旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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取り敢えず、召喚した艦娘は六人です。

うーちゃん、朝潮、不知火、村雨。

それとあと二人はまた後で。


147話 勝手に助かれ

……「のう、筑摩。もう良いんじゃ。吾輩のことは忘れて、何処ぞかに逃げよ」

 

姉さんを見捨てて逃げるなんて、無理ですよ。

 

……「のう、筑摩。お主は良くやった。もう休んで良いんじゃ」

 

姉さんが辛い思いをしてるのに、休める訳ないじゃないですか。

 

……「のう、筑摩。吾輩は、お主に幸せになってもらいたいのじゃ」

 

私は、姉さんに幸せになってもらいたいんです。

 

だから。

 

 

 

「次のターゲットは黒井鎮守府の提督、新台真央だ。これが終われば利根を開放してやる。失敗は許されんぞ」

 

「……了解致しました」

 

 

 

だから、その為なら私は……。

 

 

 

なんだって、やります。

 

 

 

 

 

黒井鎮守府……。国内最大の鎮守府。莫大な戦力を持つと聞きます。事実、下調べの時ですらほぼ侵入出来ないくらいでしたから。数多くのセンサーにトラップ、そして知覚範囲が広い艦娘。

 

本当に勘が鋭くって……。その腕もまた一流であることが窺い知れます。

 

まともにやったら勝てません。

 

しかし、私にもチャンスが巡ってきたようです。

 

「大本営の艦娘、ねぇ……」

 

「司令官、怖いぴょん?うーちゃんが付いてるから大丈夫大丈夫!」

 

「司令官の身はこの朝潮が守ります!!命に代えても!!」

 

「いざとなれば不知火が司令の盾になります」

 

「提督なら大丈夫よ!村雨が助けてあげる!」

 

「ははは、ありがと。……守子ちゃんのついでに建造したけど、良いもんだな。建造して正解だったわ」

 

今、あの提督の側にいるのは、建造されたばかりの艦娘だけ。護衛の川内さんは夜戦に行ったのを確認。

 

今ならやれる……!!

 

……にしても、幸せそう、ですね。

 

この幸せを壊すのは忍びないのですが、生憎、私は姉さんの為ならなんだってやりますから。

 

 

 

……ごめんなさい。

 

音も無く後ろから近付いて、刃物を首に……。

 

 

 

「……で、君は誰だい?」

 

 

 

血の気が一気に引く。

 

そんな、まさか。

 

そんな、やめて。

 

そんなそんなそんなそんなそんな!!

 

どこで、どうして気付かれたの?!!

 

「お客さんかな?……それにしてはちょっと物騒だね。これは仕舞っておこうか」

 

っ?!刃物を奪われた?!速い!!

 

「その程度でっ!!」

 

艤装展開!……人を護る為の艤装でこんなこと、したくはないけど……!

 

「機銃よ!!」

 

「おっと、良くないなぁ!」

 

!、弾いた!!やはり前情報通り、改修済の艦娘並みに硬いっ!!!

 

「な、なんてことを?!!」

 

「司令、退がって!!」

 

「ちょ、まっ」

 

くっ、艦娘が前に!

 

でも動きは鈍い、いかにも生まれたてと言ったところ。人体の動きに慣れていない……、障害にはなり得ない。それに、ターゲットは逆に艦娘を庇っている……。

 

「不知火さぁーん!朝潮ちゃーん!退がってェ!危ないからぁ!!」

 

「なっ?!司令?!!」

 

「えっ?!前に出ちゃ……!!」

 

良心の呵責を感じるけど、隙あり、ね……!!

 

「至近距離からの主砲なら……!!」

 

「あっ、やべっ」

 

……ごめんなさい。

 

「死んで、下さい……!!!」

 

 

 

「ああああああああ!!!!」

 

や、やった?!

 

……煙が充満していて何も見えない!死体も残らずに消し飛んだとは思うけれど……、万一生き残っていたら不味い。せめて血痕くらいは……。

 

……生臭い、血の匂い。焼けた肉の匂い。

 

……やっぱり死んで……。

 

………………?

 

あれ?違うこれ、人の血の匂いじゃない。

 

「カジキのたたきィ……!!!」

 

お魚の焼ける匂い?!!!

 

煙が凄い?!!

 

「ちょ、ちょっと、これ、どういう?!!」

 

「まあまあ、カジキのたたきでも食べて落ち着きなよ」

 

「……?!?!!!」

 

む、無傷?!

