交代します!」
雪風と入れ替わりで膝の上に座る文月。
何なのだこれは。どうすれば良いのだ。至れり尽くせりで堕落しそうだ。いや、人間的には既に堕落しているんだが。
「いかんいかん、これ以上駄目人間になったら手が付けられん。俺を甘やかさないでくれたまえ」
「あらあら、良いのよ?少しくらい駄目な方が、親しみがあって良いと思うわ」
「いやいや、そんなそんな」
「良いんだってば、ほら!」
そう言って、俺の片手を自らの豊満な胸に持って行く陸奥。ナイスおっぱい。
「……女の子に囲まれて、良いもん食いながら酒盛りって、完全に悪いやつだよな」
「提督は悪の組織のトップなんでしょう?じゃあ、問題無いんじゃないかしら」
一理ある。既に悪の組織だった。
「なら良いかー!酒持ってきてー!!」
「はーい、只今ー」
そうだよな、うん。
俺、この五日間頑張ったしな。これくらい許されるよな。
さあ、酒だ!!!
明日の朝まで飲むぞー!!!
×××××××××××××××
「……ん、おはよ、あれ?」
「おはようございます、提督」
「あ、ああ、おはよう大淀。なんか、これ、空間が……、閉鎖されてる?」
「……ああ、それについては事故、だそうです」
事故ですよ、提督。ええ、事故です。
「事故?」
「夕張さんが、空間操作関係の機材を誤って操作し、空間を歪ませてしまったとか」
「……ふーん。まあ、そうだな。確かにこれじゃ、迂闊に空間湾曲で転移出来ないな」
……良し!
「その気になれば抜け道はあるけど……、やるつもりはないよ。暫くの間は、外出を控えるね」
「そうしていただけると、助かります」
そうですね、暫くの間は。
提督にいてもらわなければ。
「……だから、手錠は外してもらって良いかな?煩わしいかなーって」
……?
何を仰っていらっしゃるのか、分かりかねますね。
「取り敢えず、朝食にしましょう?厨房の方、私もお手伝いしますから」
「なら、尚更外さなきゃ。えい」
「あーーー!!!」
「待って、分かった、分かってる。……えい」
あ、足にかけ直した……。
「五日間くらいは、こうして繋がれたまんまでOKかね」
「……少なくとも、一週間はずっと外出をしない、ですか?」
「増えてるんだが。……まあ、それで良いよ。実際、倒れた子とかも多かったらしいじゃん?俺のせいで泣いた子がいるってんなら、償いは出来る限りするさ」
提督……!!
なんとお優しい方なのでしょうか!
「ありがとうございます!では、早速厨房へ!皆んながお腹を空かせて待ってますからね!」
「おう」
しかし、この手錠で提督と繋がれている感じ……。運命の赤い糸のようで嬉しいですね。
だからこそ、この状況を羨む子もいるでしょう。
ですから、皆で話し合って、なるべく平等になるように、提督と手錠で繋がる役を決めなければなりません。
……本当は抽選などで決めたいのですが……、そうすると、雪風ちゃんばかりが当たりを引き当ててしまいますから。
「と言うわけで提督、厨房の後は会議にご出席なさるよう、お願いいたしますね!」
「え、うん……、何の?」
「それはもちろん、提督を身体で繫ぎ止める役割の方を決める会議ですよ」
「言い方どうにかならない?」
「お好きな艦娘に護衛を」
「なるほど」
ですが、提督自身に無理矢理に選んでいただくと、角が立ちますから。結局は私達が選出するしかありませんね。
さて、どうしましょうか……。
陸奥
案の定、旅人に会えないストレスから海で大暴れ。
大淀
復活。
旅人
ただいま。