旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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どうでもいい話ですけど、提督は普段から黒のワイシャツにジーパン、その上に佐官の制服の上着を羽織る、と言う格好です。ロシア人以上に寒さに強いので薄着。


15話 バキボキ☆メモリアル

「……あのさぁ、君らにお休みをあげる度、毎回思ってるんだけど、外に遊びに行くとかないの?」

 

本日お休みの鈴谷ちゃん、熊野ちゃん。どこに行くわけでもなく、二人で鎮守府の中をふらふら歩いている。

 

「「……は?」」

 

「だから、休みなのに、鎮守府から出ないの?買い物とか、食べ歩きとかさ、そういうの、ないの?」

 

「「……えっ?外出して良いの(良いんですの)?!」」

 

「そりゃ、良いでしょ。許可なんて要らんでしょ」

 

あー、そういうことか。許可が欲しいと思ってたのか。成る程ね。どおりでお休みを与えた子が外に出ない訳だ。

 

「許可、要らないんですの?」

 

「うん。いいよ、遊んできな」

 

「えーっと、その、それは嬉しいけど、私達、お金とかないし……」

 

「は?給料どうしたの?」

 

「(出た試しが)ないですわ」

 

えっ?ちょっと待って?給料出てないの?ノーギャラで働いてんのこの子ら?聖人君子か?

 

「……なんかごめん、頑張って経費から捻出するわ……。これ、お小遣い。遊んできなよ……」

 

申し訳なさが凄い。二人に万札を十数枚握らせ、背を押す。え?金?俺の今月の給料は経費に溶けたけど、持ってない訳じゃないよ?まあ、最悪駅前とか、人の集まる場所で楽器の一つでも弾けば稼げるし(ノースティリス感)。

 

「いっ、いや!貰えないよ!私達ばっかり!!」

 

「いやいや、これでも足りないでしょ!傭兵だってもっと貰ってるよ!!」

 

「それに、艦娘が外を出歩いていたら、住民の方々が怯えてしまうでしょう?」

 

「いや、艤装しまって着替えれば良いだけの話じゃん」

 

「(着替え持って)ないです」

 

冗談はよしてくれ(タメ口)。道理であんなヤバイ格好の子(主に島風ちゃん)が放置されてるもんだ。着る物すらないとか、これマジ?

 

「はい、これ」

 

懐から、女性もののファッション雑誌を取り出し、二人に渡す。

 

「えっと、もしかして、買ってくれる、とか?」

 

二人は若干期待する様な目でこちらを見る。

 

「いや、作る」

 

「「作る?!」」

 

当たり前だよなぁ?機械に量産された製品よりハンドメイドの方が強い(確信)。まあ、デザインはあんまり得意じゃないから、本に頼るけど。

 

「で、出来るんですの?」

 

と、熊野ちゃん。疑われたからには証拠を見せねばなるまい。俺は、今自分が着ている服を作って見せた。

 

「ちょ、ちょっと!速い速い速い!!何それ!どうなってんの?!!」

 

「いや、逆に聞くけどさ、戦闘中に服破れた時とかどうすんのよ?これくらい出来なきゃ困るでしょ?」

 

「破れたら、帰投するまでそのままだけど?」

 

「えー」

 

痴女かな?一昔前の脱衣ブロック崩しじゃないんだぞ?

 

「分かった、分かった。何でも作ってあげるから、早く選ぶといい」

 

「ほ、本当に良いの?」

 

「ああ、何枚でも良いぞ」

 

すると、二人は嬉しそうに、ファッション雑誌を眺め始めた。そうだ、それでいい、女の子って言うのはそう言うもんだ。あんまりにも楽しそうなので、会話に参加する俺。

 

……「うーん、これとか良くない?」

 

……「足元がこの色では、太く見えませんこと?」

 

……「いや、熊野ちゃん、スリムだし似合うと思うよ?逆に鈴谷ちゃんはこれとか良いんじゃない?」

 

 

 

色々と話し込み、昼近くになった頃、やっと服が決まった。自室に戻って、着替えてきた二人は、どこにでもいる、いや、この可愛らしさではそうは言えないな、言わば、どこにいてもおかしくない、そんな女の子になっていた。

 

「提督、その、どう、かな?に、似合う……?」

 

鈴谷ちゃん、ハイソックスにミニスカ、カーディガンにマフラーと言う、完全に休日の女子高生だ。かわいい。

 

「少し、気恥ずかしいですわね……」

 

熊野ちゃん、タイツにブーツ、ミニスカ、ファーコート。気品がヤバイくてかわいさもヤバイ(語彙力ゼロ)。

 

「かーわーいーいー!」

 

「そ、そう?」

 

「超似合ってるー!」

 

「そう言われると、悪い気はしませんわね」

 

褒める。これ、人間関係の基本。

 

 

 

 

 

正門の前、鈴谷ちゃんが俺に言う。

 

「本当に、良いの?脱走とか、しちゃうかもよ?」

 

「ぜってえ嘘だわ。君ら、仲間をほっといて逃げるような子じゃないもんよ」

 

「何で、そう言い切れるの?」

 

「勘」

 

「勘って……」

 

「あと、君らの人となり」

 

「まだ一カ月と少しだよ?」

 

「分かるんだって、俺には。余裕の断言だ、人生経験が違いますよ。ほら、とっとと行った行った、時間なくなるぞ?それとも、俺も付いて行った方がいいの?デートがご所望って訳じゃないだろ?」

 

と、笑ってやる。

 

「そ、そんなこと「あら!是非お願いしますわ!」く、熊野?!」

 

熊野ちゃんは、鈴谷ちゃんに耳打ちする。

 

