「よう、久し振り。アリアンデル以来だな。さて、行こうか」
「え?飛び降りんの?え?マジ?」
「あー!落下ァ!!!お前この野郎ハベルなんて重いの着てるからぁー!!!」
「おいなんだあれ。蝶か?天使か?あ、痛、痛い痛い、なんか飛んできた!!」
「デブ硬いデブ硬い」
「また落ちんの?」
「毒沼とか……」
「天使だ、逃げろ!!あっ、テメー!自分だけ見えない体使いやがって!!」
「褌拾ったぞ」
「アツゥイ!!呪術!!」
「またまた落ちんのか」
「おっ、ここ、どっかで見たような……、待て、おい、何だアレ、デーモン、待って、あああ、あああああああ!!!!」
×××××××××××××××
「たったの五日間程度で何をガタガタ騒いでいるんだ、全く」
「そうだな、その通りだ」
「武蔵さん、長門さん、手が洒落にならないくらい震えてるけど、大丈夫でち?」
「「大丈夫だ、問題無い」」
大丈夫に決まってるだろ、ゴーヤ。
私は、大丈夫だ。
長門も、大丈夫だ。
ほらな?大丈夫だろ?(意味不明)
「はぁ……。駄目そうでち」
……まさか五日間も会えないとは。まだ三日目とはいえ……。
正直言って辛い。
限界だ。
だが、私達がしっかりしなくちゃならないんだ……。
良い大人が、留守番も満足にできんなど、そんなこと、あってはなるまい。
……いや、私達が大人かどうかは分からないのだが。建造されてから数年だし、年数で言えば子供なのかもしれないが、しかし自意識としては大人のつもりだ。
だがしかし、こんなにも……、
「寂しい、な、提督……」
こんなにも、脆かったか、私は。
提督は多忙な人だ、声を掛けられない日だって確かにある。それでも、「ただこの鎮守府にいない」こと、それだけで。
ここまで、虚ろになるものか。
「項垂れてないで他の子の面倒見てくでち。まともな艦娘は少ないんだから」
「あ、ああ……」
ゴーヤはまとも、か。
明らかに元気のない潜水艦達を引っ張って行っているな。
「提督がいない間、良い子にしてるでち。命令でち。提督の命令は絶対でち」
とは本人の言だ。
酷いのは駆逐艦だろう。精神的に未熟なせいか、酷く寂しがっている。
「なんで、司令、どうして……」
「ずっと、一緒に、いてくれるって……」
「のわっち、萩、しっかりしてくれよ、もう……」
どうやら、思い詰めるタイプの艦娘は特に辛いらしい。もしも帰って来なかったら、と考えてしまうのだろう。気持ちは分かる。
「あ、嵐……。だって、司令が、司令が……」
「大丈夫だって、司令は俺達に嘘ついたことなんて無いから。約束通り五日で帰って来るに決まってるだろ」
「も、もしも、もしも帰って来なかったら?」
「……皆んなで迎えに行けば良い。大丈夫、黒井鎮守府の力なら、必ず見つけられる」
それは、そうだな。
もしも帰って来なかったら、皆で迎えに行くか。時間にルーズな人だ、遅れてしまうかもしれない。ぴったり五日で帰れないようなら、探し出して迎えに行ってやる。
「でも、でも、夕張さんが、次元レベルで見失ったって!観測範囲より遠くに行ったって言うのよ?!」
「俺達と司令の絆は、距離の遠さくらいでどうこうなるもんじゃねえ!!」
「でも!!」
「でもじゃない!!」
全く……、
「二人共、やめるんだ」
「……武蔵さん」
「良い子にしていろ、それが命令だぞ?」
「でも……」
「分かっている。不安なのは皆んな一緒だ」
提督のように、うまく優しい言葉をかけてはやれないが、それでも、な。
「……はい。分かり、ました。ごめん、嵐……」
「俺も、ごめん。ちょっと、熱くなり過ぎた」
丸く、とはいかないが、収まったか。
……普段は仲が良い艦娘同士も、小さな衝突が見られるな。やはり、提督の存在が大き過ぎた。
