グロとか、ありますねぇ!
「成る程?つまり……、ハネムーンね!!!」
「いや、その……、そ、そうだな!ハネムーンだな!」
目の前で目を輝かせている足柄を裏切ることはできぬぅ……。
決して、イタリアに買い出しに行くだけ、たまたまそこにいたから誘ってみただけとは、とても……!
「………………」
そして、足柄を連れて行くとなると、あそこで真っ黒な目でこちらを見ている羽黒も、なんかそわそわしてる妙高も、那智も、連れて行く必要があるのだ!
「ほ、ほら、君達も行くかい?」
「「「行きます(食い気味)」」」
とのこと。
しゃーねーな、本当は買い出しだけのつもりだったが……、観光でもするか。
場所は……、イタリアのフィレンツェで良いかな。あの辺は道を良く知ってるし。近くの観光名地のパリとか、コンスタンティノープルとかロンドンとかは人が多過ぎて却って、なぁ。
「で、でもほら、あんまり長居はしないよ?」
「分かってるわよ!私達だって仕事があるんだから!それじゃ、早速用意してくるわね!」
「お、おう」
た、楽しそうだなー。……はぁ、一泊するって皆んなに言っておかないとな。
さて、イタリア。
いつも通り、旅人号をすっ飛ばして数分で、目的地に到着。艦娘のパスポート?明石が作ったそうだ。え?犯罪?何言ってんだ、バレなきゃ犯罪じゃないと言う名ゼリフを知らないのかよ。
「まあ、そんなことはどうでもいい……。君らはさ……、目立たなきゃ生きていけないの?」
「はい?」
「?、何のことですか?」
僕は少なくとも、パンチで顔面を平らにされた人間の髪を掴んで引き摺り回している光景を尋常なものとは思わぬ。
「ああ、これのこと?何だか知らないけど、物陰から提督に銃を向けていたから……」
「す、すまない、司令官。余計なことをしてしまっただろうか?」
妙高型は器用だ、加減もできてる。刺客の皆さんはグチャグチャだがちゃんと息はあるのだ。殺してはいない。
だがね、美しいこのフィレンツェの街並みの中で、絶世の美女が返り血塗れで半死人を引き摺って歩けば、目立つ。そう、目立つのだ。
加えて、相手が相手。
「うわ、これ、テンプル騎士団の連中じゃん……、面倒臭え……」
「お知り合いでしたか?!そ、その、すみません!」
妙高が詫びるが、いや、そうじゃないんだ。
「その、ね、そいつらはね、世界中にいるから、マークされ過ぎないようにあえて放っておいた連中なんだよね……」
テンプル騎士団……。世界を影から支配しようと目論む悪の組織だ。いや、本人達は悪の組織だとは思っていないらしいが。大衆を規律と秩序でコントロールすることこそが善だと考えている、らしい。
別にそれが間違っているとクソリプを飛ばすつもりは毛頭無いが、俺は支配するのも、されるのも嫌だ。だから従わない。それだけだ。
管理者は破壊される運命にあるってそれ一番言われてるから(アーマードコア感)。
「……じゃあ、私達、余計なことしちゃったのね……。ごめんなさい、提督……」
珍しくしょんぼりする足柄。本当に月並みな言葉なんだが、足柄には笑顔が似合うんだ、そんな顔はやめてくれ。
「いや、構わないさ、やっちまったもんはしゃーない。……なんとなく、そろそろこうなるんじゃないかとは思ってたんだよねー。いつもの、鎮守府に忍び込んでくる刺客と変わりないからさ、問題ないよ」
実際、大本営からのスパイ以外にも、様々なところから刺客が差し向けられている。暗殺者、狙撃手、殺し屋は日常茶飯事だ。
まあ、鎮守府の中にいるときは、そういうのは艦娘に半殺しにされているけど、こうして外に出ると、ねぇ?
