旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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弱点は頭。


156話 旅人がいない日 中編

「よう、久し振り。アリアンデル以来だな。さて、行こうか」

 

「え?飛び降りんの?え?マジ?」

 

「あー!落下ァ!!!お前この野郎ハベルなんて重いの着てるからぁー!!!」

 

「おいなんだあれ。蝶か?天使か?あ、痛、痛い痛い、なんか飛んできた!!」

 

「デブ硬いデブ硬い」

 

「また落ちんの?」

 

「毒沼とか……」

 

「天使だ、逃げろ!!あっ、テメー!自分だけ見えない体使いやがって!!」

 

「褌拾ったぞ」

 

「アツゥイ!!呪術!!」

 

「またまた落ちんのか」

 

「おっ、ここ、どっかで見たような……、待て、おい、何だアレ、デーモン、待って、あああ、あああああああ!!!!」

 

 

 

×××××××××××××××

 

「たったの五日間程度で何をガタガタ騒いでいるんだ、全く」

 

「そうだな、その通りだ」

 

「武蔵さん、長門さん、手が洒落にならないくらい震えてるけど、大丈夫でち?」

 

「「大丈夫だ、問題無い」」

 

大丈夫に決まってるだろ、ゴーヤ。

 

私は、大丈夫だ。

 

長門も、大丈夫だ。

 

ほらな?大丈夫だろ?(意味不明)

 

「はぁ……。駄目そうでち」

 

 

 

……まさか五日間も会えないとは。まだ三日目とはいえ……。

 

正直言って辛い。

 

限界だ。

 

だが、私達がしっかりしなくちゃならないんだ……。

 

良い大人が、留守番も満足にできんなど、そんなこと、あってはなるまい。

 

……いや、私達が大人かどうかは分からないのだが。建造されてから数年だし、年数で言えば子供なのかもしれないが、しかし自意識としては大人のつもりだ。

 

だがしかし、こんなにも……、

 

「寂しい、な、提督……」

 

こんなにも、脆かったか、私は。

 

提督は多忙な人だ、声を掛けられない日だって確かにある。それでも、「ただこの鎮守府にいない」こと、それだけで。

 

ここまで、虚ろになるものか。

 

「項垂れてないで他の子の面倒見てくでち。まともな艦娘は少ないんだから」

 

「あ、ああ……」

 

ゴーヤはまとも、か。

 

明らかに元気のない潜水艦達を引っ張って行っているな。

 

「提督がいない間、良い子にしてるでち。命令でち。提督の命令は絶対でち」

 

とは本人の言だ。

 

酷いのは駆逐艦だろう。精神的に未熟なせいか、酷く寂しがっている。

 

「なんで、司令、どうして……」

 

「ずっと、一緒に、いてくれるって……」

 

「のわっち、萩、しっかりしてくれよ、もう……」

 

どうやら、思い詰めるタイプの艦娘は特に辛いらしい。もしも帰って来なかったら、と考えてしまうのだろう。気持ちは分かる。

 

「あ、嵐……。だって、司令が、司令が……」

 

「大丈夫だって、司令は俺達に嘘ついたことなんて無いから。約束通り五日で帰って来るに決まってるだろ」

 

「も、もしも、もしも帰って来なかったら?」

 

「……皆んなで迎えに行けば良い。大丈夫、黒井鎮守府の力なら、必ず見つけられる」

 

それは、そうだな。

 

もしも帰って来なかったら、皆で迎えに行くか。時間にルーズな人だ、遅れてしまうかもしれない。ぴったり五日で帰れないようなら、探し出して迎えに行ってやる。

 

「でも、でも、夕張さんが、次元レベルで見失ったって!観測範囲より遠くに行ったって言うのよ?!」

 

「俺達と司令の絆は、距離の遠さくらいでどうこうなるもんじゃねえ!!」

 

「でも!!」

 

「でもじゃない!!」

 

全く……、

 

「二人共、やめるんだ」

 

「……武蔵さん」

 

「良い子にしていろ、それが命令だぞ?」

 

「でも……」

 

「分かっている。不安なのは皆んな一緒だ」

 

提督のように、うまく優しい言葉をかけてはやれないが、それでも、な。

 

「……はい。分かり、ました。ごめん、嵐……」

 

「俺も、ごめん。ちょっと、熱くなり過ぎた」

 

丸く、とはいかないが、収まったか。

 