早く帰って来い、提督……。
×××××××××××××××
「はぁ……」
「溜め息すんなよ、龍田……」
「天龍ちゃん……」
気持ちは、分かるけどよ。提督が旅に出てもう三日だしな。
「天龍さん……。司令官は、まだ、帰って来ないのですか?」
「……ああ、まだだ、もうちょっとだ」
「そう、ですか。……まだ、ですか」
電なんて、こんなに元気を失って……。
「あっ、暁が、私が、良い子にしてないからっ、司令官が、司令官は、しれいかんっ……、うええええん!」
「そんなことないわよ〜、大丈夫よ、暁ちゃん」
暁だって、泣いてばっかりだ。
雷は部屋に籠ってるし、響も自棄酒しっぱなしだ。
酷えよ、提督。何でこんな……。
俺達を放ったらかしにして、どこに行ったんだよ。
提督が待っていてくれるから、俺達は黒井鎮守府に帰って来れるんじゃねえか。
提督がいないと思うと、おちおち出撃も出来ねえよ。
俺達は全員、提督の為に戦ってんのに……。
「提督に甘え過ぎてたわね、私達……」
甘え、か……。
そうかもな。
俺達は提督に甘えてばっかりだったよな。
「……良い加減、愛想が尽きちまったのかな」
「そんなことは……」
いや、分かってる。
提督は俺達を見捨てたりなんてしない。それは分かってる。
けど……、だけど、それでも。
心のどこかで、提督が俺達を捨てちまうんじゃないかって、思っちまう。
このまま帰って来ないんじゃないかって、思っちまう……。
「はぁ……」
「……天龍ちゃんも、溜め息してるわよ〜」
「……悪い」
「「はぁ……」」
反省するから、さ。
早く帰って来いよ、提督……。
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「……鈴谷、食事ですわ」
「……要らない」
「少しくらい食べたらどうですの?いかに艦娘と言えども、三日間も碌に食事を摂らずにいては……」
「ほっといてよ」
「もう……」
心配ですわ……。
提督が旅に出てからと言うもの、部屋に籠りきりで。食事も摂らずにただ時間の経過を待っているんですもの。
「……熊野は、さ。辛くないの?」
「私?私は……」
辛くないと言えば嘘になりますわね。ですがそれ以上に、夫の帰りを静かに待つのも淑女のつとめだと考えていますわ。
帰ってくる提督を、優しくお迎えするのが私の使命だと……、そう考えています。
「私は、耐えてみせますわ、この程度の試練……」
いくつもの試練を、障害を乗り越えていく……。
愛とは、そういうものではなくって?
「……私には、無理だよ。耐えられない。提督用に飛ばしてる艦載機でも見つけられないくらい遠くに、こんな長い間……」
鈴谷の言う通り、普段私達は、艦載機で提督の警護をしてます。自主的に。たまに追跡を振り切られてしまうこともありますが、こんなにも長い間警護をしていないのは初めてですわね。
「心配だよ、熊野。提督が心配。辛い思いしてないかな、痛い思いしてないかな。……私が、提督を守ってあげなきゃ駄目なのに」
確かにそれは心配ですわ。
危なっかしいことばかりする提督は、一日中警護して、私達が守って差し上げなくてはなりませんから。
でも……、
「きっと大丈夫ですわ。提督のことですもの、どんな困難にも打ち勝って、ここに帰ってきますわ」
私は提督を信じていますわ。
「……そう、だね。提督なら、大丈夫だよね」
「ええ、きっと。ですから、そんな調子では、満足に提督をお迎えできませんことよ?少しくらいは食べなさいな」
「うん、そうする……」
……それでも、寂しいのは本当ですわよ?
早く帰っておいでなさいな、提督……。
武蔵
精神的に参ってる。
天龍
テンション六割減。
熊野
辛そう。
旅人
旅エンジョイ勢。