「じゃ、じゃあ、やっつけちゃって大丈夫なんですね……?」
「ああ、大丈夫だよ、羽黒」
「良かった……」
優しく微笑みながら、捕まえた刺客の腕の肉を削ぎ落とす羽黒。あ、あのね?殺さなきゃ良いって訳じゃないんだよ?
なまじ手加減ができるせいで、死ぬ限界ギリギリまで痛めつけやがるからもう。
うわー、痛そう、かわいそう。だがあれだ、まあ、喧嘩を吹っかける方が悪いってことで。人生の進む道を決めるのは自分だし、その選択で後悔するのも自分。道理だ。
「……まだ、いますね」
まるで猛禽のような、鋭い眼をして呟く羽黒。
……前に、艦娘は感覚が鋭く、中でも古鷹型は嗅覚が、白露型は直感が極めて鋭いと言ったような気がするな。
ならば、妙高型は、と言うと。
「80m先、建物の二階に三人。144m先、建物の屋上に四人。258m先、車の中に武装した六人……」
異常発達した視覚だ。
重心の傾きから隠し持つ武器を、筋肉の盛り上がりから戦闘経験を、瞳の動きから敵対の意思を……、あらゆる視覚情報を集め、脳内で分析し、敵対者を見つけ出す……。
言うなれば、獲物を探し出す鷹の眼。冷徹なアサシンの瞳だ。
「……確認したわ。近くの建物には私が、屋上には那智、車には羽黒が行って」
「「了解」」
「……あれ?その、妙高姉さん?わ、私は?」
「足柄は静かにやるのが苦手でしょ?提督についていて。またいつもみたいに別口の殺し屋が来るかもしれないから」
「は、はーい!」
と、軽いやり取り。
そして直ぐに姿を消す。……野生の獣よりもずっと上手い気配の消し方。世界そのものに溶け込むようなそれは、並みの人間では、目の前に立たれても気付かないだろうよ。
さあ、順に見ていこう。先ずは妙高だ。
あ、もちろん、妙高型は身体能力だって物凄い。特に凄いのは、
「疾ッ!」
ジャンプ力ぅ、ですかねぇ……(したり顔)。
フリーランで人混みを駆け抜け、障害物を飛び越え、壁を駆け上がる……。この身軽さ、全身の器用さも妙高型の得意技なのだ。
『おい……、どう言うことだ?三人消えたぞ?!』
『そんな訳あるかよ!』
『チッ、どうする?打って出るか?』
建物の中の刺客三人に音もなく近付いて……、
『痛ッ!!!』
『お、おい、どうした?急に倒れ、て……?!』
『な、何だ?!』
一人のアキレス腱を長剣で斬り裂いて転ばせ、背骨を踏み砕いた……。下半身不随、ってところか。
続け様に、二人目。片目を抉り、そのまま眼孔に指を引っ掛け、倒して、同じく背骨を踏み砕く。脊髄損傷による半身麻痺及び片目の喪失。
『ひ……!!』
「死ね」
最後、踵落とし。頭蓋骨陥没で何処かしらの身体機能の喪失、か。
すごーい。暗殺が得意なフレンズなんだね、とか言えたらどんなに楽か。あの人達、もう二度と立って歩けないだろうな。……まあ、殺し屋なんて稼業をやってるんだ、こうなることも覚悟の上だろ。すまんとは言わないぞ。
次、那智。
妙高型特有の、手甲の手首部に取り付けられた隠し暗殺剣。那智のものは、先端にフックが取り付けられた特注品だ。この暗殺剣を使って、建物の小さな出っ張りを利用し、階段を使わずに建物の屋上まで登り……、
『おい、消えた三人は何処行った?!』
『知るかよ、見張ってたのはお前だろ?』
『合図はまだか?!ターゲットは既に射程範囲内だぞ!狙撃の許可を!』
『もしもし?A班、応答せよ、A班?クソ、早く出、あ、あああああああ…………!!!!』