「(良いですこと?私達の知識と常識はもう何十年も昔のものでしてよ?今の社会で通用しないと思いませんこと?)」

 

「(提督に案内させるってこと?)」

 

「(ええ、多分、聞けば教えてくださるでしょう。いつか提督が言っていた、長期休暇なるものをいただいて、故郷の神戸まで帰るんですわ!)」

 

ああ、そういうことか。確か、資料で見たけど、「重巡熊野」は日本に帰れずに、帰路の途中で沈んだ、とか。だからこそ、望郷の念が強いのかね。

 

 

 

……でも、熊野ちゃん、割とヤバいレベルの方向音痴だからな。長期休暇のときはそれとなく誰かに言っておくか。

 

話は、どうやら、俺を連れて行く方向に決まったらしい。

 

「え、えっと!わ、私達、ちょうど、提督とデートしたいなー、って思ってたの!色んなところ案内して欲しいなー!」

 

ん?ああ!これ、鈴谷ちゃん、誘惑してるつもりか?!無い胸を全力で強調している…………!!き、競うなッ!持ち味を活かせッ!!乳のデカさはこの鎮守府内でも最低ランクだろ鈴谷ちゃんェ……!もっと他の誘惑方法あるだろ!!

 

 

 

「ど、どうかな?!つ、付いてきてくれる?!」

 

「うん、良いよ、行くよ……」

 

「や、やった!!(ウソ?誘惑成功って感じ?!)」

 

「やりましたわ!(まさか鈴谷のアレが通用するとは……)」

 

もうさっきからこの子達が不憫でならない。悲し過ぎる。

 

「か、かわいい鈴谷ちゃんと熊野ちゃんを、ぜ、是非エスコートさせて欲しいなー!!」

 

いかん、泣くな、俺。

 

 

 

そのあとは、まあ、普通のデートだ。

 

二人は、昔と変わった道行く人々の姿や街並みを興味深そうに眺めていた。

 

……「提督!テレビに色が付いてますわ!」

 

……「熊野ちゃん、それ、パソコンだよ」

 

……「提督?何か、皆んな手元で何かを弄ってるけど、あれは?」

 

……「スマホだよ、鈴谷ちゃん。あとで買ってあげるからね」

 

……「きゃ、きゃらめるまきあーと?提督、これ、横文字が逆から書いてありますわよ?」

 

……「今は左から読むんだよ、熊野ちゃん。大きさはどうするの?」

 

まー、辛い。二人とも、見た目からして、こういうのに詳しいだろってなんの根拠もなく思っていたけど、全く何にも知らないんだもん。気の毒過ぎる。結局、街の観光はそこそこで、携帯とか、化粧品とか、思いつく限りの女の子っぽいものを買い、鎮守府に帰った。

 

 

 

「……何かごめんね、殆ど買い出しって感じで……。折角の休日だったのにね……。本当にごめん。なんなら、また直ぐに休みを、」

 

「提督!今日はありがとう!楽しかったよ!!」

 

「ええ!外出なんて初めてでした!また、一緒に遊びに行きましょうね!!」

 

あ、この子達、天使だ。大正義だ。心が、心が綺麗過ぎる。

 

「ごめんなぁぁぁ!!!ううっ、ぐすっ、これからは、いくらでも、いくらでも連れてってやるからなぁ!!!」

 

「?!、きゅ、急に泣き出して、どうしたの提督?!」

 

「いやもう、なんか、君ら本当にいい子だなぁ。俺もう、申し訳なくなっちまってよお」

 

「な、泣き止んで下さい?!貴方が悪い訳ではありませんのよ?!」

 

「大丈夫だよ、提督!ねっ?!ほ、ほら、よしよし」

 

鈴谷ちゃんに撫でられる。この子ら、あれだけ酷い扱いを受けてきたのに、性格が歪まないって何だよ。

 

 

 

×××××××××××××××

 

 

 

どうにか泣き止ませた提督を執務室まで送り、私達は部屋に戻った。

 

買ってもらったスマホ、なるものを弄りながら、私はふと思ったことを口にした。

 

「提督、本気で泣いてたね」

 

熊野は、今朝貰った雑誌をめくりながら、こう答える。

 

「そうですわね。何だか、今まで怖がっていたのが馬鹿らしくなってしまいましたわ」

 

そうなのだ、私達は今まで、無条件で提督を怖がり、近づかなかった。今朝だって、突然声をかけられたときは怒られるんじゃないかと思っていたくらいだ。でも、実際は違う。

 

「うん。他人の為に涙を流せる、優しい人なんだ、提督は」

 

思えば、提督は私達に会うたび、声をかけてくれたり、労ってくれたりしたっけ。前までは、何を考えてるのか分からずに怖がって避けていたけど、今なら分かる。

 

……前の提督は、私達のことを嫌っていたけど、その嫌悪の感情の中には、戦果を出せないから、という怒り以上に、私達が人外の化け物だからと言う畏怖の念があった。だからこそ、前の提督は必要以上に私達を虐げ、万が一にも反逆しないように、恐怖を植え付けたんだろう。

 

でも、提督は違う。提督は、私達艦娘を、普通の女の子として見ているんだ。

 

「……本当に、優しい人」

 

「まあ、ちょっと、子供っぽいですけど、殿方は皆、そう言ったところがありますからね」

 

熊野が、茶化すように言った。

 

「ま、何にせよ……」

 

 

 

「「あの人が提督になってくれて、良かった!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと……、

 

「「(今度は二人きりのデートに誘おう)」」

 

 

 




鈴谷、熊野
多分、この艦隊で一番女の子してる。
普通の女の子として見てくれる提督に好意を抱く。

旅人
デートとかを心から楽しめるタイプ。

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