とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

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作者個人の「七つの大罪」ヒロインランキング

1:エレイン
2:メラスキュラ
3:黒爪のレン(吸血鬼王族の一人)
4:デリエリ
5:エリザベス

あくまで個人的なランキングです


シャボンディ諸島編1・妖精とトビウオ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 その日、ガープは聖地マリージョアの外れを一人歩いていた。世界会議(レヴェリー)が行われるパンゲア城や天竜人の居住区から離れた土地。そこは建物はおろか、草木もろくに生えていない聖地と呼ぶにはあまり似つかわしくない場所だった。

 

 ガープは先ほどまで海軍の上層部が集められた会議に参加していた。先日クロコダイルの後釜として七武海の一席についた”黒ひげ”マーシャル・D・ティーチ。彼が海軍への手土産にした白ひげ海賊団二番隊隊長”火拳”のエースの処遇を決める会議だ。

 

 かつて海賊王としのぎを削った世界最強の海賊白ひげ。彼に対して政府は非常に大きなカードを得たわけだがそれ故に扱いも慎重にならなければならない。

 もちろん海軍としては世界への見せしめとして公開処刑をしたい。それは海軍や政府の信用を勝ち取ることになるし、世の海賊達への牽制になるだろう。だが、白ひげは仲間の死を許さない。子供でも知っている常識だ。やれば間違いなく白ひげ海賊団との戦争になる。戦闘(・・)ではない、戦争(・・)だ。四皇の一角と事を構えるにはそれ程の覚悟がいる。

 

 当然、他の四皇の動きも見ておかなくてはならない。赤髪はともかくとして、カイドウやビッグマムなどは何をしでかすか分からない。

 とはいえ元々政府上層部の強い意向もあり、そういった世界情勢や海軍の戦力、各海の海賊達の様子を見た上で海軍は、海賊ポートガス・D・エースの公開処刑の実行を決定した。

 

 

 そしてその会議の帰り道、他の者が戦争に向けて慌ただしく準備を進めるなか、ガープはここへ一人やってきていた。いつもならセンゴク辺りが咎めるところだが、今回ばかりは黙認した。ガープがそうなった理由も、ここへ来た目的も知っているからだ。

 

 ガープはひどく思い悩んでいた。海賊の処刑。それがただの海賊なら何も思うことはない。ただ今回は事情が違った。エースは海の上で何度も戦ったロジャーから預かり、ルフィと共に育てた孫だからだ。強い海兵にするためのしごきという不器用な育て方しかできず、結局二人とも海賊になってしまったが、大切な家族であることに変わりはない。本当なら処刑を阻止したい。だが立場がそれを許さない。”海軍本部中将”、”海軍の英雄”、その肩書が今や自分だけのものではないことを知ってしまっているから。

 

「…お、また来たか。」

 

「……ああ。」

 

 そんなガープを一人の人物が出迎えた。背丈はガープの半分ほどでかなり小柄だ。身に着けている制服や羽織っているマントから海軍所属の者であることが分かる。MARINEの帽子を深くかぶっているので顔はよく見えないが金髪の、そして声や体格から男であることがうかがえる。

 

 思い悩んだ時や何か行き詰った時、ガープは決まってこの人物のもとを訪れた。英雄などと呼ばれて正義を志す者の旗印となっているガープだが、彼だって人だ。今回のように悩む時だってある。そんな時は目の前の人物に疑問や悩みをぶつけるのだ。文字通り、拳と身体で。

 

 うっぷん晴らし、と言えなくもないがガープは今まで何十回、何百回と挑んできた。だが、”あの”ガープが一度だって勝てた試しがない。その圧倒的な実力から世界政府全軍総帥コングの副官(XO)を任され、このマリージョアにて天竜人護衛の指揮を任されているこの男。ガープの言わば師匠であり、良き相談相手であり、育ててくれた恩人だ。

 

「…儂はこんなに年を取った。だというのにあんたは相変わらず変わらんのぉ。」

 

「しっしっしっ! さ、ガープ坊。かかってきな!」

 

 ガープはため息をつき、拳を握る。もとよりそのつもりだ。

 

「…ぬうぇいっ!!」

 

 拳に覇気を纏わせ、ガープは殴り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾクッッ!!

