旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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旅人がイタリアでホットラインしてるときの黒井鎮守府。

なんてことはない、いつもの日常。

シルバニアファミリーくらいのやさしいせかい。


116話 その頃の黒井鎮守府の楽しいお留守番

「はああああ!烈風掌!!」

 

「……見切った!!!おおおおお!次元斬!!!」

 

 

 

 

 

「「………………」」

 

 

 

 

 

「いやあ、やりますなぁ、日向殿!まさか烈風掌を見切られるとは!加えてその新たな剣技!自分を追い越す日もそう遠くないかもしれないでありますな!!」

 

「ははは、謙遜が過ぎるぞ、あきつ丸。私なんかまだまださ。烈風掌も次元斬をぶつけて相殺するのがやっとだ」

 

全く、鍛錬は良いものでありますなぁ。こうして、武技を交える度に新たな発見があるのであります故。

 

「……にしても、そちらの提督は不在だったか。残念だな、会いたかったんだが」

 

「ふふ、恋い焦がれておりますなぁ、日向殿も」

 

なるほど、恋する乙女は強いものでありますからな。

 

「う、その、ごめん。でも、黒井鎮守府の提督に惚れてしまったみたいでな……」

 

「遠慮せずとも良いんでありますよ!仲間は多い方が良いでありますから!」

 

「仲間?」

 

「いやいや、提督殿は幾ら言い寄ってものらりくらりと……。いっそ、皆で囲い込んで、大奥でも作って頂こうと思っているでありまして!」

 

「ははは、それはいい!最後は揃って白無垢か?」

 

「うえでぃんぐどれす、やもしれないでありますよ?」

 

「「ははははははは!!!」」

 

全く全く、中々に、日向殿も話せるでありますな!

 

こんな日々が続けば、きっとそれが幸せと言うのでありましょう。

 

 

 

「……で、何の用でありますかな、貴殿らは」

 

「い、いや、その……」

 

「わ、私達は、反戦組合で……」

 

「黒井鎮守府の、戦力の私物化を……」

 

「へぇ…………」

 

成る程成る程、平和な世の中になったが故の贅沢病でありますかな?よもや、「殺してくれ」などと……。気が狂っているとしか思えないでありますな。

 

仕事以外で殺しなど、やりたくはないのでありますが……。あ、いや、提督殿は殺しを嫌われるお優しい方。ならば死ぬよりも辛い思いをさせてやれば、殺したと言うことに……。

 

「あきつ丸、この人達、斬って良いのかな?」

 

「うーん、どうなんでありましょう?」

 

「な、何を……?」

 

 

 

「ま、待って下さ〜い!」

 

と、その時、大淀が駆け寄ってくる。

 

何事かと、自分達の鍛錬を見物していた最上殿と三隈殿も同じく駆け寄って来た。

 

「もう!鎮守府内に勝手に入り込むのは犯罪ですよ!!あきつ丸さん達も、こう言う人達を見かけたなら私に連絡して下さいよ!!」

 

「ああ、いや、申し訳ない!いつもは提督殿に連絡するものでありますから、つい……」

 

「提督がお留守の今、鎮守府の運営を代行しているのは私なんですから!次からはちゃんと連絡してくださいね?……それでは、お帰りはあちらです!」

 

笑顔で正門を指差す大淀殿。流石、対応が上手いものでありますな!

 

「そ、そんな!せめて話だけでも!」

 

「貴女達は騙されているのよ!」

 

「然るべき保護を……」

 

うーむ、とても同じ日本語を話しているとは思えないでありますな。自分の耳がおかしくなければ、どれも、直訳すると、「極力苦しめて嬲り殺しにしてくれ」としか……。

 

「……ええと、つまり、皆さん全員、自殺志願者と言う訳でしょうか?その、申し訳ありませんが、うちの鎮守府は自殺志願者の支援は行っておりませんよ?」

 

で、ありますよなぁ……。やはり、自分の耳がおかしい訳ではないでありますな。まさか、こんなにも自殺志願者がいるとは……。現代社会とは恐ろしいものなのでありますな。

 

「は、はぁ?何を言っているんだ?」

 

「良いかしら、貴女達は、もっと別の生き方が……」

 

「君達のような多大な戦力が、一個人に委ねられているのは……」

 

焦れったいでありますな。

 

「自殺志願者は他所で死んで頂きたいであります!」

 

「そうですよ!死にたいなら、何も私達に殺されにくる必要はないじゃないですか!山奥で首でも吊って下さい!!」

 

「な、し、死ねだと?!」

 

いや、死にたいのでありましょう?!何を驚いているんでありますか?!!