……普段は仲が良い艦娘同士も、小さな衝突が見られるな。やはり、提督の存在が大き過ぎた。

 

早く帰って来い、提督……。

 

 

 

×××××××××××××××

 

「はぁ……」

 

「溜め息すんなよ、龍田……」

 

「天龍ちゃん……」

 

気持ちは、分かるけどよ。提督が旅に出てもう三日だしな。

 

「天龍さん……。司令官は、まだ、帰って来ないのですか?」

 

「……ああ、まだだ、もうちょっとだ」

 

「そう、ですか。……まだ、ですか」

 

電なんて、こんなに元気を失って……。

 

「あっ、暁が、私が、良い子にしてないからっ、司令官が、司令官は、しれいかんっ……、うええええん!」

 

「そんなことないわよ〜、大丈夫よ、暁ちゃん」

 

暁だって、泣いてばっかりだ。

 

雷は部屋に籠ってるし、響も自棄酒しっぱなしだ。

 

酷えよ、提督。何でこんな……。

 

俺達を放ったらかしにして、どこに行ったんだよ。

 

提督が待っていてくれるから、俺達は黒井鎮守府に帰って来れるんじゃねえか。

 

提督がいないと思うと、おちおち出撃も出来ねえよ。

 

俺達は全員、提督の為に戦ってんのに……。

 

「提督に甘え過ぎてたわね、私達……」

 

甘え、か……。

 

そうかもな。

 

俺達は提督に甘えてばっかりだったよな。

 

「……良い加減、愛想が尽きちまったのかな」

 

「そんなことは……」

 

いや、分かってる。

 

提督は俺達を見捨てたりなんてしない。それは分かってる。

 

けど……、だけど、それでも。

 

心のどこかで、提督が俺達を捨てちまうんじゃないかって、思っちまう。

 

このまま帰って来ないんじゃないかって、思っちまう……。

 

「はぁ……」

 

「……天龍ちゃんも、溜め息してるわよ〜」

 

「……悪い」

 

「「はぁ……」」

 

反省するから、さ。

 

早く帰って来いよ、提督……。

 

 

 

×××××××××××××××

 

「……鈴谷、食事ですわ」

 

「……要らない」

 

「少しくらい食べたらどうですの?いかに艦娘と言えども、三日間も碌に食事を摂らずにいては……」

 

「ほっといてよ」

 

「もう……」

 

心配ですわ……。

 

提督が旅に出てからと言うもの、部屋に籠りきりで。食事も摂らずにただ時間の経過を待っているんですもの。

 

「……熊野は、さ。辛くないの?」

 

「私?私は……」

 

辛くないと言えば嘘になりますわね。ですがそれ以上に、夫の帰りを静かに待つのも淑女のつとめだと考えていますわ。

 

帰ってくる提督を、優しくお迎えするのが私の使命だと……、そう考えています。

 

「私は、耐えてみせますわ、この程度の試練……」

 

いくつもの試練を、障害を乗り越えていく……。

 

愛とは、そういうものではなくって?

 

「……私には、無理だよ。耐えられない。提督用に飛ばしてる艦載機でも見つけられないくらい遠くに、こんな長い間……」

 

鈴谷の言う通り、普段私達は、艦載機で提督の警護をしてます。自主的に。たまに追跡を振り切られてしまうこともありますが、こんなにも長い間警護をしていないのは初めてですわね。

 

「心配だよ、熊野。提督が心配。辛い思いしてないかな、痛い思いしてないかな。……私が、提督を守ってあげなきゃ駄目なのに」

 

確かにそれは心配ですわ。

 

危なっかしいことばかりする提督は、一日中警護して、私達が守って差し上げなくてはなりませんから。

 

でも……、

 

「きっと大丈夫ですわ。提督のことですもの、どんな困難にも打ち勝って、ここに帰ってきますわ」

 

私は提督を信じていますわ。

 

「……そう、だね。提督なら、大丈夫だよね」

 

「ええ、きっと。ですから、そんな調子では、満足に提督をお迎えできませんことよ?少しくらいは食べなさいな」

 

「うん、そうする……」

 

……それでも、寂しいのは本当ですわよ?

 

早く帰っておいでなさいな、提督……。

 




武蔵
精神的に参ってる。

天龍
テンション六割減。

熊野
辛そう。

旅人
旅エンジョイ勢。

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