 

「っ!!(バッ!」

 

 サニー号のびっくりプールの淵に座り、トロピカルジュースを飲んでいた俺は不意に感じた強い魔力に驚き、その方角を向いて戦闘態勢に入った。

 

「わっ! どうしたんだエレイン?」

 

 その様子を見たチョッパーが尋ねてくる。

 

「………いえ、とても強い…山のような魔力を感じたもので。」

 

「何っ、そうか。ここは海軍本部の近くだもんな。モリアが言っていた新世代とかいう海兵かも。」

 

 船に戻るか、というウソップの提案に乗り、遊んでいたびっくりプールをいそいそと片付け始める。

 

 ブルックを仲間にした俺たちは偉大なる航路(グランドライン)を順調に航海し、世界を一周する巨大大陸赤い土の大陸(レッドライン)に辿り着いた。俺は途中加入だが、これで俺達は偉大なる航路(グランドライン)を半周したことになる。もう一度この赤くて途方もなく高い壁を見る時、ルフィは海賊王になっているはずだ。

 そして、次に記録指針(ログポース)が示す目的地が魚人島。針が真下を指している辺り海の中にある島なのだが、行き方が分からない。シャークサブマージ3号という潜水艇で試しに潜っていたルフィとロビンとブルックが、俺たちがプールを片付け終わったタイミングで戻ってきたが手掛かりはなさそうだ。

 

「ヨホホ、潜水艇初めて乗りました!」

 

「どうだ? 何か見つかったか?」

 

「駄目ね、限界深度ギリギリまで潜ったけど。これ以上下なら着く前に死んじゃうわ。」

 

 まるでお手上げ状態。ふと俺は思いついたことを試してみることにする。

 

「霊槍シャスティフォル第八形態”花粒園(パレン・ガーデン)”」

 

 神樹の花粉を大きく展開し、サニー号そのものを包み込む。

 

「おおっ! こいつは!」

 

「どうでしょうナミさん、フランキーさん。このまま船ごと沈んで行ってしまうのは。」

 

「……うーん、難しいわね。例え沈めても海中での舵がきかないんじゃ目的地には着けないわ。」

 

「それにそもそもどうやって沈むんだ? こいつは船だ。それに浮上する方法も分からねぇまま沈んじまったらサニー諸共俺たちはおしまいだ。」

 

 二人の意見はごもっともだ。俺はシャスティフォルをクッションに戻してそれに体育座りをする。仮にできたとしてもシャスティフォルが皆を守り切れるかも分からない。神樹の完全防御形態といえども深海の水圧に耐えられるのか七つの大罪原作にも描写がなかったし試したこともない。神樹も植物。もしかしたら日光の届かない深海では本来の力が出ない可能性もある。

 原作ではどうしていただろうか。相変わらずのカスカス原作知識。何にも覚えていない。世界に誇るワンピースの作者様だからきっと上手い方法があるのだろうが、現時点では八方塞がりだ。

 

ゴポゴポ………

 

「ん?」

 

 海に不自然に発生した泡をルフィが不思議そうに覗き込む。

 

ザパァンッ!!

 

「うおっ!?」

 

 するとそこから海獣が現れた。ウサギと魚を掛け合わせたような姿のサニー号の二倍はあろうかという怪物。普段なら多少なりともびっくりするところだが、スリラーバークでモリアと一晩中戦い続けた俺達にはイマイチ迫力がないように見える。あっけなくルフィに腹パンされてノックアウトした。

 

ポポンッ!