相手を引っ掛けて、投げ飛ばす……。
幸いと言うか何と言うか、そこまで高い建物ではない。引っ掛けられて落とされた刺客さんは、全身の骨を折ってリタイアだ。
『な、何だ?!!』
『あいつ、落っこちやがった!!』
『おい!大丈ベッ?!!!』
下顎を突き上げるような掌底。思い切り噛み合わされた歯は、舌を噛み千切って砕け、口内から零れ落ちる。
『〜〜〜ッ?!!!』
あー、分かる分かる、舌を噛み千切ると痛いよなぁ、血がいっぱい出るし。歯も砕けるのは痛いんだ、折れた歯が口ん中にぶっ刺さってさー。
そしてそのままの勢いでこめかみに鉄槌。あ、鉄槌と言うのは、拳の側面で相手を殴りつける技のことね。念の為。
まー、またもや頭蓋骨陥没だわな。もう一人沈んだ。
それと同時に、またもう一人に襲いかかる。
『な、お前!』
足刀蹴り……、足の側面で蹴る技。それを、相手の膝に、正面から。膝の皿が云々とかじゃなく、曲がっちゃならん方向にひん曲がった。
そして、体勢を崩し、下がった頭にまたもや蹴り。あの威力なら、顔はもう元には戻らないくらい凹んでるな。
『ク、ソッ!!』
最後の一人、銃を取り出したところまでは良かったが……、
「甘い」
那智の方が早い。
胸元の投げナイフを、振り返ると同時に投げつける。銃を撃たれるよりも早くに。
『ガッ……?!!』
刺客の腕に投げナイフが深々と突き刺さり、銃を落とす。
そして那智は、その隙に踏み込み、暗殺剣で顔面を斬り刻む。
『ア"』
眼球、鼻、耳、頬肉、唇……。切り分けられた顔のパーツがずり落ちる。
そして、その痛みを感じる前に追加攻撃。フックがある方の暗殺剣を肋骨の隙間に捻じ込み、投げ飛ばす。
肋骨の開放骨折、と同時に、空中に投げ出された刺客さんは、建物の屋上から落っこちてズタボロ。
……よくも、まあ。殺すなとは言ってあるが、殺してやった方がマシなんじゃないだろうか、これ。
……一番見たくないのは、羽黒だ。
毒薬の利用と、鎮守府トップの隠密性、そして……、
『クソ!通信が途絶えた!!作戦失敗だ、撤退するぞ!!』
『な、何だ?!車内に、何か……?!』
『け、煙……?、ど、毒、だ……』
嗜虐性……。
神経毒で動けなくなった六人の刺客に、ケインソード(仕込み杖)で拷問をしていく。
麻薬や毒キノコから精錬した神経毒は、ただ単に身体機能を奪うだけではなく、猛烈な後遺症を残すもの。どうやら、俺の「殺すな」を、「死ぬよりも辛い思いをさせろ」と解釈しているらしい。
「司令官さんに逆らった司令官さんに逆らった司令官さんに逆らった司令官さんに逆らった司令官さんに逆らった司令官さんに逆らった司令官さんに逆らった司令官さんに逆らった……」
あっ、やばーい、目に光がなーい。
「殺しちゃ、駄目です、罰になりません、殺しません、でも、殺します。死ぬよりももっともっと、もっともっともっともっともっともっと……。地獄を見せてあげます……」
大きな動脈を避けて、皮膚を、筋肉を、腱を刻んでいく。ご丁寧に、止血剤や麻酔まで投与しながら。
「貴方達には、何も残しません。全てを奪います。触覚を奪います。視覚を奪います。聴覚を奪います。味覚を奪います。嗅覚を奪います。手足を破壊して臓器を潰し脊髄を刻みます。貴方達は、何もない、虚無の中で、閉じた世界で生きて下さい」
……あー、あれだな。昔、「ジョニーは戦場に行った」っていう映画があってな。
まさかリアルで見るとは思わなんだ。