 

 

 

「もう、駄目だよあきつ丸さん、大淀さん!」

 

「も、最上殿?」

 

駄目、とは?

 

「そりゃあ、この人達の言葉は、直訳すれば、『地獄の苦しみを与え続けた挙句、じっくりと時間をかけて殺してくれ』って意味になるよ?でも、この人達の気持ちを考えてあげなきゃ!」

 

「「気持ちを?」」

 

意味が分からないでありますな。

 

「提督は、相手の気持ちになって考えろっていっつも言ってるじゃないか!さあ、昼間から態々人の家にまで来て、一文の得にもならない文句を言いに来る人達の気持ちになってみよう!」

 

「ううむ……、そんな連中は、恐らく、相当暇なんでありますなぁ」

 

「構って欲しい、とかでしょうか……?すいません、その、一応軍事施設なので、あまりお話できることは……。あ、そうだ!最近、庭にコスモスの花が咲きまして……」

 

おお、構ってやるのが正解なのでありますか!ならば……、そうでありますな、この前那智殿に分けてもらった洋酒の話でも……。

 

「や、やはり洗脳か……?」

 

「そんな……!」

 

「きっと、クーデターするつもりなんだ!!」

 

って、煩いでありますな。とても、話を聞ける状況ではないであります。

 

「み、皆んな聞いてくれ!君達は、あの男に騙されてるに違いない!!」

 

「そうよ!女子供を戦場に出すだなんて、間違ってる!碌な奴じゃないわ!」

 

「早急に鎮守府を解体し、戦力を分配して配置するんだ!あの男は責任を取って辞職、いや、逮捕しろ!!」

 

「……あの男?碌な奴じゃない?逮捕しろ?……一体、誰の話でありますかな……?」

 

 

 

「決まっているだろう!この鎮守府の提督、新台真央のことだよ!」

 

 

 

不敬……、まさかそんな不敬を?提督殿に不敬な口を?提督殿のことを馬鹿にしているのか?提督殿を、提督殿を罵ると?何だ、こいつらは。許さん、殺す、殺す、殺してやる……!!

 

「!!、ちょ、待って!あきつ丸さん!!槍を仕舞って!!日向さんも、剣を抜かないで!!」

 

あ"?止めないでいただけますかな、最上殿?

 

「取り敢えず殺しましょう!それから提督の素晴らしさを説けば良いんです!さあ殺しましょう殺しましょう!!不遜で不敬な人間共を殺しましょう!死ね死ね死ね死ね!!!」

 

「大淀さん!と、止まって下さいな!殺すのは駄目ですわ!!……貴方達!早く逃げなさい!!」

 

「「「ひぃ!!!」」」

 

「何だ?言うだけ言って逃げるのでありますか?提督殿に楯突いた報いを受けていただきたい!!」

 

「駄目、駄目だよ!そりゃあ僕だって殺したいよ?でも、そんなことしたら提督に迷惑がかかるじゃないか!!」

 

「そうですわ!提督は陸での殺生は面倒事の元だからやめてほしいとおっしゃっていたではありませんか!!私も提督のご命令がなければあの人達をバラバラにしていたところですが!!」

 

ぐぬぬ……。

 

しかし、あのような不届き者は、到底生かしては……、いや、提督殿のご命令とあらば……、むうぅ、こんがらがってきたであります……。

 

「チッ……、まあ、良い。確かに、殺しては提督に迷惑がかかるからな。テレビで見たよ、黒井鎮守府は注目されている。……私達のせいで、ここの提督が大変な思いをするのは忍びない」

 

……くっ、日向殿の言う通りであります。

 

自分達のせいで、提督殿が良くない思いをすると言うのなら……。

 

「……そうで、ありますな。この場は見逃すであります。……はぁ、もう鍛錬の雰囲気ではありませんな、鎮守府に戻って茶でも飲むであります」

 

全く……、気分が良くないであります。折角の鍛錬をこうも邪魔されるとなると。仕方がない、茶でも飲んで落ち着くであります。

 

 

 

×××××××××××××××

 

「行っちゃいましたわね、あきつ丸さん……」

 

「あーあ、良い勝負だったのになぁ」

 

「残念ですわねぇ」

 

日向さんとあきつ丸さんの剣さばきは本当に凄いんだよね。

 