 

「おや? 何か吐き出しましたね。」

 

 倒れ行く海獣の口から何か飛び出すのをブルックが確認した。その物体は二つ。一つは星形の小さなもの、もう一つは上半身は女性、下半身は魚という異形の人だ。

 

「わっ!」

 

「あ、あれはまさかっ!!」

 

 一先ず人影の方をクッション状態のシャスティフォルで受け止めようとしていたところ、目をピンクのハートにしたサンジに押しのけられた。結果人影はサンジを押しつぶす形で不時着し、俺は星形の妙な物体をポスっと胸で受け止めることとなった。

 

「よっ! 嬢ちゃん! 受け止めてくれてありがとよ!」

 

「わわっ! しゃべった!」

 

 何かのぬいぐるみかと思いきやそれはしゃべるヒトデだった。身体はオレンジ色でヒトデなのに目も口もある。あと民族衣装のようなオシャレな帽子もかぶってる。

 

「わ~っ! 人間の人潰しちゃった!!」

 

 そしてサンジに落ちてきた人影は紛れもない人魚だった。緑のショートカットの髪にピンク色の尾ひれ、名前はケイミー。一見活発そうな可愛らしい人魚だが、どうもおっちょこちょいが過ぎるみたい。さっきのような海獣に何度も食べられそうになっているという。その数なんと20回。もはや狙わなければ出せない数字ではなかろうか。そしてオレンジのヒトデはパッパグ。ヒトデなのに喋れる上にケイミーのデザイナーとしての師匠なのだという。道理でオシャレな帽子をかぶっていると思ったら。

 ともあれ、初めて見る人魚に皆興味津々だ。次々に質問したり、話しかけたりしている。ただ、あまりにもケイミーばかり構われているためか、パッパグが船の端っこで拗ね始めた。

 

 いやまあ確かに人魚も珍しいが、個人的には喋って歩いて服をデザインするヒトデの方がよっぽど物珍しいと思うのだが。

 あまりにもパッパグの出す負のオーラが気になるので、彼にも話しかけてみる。

 

「あの~、パッパグさん?」

 

「! おおっ! ついに俺に興味が出たか!」

 

「これで貴方を拘束するので見事抜け出してみてくれませんか?」

 

 そう言って俺は背後に第五形態のシャスティフォルを構える。パッパグに頼んでいるのはよく幼児用教育テレビでやっていた、爪楊枝か何かで地面に縫い付けられたヒトデが自らの柔らかい関節を利用して抜け出すあれだ。

 

「最初に言うことがそれかよっ!? ってかコエェー!!」

 

 せっかく構ってあげたというのに、思いっきり引かれてしまった。その後もパッパグは俺に苦手意識を持ったらしく、俺を避けてケイミーの背中に隠れるようになってしまった。

 まあそれはともかく、ケイミーが助けてくれたお礼に俺達にたこ焼きをご馳走してくれることになった。ケイミーが働くたこ焼き屋のそれは世界一美味しいらしい。それに乗らないルフィではない。是非ともご馳走してもらおうとするがここでトラブルが発生。ケイミーのたこ焼き屋の店主”はっちん”なる人物がマクロ一味およびトビウオライダーズという人攫い集団に捕まっていることが判明。すぐさま助けに行こうとするケイミー達を引き止め、俺達も協力することになった。救出を手伝う代わりに魚人島への行き方を教えてもらおうというナミの計算だ。

 

「さてさてさーて、ケイミーさん。その人攫い達の居場所は分かりますか?」

 

「うん! 待ってて。」

 

 俺の質問にケイミーは元気よく答えると船の縁の方へ歩き出した。しかし、足が魚の尾ひれである彼女は陸での移動が大変そうだ。俺がクッション状態のシャスティフォルに乗せて運んであげることにした。

 

「ありがとうエレインちん! おーいっ!」

 

 ケイミーが海に向かって呼びかけるとちゃぽんと水面から魚達が顔を出した。続いてケイミーがパクパクと口を動かすと魚達もパクパクと何かをしゃべる。

 

「近くまでなら先導してくれるって!」

 

「へー、魚と会話ができるんですか。凄いですね。」

 

 一旦海の中へ潜った魚達は整然と並ぶと泳ぎながら尾ひれでバシャバシャと水面を叩く。すると海の上に綺麗な水しぶきの矢印が現れた。

 

「スゲー!!」

 

「これについて行けばいいのね!」

 