……ここまで、一分足らず。はやーい。もうさ、暗殺者として食っていけるよね、君ら。
「うへぇ、グロぉい……」
羽黒の方を見ていた足柄がドン引きしているが……。
『いたぞ!殺せ!!』
『護衛が一人の内に、早く!!』
「あら?こっちにも来たわね。……ぜりゃあ!!!」
……人の手足を斬り飛ばすのもどうなん?恐らくは別口であろう殺し屋が、騒ぎを聞きつけて現れたらしい。俺、色んなところに知り合いがいるけど、それと同じくらい、色んなところに敵がいるんだよね。
『『あ"あ"あ"あ"あ"!!!!』』
「ったく、煩いわねぇ?私達も、提督も、手足がすっ飛んだぐらいじゃ泣き喚かないわよ?みっともないのよ、男の癖に」
『腕があああぁぁぁ!!!俺の腕がぁぁぁ!!!』
『脚ぃ、俺の脚が、斬られちまったぁ!!!』
手足の一本二本で騒ぐなと言いたいが、まあ、痛いもんは痛いし。
「おっと、このままじゃ失血死ね。……えい」
確かに、切り口から血が流れ続けりゃ間違いなく失血死だがな、傷口を思い切り踏み付けて、無理矢理動脈を塞いで止血ってどうなの?鬼かな?
「……まだ、止血が甘いかしら?一応、焼いておこうかしらね」
ひえー、足柄ったら、潰した傷口に火薬盛り始めたわ。
「うん、これくらいね。……マッチは、と……、あった」
『『がぁぁぁああああああ?!!!!!』』
うわあ、やりやがった、焼灼止血だ。中世じゃないんだからさ?悪魔かな?
「……うん、死んでない!大丈夫ね!」
「問題ありませんね、足柄?」
「全く、相変わらず派手なやり方だな」
「ただいま戻りました、司令官さん❤︎」
「うん、その、お、おかえり?」
おっと、帰ってきたみたいだ。早いな、サラマンダーよりずっとはやい。
「し、司令官さん……❤︎」
→羽黒は褒めて欲しそうにこちらを見ている。
→羽黒は褒めて欲しそうにこちらを見ている。
→羽黒は褒めて欲しそうにこちらを見ている。
さ、三回連続で見つめられたァー!!
あもりにも露骨過ぎるでしょう?
取り敢えず撫でておこうかな。
「んっ❤︎司令官さん❤︎司令官さん❤︎」
犬のようにわしゃわしゃ撫でる。
「あっ❤︎あっ、あっ、あっ❤︎❤︎❤︎これ、好きぃ……❤︎❤︎❤︎」
可愛い。
まるで天使だな。
実際にやってることも天使と相違ないし(メガテン的な意味で)。
はー、にしても、これじゃもうデートなどとてもとても……。
通行人は悲鳴を上げて逃げたし、店のシャッターは全て閉じられた。おまけに街には市民の通報を聞きつけた機動隊が来る始末。
もう駄目だ逃げよう。
「チッ、機動隊ですか……。散開、殲滅しますよ」
司令塔の妙高が命じると、
「顔が割れると事だ、隠せよ、足柄」
「んもー、分かってるわよ!……ロングヘアはこういう時困るわねぇ」
長髪を手早くまとめて、フードを被る那智と足柄。
「沢山斬れば、司令官さん、喜んでくれますよね……❤︎」
毒物を暗殺剣に仕込む羽黒。
……ん?
ちょっと待って?
「…………え?その、やり合うの?え?」
相手は、その、国家権力なんで……。
「では、参ります……」
国家権力はヤバい、国家権力は!!
「いや、待って……!逃げるぞ!!マジで!!マジで!!!」
このあと滅茶苦茶宥めた。
妙高
凡ゆる能力が高水準にまとまった万能型。
那智
技量が高く、器用に戦う。
足柄
パワー型。妙高型では最も力が強く、狡猾な搦め手を使う。
羽黒
隠密性に特化。毒物を使用。
旅人
指名手配は免れた。