参考になるから、もっと見ていたかったんだけど……。

 

「……さて、どうするか。……うーん、少し早いけど、お昼にしようか」

 

「あ、お昼ですか、日向さん!僕達も一緒に行って良いかな?」

 

気持ち、切り替えなきゃね。終わっちゃったことは仕方ないよ。

 

今日の夜には、大好きな提督も帰ってくるしね、これくらい我慢、我慢。

 

「ああ、もちろん。ここの食堂で良いかな?」

 

「うん!」

 

あ、ちなみに、音成鎮守府の提督と艦娘も、しょっちゅううちに出入りしているんだよね。もう殆ど併合してるみたいなもの、かな?

 

「さて、今日のメニューは何かな……」

 

「あ、今日はバイキング形式だって」

 

「……何かあったのか?」

 

「なんだか、鳳翔さん達が函館のレストランに行ったあと、やたらと気合い入ってて……。私達もまだまだだ、とか」

 

函館一番の老舗レストランに感化された、らしい。

 

「……この前も、東京の寿司屋に感化されて、寿司を握ってなかったか?」

 

あー、鳳寿司がどうこうとか……。

 

「ありましたねー。でも、あの時はお寿司一杯食べられましたし、良かったじゃないですか!」

 

「お寿司……、私はお魚が好きですから、あの時は嬉しかったですわね〜」

 

あの時は凄かったなぁ、提督がおもむろに「小手返し一手じゃオラオラ!」とか言いながら物凄い速さでお寿司を量産してて……。

 

おっと、食堂に着いた。

 

鳳翔さん、間宮さんと伊良湖さんが神妙な顔をしながら料理してる。

 

……何故か、音成の提督も忙しなく動いている。

 

「うう、これじゃ駄目ですね、五稜郭亭の味に届きません……!」

 

「日之出食堂の味、超えられないなぁ……」

 

「材料は同じはずなのに、味沢さんにはまるで敵わない……!」

 

……一体、この人達の料理にかける情熱はどこから来るんだろう?

 

「……彼女達は一体、何と戦っているんだ?」

 

謎なんだよなぁ……。

 

「卵焼き、できましたよー!こちらが出汁巻、こちらが砂糖たっぷりとなってまーす!」

 

大皿をテーブルに乗せているのは、音成の提督、守子さん。

 

「で、うちの提督がこき使われているのは?」

 

「あ、それは私から頼んだんですよ、日向さん!……私、最近何もしてないような気がして……」

 

そう言えば、最近はよく厨房で守子さんを見かけるなー。

 

「何も、してない、か……。まあ、そうなるな」

 

「ひ、酷いです……」

 

実際、個々の実力が高過ぎる黒井鎮守府と音成鎮守府は、指揮も何もなくても、一人出撃すれば大体百は殺せるもんね。提督がやるべきことって、あんまりないかも。

 

「まあ、ほら、提督はそこにいるのが仕事みたいなものだから……(適当)」

 

「うう〜、最上ちゃんまで……」

 

「あ、いや、その、悪く言ったつもりはないんだよ?!そう、その、提督は、ええと、仕事が……、仕事が……、無い?」

 

少なくとも、提督が提督としてのお仕事をしているところ、今週は一回も見てないや……。音成の提督も、暇そうに黒井鎮守府をぶらついてるだけだし……。

 

「わ、分かってますけど……。その、やっぱり、落ち着かないんです……!私は、黒井の提督みたいに、皆んなと一緒に戦えないですから!このくらいのお手伝いはやります!そ、それじゃ!」

 

あ、行っちゃった。

 

「……うちの提督、いい人だろう?」

 

「……はい、優しい人ですね」

 

「素敵な女性だと思いますわ」

 

本当に、僕達は、こんなにも良い人達に巡り会えて良かったよ。

 

 

 

「…………で、あそこで、大皿ごと持って行ったお宅の空母と戦艦達についてなんだが…………」

 

「日向さん、見なかったことに…………」

 




あきつ丸
必殺の烈風掌に達人級の剣技、神懸かり的な槍技を使う。年中対人での鍛錬をしている鍛錬キチ。

日向
瑞雲と剣技に定評がある。

最上
日向に瑞雲を押し付けられる。

三隈
くまりんこ。

厨房組
旅人の伝手で様々な美味い店や超一流のシェフを紹介され、自分の未熟さを知る。その後は、必死に料理の研究をしていて、腕前は一流クラスである。

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