 

それより、何で魚を焼いて?!何故このタイミングで?!!

 

「刃物を見て思い出したんだけど、今朝カジキの解凍しといたんだったわ。厨房から取ってきて七輪でたたきにすることにしたぞ!」

 

「………………は?」

 

「因みに、解凍するときは流水解凍な。色が悪くならないように」

 

………………はっ?!!い、いや、何にせよ、死んでないなら殺さなくては!!

 

「っ、これで!!!」

 

殴って殺すしか……。感触は最悪だけど、確実だ。

 

「おっと危ない」

 

避けた!くっ、長引けば不利になる!

 

「このっ、当たって……!当たりなさい!」

 

「ドゥエドゥエドゥエドゥエ村雨ちゃんたたきひっくり返して裏面に火を通してドゥエドゥエドゥエドゥエ」

 

「あ、はい」

 

当たらない?!!触ることすら出来ないだなんて!!!

 

「これぞTAS……、Tool Assist Strangerである!」

 

ツールアシスト旅人?!!!

 

 

 

「ま、そんな訳で……」

 

「ただいま、提督!」

 

不味い、川内さんが帰ってきて……!!!

 

「状況はよく分からないけど、その子、取り押さえるねー!」

 

「ゲームオーバー、だね」

 

そん、な……。

 

単純な腕力と速さで取り押さえられてしまった。ここの艦娘には逆立ちしたって敵わない。もう、逃げることは不可能だろう。

 

姉さん、助けられなくて、ごめん、なさい………………。

 

 

 

 

 

×××××××××××××××

 

「えー、バッドエンドの匂いがしたので、ぶち壊しにしようと思いまーす」

 

フゥ!!!イェア!!!!ヒャッホーウ!!!!

 

ノリノリですわ。悪巧みはするのもぶち壊すのも楽しいぜ!!!

 

……特に、人質をとって優位に立ったつもりの奴を、その立ち位置から引き摺り下ろす時なんて最高だ。

 

うえへへははは、やってやったやってやったやってやったぜー。みたいな。

 

あばばばば、あばばばばばばば。みたいな。

 

そんな気持ちになる。

 

「……と、言うわけなんだよ」

 

「………………?」

 

おっと、小首を傾げられてしまった。

 

「えーと、だな、川内。つまり、俺は、自分で強いと思ってるやつにNOと断ってやりたいんだよ」

 

昔田舎で会った漫画家も言ってた。偉そうなやつ、驕り高ぶってるやつの鼻っ柱をへし折ってやるのは最高だよ。まあ暴力は好きじゃないんだがね。でも、ムカつく奴が酷い目に遭えば指を指して笑う。それが悪の組織ってもんだろ?

 

「成る程、調子に乗ったお馬鹿さんを張っ倒すんだね!」

 

分かってくれたか。

 

「ま、待って下さい!」

 

「え?」

 

何かな、筑摩さん。

 

「一体、何をするつもりですか?!」

 

「大本営に忍び込んで君の姉さんを回収。そして……」

 

「皆殺し?」

 

「物騒!いや殺さない!殺さないよ川内!回収したら普通に撤退!」

 

……聞いた話によると、この筑摩さんは大本営に姉が捕らえられていて、俺を暗殺出来たら開放すると言う約束を大本営と交わしたらしい。

 

また大本営か。壊れるなぁ。

 

テンプル騎士団だの要注意団体だの、俺を狙う奴多過ぎ。うちに来た刺客の皆さんは艦娘にボコボコにされてばっかりなのに、どうしてこう、懲りないのかね?

 

艦娘が捕まえてくれるから、実害はほぼないんだけども。

 

「良いか川内。今回のミッションは人質の回収……。ノーキルノーアラートで頼むぞ!!」

 

難易度エクストリーム。

 

「うん、任せて!!」

 

瞬間、川内の姿がかき消える。川内なら大丈夫だ。

 

……大本営の警備ルートは調べてあるらしい。頼むから大本営襲撃とかはやめてくれよ。上層部とは関係ない人達を傷つけちゃならないし、上層部自体も、いきなり消したら国が揺らぐからな。

 

本当に、頼むから、殺しはやめてくれよ……?