 サニー号は魚の矢印に沿って進み始める。その道中でパッパグが色々なことを話してくれた。この辺りの”シャボンディ諸島”周辺では裏稼業として人身売買が行われていること、その業界で最近名を上げてきたのがトビウオライダーズだということ、あとブルックと一緒になって歌なんかも披露してくれた。

 

「あ、魚達が…!」

 

 そうこうしていると、矢印を作ってくれていた魚達が突然海へ消えた。そしてそのすぐ後、空から巨大なトビウオに乗った男達が来襲した。トビウオをまるでバイクのように乗りこなすそいつらはすれ違いざまサニー号へ砲弾を放つ。

 

「霊槍シャスティフォル第二形態”守護獣(ガーディアン)”!」

 

 それらをシャスティフォルでボムっとキャッチ、空のトビウオへ投げ返すがそれこそバイク並みのスピードで飛ぶ彼らはひらりとかわして見せる。

 そいつらは偵察部隊なのかそれだけで帰っていったが、そのおかげで魚達の先導がなくてもアジトの方角が分かった。甲板へ大砲を出すなど、各自戦闘準備を整えながらトビウオライダーズのアジトへ向かう。

 

「はっちん、大丈夫かな…」

 

「ご安心くださいケイミーさん! 空での戦闘なら妖精族たる私の専門です。1億の賞金が伊達ではないことを披露してあげます!」

 

 不安がるケイミーを安心させるため、槍形態のシャスティフォルに腰かけてガッツポーズをとる。後ろからナミの「まだ懸賞金のこと気にしてたのね…」と呆れの声が聞こえたが無視だ。最初こそ驚いたものの、誰も彼もが強者のワンピースの世界で億という懸賞金をかけられたのはちょっとした誇りなのだ。

 そんな会話をしているとケイミーの背中からひょっこりとパッパグが顔を見せる。

 

「おめぇ、妖精族なのか?」

 

「え? はい、そうですけど」

 

 パッパグの疑問に答えるようにふわふわくるりと空中で一回転してみる。

 

「だったらおめぇも気をつけろ! 魚人や人魚も高く取引されるが、妖精は珍しいからもっと上だ! お前の正体に気づいたら真っ先に目を付けられる!」

 

 パッパグの注意は最もだと思った。青キジの話が正しければ妖精族は400年も昔に滅んだ一族、生き残りが度々政府に戦いを挑んでいるらしいが本来なら会うことのないレア種族なのだろう。この先行くことになるシャボンディ諸島では十分に注意しなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トビウオライダーズのアジト。それは海の上に無理やり立てた居住区のようだった。建物の造りは素人目に見ても弱く、きっと荒波の一つでも起きようものなら簡単になくなってしまうだろう。人攫いの隠れ家としてはいい立地だろうが、何か武装しているようにも見えない。それに静かすぎる。

 

「まあ……罠でしょうけど。」

 

 気配を探ってみればあちこちから人の気配と心の声が聞こえる。待ち伏せからの奇襲という作戦は王道で良いのだが、妖精を相手取るには悪手すぎる。

 ちなみにケイミー達はこの状況が罠だということにまったく気づいていなかった。おっちょこちょいなのに加えて性格が素直すぎる。まあそれが彼女らの良い所なのだが。

 

「ニュ~、ケイミー!」

 

「はっちん!」

 

 そしてこれまた罠だと言わんばかりにアジトのど真ん中に人質を入れた檻があった。その中には目的のはっちん。何故かスミで汚れて真っ黒だがこれには訳があった。

 はっちんことハチは昔アーロン一味という魚人海賊団の幹部をしており、ナミの故郷を支配して長年苦しめた経緯がある。アーロン一味自体はルフィ達に倒されて壊滅したが、ハチはナミへの負い目から顔を合わせづらかったのだ。

 

 昔倒したとはいえナミを苦しめた憎き敵の一人、ここに来てルフィ達がはっちん救出を渋りだした。その様子を見てケイミー達だけでもハチ救出に海に飛び込むが、海中で待機していたマクロ一味の三人組にあっさり捕まった。一応シャスティフォルで彼女達だけでも助ける。

 

「……皆、ハチも解放しましょう。」

 

「おいナミ、いいのか?」

 