 

 

 

「……恩を売ったつもりですか」

 

と、呟いた筑摩さん。

 

「いや?ただやりたいことをやってるのさ」

 

いや、マジで。いつもいつも迷惑ばっかりかける大本営に煮え湯を飲ませてやりたいのだ。まあ、確かに、助けてあげたいって気持ちもあるにはあるが。

 

どちらかと言うと、大本営への仕返しって面の方がデカイな。

 

「ッ!嘘です!!何の見返りもなしに大本営に敵対なんてっ!!!」

 

既に敵対してるようなもんだしなぁ。

 

「いやいや、嘘じゃないさ。大体、川内を見たでしょ?あの子の隠形は相当なものだよ?サイバトロン並みのザル警備である大本営に忍び込んで人一人攫ってくるなんて簡単さ」

 

「出来る出来ないの話じゃありません!大本営は表にも裏にも大きな影響力を持つ大組織ですよ?見ず知らずの艦娘の為に、それを敵に回すかもしれないことを進んでやる馬鹿がいますか?!」

 

「いるさ、ここに一人な!」

 

宇宙海賊並みの感想。

 

「……ぶっちゃけ、大本営とは極めて仲が悪いんだよね、うち。ただ、大本営が無視できないくらいの戦力と戦果があるから、鎮守府の解体は命じられないってだけで」

 

事実、大本営さんからは、スパイや刺客、憲兵の派遣、情報統制による戦果の隠蔽、資金、資材の供給の停止とか食らってるし。

 

何と言うか、自主退職させようとしてくる感じ。鎮守府自体がデカく、それでいて強くなり過ぎたんで、解体するのは惜しいんだろう。どうにかして頭の俺を潰そうとしてくるんだ。

 

「だから、事あるごとに仕返しをしてるんだよ。それがたまたま、君の姉さんを助ける事に繋がったってだけ。つまり……、君達は運良く、勝手に助かる」

 

助けようとして助けるんじゃない。助けてしまうのが旅人。俺は俺好みの悪事をするから、皆んな勝手に助かっちゃえば良いと思うよ。

 

「……運?運ですって?!何で今更!そんなもので!!!」

 

痛、殴られた。

 

「そんな、そんなもので……!!」

 

納得いかない、かねぇ。

 

運悪く酷い目に遭って、運良く救われる。……確かに酷い話だ。はいそうですかとはいかないだろう。

 

でもさ、過ぎた物事は取り返せないんだ。嫌でも前に進まにゃならん。人間ってのはそう言うもんだ。……艦娘は人間じゃないとか言うツッコミは聞かない。

 

「どうしてですか!もっと、もっと早ければ!私も、姉さんも、こんなに苦しまずに済んだのに!!今更助かれだなんて!!!」

 

どうして、か。俺にも分からないよ。何でこう、世界ってのは理不尽なんだろうな。

 

悲しまなくて良い人が悲しんで。死ななくて良い人が死んで。

 

世の中なんてそんなもんの一言で収めるには残酷過ぎる。

 

「もっと、もっと早ければ……。私は……!」

 

そうだな、もっと早ければ……。

 

 

 

もっと楽しい人生を、

 

「私は誰も傷付けずに済んだのに!!」

 

え?そっち?

 

あ、あー、そっか。悪いことだよな、鎮守府の襲撃とか。うん、悪いことだ。実は悪いことらしい。襲撃、俺もしたことあるけど。何度も。

 

「私が、私がどんな思いで!どれだけの人を傷付けて!!う、ううう……」

 

……聞いたところによると、大分多くの鎮守府を潰したらしい。殺されたとまでは聞かないが、それでもかなり多くの提督が駄目になったとか。

 

護国の為にある艦娘にとって、人間を傷付けるのは苦痛なのか。……あれ、うちの艦娘は……。いや、よそう。触れてはいけないやつだ。

 

ま、まあ、今も病院のベッドで眠り続けている人もいるらしいし、悪いことなんだろう。……うちの艦娘の方が多くの再起不能者を作り出してる?ごめん、その話は聞きたくない。

 

俺がどう思うか、ではなく、本人の罪悪感の問題だからな、これは。罪の意識ってのは、自分の中でケリをつけるしかないんだよ。償うにせよ、ぶん投げるにせよ、ね。

 

だから、俺がどうこう出来る話じゃない。過去を乗り越えるのは、自分自身にしか出来ないから。いや、応援はするけどもね?

 

……兎に角、泣き崩れた筑摩さんを放っておくのは良くないよな。

 

 

 

「……あー、カジキのたたき、食べる?」

 




筑摩
大本営直属の艦娘。データには残らない裏の仕事を担当する。

田舎の漫画家
蜘蛛の味をみたり取材のため山一つ買って無一文になったり。だが断る。

旅人
久々に執務室まで侵入されてびっくり。

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