 そしてナミの判断で追加でハチも助けることになる。なんだかんだナミも人がいい。ケイミーとパッパグを乗せたクッション状態のシャスティフォルを引き戻すと同時に、ルフィが船首に立って叫ぶ。

 

「野郎共っ!! 戦闘だぁー!!」

 

「「「おぉ~っ!!」」」

 

 ケイミー達をサニー号へ降ろし、シャスティフォルを槍に変えて構える。四方八方どこから攻められようとも、空なら俺の領分だ。

 

「頑張れー! ルフィちん、エレインちん、皆ーっ!!」

 

 ちなみにこの最中、ゾロがハチの檻と縄を斬り、マクロ一味はハチによって殴り飛ばされ退場した。マクロ一味、登場から退場まで何ともしょっぱい連中だった。

 

 ザブンッ!とたくさんのトビウオが海から飛び出し、サニー号を中心にぐるぐる旋回し始める。本当の敵は彼ら、トビウオライダーズだ。彼らは不規則に飛び回り、サニー号の真上に来ると爆弾を落としてきた。

 

「ふっ!」

 

 それを槍形態のシャスティフォルを高速回転させ、盾に使って弾く。

 

「霊槍シャスティフォル第五形態”増殖(インクリース)”」

 

 続いて大量のクナイとなったシャスティフォルが宙を舞い、トビウオを次々落としていく。脅威なのはトビウオの飛行とスピードで、騎手自体はそんなに強くないらしく、クナイが一本、もしくは二本あれば容易に崩せた。あれだけのスピードを制御しながら対処するのは難しいのだろう。たまにハンドルから手を放してサニー号へ特攻してくる命知らずもいたが、そんな奴には”そよ風の逆鱗”を正面から当ててやれば吹き飛んでいった。

 

「すごーいっ! エレインちん!」

 

「さっすがエレイン! 空中戦じゃ頼りになるぜ!」

 

「いやぁ、えへへ…」

 

バチッ!

 

「ぎゃっ!」

 

 ケイミーとウソップに褒められ、ついよそ見をしていると空からルフィの声が聞こえた。見ると敵のトビウオに乗り込んで遊んでいたルフィを間違えて撃退してしまったようで、ルフィはそのままひゅるひゅると落下し、敵のアジトへ屋根を突き破って不時着した。

 

「あっ……」

 

「『あっ……』じゃないっ!」

 

「あいたっ!」

 

 ペチンッとナミに頭をはたかれた。ゴム人間だから大丈夫だと思うが、ふわふわとアジトまで飛んで確認に向かう。

 

「うわぁ!」

 

「船長!」

 

 やっぱりルフィは無事でアジトから飛び出してきた。しかし何かに追われている。

 

「バタバタと叩き落されやがって! 蚊やハエじゃねぇんだぞトビウオライダーズ!」

 

 程なくしてその者は現れた。大きな黒い牛にまたがり、バキバキと自分のアジトを踏みつぶして、俺とルフィに手にしたバリスタで銛を撃ちながら現れたその男はトビウオライダーズのボス、デュバルだ。彼は俺達麦わらの一味に、特にサンジに深い深い恨みがあるらしい。デュバルはかぶっていた鉄仮面を外しながらその怒りを語る。

 

「…あらら。」

 

 仮面の下から現れた顔はサンジそっくりだった。サンジといってもあの手配書の似顔絵の方だ。その恨みというのも要約すればサンジがあの似顔絵で手配されたばかりにある日から突然海軍から追われるようになってしまったというもの。サンジを恨むのはお門違いのような気もするが、事情が事情なだけにそうバッサリと言い切れない。不憫な人物だ。

 

「知るかーっ!!」

 

 その独白に怒ったサンジはサニー号からこっちへわざわざ泳いできてデュバルを蹴った。サンジもサンジであの似顔絵手配にはひどくショックを受けていたみたいで、それが原因で恨まれるというのも頭にくる話だ。

 

「あのー、サンジさん。彼には彼の言い分ってものがありますし……」

 

「うるせーっ! あんなもんで手配されていること自体認められねぇってのにそれが実在するだと!? ふざけんなっ!」

 

 こりゃだめだ。取り付く島もない。ここはサンジに任せたほうが良さそうだ。ブルックなんかは大爆笑しているが、きっと後でサンジにしばかれるだろう。

 

「おめぇら全員死ぬがいいっ!」

 

ボッ!!

 

 至近距離で銛を発射され、サンジは危機一髪回避した。デュバルはもう一方の手で俺とルフィの方にも銛を放ってきて、それをかわしたせいで一瞬サンジと分断された。

 

バッ! 

 

 そのスキを狙ってトビウオライダーズが二人、網を張って飛び出した。彼らはサンジを網に捕らえて海へ飛び込む。溺死させるつもりだ。

 

「ハハハ! トビウオは海中生物の中でもトップクラスのスピードを持つ。例え魚人でも追いつかねぇよ!」

 

 デュバルが言うことが本当ならハチに助けにいってもらってもサンジは助けられない。シャークサブマージ3号を出している暇もない。出来るとしたらサンジの心の声を聴きながら海中に狙いを定め、シャスティフォルを遠隔操作するくらいだが、今の俺にそこまで高度なことができるかどうか。

 

「私に任せて!」

 

 悩んでいるとサニー号からケイミーが海へ飛び込んだ。パッパグ曰く、海中生物で最も遊泳速度に優れた種族が人魚であり、そのスピードはトビウオすら優に超えるという。海獣に20回も食べられたとは思えない頼もしさだ。

 そして程なくしてケイミーがサンジを胸に抱いて浮上してきた。サンジは、幸せそうに鼻血を噴き出していること以外は無事そうだ。

 

 さらに、気づけばデュバルの部下は随分減っていた。こうしている間にもウソップが大砲で撃ち落としたり、ブルックが剣と音楽の力で張り切って戦ったり、サニー号の機能をフルに活かして戦った結果だ。空と海という圧倒的不利な状況の戦闘でも、俺達は勝つことができた。残るはデュバル一人。

 

「ならばこのモトバロの恐ろしさを見せてやる!」

 

 デュバルは跨っている牛に発破をかけると牛はルフィに向かって突進してきた。聞けば海軍本部の精鋭をも蹴散らしてきた突進。しかしそれは数々の修羅場をくぐり抜けてきたルフィには通じない。危な気なく受け止める。

 

「……お前とは闘うだけ無駄だ。」

 

ゾクッッ!!

 

 牛を受け止めたルフィが睨む。それを間近で見ていた俺はとてつもない恐怖を感じた。心臓を鷲掴みにされるような、強大な鬼に会ったかのような、今まで味わったことのない感覚だ。それを向けられたモトバロという牛はたまらず泡を吹いて倒れた。

 これが夏美が言っていた”覇王色の覇気”なのだろうか。数百万人に一人が資質を持つとされる王の素質。確か効力は戦うまでもない敵を威圧して気絶させることだったはずだ。スレイダーの”威圧(オーバーパワー)”とはまた違う、生物としての格そのものを見せつけるかのような感じだった。

 

「船長、大丈夫です………船長?」

 

「ん? どうかしたかエレイン?」

 

 異変を感じた俺は目をこすってもう一度ルフィの顔を見つめる。いつものルフィだ。

 その後、トビウオライダーズとの戦闘自体は海から上がったサンジがデュバルを”整形(バラージュ)ショット”で蹴り倒して終わり、サニー号は新たにハチを乗せてトビウオライダーズのアジトを後にする。

 

 だが俺にはどうしても気がかりなことがある。気のせいならばそれでいいのだが、どうにも気のせいとは思えない。皆が撤退準備をする中俺はルフィの顔をボーッと眺めていた。

 

「どうしたんだエレイン、さっきから。俺の顔に何かついてるか?」

 

「い、いえ! 何でもないんです。」

 

 やっぱり気のせいだったのだろうか。さっきルフィが覇王色の覇気を使った時___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 額に魔神族の紋章が浮かんでいたのは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ほとんど原作沿いのため、少々駆け足になってしまいましたね。

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